監視
55話目です。
今回もフィアフルの話です。
叫ぶダイたちを見て、フィアフルは不満そうにしながら言った。
「犯人って……ひどい言われようだね」
「何だ、どういうことだ?」
サンドロに聞かれて、ダイがワイバーンの事を話すと、呆れた顔でフィアフルに言った。
「何で切り刻む必要があったんだ?灰にすればよかっただろ」
「王都で灰にしたら、‘素材が取れないから駄目だよ’って連れに言われたんだ」
「だからって切り刻まなくてもいいだろ」
「だってそっちの方がスッキ……早いし、大きな魔力の方が気になったから。案の定、チェイスたちアースドラゴンに苦戦してたし」
「アースドラゴンがいたの!?……って誤魔化されないわよ!今、スッキリって言いかけたじゃない!」
「落ち着いてリン。理由や方法はどうあれ、私たちが助かったのは確かなんだから」
「それは……そうだけど」
「そうそう、誰も死ななかったんだからいいじゃない」
「あんたが言うな!」
無自覚に火に油を注ぐフィアフルに呆れながら、チェイスがフォローを入れた。
「あ~すまん、アルに悪気は無いんだ。流民だから、ルールや常識に疎くてな。価値観がズレてるんだ」
「チェイスさんフォローする気は無いですね」
「本人はしてるつもりみたいだけどな」
「さすがチェイスさんだ」
「チェイスの言う通りだよ。僕たちよく‘常識が無い’とか‘自重してくれ’とか言われるんだ」
チェイスの言葉と、それを認めるフィアフルに怒るのがバカらしくなったリンはそれ以上、言うのは止めた。
サンドロがフィアフルに今後のことを聞いた。
「それで、アルはこれからどうするんだ?」
「魔物は逃げたみたいだけど一応、森を監視するよ」
「分かった。必要な物があるなら言ってくれ、出来る限り用意すりからな」
フィアフルはサンドロにお礼を言って、チェイスたちと部屋を出ていった。
それを見送ったキースが、ある疑問を口にした。
「そういえば……アースドラゴンは倒したのか?逃げたのか?どう思うサンドロさん」
「「「「あ!」」」」
「そうだな……俺は倒したと思っている。あいつならやりかねん」
「「「「「確かに」」」」」
と、いう会話がされていたが、もちろんフィアフルたちは知らない。
ギルドを出て、森に行こうとするフィアフルにチェイスが声をかけた。
「これから森に行くのか?」
「うん。姿と気配を消して様子を見るよ」
「分かった。動きがあれば教えてくれ。俺たちは町で情報を探ってみる」
「分かったよ」
そう言ってフィアフルたちと別れた。
フィアフルは『隠密』を使いながら魔道具があった場所を見張っていたが、その日は特に何もなく時間だけが過ぎていった。
夜には念話でフェリーチェと連絡をとり、お互い報告をしあいチェイスたちのことを話すと、驚きながらも無事を喜んでいた。
念話が終わると、クロードに通信を入れて魔道具の事を話し、冒険者ギルドに情報を与えるべきか聞くと、検討するから連絡を待つように言われ、了承して通信を切った。
(流石にすぐに動くほどバカじゃないか……早く帰りたいけど、待つしかないよね)
その日の深夜、木の上で目を閉じて周辺に気を配っていたフィアフルは微かな魔力の揺れを感じて目を開いた。
魔力を辿ると、チェイスたちが戦闘していた場所に向かっていたので、姿を消したままその場所に転移で先回りした。
少しして、フードを目深に被った者が2人現れた。
「どうなってるんだ?昼間、魔物がいなくなったと冒険者が話していたが本当なのか?」
「分からん。我々みたいに魔物避けの魔道具を使ったんじゃないか?」
「それか設置した魔道具に不具合が出たのかもしれん。確かこの辺りだったな」
声からして男のようで、2人は周りを気にすることなく魔道具を探していた。
「おい!あったぞ……クソッ魔石が割れてる」
「なに!?だから効果が無くなったのか。急いで戻って取りに行くぞ」
「もう1つはどうする?」
「どうせ新しい魔道具を設置するんだ。その時に回収すればいいさ」
男たちはそう言って、町の方に戻って行き、それを見送ったフィアフルはある男に念話した。
{チェイス……チェイス、チェイス起きて!}
{何だ!?……フィアフルか!いったいこんな夜中に何だ!}
{君の宿から、森側の門までどれくらいかかる?}
{はぁ?どれくらいもなにも、ここから門は丸見えだが……おい、まさか}
{そのまさか、フードの男が2人そっちに向かってる。新しい魔道具を取りに行くと言ってたから、尾行して。僕は念のためにもう少し見張るよ。他の仲間がいるかは不明だから気を付けて}
{分かった。何かあれば連絡する}
念話を切り、チェイスは行動を開始した。
「お前たち起きろ!仕事だ」
チェイスの声に3人は条件反射で起き上がり、身支度を整えながら尋ねる。
「隊長、こんな夜中に何なんすか?」
「もしかして、もう動きがあったんですか?」
「ああ、思ってたよりバカらしい。そこの門から2人来る。仲間の数は不明だから、俺とライルで尾行する。バルドとロイは離れて着いて来い」
「「「了解」」」
4人は気配を消し静に移動した。
チェイスとライルは宿の路地に身を潜め、バルドとロイは屋根から周囲を警戒する。
暫くして、門から2人の男が入ってきた。
{門番はどこだ?姿が見えないが}
{もしかして、居眠りですかね。それか、眠らされているか}
{まぁ門を通ると自動で魔力を登録されるから、後で調べれば身元は分かるだろう。行くぞ}
{了解}
2人の男は町の中心に向かい進んで行き、大きな宿に入って行った。
{ずいぶんいい宿に泊まっているな}
{どうします?}
{フィアフルから借りたアレ使うぞ}
{さっそくですね。実は使いたくてしょうがなかったんですよ}
{バルド、ロイ、俺たちはフィアフルの魔道具を使う。お前たちも使え}
{{了解しました}}
チェイスとライルは左手にはめていた指輪に魔力を通した。
すると、2人の姿と気配が消えた。
実は冒険者ギルドを出たときに、フィアフルは『隠密』の魔法を付与した指輪を渡しておいたのだ。
相手にそれを見抜くスキルや魔法がない限りは、潜入にはもってこいな魔道具だった。
ちなみに4人の指輪はリンクしているので、お互いの姿は見えるから問題ない。
2人は急いで宿に入ると、ちょうど階段を上がろうとしている男たちの後ろを着いて行った。
着いたのは最上階の部屋で、この部屋だけで50人は入れそうな広さだ。
その部屋には、高級な服に身を包み丸々と太った男と、無表情だが美しい執事とメイド、冒険者の格好をした男女がいた。
チェイスとロイは一瞬言葉を失い、彼等を凝視した。
{隊長……あれって}
{あぁ……使用人はエルフで護衛は獣人か。首輪があるから奴隷だろう}
{獣人は熊みたいですね}
{奴等は戦闘向きだから厄介だな}
チェイスはフィアフルから借りたもう1つの魔道具に魔力を通した。
それからすぐに、部屋に入ってきた男たちに主人らしい男が声をかけた。
「おい!この僕が眠たいのに待っててやったんだぞ!さっさと報告しろ!!」
「申し訳ありませんブータン様。魔道具の魔石が壊れたようです」
「すぐに新しい魔道具を、設置しに行って参りますので」
「壊れただと!?何をしているんだ!おい!新しい魔道具を持って来い!」
主人に言われ、執事が隣の部屋から2つの魔道具を持って来た。
「さっさと置いてこい!いいか、この魔道具はベイリー様からの預かり物だ!もうこれしか無いからな!この町を魔物に襲わせる任務を成功させれば、ベイリー様からまた奴隷を貰えるからな。そしたら、飽きた奴をお前たちにやるからしっかりやるんだ!」
「「お任せ下さい」」
そのやり取りに、エルフと獣人は表情を変えることは無かったが、手をきつく握り締めていた。
{やはりあの家が関係していたか}
{あのブタ野郎!}
ブータンの発言にライルが殺気を出した。
その殺気にエルフと獣人がピクッと反応する。
{落ち着けライル!}
{あっ、すいません!}
{気付かれたか?}
チェイスは反応した4人を見るが、特に動きが無かったのでそのまま部屋にいることにした。
魔道具を受け取った男たちが部屋を出ていったので、バルドたちに連絡した。
{男たちが出る。門まで尾行して、フィアフルに指示を受けろ}
{{了解}}
{フィアフル、男たちが魔道具を持って向かった。魔道具はその2つで最後らしい。予想通りベイリー家が関わっている}
{そう……あとは任せて}
フィアフルは念話を切り、クロードに通信を入れた。
{お父様、起きてる?}
{大丈夫だ。どうしたアル}
{動きがあったよ。やっぱりベイリー家が関わってる}
{そうか……フェリには?}
{僕から話すよ。今から捕らえるけど、どうする?}
{牢を用意するから、うちに連れて来てくれ。尋問する}
{その時、チェイスたちも連れてっていい?今回、いろいろ協力してもらったから}
{確か、フェリの恩人だったな……分かった。連れて来てくれ}
{了解、転移する前に連絡するよ}
通信を終わり森の前で待っていると、男たちが出てきたので魔法で眠らせバルドとロイに見張りを任せてチェイスの元へ向かった。
その頃、部屋ではブータンが夜食を食べていた。
「まったく、大声だしたから腹がすいた……モグモグ……ゴホォ……お、お茶!ゴホォ、ゴホ」
メイドが黙ったままお茶を出すと、一気に飲んだ。
「ゴクッ……熱っ!?熱い!!何だこれは!」
――バシン!
「きゃ!」
お茶が熱かったらしく、怒ってメイドの顔を鞭で打った。
メイドは倒れながらもブータンを睨んだ。
「何だその目は!……いいだろう今夜はお前を可愛がってやる。その生意気な目を屈服させてやろう」
「っつ!?」
ブータンがニヤつきながらメイドに手を伸ばし、メイドは怯えながら後ずさった。
そこに執事が割って入り頭を下げた。
「お待ちください!妹の無礼はお詫びます!お許しください!」
「兄様!」
「あぁ許してやるとも……ヤった後にな!」
思わずライルが飛び出そうとしたとき、部屋に呑気な声が響いた。
「へぇ~ずいぶんいい部屋に泊まってるんだね。君には勿体ないよ」
行きなり現れた男にブータンたちは唖然として固まった。
「な!?何者だ貴様!おい、獣ども僕を守れ!!」
ブータンに命令され獣人2人が前に出て剣を構えた。
一方フィアフルは構えることもなく、ただ静に見ていた。
「ねぇ、向かってくるなら容赦しないよ。僕が用があるのはその男だけだから。それでも来るなら……死ぬよ?」
最後の言葉とともに殺気を放つと、ブータンは泡を吹いて気絶しエルフと獣人も座り込み振るえていた。
「そこまでだアル!その4人は奴隷で、そいつの命令に逆らえなかったんだ!」
そこに、チェイスとライルも現れて4人は更に混乱した。
「奴隷?……ふ~んそれでか、剣を構えてるのに殺気が無かったから不思議だったんだよ。取り合えず眠ってね」
アルがそう言うと、4人は抵抗する間もなく眠りについた。
「これから、ディアネスの王都に転移するけどチェイスたちはどうする?一応、連れつきてもいいって言われてるけど」
「なら頼む。俺たちも情報が欲しいからな」
「分かった」
フィアフルたちはバルドとロイに合流し、全員でファウスト家に転移した。
「部屋か?」
「見たところ執務室でしょうか?」
「貴族の部屋みたいだな」
「アル殿ここは?」
「ん?ここは僕たちの――」
フィアフルが質問に答えようとしたとき、ドアが開いて男が入って来た。
「お帰りアル。怪我はないな?」
「ただいま、大丈夫だよお父様」
「「「「お父様~!?」」」」
読んでくれてありがとうございます。
次回、「こっちもトラブル」です。
次からフェリーチェの話です。




