トラブル
54話目です。
今回もフィアフルの話です。
全員が警戒するなか現れたのは、血まみれの人間だった。
「よかった!人がいたぞ!」
「うそ!……よかった~」
「おい!まだ警戒を解くなよ!」
「でも正直ヘトヘトだ」
「体……洗いたいよ」
現れた者たちはフィアフルたちを見るなり、力なく座り込んでしまい、後から来た男が怒っていたがその本人も疲れた顔をしていた。
チェイスたち獣人は現れた者たちを見て、唖然とした。
何故なら、現れた5人全員が血まみれだったからだ。
「おい!大丈夫なのか!?ロイ、怪我の手当てを」
「はい、さぁ怪我を見せてください」
「いや、怪我はかすり傷なんだ!驚かせてすまない」
「怪我をしてないって……じゃあその血は何なんだ?」
チェイスに質問されると、5人は互いに顔を見合わせてから答えた。
「俺たちもよく分からないんだ。俺たちはゴブリンとオーガ、オークの群れと遭遇して戦闘してたんだが、途中でワイバーンが現れてな」
「もう駄目だと思ってたら、ワイバーンがズタズタになって落ちてきたんだよ」
「必死に避けたけど、気付いたらこのざまさ」
「その後、急にゴブリンたちも逃げて行きました」
「魔法で綺麗にしたかったけど、魔力も体力もスッカラカンで、このままじゃヤバイから他の冒険者を探してたのよ」
5人はこれまでの経緯を話すと、改めて疲れを感じたのか脱力してしまった。
「ゴブリンとオーガにオークの群れ」
「ワイバーンがズタズタで」
「魔物が急に逃げた」
チェイスとロイ、ライルがゆっくりとフィアフルに視線を向けた。
視線を向けられたフィアフルは首を傾げた後、何かを考える素振りを見せ、ポンッと手を鳴らして一言。
「あぁ!あれか~」
「あれか~……じゃねぇだろ!アレ見ろよ、血まみれじゃねぇか!」
「たい、チェイスさん落ち着いて下さい!」
「チェイスは何怒ってんの?彼ら死んでないよ」
「そういう問題じゃない!」
「どうどう、気持ちは分かるけど落ち着いた方がいいぜチェイスさん」
自分がやったことを気にしてないフィアフル、フィアフルに詰め寄るチェイス、チェイスを止めようとするロイとライル、その様子を見ながら5人は黙って突っ立っているバルドに尋ねた。
「なぁ、あれは放っといていいのか?揉めてるみたいだが」
「問題ない。いつもの事だ」
「そうなのか」
すると、チェイスたちが一斉にそちらを見た。
「おわっ!?な、何だ?」
「「「バ、バ……バルド(さん)が普通の音量で話した!?」」」
「本当だ。君、普通に喋れたんだね」
「……失礼しました!!勤務中に気を抜いて申し訳ありません!!」
「「「いや!常に気を抜いてくれ(下さい)!会話だけ!」」」
「気の問題なんだ~フェリにも教えてあげよう」
騒がしいチェイスたちを見て、5人は‘自分たちは大丈夫なんだろうか’と不安に思っていた。
気を取り直しお互いに自己紹介をする事になり、汚れはロイが魔法で綺麗にしてあげた。
「俺はB級冒険者のダイ。普段はソロだが、今日みたいに臨時パーティーを組む時のリーダーもしている」
「俺はキール、B級だ。普段はソロだ」
「オレはC級のコリンだ。今度B級になるがな」
「私はサーラです。C級です」
「あたしはリン、C級よ。普段はコリンとサーラと3人でパーティーを組んでるの。パーティー名は『風の吹く丘』よ」
5人の自己紹介が終わったので、チェイスたちも自己紹介した。
「俺はB級のチェイス。『絆』のリーダーだ」
「私はロイです。C級です」
「俺はC級のライルだ」
「俺は!!」
「バルド!気を抜くんだ」
「俺はバルドと言う。B級冒険者だ」
(((あっさりと……今までの苦労は……)))
チェイスたちがバルドが普通に喋っているのに感動していると、ダイたはちはフィアフルを見た。
「それで、そっちの奴は?」
「僕?……僕はアル、流民だよ」
「流民?旅の途中なのか?」
「違うよ。王都のギルドマスターに頼まれて魔物異常発生の調査に来たんだ」
「調査を?冒険者じゃないのに何で」
「前回の調査で怪我人がたくさん出たからじゃないかな。僕ちょっと強いから」
((((ちょっと?))))
「へぇ~」
ダイたちはフィアフルを不信に思いながらも、町に帰りギルドに報告する事にした。
先を歩くダイたちの後ろで、フィアフルたちはコソコソ話していた。
「なぁ、魔道具は見つかったから帰るのか?」
「暫く様子見かな。魔道具を設置した奴がどう動くか確認したいし」
「そうだな。ところで、王都のギルドマスターは魔道具の事を知ってるのか?」
「知らないよ。僕に心当たりがあるから見てくるって言っただけだから」
「なら帰ってから報告するんだな」
「ん~と、どうだろ……それを判断するのは僕じゃないからね」
「は?誰が判断するんだよ」
「それはルイ……エヴァンだよ」
「エヴァンって確か」
「ディアネス共和国国王陛下ですよね」
「ていうかフィアフル、違う名前を言おうとしなかったか?」
「‘ルイ’と言いかけて‘エヴァン’と言ってましたな」
「気のせい気のせい。それにしても、バルドが普通に話せるようになって良かったね」
「それはそうだが、話をそらすな」
「それと、僕のことはアルって呼んでね。今はそれで通してるから」
「答える気は無いんだな……分かった」
話しているうちに冒険者ギルドに着いたようで、中に入り報告に行くダイたちと別れた。
フィアフルたちがイスに座り、当たり障りない近況報告をしていると、1人のガタイのいい男が近付いてきた。
「お前がアルだな。俺はブランカのギルドマスター、サンドロだ。話があるから来てくれ」
「………………」
有無を言わせない口調で言われ、アルは無言で立ち上がった。
そのやり取りを見ていたチェイスが、サンドロに話しかけた。
「ギルドマスター、アルは俺たちの知り合いだ。俺たちも行っていいか?」
「知り合い?……確か『絆』だったな。……いいだろう」
サンドロに連れてこられたのはギルド内の訓練所で、フィアフルたちを囲むように数名の冒険者が立っていた。
サンドロがフィアフルに振り返り口を開いた。
「単刀直入に聞く。貴様は何者だ?」
「……僕はアル、流民だよ」
「そういうことじゃない。聞き方を変えよう。何の目的で来た」
「王都のギルドマスターの依頼で、魔物異常発生の調査に来た」
「王都のギルドマスターか……ではお前は王都から来たのだな?」
「そうだけど」
「成る程……王都からあの森に行くには、一度この町に入り、森側の門を通らないと行けないのは知っているだろう」
「!?……それが?」
(あ~そこらへん考えてなかった……面倒だな)
「王都側の門に貴様の記録が無かった。これはどう説明する?」
「それは……え~と」
(飛んで来ました……とは言えないか)
「貴様、本当はずっと森に潜んでいたんじゃないか?俺は魔物の異常発生は貴様の仕業だと考えている」
「「「「「はぁ?」」」」」
(むしろ止めたんだけど)
思いがけないサンドロの言葉に、フィアフルとそれまで黙って成り行きを見ていたチェイスたちは驚きの声をあげた。
「違うと言うなら証拠を見せろ」
「ちょっと待ってくれ!証拠を見せろと言うが、アルを疑う証拠でもあるのか?」
「証拠など無い。俺の感が怪しいと言っている」
「感!?」
「それは些か乱暴ではありませんか?」
「そうだぜ。アルは俺たちを助けてくれた。異常発生の元凶なら、何故助けたんだよ」
「芝居ではないか?お前たちは騙されているんだ」
「アル殿はその様な方ではありません!!」
だんだんとお互い熱が上がってきている中、フィアフルはゴソゴソと服の中を探っていた。
「あんたはさっきからゴソゴソゴソゴソ、何をしてんだ!自分のことだろ!」
「え?ちょっと待ってよチェイス。ルフィーナから手紙を……あれ?どこだったかな?………あっ!あったよ。え~と……サンドロだっけ?これルフィーナから」
フィアフルは王都のギルドマスター、ルフィーナからの手紙をサンドロに渡した。
「ルフィーナからだと?」
サンドロは手紙を読むと、フィアフルに頭を下げた。
「俺の誤解だったようだ。申し訳なかった」
(へぇ~ちゃんと謝るんだ)
「……こんな状況なら無理もないよ。ちゃんと謝ってくれたし、頭を上げて」
「謝るのは当然の事だ。……皆もすまなかった。そういう事だから、解散してくれ」
サンドロがそう言うと、囲っていた冒険者たちがフィアフルたちに謝りながら訓練所を出ていった。
場所を変えようという事で、ギルドマスターの部屋に案内された。
部屋にはダイたちがいて、お茶を飲みながらゆっくりしていた。
「お!一緒に来たって事は、疑いが晴れたんだな」
「ダイの言う通り、俺の勘違いだった」
「だから言ったじゃないか、まったく。確かに怪しいが、そういうことを企むような奴には見えないからな。ところで、どうやって疑いを晴らしたんだ?」
「ルフィーナからの手紙を持っていた」
「手紙?内容は?」
「‘今、王都の冒険者が不足していて、調査隊の派遣は難しいのです。そこで、流民のアルに依頼しました。アルは冒険者ではありませんが、ワイバーンの群れを一瞬で灰にする実力があり、王都のS級パーティーと親交のある方です。干渉や詮索をしないようにお願いします。’と、書いてある」
サンドロが手紙をよ見終わると、リンが声を荒げた。
「ちょっとギルマス!今、何て言ったの!?」
「ん?‘王都のS級パーティーと親交のある方です。干渉や詮索をしないように’か?」
「それもだけど!その前よ!」
「‘ワイバーンの群れを一瞬で灰にする実力がある’か?」
「どうしたんだリン」
「気付かないのコリン。ワイバーンを一瞬で灰に出来るなら、一瞬で切り刻むことも出来るわよね」
「「「「「あ!」」」」」
ダイたちの視線がフィアフルに向けられた。
暫く無言で見つめ合っていたが、アルがニッコリ笑うと、ダイたちは確信して叫んだ。
「「「「「犯人はおまえ(あなた)かぁ~!」」」」」
読んでくれてありがとうございます。
次回、「監視」です。




