国境と対面
53話目です。
今回はフィアフルの話です。
フェリーチェたちと別れ、教えられた方向に歩いていくと、暫くして高い壁が見えてきた。
一度、人気のない路地に入り『隠密』で姿を消すと、近くの屋根に跳び上がりそのまま壁に向かい屋根伝いに走っていく。
(やっぱりこの魔法は便利だね。取り合えず壁の上まで跳ぶか)
勢いをつけて跳ぶと、あっという間に壁の上についた。
念のために辺りを探るが特に引っ掛かるものもなかったので、一気に跳び上がって龍の姿に変化した。
(この姿は久しぶりたな。最近はずっと人間の姿だったから。よし!さっさと終わらせて帰ろう。お父様はともかく、お母様たちも心配するだろうし。アンジェラのこともあるから、フェリを手伝いたいし)
フィアフルは飛び立ち、一気に加速して国境に向かった。
この時フィアフルは、自分の変化にまだ気付いていなかった。
自然にクロードを父と、サマンサを母と呼びフェリーチェ以外の者たちを気にかけていることが、以前のフィアフルでは考えられない事を。
少しずつ、フィアフルの何かが変わっている事を。
いくつかの町や村を飛び越えて行くと、大きな壁がまた見えて来た。
(あれが国境の町の壁か……ということはあの先の森かな?)
スピードを落として、森のなかを探りながら移動すると、いくつかの禍々しい魔力を感知した。
その魔力に向かって行くと、獣の咆哮がいくつかと人の声が聞こえてきた。
(あれは……冒険者かな?魔物は……ゴブリンにオーガ、オークの群れか……あの程度なら手を出さなくていいか。アレを探さないと……え~と……あそこか!)
アルは空中で人型に戻り、目標に向けて降りていった。
「「「「ギャギャ」」」」
「「「「ブヒィー」」」」
「「「グガァー」」」
「クソッ何だこの数は!だいたい何でオークがゴブリンたちと一緒にいるんだ!」
「バカ野郎!喋ってないで倒せ!」
「おい!そっちに行ったぞ!」
「こっちにメイジがいる!魔法が来るぞ!」
(あれ~?確かここら辺だったような)
フィアフルがどこに降りたのかというと、冒険者の後ろをウロチョロしていた。
「防御するから下がりなさいよ!邪魔!」
「邪魔とは何だ!下手くそ!」
「ちょっと!喧嘩なら後でしなさいよ!」
「応援が来るまで持ちこたえろ!」
(あ!あったあった。やっぱりあの魔道具だったか……本当、あいつら潰したいな……取り合えず魔力の供給を止めないと……魔石壊をせばいいんだよね)
「ちょっと!あれワイバーンじゃない!?」
「嘘だろ!?まだ増えるのかよ!」
「ねぇ!一旦、引いた方がいいよ!」
「バカ野郎!この数の魔物を町に連れて行く気か!」
「じゃあどうするのよ!」
――バキッ
(よし!壊れた……これはフェリが作ったアイテムリングに入れておこう。次、探さなきゃね)
フィアフルはアイテムボックスのスキルを持っていないので、フェリーチェが指輪に時空間魔法を付与して、アイテムボックスと同じ効果を持つ魔道具を作っていた。
ちなみに、フェリーチェとフィアフルはこの魔道具の価値を正確には分かっていない。
何故なら、まだ誰にも見せていないから……見せるのを忘れていたとも言うが。
「なぁ……ゴブリンたちの動きがおかしくないか?」
「本当だ。何か……戸惑ってる?」
アルが上に跳んで龍の姿に戻り次に行こうとすると、目の前にワイバーンの群れが飛んでいた。
(またこいつらか……邪魔だな……灰にするのは駄目だから……『風の刃』)
アルから無数の風の刃が放たれた。
その威力は云わずもがな、群は一瞬で切り刻まれ下に落ちた死骸で山が作られた。
「キャー!何なのいったい!」
「ワイバーンの群れが急に!」
「誰がやったんだ!?」
「俺じゃないぞ!」
「私でもないわよ!」
「おい!オークたちが逃げて行くぞ!」
(あ~スッキリした!次はあっちだね)
フィアフルはもう1つの魔力反応がある方に向かった。
魔力は先程より大きく、また誰かが戦闘しているようだ。
(あれは……アースドラゴンだね。あんなのまで呼び寄せるのか。魔道具は……ん~此処からじゃ良く見えないな。ちょっと近付くか)
フィアフルが少し高度を下げると、声が聞こえてきた。
「グルルルァー!」
「そっち回れ!油断するな!」
「隊長!あんまり前に出ないで下さい!」
「隊長!俺たち諜報部隊ですよね!何でアースドラゴンと戦闘してんすか!」
「俺が知るか!動きを止めるな!狙われるぞ!」
「隊長!!さがって下さい!!俺が行きます!!」
「やめろバカ!隙を見て逃げるぞ!」
フィアフルは下の戦闘を見ながら考えていた。
(あれって……ん~魔道具だけ回収してもいいけど、彼等じゃアースドラゴンは無理かな?彼等が死んだらフェリが悲しむし……面倒だけどしょうがないか)
フィアフルは急降下しながら『隠密』を解き、魔力を少し解放する。
その魔力に気付いたのか、アースドラゴンとその相手をしていた者たちが、上を見上げる。
そこに見えた姿は。
「う、そだろ……ブラックドラゴン」
「アースドラゴンだけでも無理なのに」
「隊長!直ぐに逃げましょう」
「ここは俺が!!」
「駄目だ!全員、助からないと意味がない!あいつに顔向け出来ないだろ!」
「「隊長!」」
「隊長!!」
彼等が改めて生還を決意した時、ついにフィアフルが降り立った……アースドラゴンの上に。
――ドカッーン!
「グルァ――――!」
「な!?……どうなってるんだ。お前たち下がれ!」
フィアフルに下敷きにされたアースドラゴンは次第に動きが鈍くなり、目が虚ろになりとうとう動かなくなった。
フィアフルが、アースドラゴンから降りると人型になり、戦闘態勢をとっている者たちに近付いた。
「止まれ!何者だ!」
「随分な挨拶だね。助けたのに」
「助けた?何故俺たちを」
「君たちが死んだら……フェリが悲しむからさ」
「フェリ?……フェリーチェか!まさかあんたは」
「こうやって会うのは初めてだね……チェイス」
「あんたが、フィアフルなのか」
そう、アースドラゴンと戦っていたのはフェリーチェと共に獣人を解放し、フェリーチェが逃げる切っ掛けを作ったトラスト王国諜報部隊隊長チェイスと副隊長バルド、隊員のライルとロイだった。
フィアフルとチェイスが無言で向き合っていると、ロイが話しかけた。
「あの隊長、そちらの方はお知り合いですか?さっきまでブラックドラゴンでしたよね」
「あ~……この人はあの子、フェリーチェの保護者みたいなもんだ」
「始めまして、僕はフィアフル宜しく」
「私はロイです」
「俺はライルだ」
「俺はバルドだ!!」
互いに自己紹介はしたが、フィアフルのことを知っているチェイス以外からしたら、ドラゴンから人になった得たいの知れない相手なので、まだ警戒していた。
「なあ、あんたはドラゴンなのか?人間なのか?」
「ライル、失礼ですよ」
「けどよ~あの子の保護者を名乗るならちゃんと確認しないと、心配じゃないか」
「それは……そうですが、聞き方というものがあるでしょう」
「2人とも何を言っているのだ!!隊長を見れば分かるだろう!!害になる者ならあんなに落ち着いているわけがないではないか!!」
「「あっ」」
「バルド……声を抑えろと何度言えば……ライル、ロイそれとバルド、フィアフルは大丈夫だ。ちゃんとあの子を守ってくれてるし、実力は俺たちより遥かに上だ」
「フェリーチェは僕にとって唯一だ。だから、あの子に害なすものを許すつもりはないよ」
一瞬、フィアフルから濃厚な殺気が漏れ直ぐにかき消えたが、それだけでもチェイスたちが畏怖を感じるには十分だった。
「あぁ……ごめんごめん、またやっちゃったよ。さっきの質問だけど、僕はドラゴンでも人間でもないよ。僕は黒龍だからね」
「「は?………………ハァ―――!?」」
「なんと!!黒龍をこの眼で見ることが出来るとは!!」
「いやいやいやいや!何喜んでんすかバルド!……副隊長!そこは驚くとこでしょ!」
「ライル、副隊長に失礼ですよ。この脳き――この副隊長にそれを求めても無駄ですよ」
「いや……お前の方が失礼だろうが、ロイ」
「チェイスって、苦労してるんだね」
「やめてくれ……目から汗が……」
「ところで隊長!!あのアースドラゴンはどうしますか!!」
「「「あ!」」」
バルドに言われ全員の視線が、横たわるアースドラゴンに集まった。
「あれはフィアフルが倒したんだから、あんたがもらってくれ」
「え?別にいらないけど……メイソンとブレイクにあげようかな」
フィアフルがそう言って、アイテムリングをしている左手で触れると、アースドラゴンがその場から消えた。
「「「は?」」」
「おぉ~!!」
その現象に唖然としつつチェイスがアルに尋ねた。
「フィアフルはアイテムボックス持ちか?」
「持ってないよ。フェリが作ってくれた、このアイテムリングに入れたんだ」
フィアフルが左手をあげて指輪を見せた。
「「「アイテムリング?」」」
「魔道具ですか!!」
「そう、この指輪には時空間魔法が付与されていて、アイテムボックスと同じ効果があるんだ」
「「「……………」」」
「おぉ~!!」
アイテムリングの説明をされて、バルド以外が言葉を失ったが、チェイスが正気に戻り部下に指示を出した。
「3人とも今見た事、聞いた事は忘れろ!誰にも言うな……仲間でもだ!これは命令だ!」
「「ハッ!」」
「了解しました!!」
「よし!……フィアフル、そのアイテムリングは人に知られないようにしないと危険だぞ」
「何で?」
「まず俺の知るかぎり、そのアイテムリングのような魔道具は伝説級か神話級の代物だ。それを持ってるだけで狙われるし、簡単に作れるやつがいれば争奪戦になる。そもそも材料は何なんだ?」
「え~と……僕の鱗が生え替わる時期でさ、フェリが‘もったいないから再利用できないかなぁ’って言ったから‘じゃあ魔道具作ってみる?’って話になって付与の仕方は分かってたから、メイソン……友人のドワーフに鱗の加工を教えてもらって……まぁ1時間もしないで、できたんだ……けど……ハハッ」
フィアフルは作った経緯を説明しているうちに、‘もしかしなくて、もまたやっちゃった?’と思い、笑って誤魔化したがチェイスは諦めた眼で質問を続けた。
「………そのドワーフは、それを見て何も言わなかったのか?」
「それが……見せようと思ってはいたけど忘れ、忙しくて、急に調査する事になったし」
((((今、忘れてたって言いかけた))))
フィアフルの誤魔化せてない言い訳を聞きながら、チェイスは新たにできた疑問を尋ねた。
「調査?あんた冒険者なのか?」
「冒険者じゃないよ。個人的に気になることがあったから、自分からやるとギルドマスターに言ったんだ。君たちも魔物の異常を調査しに来たんだろ?」
「まぁな。国境だから調査するのは当たり前だ。一応、‘冒険者’として来ている。それで、気になる事って何だ?」
「チェイスはあの家にあった魔道具を覚えているかい?」
「魔道具?」
チェイスはフィアフルに言われたことを反復しながら、徐々に顔を強張らせた。
「まさか……アレなのか?あの子を……フェリーチェを使って実験しようとしてた魔道具なのか?」
「そうだよ……ちょっと待ってて」
そう言ってフィアフルは少し離れた藪の中に入って行った。
「隊長、魔道具とは‘魔物を呼び寄せる’効果を持つ物でしたよね」
「それなら確かに今の状況にピッタリだな」
「あぁ……バルド、念のため周囲を警戒しておいてくれ」
「ハッ!!」
その時、フィアフルが手に何か持ちなから戻ってきた。
「お待たせ。これがその魔道具だよ」
「これが……見た目、ただのランプだな」
「魔石を壊したから効果はないけど、良かったら持っていくかい?」
「いいのか?」
「僕はさっき1つ見つけたからね」
「助かる。そっちも魔物が集まってたか?」
チェイスに聞かれ、思い出しながら話した。
「魔物は……ゴブリンとオーガとオークの群れがいたよ。冒険者が何人か戦闘してたかな?それから、ワイバーンの群れが後から来てたね」
フィアフルの言葉にチェイスたちは驚き、焦った。
「それで!冒険者は無事だったのか!?」
「さぁ?ワイバーンの群は僕が片付けたし、あの程度なら大丈夫でしょ?」
「あの程度!?ワイバーンは倒したのに何で助けないんだよ!」
「何でって……興味ないからだよ」
「興味ない!?俺たちは助けたじゃないか!」
「それはフェリが悲しむからだよ」
「…………………」
「隊長!早く救援に行きましょう!」
ロイに言われ、救援に行こうとしたらバルドが止めた。
「待って下さい隊長!!誰か近付いて来ます!!」
「何!?」
バルドの視線の先をを見ていると、足音が近付いてきて、相手の顔が見えてきた。
読んでくれてありがとうございます。
次回、「トラブル」です。




