治療~平民~
50話目です。
翌日、時間に間に合うように家を出てエリックの家に向かった。
ドアをノックすると、ケイティが出てきて中に入った。
「おはようございます」
「おはよう」
「「「おはよう」」」
「おはようございます。えっと、皆に話したんですけど、怪我や病気のせいで動けない人が殆どなんです」
「では、私たちがそちらにお邪魔しますよ」
「考えてみればそうだね。気にしないで、僕たちの配慮がたりなかった」
「いえ!そんなことないです」
「すぐ、移動するのか?」
「そうですね。案内してもらえますか?」
「分かった」
早速、最初の家に向かい出発した。
案内されたのは少し古い一軒家で、ノックするとお腹の大きな女が出てきた。
「ミヤ、治癒師を連れてきたぞ」
「ジョン……本当にお金は……」
「大丈夫だ。ダンテも治してくれたが、金はいらないと言われたからな」
少し迷う素振りをみせたが、私たちを中に入れてくれた。
中に入ると、男がベットに横になってこちらを見ていた。
「あなた、ジョンが言ってた治癒師の方が来られたわ」
「こんな姿ですまない。下半身が動かなくてな。俺はマイク、妻のミヤだ。よろしく頼む」
「私はサヨといいます」
「僕はアル」
「さっそく見せてもいますね」
マイクの側に行き、手をかざし「心眼」を発動する。
(神経の損傷……脳のダメージは無し……筋肉が減ってるから戻して……腕の骨も変にくっついてる)
「『回復』」
魔法を発動すると、マイクの体が淡く光りだし少しして収まった。
「終りましたよ。マイクさん、ゆっくり足を動かしてみてください」
「もう終わったのか?足を…………嘘だろ」
「あなた!どうしたの!?」
「ミヤ……動くんだ……足が動くんだ!」
マイクは飛び起きて立ち上がり、ミヤに見せるようにジャンプまでしだした。
「ほら!立てるし、跳べるぞミヤ!」
「マイクっ!良かった……良かった!」
2人は抱き合い涙を流した。
「ゆっくりって言ったのに」
「まぁいいじゃない。治ってるんだし」
「うん……ってジョンさん泣いてるの!?」
「な、泣いてない!埃が入っただけだ……グスッ」
強がるジョンを見て、皆で笑った。
マイクとミヤが落ち着き、改めてお礼を言われたので、栄養があるものを食べるように進めると、お金がないから無理だと言ったので、アイテムボックスから肉や野菜、果物を取りだし渡した。
「こんなにたくさん、もらえませんよ!」
「いいから、もらってください。ミヤさんも大事な時期だから栄養とらないと!」
「どうしても気になるなら、知り合いの怪我人や病人を紹介してよ」
「え?……分かりました。声かけてみます」
「じゃあ次に向かうか?ケイティは残るんだろう?」
「あたしはミヤを手伝うよ」
ケイティと分かれ次の家に向かった。
次は、ダンテの友達の家で母親が病気になっているみたいだ。
ノックをすると、少年が出てきた。
「ダンテ!本当に来てくれたんだ」
「当たり前だろうケビン」
中に入り、自己紹介をした。
「初めまして、私はサヨです」
「僕はアル、よろしく」
「俺はケビンです。あの、母を……母をお願いします」
「任せて下さい」
寝室に案内されると、やつれた女が寝ていた。
ケビンは母親を見ながら、苦しそうに話し出した。
「母のリサです。母は昔から体が弱くて、父さんが死んでから俺のために無理して働いたせいで病気に……薬を買うために冒険者になったけど、全然よくならなくて。最近は寝てる時間の方が長いんです。心配で仕事も行けなくて」
「分かりました。見てみますね」
リサに手をかざし「心眼」で見ると、体全体に癌が広がっていた。
(ひどい……生きてるのが不思議なくらい……きっと、ケビンがいるから頑張ってるんだ)
「『回復』」
リサの体が淡く光だすが、今回は時間がかかる。
数分後、光が収まるがまだ目を覚まさなかった。
「あの、母は大丈夫でしょうか」
「大丈夫ですよ。病気は治しましたが、かなり危ない状態でした。ケビンくんの存在が引き止めていたんだと思います」
「母さん」
「最初は消化のいいものを食べさせて、栄養をとってもらいましょう」
私はアイテムボックスから果物と野菜、ケビン用に肉も出した。
料理を申し出ると、ケビンは‘材料までもらったのに申し訳ない。料理は自分で作れるので’と遠慮した。
ちなみにその時のアルの視線はあえて無視した。
暫くして、リサが目を覚まし体が治ったと知ると泣き出してしまい、ケビンが慰めていた。
「本当にありがとうございました」
「いいえ、気にしないで下さい」
「そうそう、知り合いの怪我人や病人の方はよろしくね」
「はい」
ケビンの家を出て、何人か治療していると昼食の時間になったので、5人で食事をしていた時に、店に男が駆け込んできた。
キョロキョロと誰かを探しているようだ。
「いた、エリック!」
「サム?どうしたそんなに慌てて」
「エリック!ダンテを治した治癒師を教えてくれ!ダイソンさんが!」
どうやら探していたのはエリックだったみたいで、見つけると詰め寄って来た。
「落ち着けサム!ダイソンさんがどうしたんだ?」
「ここじゃ話せねぇ」
「分かった。サヨ、アルいいか?」
「構いませんよ」
「すまん。ジョンは行く予定だった家に事情を話しておいてくれ」
「状態が悪い人がいれば教えて下さいね」
「分かった」
ジョンと分かれ、走りながら事情を聞いた。
なんでも、ダンテに怪我を負わせた魔物が森に現れたので、実力者を集めて向かったそうだ。
ダイソンは、戦闘中に怪我をした人を庇い重傷を負ったらしい。
まだ戦闘は続いていて、運べないので呼びに来たそうだ。
「エリックと一緒にいてくれて、助かったぜ。しかし、このお嬢さんが治癒師なのか」
「はい。サヨといいます」
「すまねぇ、俺はサムだ。そっちの兄さんは?」
「僕はアルだよ。サヨの補佐役かな」
「急な申し出を受けてくれてありがとう。あんたらの安全は必ず守るから」
「心配しないで、僕たち結構強いから」
「そうなのか?だが、相手はワイバーンの群れだから油断できねぇぞ」
「「ワイバーン?」」
「あぁ1匹ならなんて事ないが、今回は数が異常なんだ。100匹以上はいるかもしれん。S級のオースティン様たちにも知らせを出しているが、間に合うかどうか」
{アル……もしかして、鉢合わせしちゃうかな}
{タイミングしだいだよね。一応、僕が連絡しておくよ}
{お願い}
話している間に、戦闘しているのが見えてきた。
黒い影が空を覆っている。
「見えてきた!」
速度を速め、あっという間に怪我人に近づくと殺気を向けられた。
「ダイソンさん!俺だよサムだ!治癒師を連れてきた」
「サム……か」
私は急いで「心眼」で状態を確認すると、かなりひどい状態だった。
(骨折に内蔵破裂……神経もやられてるし、出血もひどい……これは回復だと時間がかかる)
「『回復』」
(『復元』)
「!?サヨ!」
アルが、私がしている事に気付き驚いて声をあげるが、私は治療に専念した。
魔法が発動し、ダイソンの怪我はみるみる治った。
「……俺は……どういうことだ?体が……」
「「「ダイソンさん」」」
「もう大丈夫ですよ。体でおかしいところは、ありますか?」
「いや……大丈夫だ。あんたが治癒師か?俺はダイソンだ」
「私はサヨです」
「助かった。ありがとう。しかし、『回復』の魔法でここまで治せるなんてすごいな」
「え!?……魔力をたくさん使ったので」
「そうなのか?……ところで、そっちの男は?」
「……僕はアルだよ」
アルが不機嫌そうに答えるので、私以外の人は不思議そうにしていたが、私は冷や汗が出ていた。
その時、5匹のワイバーンがこちらに向かってきたので、冒険者たちが攻撃態勢に入るがそれは無駄になった。
「「「「「ギャーギャー」」」」」
「……煩い……下等種族が!……消えろ『地獄の炎』」
アルの魔法が発動し、向かって来た5匹だけじゃなく残っていたワイバーンが全て灰になって消えた。
辺りを静寂が包み込み、私は泣きそうになる。
(やっぱり怒ってる!だって、使わないと助けられないし、しょうがないじゃん!だいたい何あの魔法!?私よりタチ悪いよアル!皆、驚きすぎて脳が停止してるから!誰か助けて~)
私の願いが届いたのか、天の声が聞こえた。
「なんだもう終わったのか?」
「無駄足になったようだなオースティン」
「そう言うなブレイク。ワシらの出番が無くて良かったわい」
「メイソンの言う通りですよ。さて、誰か説明してくれませんか?」
「ルイス……あいつら気絶してないか?立ったまま」
現れたのはオースティンたちだった。
助かったと思ったが、人生そんなに甘くない。
私はアルに無言で連れ出され、‘あんな発動の仕方で魔力操作を失敗したらどうするんだ!危険な真似はすな’と怒られた。
呼んでくれてありがとうございました。
次回、「治療~冒険者~」です。
 




