強襲?
45話目です。
再びクロードに抱えられながら訓練所へと移動していたが、今度は外で訓練していた兵士に二度見された。
子どもが珍しいのだろうか?
訓練所の中に入ると、さっそく実験する事にした。
「まずは何からしますか?」
「そうだな……通信からにするか」
「じゃあ、念話ができない人が使った方が分かりやすいよ」
「では、私とオリビアが試してみても宜しいでしょうか?」
「あぁ、フェリ2人に渡してくれ」
「はい、2人はピアスしてる?」
「「はい」」
「じゃあ、ペアリングするから好きなの選んでね?」
ピアスを取り出して見せると、ライリーはアメジスト、オリビアはルビーを手に取った。
それをペアリングしてから耳に付けてもらった。
「じゃあ、ちょっと離れて」
「分かりました。ライリーは向こうに行ってください」
「分かった」
2人が10m位離れたので、まずは小声で通信してもらった。
「こちらライリー、聞こえるか?」
「こちらオリビア、問題なく聞こえます」
「問題ないみたいだね。次は頭の中で話しかけてみて」
アルが次の指示を出した。
{聞こえるかオリビア}
{はい、聞こえますライリー}
少しして、2人がこちらを向き報告した。
「どちらでもオリビアの声が聞こえました」
「会話も出来たので問題ないかと」
「フム……フェリーチェ、そのペアリングと言うのは、2人分しか繋げんのか?」
「いえ、何個でも大丈夫ですよ。ただ、それだと内緒にしたい内容も全員に聞こえる事になりますね」
「そうか……バーティーで使えるかと思ったんじゃがな」
「それなら、右左でパーティー用と個人用で分ければ大丈夫じゃない?」
「ほぉ、そんな事ができるのか。一度、メイソンのパーティーで試してくれるか?」
「もちろんじゃ」
それから、ブレスレットの位置把握と髪飾りの隠匿、カフスの録音と指輪の防御は問題なく使用できた。
カフスの録音を確認したとき、クロードが‘これであいつの言質を取れる’とボソッと言っていたが聞こえないふりをした。
問題は、ネックレスの毒物無効だ。
「う~ん、こればっかりはなぁ。誰かに毒を飲ませるわけにはいかないし」
「でしたら私が」
「「ダメ!」」
「何言ってんのさライリー」
「しかし試さなければ、いざというとき使えませんよ」
「それはそうだけど。あっ、フェリは相手を麻痺させる魔法が使えたよね」
「使えるよ。でもアルも使えるよね?」
「使えるけど加減が分かんないから、間違って殺しちゃうよ!ハハッ」
「……そうなんだ~」
「「「「……………」」」」
笑いながら、本気とも冗談とも取れる事を言うアルにドン引きしてしまった。
「じゃあ……痺れる魔法を使うね。本当にいいの?ライリー」
「も、もちろんです。フェリーチェ様を……しっ、信じています!」
かなり動揺しているのが分かるが、誰も代わろうとする者がいないので、本人の意思を尊重する事にした。
「『麻痺』最弱で」
「ぐっ……」
ライリーが膝をつくと、ネックレスが光りそれが収まるとライリーが立ち上がった。
「大丈夫?ライリー」
「はい、痺れを感じましたが、直ぐに痺れが無くなりました」
「成功だね!」
成功してホッとしていると、アルが爆弾を投入してきた。
「そういえばさぁ、毒物無効って毒物を摂取した時を想定してたけど、魔法に対しても有効だったんだね!分かって良かったよ」
「あれ!?そういえば……」
「「「「……………!?」」」」
「……お、お役に立てて良かったです」
私は唖然として、クロードとメイソン、オリビアは口元を引きつらせ、ライリーは震えていたが、ニヤニヤしているアルを見て思った事は同じだっただろう。
(((((絶対、分かってて言わなかった!)))))
いろいろあったが、実験も終わり執務室に戻ろうとした時、その人は現れた。
――バァーン!
訓練所のドアを破壊し現れたのは、全身鎧を着た不審者だったので身構えるが、不審者は剣を抜き一気に加速してアルに襲いかかった。
―ドカァーン
砂埃が舞い上がり、視界が悪くなる。
「「アル!」」
「アルベルト!」
「「アルベルト様!」」
すると、煙の中からアルは跳び上がり距離を取るが、襲撃者は手を緩めず追撃する。
一方的に攻撃されながらも、アルは反撃するどころか顔色を変える事なく躱し続ける。
ライリーとオリビアが飛び出そうとしたが、クロードに止められた。
「2人とも手を出すな!」
「「何故ですか!クロード様」」
「お前たちの敵う相手ではない」
「「クッ!」」
「フェリーチェはずいぶん落ち着いとるのぉ」
「ん~だってあの人、本気じゃないですから。まぁアルもですけど。でも、そろそろ止めないと龍スイッチが入りそうですね」
「龍スイッチ?なんじゃそれは」
「龍としての意識に切り替えて、口調とかが変わって、容赦が無くなるんですよね。て言っても私がかってにそう呼んでるだけですけど。遊び半分ならいいですけど、本気になると相手を殺しちゃうかもしれないです」
私の言葉を聞き、クロードとメイソンが慌て、ライリーとオリビアはガタガタ震えていた。
トラウマになっているらしい。
「な!?どうやって止めるんじゃ!」
「フェリ、止められるなら止めてくれ。あの方に何かあると、めんどくさい」
「めんどくさいってお父様……それじゃあ『停止』」
私が魔法を唱えると、襲撃者の動きが停止した。
すると、アルが不満そうに言ってきた。
「何で止めるのさ。これからが楽しかったのに~」
「も~その人が誰か分かってるんでしょう?無茶な事しちゃダメだよ!」
「攻撃して来たのはあっちでしょ?覚悟はあるはずだよ。僕に攻撃したんだから。まぁフェリにしなかたっただけましかな。してたらその瞬間……殺してたよ」
そう言って、アルは襲撃者に濃厚な殺気を放った。
「アル!」
「はいはい、止めるよ」
アルが殺気を収めたので魔法を解除すると、襲撃者は座り込んで肩で息をしていた。
そんな襲撃者を見ながら、アルは冷たく言った。
「フェリに感謝しなよ。何が目的か知らないけど、僕は敵対する者に容赦はしない。たとえ、相手が王妃でもね」
「「王妃様!?」」
ライリーとオリビアが驚愕する中、クロードとメイソンは溜め息を吐き、私はアルを落ち着けようと近付くが逆に抱き着かれスリスリされていた。
落ち着いたのか、襲撃者――王妃は冑を取り頭を下げた。
「申し訳なかった。黒龍が来ていると聞いて、いてもたってもおられず、そちらの都合も聞かず攻撃してしまった」
「何でまた……僕は君に何かしたのかい?」
「いや!何もしていない。ワタシは強き者と戦うのが好きなのだ!」
もしかして、恨まれるような事をしたのかと思い尋ねると、返ってきたのは予想外の答えだった。
(この人、王妃様なんだよね?口調とか男っぽいし、なんかイメージが……そういえば、アンジェラさんの事件のときに殴り込んでたって言ってたし、こういう人って何ていったけな?脳筋……戦闘狂?)
「そんな力説されても……やっていい事と、悪い事の区別もつかないのかい?」
「それはっ……申し訳ないと思っています」
アルに冷静にツッコまれ、バツが悪そうに答えシュンとしてしまった。
「……まぁ今回は許すけど、次はないよ」
「はい」
「解決したところで、自己紹介しましょうか」
クロードの言葉を聞き、ハッとして王妃が名乗った。
「重ね重ね失礼した。ワタシはディアネス共和国の王妃、アンドリアだ」
「僕は黒龍のフィアフル。でも、今はアルベルト・ファウストだよ」
「私はフェリーチェ・ファウストです。宜しくお願いします」
私が名乗ると、アンドリアは感心したように頷いた。
「君がフェリーチェか。こちらこそ宜しく頼む。エヴァンから話は聞いていたが、本当に子どもなのだな。そういえば、此処で何をしているんだ?」
「ちょっとした実験をしてたんです」
「実験?邪魔をしてしまったか?」
「いえ!ちょうど終わったとこですから」
「まったく貴女は、何度言えば分かるんですか。強い相手を見つけると、後先考えずに向かって行くのは止めなさい。だいたい、あなたは王妃としての――」
「分かった!分かったから、それくらいにしてくれ!」
どうやら今回だけで無く、何度かやらかしていたらしい。
「はぁ~貴女にはアンジェラを支えてもらいたいのに、それでは心配ですよ」
「ん?アンジェラがどうした?……まさか、また嫌がらせを受けているのか!?」
「「は?」」
アンドリアの言ったことに、クロードとメイソンはもしやと思い口を開いた。
「まさかと思うが、エヴァン殿から聞いておらんのか?」
「何をだ?エヴァンとは、さっきまで話してたぞ?」
「黒龍と聞いて、話の途中で来たんじゃないだろうな」
「それは……その……」
クロードが、睨み付けながらアンドリアに詰め寄った。
口調も荒くなってきている。
アンドリアの反応を見ると、クロードとメイソンの考えていた通りだったらしい。
その時、外から足音が近付いてきた。
「おい!ここにアンドリアはいるか?」
入って来たのはエヴァンとルイスだった。
読んでくれてありがとうございます。
次回、「引っ越し」です。




