和解
40話目です。
アルにジト~っと見られつつ、ライリーとオリビアを確認すると2人とも身を寄せ合いながらガタガタと震えていた。
(可哀想に……何されたんだろ?でも、しょうがないよねぇ。アルってばノリノリで楽しんでたし、案外こういうの好きなのかな?結構Sっぽいし)
私の憐れむ視線に気付いたのか、アルが声をかけてきた。
「ちょっとフェリ、今何か失礼なこと考えてない?」
「!?……やっ、やだなぁアル、失礼なことなんて考えてないよ!これっぽっちも!」
図星をさされ声が上擦ってしまった。
「ふ~ん……目が泳いでるよフェリ……まぁいいや。クロード、僕もお父様って呼ばせてもらうよ」
「あぁもちろんだ。私たちもアルと呼ばせてもらっても?」
「うん、君たちならいいよ。ところで彼等はどうするの?」
「少し待ってもらえるか?」
そう言ってクロードは2人に近付いて行った。
「2人とも大丈夫か?」
「クロード様、奴は何者なのですか!?」
「奴は危険です!それに、私が担当する幼女も鑑定を弾いていました!あの幼女も危険です!」
私とアルは、震えながらも進言する2人に感心すればいいのか、呆れればいいのか分からず微妙な顔をしたが、クロードは2人の言葉をキッパリ否定した。
「確かに2人は大きな力を持ってはいるが、危険ではない……敵対しなければな。彼等の事情を聞き、人柄を見て私がそう判断した。お前たちが私や妻、この屋敷の者たちを心配する気持ちは分かるが、今は私の判断を信じてほしい。そうすれば彼等の事情を話す」
「クロード様……分かりました。クロード様を信じます」
「……私も、信じます」
「では、話をしよう。この話は陛下と各種族代表、オースティンのパーティーも知っている事だ。まずフェリーチェは――――」
2人はまだ力が入らないのか、座り込んでいたので、そのままクロードは2人に私たちの事情を話し始めた。
{あの2人って悪い人じゃないみたいだね}
{そうだね……クロードたちが心配で、大切な彼等を守ろうとしたんだろうね。でもやり方が悪かったよ}
{確かに、こんな所で戦えばクロードさんたちまで危険になる事が分からなかったのかな}
{僕の殺気に当てられて冷静になれなかったんだろうね}
{あ~……あれはそうなるよねぇ}
{あれでも結構抑えたけど}
私たちが念話で話していると、座り込んでいた2人がいきなり立ち上がり私たちの前に来たかと思ったら、土下座してビックリした。
「「申し訳ございませんでした!」」
「「え?」」
「話も聞かず、自分の思い込みで不愉快な思いをさせてしまいました。勝手ながら許して頂ければ、誠心誠意アルベルト様に仕えさせて頂きたいのですが」
「私もです!失礼なことしてしまいました。許して頂けるなら誠心誠意フェリーチェ様に仕えさせて頂けないでしょうか?」
「「お願い致します!」」
2人が更に頭を下げるが、その必死さに正直ちょっと引いてしまった。
私たちが戸惑い、返事が出来ないでいるとクロードが2人を止めてくれた。
「2人とも落ち着け……すまんなアル、フェリ。2人もフェリと似たような境遇でな……」
「私とですか?」
私が聞き返すと、ライリーとオリビアが自分の事を話してくれた。
「私はある貴族の愛人の子どもで、10歳の時に母が死ぬと父に男はもういらないと奴隷商に売られました。戦闘力があったので、戦闘奴隷として前線で戦っていたのですが、負けて死にかけているところをクロード様に助けられ、屋敷の皆様にも人として扱って頂きました」
「私は商会の娘でした。ある組織に6歳の時に誘拐され、そこで訓練をさせられ暗殺者になりました。何年かして、組織が潰され一目でいいから家族に会いたくて探しました。ですが、その過程で、誘拐を手引きしたのが両親だったと知り、問い詰めると……事実でした。自暴自棄になり死のうとした時に、奥様に出会いクロード様と屋敷の方々に救われました」
「2人とも、最初のうちは仕事だけじゃなく生活に慣れるのも大変でな。経験から君たちのサポートも出来ると思っている」
「私はあまり気にしてませんよ?さっきのは大切な人たちを守りたい気持ちがあったからでしょうし、その気持ちは分かりますから」
「僕もいいよ。ただ、今度からは状況をちゃんと把握して行動しないとね。困るのは君たちの雇い主なんだから。それと、僕と違ってフェリは正真正銘4歳だからね。大人びてるけど、そこは間違わないで。護衛に関してはライリーもフェリを優先させてね」
「「え?……ではっ」」
「「こちらこそ宜しくお願いします」」
「「はい!」」
一件落着と思っていると、クロードがライリーとオリビアに念を押して指示しだした。
「いいか、アルが言ったように護衛はフェリを中心に行うように。あと、誘拐は常に警戒するように。それから、最も重要な事だが……」
「「重要……」」
「人としての一般常識を教えるように。常識外の事をしようとしたら止めろ。止められなければ、からなず報告するように!甘やかすなよ!」
「「はぁ?……はい」」
「今は分からんだろうが、そのうち分かる」
いまいち反応が悪い2人に向かって、クロードが真面目な顔で言った。
「ひどいよお父様。私たち、いくらなんでも常識くらいあるよ」
「そうだよお父様。僕たちちゃんと手加減できるし、そんなにひどくないよ」
「「ね~」」
「どの口が言うんだ!今までの行動のどこに、常識があると思うんだ!」
「「え~?」」
「まったく……いいかライリー、オリビア、この2人は本気で分かってないのか、分かっていて言ってるのか判断できん。くれぐれも目を話すな」
「「はい!」」
さっきよりいい返事が返ってきて、クロードが満足そうに頷いているとドアがノックされた。
クロードが入室を許可するとヘンリーが入ってきた。
「失礼致します。準備が出来ました」
「あぁ調度よかった。では移動しよう」
ヘンリーに着いていくと、広間に出た。
そこにはテーブルに料理が並べられ、たくさんの人が笑顔で待っていた。
その中にはエヴァンやオースティンたち、種族代表もいて驚いた。
「これは?」
「エヴァンたちもいるね」
「今日は2人が家族の一員になる大事な日だからな。歓迎パーティーだ」
クロードの言葉に驚いていると、サマンサが近付いて来た。
「上手くいきましたか?あなた」
「あぁ」
「アルベルト、フェリーチェ、今日から貴方たちは私たちの子どもです。宜しくね」
私たちを見るサマンサの瞳は緊張か、不安からなのか少し揺れていた。
その瞳は、私が父と呼ぶ前のクロードと同じだったので、元気よく答えた。
「「こちらこそお願いします。お母様!」」
「っ!?……えぇ!」
サマンサは目を見開いたあと、笑顔をうかべて私たちを抱き締めた。
「では、始めようか」
クロードの言葉でパーティが始まった。
さっそくエヴァンが絡んできた。
「随分、子どもらしくしてるなフィアフル」
「アルベルトです。もう忘れたんですか?陛下」
「止めろよ!寒気がしたぞ。今は公の場じゃないから普通でいいだろ?」
「とんでもありませんよ、陛下」
「だから止めろよ!フェリーチェも何とか言ってくれ」
「何をですか?陛下」
「……フェリーチェまでぇ……うぅっ……」
つれない態度に、エヴァンが泣き出したので止めることにした。
「泣かないでよエヴァン。冗談だよ」
「ごめんなさいエヴァンさん」
「何だもっと言ってやれアル、フェリ」
「可哀想だから、今日はここまでにするよお父様」
「そうだね、エヴァンさん泣いてるしねお父様」
私たちが話していると、エヴァンが驚いてこちらを見た。
「お父様!?……というか、今日はってなんだフィ、アルベルト!」
「さぁなんの事やら」
騒いでいる間にオースティンたちも来たので、アルに頼んでアンジェラを見てもらった。
{アル、とうかな?}
{うん、かなり小さいけど確かにいるよ。魔力を感じる}
{話した方がいいよね。アンジェラさん依頼も受けるし、対策も考えないといけないし}
{そうだね。でも今はパーティーを楽しもうよ}
{うん}
美味しい料理を食べて、楽しい一時を過ごした。
皆と話している中で、この家には2人の息子がいるが今は学校の寮に入っているので、この場にはいない事が分かった。
まだ私たちのことは内緒にしていて、なかなか帰らない息子たちにサプライズするそうだ。
サマンサは娘が欲しかったらしく、今から楽しみだと瞳をギラギ……キラキラさせていた。
パーティーも終わりアンジェラたちが帰る前に、クロードに頼んで部屋を用意してもらう事にした。
「お父様、アンジェラさんをの件で伝えたい事があるので、部屋を用意してもらってもいいですか?」
「それは構わないが、何があった?」
「え~と……ちょっと耳を貸してください」
「ん?」
クロードがしゃがんでくれたので、耳打ちした。
「実は―――で、―――です」
「本当か!?」
私の話を聞いて、クロードは驚き立ち上がったので私は頷き返した。
「はい、アルにもさっき確認してもらいました」
クロードが真剣な顔で黙り込んでいると、エヴァンが心配そうに聞いてきた。
「クロード、どうしたんだ?」
「いや……すまないが大事な話があるから残ってくれないか。エヴァン、オースティン、アンジェラ……出来れば全員」
「そんなに深刻なのか?」
「あぁ……ある意味な」
全員、残れるという事なので用意した部屋に移動すした。
メンバーは王宮での話し合いの面子にサマンサとヘンリー、ミーガン、ライリー、オリビアが加わっていた。
部屋に入ると、私はすぐに#「時空障壁」__エターナルバリア__#を展開した。
一度、見たことのあるオースティンとアンジェラ以外が驚いたように私を見た。
代表して、オースティンが口を開いた。
「これはあの結界か?いったい何があったんだ」
「あの……アンジェラさんのことで話さないといけない事があって」
「わたしですか?そういえば今朝も‘走らないように’‘転ばないように’とか言ってましたね」
「そうなのか?」
私がアンジェラに言った内容で、勘のいい人は気付いたみいでアンジェラのお腹を凝視していた。
しかし、当人たちは分からないみたいで不安そうにしていたが、アルの一言でその不安は一掃された。
「安心しなよ、悪い話じゃないから。アンジェラ……懐妊おめでとう」
「「………………え?」」
「まだ本当の本当に初期だから分からないと思うんですけど、ちゃんと赤ちゃんの魔力を感じるから間違いないですよ!」
「「赤ちゃん………」」
「僕も見たから間違いないよ。お父様もアネモネも見てみて」
アルに言われ2人がアンジェラに近付き確認すると、アネモネもクロードも嬉しそうに頷いた。
「確かに魔力を感じるな。オースティン、アンジェラおめでとう」
「小さいが確かに感じるよ。おめでとう2人とも」
2人に言われやっと状況に理解追いついたのか、オースティンとアンジェラが静かに涙を流した。
呼んでくれてありがとうございました。
次回、「守るために」です。




