友達
35話目です。
アンジェラの治療は無事に終わったが、念のため定期的に私とクロードさんで確認する事にして、周りにも知られないようにする事になった。
各々、仕事に戻るために今回はお開きになりオースティンたちと戻る事にした。
「じゃあ帰るか。フィアフルたちはこれから何か予定があるか?」
「特に無いけど……フェリは何かある?」
「私はウィル君に手紙を出したいんだけど、何処に頼めばいいのかな?」
「手紙か……案内してもいいが、ウィル君て誰なんだ?」
「はい。私を助けてくれたチェイスの息子さんで、手紙を書く約束をしてたんです。チェイスとは念話で話したんですけど、ウィル君には念話が出来るのは秘密にするよう言われているので手紙を書いたんです」
事情を話すと、オースティンがポカ~ンと私を見ていた。
また、仕事に戻るために部屋を出て行こうとしていたエヴァンたちまで私を見て唖然としたり、頭を横に振ったりと色んな反応をしていた。
「えっと……皆さんどうしたんですか?」
私が尋ねると、クロードが無言でソファーに座り直し口を開いた。
「取り合えず全員、座ってくれ」
全員、無言のままソファーに座り直すとクロードが尋ねてきた。
「さてフェリーチェ、いくつか質問してもいいか?」
「はい!……何でしょうか?」
「君は念話が使えるのか?」
「はい」
「チェイスとは何者なんだ?」
「チェイスはトラスト王国の人で、誘拐された人たちの救出に来ていたんです。彼は人間に変化してベイリー家に潜入していました。私がいた地下室に食事を運んでいて、その時にスキルで彼の正体が分かったんです。チェイスはそれに気付き、私のスキルで誘拐され人たちがいる隠し部屋を見つける代わりに、私の脱走に力を貸す契約をしたんです」
「よく、その男を信用できたな。君は仮にもベイリー家の娘だ。普通はその年で考えられないかも知れないが、君なら彼等から自分がどう思われるか予想はできただろう?」
「はい……恨み、憎しみの対象になる……正直、いざとなれば魔法で直ぐ逃げられるように考えてました。でも……彼は、‘誓約魔法’を使うと言ってくれたんです」
「「誓約魔法!?」」
私の発言に声をあげ驚いたのは、ブレイクとブライドの獣人2人だった。
そして、獣人族代表のブライドが唖然としながら口を開いた。
「誓約魔法など……獣人は本当に信用している相手にしか絶対にやらないものだ。内容を聞いても?」
「はい。大まかに言うと、チェイスとチェイスの仲間が私に危害を加えない限り、救出に力を貸すというものです。違反したら‘もっとも大切なものを失う’という条件でした」
「もっとも大切なもの……短期間でそれほど信用できたのか?」
「あの時点ではお互いしていなかったと思います。ただ、私も彼等も時間がなかったから……」
「時間?」
「私がチェイスと話した3日後に、ベイリー家の当主が戻ってくる事になってました。当主が戻れば、誘拐された獣人は奴隷として売られるか、殺されるかでした。私はっ……」
私はあの時の事を思いだし、言葉に詰まるとアルが手を握ってくれたので、深呼吸して続きを話た。
「私は、ベイリー家が新しく開発した魔道具の実験のために‘魔の森’に行く事になっていたので」
魔道具の話をすると、ドワーフ族代表のドルキが興味深そう聞いてきた。
「新しい魔道具か……どんな効果があるんじゃ?」
「魔物を呼び寄せる魔道具です」
「バカな!?そんな物を作っておったのか!」
ドルキとブライドが驚く中、それまで話を聞いていたエルフ族代表のアネモネの声が静かに響いた。
「ドルキ、ブライドよ、確かにそんな魔道具が作られていたのなら問題だ……だが、それだけではない」
「どういう事だ?」
ブライドが尋ねると、アネモネは哀しげに私を見て言った。
「先ほどフェリーチェは、魔道具の実験があり自分には時間がなかったと言った。2人とも分からんか?」
「「まさかっ!?」」
「魔道具は魔力を流して発動させる。フェリーチェを実験に連れて行くという事はそういう事だろう」
「その魔道具は魔物を呼び寄せるんだろ?自分の娘にそんな事!」
「そうじゃ!そんな事をすれば確実に死んでしまうわい!」
信じられないというように声を荒げる2人を見ながら、私はアネモネの言葉を肯定した。
「いいえ、アネモネさんの言う通りです。あの人たちにとって私は‘娘’では無く‘禁忌の子’でしたから……死んだ方がいいとも言われましたし」
「「フェリーチェ……」」
言葉を無くす2人をよそに、クロードが冷静に聞いてきた。
「しかしドルキの言う通り、そんな事をすれば死んでいるはず……フィアフルが助けたのか?」
「僕は助けてないよ。その時はまだベイリー家の屋敷に囚われていたからね」
「ではどうやって」
「フェリは転移魔法を使ったんだ」
「……今度は転移魔法か」
クロードに呆れたように見られたが、気にしないようにした。
「ギリギリで転移したので、あの人たちは私が死んだと思っているでしょうし、魔道具も持ち出せました!」
「その後、フェリに僕の鎖を外してもらって2人で帝国を出たんだ。それと、魔道具の研究室は僕が破壊しておいたよ」
「……その持ち出した魔道具は?」
「私のアイテムボックスに入れてあります」
「……そうか……アイテムボックスか……」
話していくにつれ、クロードに覇気が無くなっていく。
「ちなみにその魔道具を見せてもらえるか?今後の対策のために解析しておきたい。もちろん悪用はしないと誓うし、関わらせる者も選ぶ」
クロードの提案に少し考えたが、どちらにしろ私に出来る事は限られるし、専門家に任せた方がいいと思い預ける事にした。
「分かりました。……これです」
魔道具を受け取ると、クロードはドルキに声をかけた。
「ドルキ、魔道具に詳しくて口が固い者を手配してくれ。こちらからも何人か出す」
「任せてくれ」
「それとフェリーチェ、念話では何を話したんだ?」
「無事に共和国についた事とかですね。エヴァンさんたちについては詳しくは話してませんよ。住むことが決まればまた連絡するよう言われてます」
「あと、黒龍の僕が一緒にいる事は僕の判断で話しているよ」
「そんな事まで話していいのか?探るのが目的ならどうするのだ」
アルの言葉にクロードがそう言うが、アルは否定した。
「君の懸念は分かるよ。一応、僕もフェリも国に関する事は話さないと決めているし、チェイスは単純にフェリを心配しているだけだしね」
「何故分かるんだ?」
「フェリは彼に――彼等にとって恩人だし、自分の子どもより幼い女の子だからね。フェリは念話する約束を忘れて、昨日連絡したんだ。僕も最初は心配だったから、こっそり割り込んで聞いていたけど、彼は開口一番‘今の今まで何してたんだ!’って怒鳴ってたよ。その声を聞いて、フェリを心配して僕を怒ったオースティンたちを思いだしたんだ」
アルは穏やかな瞳でオースティンたちを見ていた。
「それに、チェイスは脱出した後、私の事は公言せず、‘通りすがりの魔術師’が協力した事にしようって皆に言ってくれました」
「そうか」
クロードは何か考えているようで黙り込んでしまった。
その時、エヴァンがニヤニヤしながら私に聞いてきた。
「なあなあフェリーチェ、ウィル君は‘友達’なのか?それとも……‘未来の恋人’か?」
「ちょっ、バカ!エヴァン、黙りなさい!」
ルイスが慌ててエヴァンを諌め、他の人たちが逃げ腰になる中、‘なに言ってんだこの人’と思いながらも答えようとすると、私の隣から地を這うような低い声が聞こえて部屋の空気が凍った。
「はぁ?……何言ってんのエヴァン……‘友達’だよ。‘友達’以外ないから……そうたよねフェリ」
アルがニッコリ笑いながら聞いてきたが、目が怖くて何度も頷きながら答えた。
「そっ、そうだよ!友達だよ!友達以外ないよ!友達だから!!」
「そうだよね!エヴァン……分かった?」
アルに聞かれたエヴァンは、壊れた玩具のように首を縦にふり続けた。
読んでくれてありがとうございます。
次回、「ギルド」です。




