奇跡
34話目です。
私たちは、アンジェラの治療をするため一度エヴァンの私室に戻る事にした。
戻る時も変化した状態で移動し、部屋に入ると元に戻った。
「あの、できればアンジェラさんには横になってもらいたいんですけど」
「それなら俺のベットを使ってくれ」
私が尋ねると、エヴァンが寝室に案内してアンジェラに横になるよう促したが、クロードに止められた。
「アンジェラ、俺ので悪いが使ってくれ」
「いいえ、ありがとうございますお義兄様」
「待て、アンジェラ」
「何だよクロード」
「『洗浄』……よし、いいぞアンジェラ」
「はい……えっと、ありがとうございます?」
クロードはベットを魔法で綺麗にして、アンジェラを促した。
アンジェラは戸惑いながらもベットに横になったが、ベットの脇では今にもクロードに飛びかかろうとするエヴァンをルイスとオースティンが止めていた。
クロードは、それを気にする事なく私を見てきた。
「フェリーチェ、さっそく始めてくれ」
「……はい。アンジェラさん、始めるので気を楽にしてくださいね」
「えぇ、お願いします」
アンジェラの体の力が抜けたのを見て、まずは「心眼」を使い状態の確認をする事にした。
(状態を確認しないと……「心眼」……!?)
「何……これっ」
「心眼」を使い見たものに驚愕し、思わず声に出してしまい、アンジェラが不安そうに私を見ていた。
オースティンも慌てたように聞いてきた。
「どうした!何かあったのか?やっぱり無理なのか?」
私は、それに答えられず無言で患部を見ていた。
(酷すぎる……子宮がボロボロ……何でこんな事が出来るの?赤ちゃんだっていたのに!)
私が歯を食い縛っていると、アルが頭に手を乗せてきた。
「フェリーチェ……今はアンジェラの事だけ考えて」
「……はい……ごめんなさい、オースティンさんアンジェラさん、大丈夫ですから。……ふぅ~」
アルに言われ、一度息を吐き出し気を引き締めて集中する。
(健康な状態の子宮をイメージ……魔素を集めて)
私はアンジェラの腹部に手をかざして、魔素を集めだした。
その魔素の量に、何人かが息を飲みアンジェラも不安そうにしていたが、集中していたため声をかけられなかった。
そんな時、アルがすかさずフォローしてくれる。
「アンジェラ、大丈夫だからリラックスするんだ。オースティン、アンジェラの手を握ってあげて」
「あぁ!アンジェラ……」
「オースティン、大丈夫よ。ありがとう」
アンジェラが安心したように笑っているので、私は更に集中しイメージを固めると魔法を行使した。
「いきます。『復元』」
その瞬間、アンジェラを中心に暖かな光が波紋のように部屋に広がり始めた。
光に驚いたオースティンは、アンジェラに状態を尋ねた。
「アンジェラ、痛みはないか?」
「えぇ、全くないわ。それどころか、とても暖かい」
感覚的に3分位たってから光がおさまり治療が終わったので、「心眼」で確認する。
(あっ!……良かった……成功した!)
治った子宮を見て、無意識に涙が流れた。
それを見て、オースティンが心配そうに声をかけた。
「フェリーチェ!?どうした?まさか……」
「いえ……グスッ……大丈夫です!治りました!」
私は涙を拭き、オースティンに答えると、オースティンとアンジェラが目を見開き固まってしまった。
アルは直ぐに自分でも確認して、クロードにも確認するように言った。
「うん……大丈夫。ちゃんと治っているよ。クロードも確認するといい」
「……あぁ……アンジェラ、少しいいか?」
「はい、大丈夫です」
「では、見せてもらう」
クロードは暫く黙り込んだが、やはり目を見開き固まった。
「まさか本当に……アンジェラ、何か体に違和感などは無いのか?」
「はい、大丈夫です。むしろ、体が軽い位で」
アンジェラの答えに、アネモネもベットに近付いて来て自分も見せて欲しいと言ってきた。
「すまないが、私にも見せてもらえるかい」
「はい」
「フム……ほぉ……これは……確かに治っているね」
「本当ですか!?アンジェラ……」
「っえぇ……オースティン」
オースティンとアンジェラは静かに涙を流しながら抱き合い、周りの人たちも暖かな目で見守っていた。
そんな中、私はアルに抱き締められ頭を撫でられていた。
{アル……私ね……一瞬だけ見えたの……アンジェラさんに向けられた負の感情が……あの色……あの色はクリスティーナの色と同じだった}
{フェリ、頑張ったね……前回の犯人は裁いたみたいだし、何か起こると思うかい?}
{分からない……でも、アンジェラさんが治ったって知ったら、また誰かが何かしてくるかも……同じ事が起こるかもしれないと思うと……}
{今度は皆、油断しないさ。それに、今は僕とフェリもいるしね}
{うん!}
念話で会話していると、落ち着いたのかオースティンたちが声をかけてきた。
「フェリーチェ、アンジェラを治してくれて本当にありがとう!」
「フェリーチェ、ありがとうございました。貴女と出会えた奇跡を神に……私たちを救ってくれた貴女に感謝致します」
「我々からも感謝する。オースティンたちはあの日以来ずっと自分を責めてきた。私の弟と義妹を救ってくれて感謝する」
そう言って、全員が頭を下げたので私はかなり慌てた。
「あのっ!頭を上げてください!私がやりたくてした事なので!むしろ私の魔法を信用してくれてありがとうございました」
私が頭を下げると、何処からともなく笑いが広がり穏やかな時間が流れていた。
読んでくれてありがとうございます。
次回、「友達」です。
 




