実力3
32話目です。
王宮に入りエヴァンたちがいる部屋に向かっている間、3人に謝られたので(アルは相変わらず謝る気があるのか疑問だったが)私の機嫌は直り廊下に飾られた絵や置物をキョロキョロ見ていた。
「フェリ、余所見して歩くと転けるよ?」
「大丈夫だよ~」
私の気の無い返事を聞いたアルは、小さく溜め息を吐くと繋いだ手をしっかり握り直した。
何を言っても無断と判断したようだ。
私の様子を見たオースティンが笑いながら聞いてきた。
「そんなに珍しいか?家は王族といっても初代国王は庶民の冒険者上がりで、派手なのは嫌いだったから、地味な感じだろう?まぁ俺たちも派手なのは嫌なんだがな」
「そんな事ないよ!あの屋敷がド派手で悪趣味だったから、あれが標準だったらって心配してたんだけと、この王宮のはイメージどおりで違和感もないからつい見ちゃって」
「……そうなのか」
「……………」
私の答えにオースティンは眉を潜め、アンジェラは悲しげにしていた。
2人の様子にアルを見ると、優しく笑うだけで何も言ってくれなかったので、2人に聞いてみた。
「……どうしたの?」
「何でもないんだ……ほら!着いたぞ」
オースティンに言われ前を見ると、扉があり兵士が2名立っていた。
「客人を連れてきた。取り次いでくれ」
「ハッ!少々お待ちください」
オースティンが声をかけると、兵士の1人がノックをして中に入った。
それを見た後、オースティンが私に振り返りニヤニヤしながら言って来た。
「フェリーチェ、しっかり頼むぞ?」
「え?…………あっ、分かってる!」
オースティンに言われ、今朝の話と庭での会話を思い出し慌てて返事をする。
「フェリ……君、忘れ――」
「わ、わ、忘れてないよ!」
アルが呆れたように言おうとした言葉を遮り、否定した。
「……ふぅ~ん」
ジトッと見てくるアルの視線に耐えきれなくなっていた時、兵士が戻って来た。
「どうぞ、中にお入り下さい」
オースティンを先頭に部屋に入ると、8畳くらいの部屋にソファー等が置いてあり、奥にまた扉があった。
オースティンがその扉を開くと、中からエヴァンの声が聞こえた。
「遅いぞオースティン!待ちくたびれた……ちゃんと連れてきたんだろうな」
「遅くなって済まない。連れてきたぞ」
アンジェラが先に入り、私たちが後ろから部屋の中を覗くと、アンジェラが頭を下げた。
「皆様、遅くなり申し訳ありません。遅くなったのは、わたしのせいです」
「何かあったのか?」
エヴァンが心配そうに聞くが、アンジェラは答えなかったので、オースティンを見た。
「……クリスティーナだ」
オースティンの一言で察したのか、エヴァンは溜め息を吐き、他の者も顔を不愉快げに歪めていた。
「はぁ~またか……アンジェラ、何度も言うがあの件はお前にもオースティンにも一切、非はない。全て俺の判断が招いた事だ。必ず方法を探してみせる」
「兄上」
「お義兄様……ありがとうございます。わたしも諦めてはいません」
アンジェラが力強く言うと、ルイスが穏やかな顔で話し出した。
「しかし、あの女は一度どうにかしたほうがいいですね……二度とアンジェラに不躾な態度が出来ないように――」
訂正、ルイスは穏やかな顔で目に不穏な色を滲ませブツブツと呟いていた。
すると、今度は聞いた事の無い声が聞こえた。
「落ち着きなさいルイス、その話は改めてしよう。さてオースティン、後ろの2人を紹介してくれるか?」
「あぁ……2人とも入ってくれ」
オースティンに促され私たちが入ると、エヴァンたちが怪訝そうに見てきた。
私とアルが来ると思っていたのに、現れたのがフードを被った2人だったから当然といえば当然だ。
「おいオースティン、その2人は誰だ?」
「2人とも自己紹介してくれ」
オースティンに言われ、先ずはアルがフードを脱いで自己紹介した。
「やぁ、はじめまして僕は黒龍のフィアフル宜しくね」
「フィアフルだったか……フェリーチェはどうしたんだ?連れてこなかったのか?」
「フフッ……どうかな?それより僕の大切な人を紹介するよ」
そう言って、アルは私の背を軽く押して前に出した。
「大切な人?」
私がフードを脱ぎ微笑むとエヴァンは口を開けてポカーンと見ていた。
ルイスは首を傾げたが、納得したように頷くと笑いかけてくれ、メイソンとブレイクも最初は驚いていたが、気付いたみたいで同じ様に笑いかけてくれた。
私を知らない人たちは不思議そうにしながらも待っていてくれたので、自己紹介をするために口を開いた。
「はじめまして、フェリーチェです。宜しくお願いします」
私が名乗るとルイスさんの隣にいたエルフの男が自己紹介をはじめ、他の人もそれに続いた。
「はじめまして、私はエルフ族代表アネモネ。ルイスの父だ」
「わしはドワーフ族代表ドルキ、メイソンの甥だ」
「俺は獣人族代表ブライド、ブレイクの兄だ」
「私は宰相のクロードです……ところでフェリーチェは子どもだと聞いていたのですが」
クロードがそう言いながらエヴァンを見ると、まだ口を開けて呆けていたので、足を蹴った。
――ドスッ
「痛てぇ!」
「いつまで呆けてるつもりだ!まったく」
「だからって蹴るなよ!ってそうだ、本当にフェリーチェなのか!?どうなってるんだ!確かに昨日まで子どもだったはずだぞ!」
パニックになってるエヴァンを見て、私たち4人は笑い出した。
「ハハッ!成功だなフィアフル、フェリーチェ」
「クスクス、でもルイスたちは気付いていたみたいですね」
「そうなんですよね~何でかな?まぁエヴァンさんは驚いてたからいっか」
「そうだね、面白い顔だったよエヴァン」
「「イェ~イ」」
――パンッ
私はアルとハイタッチすると、元の体に戻った。
それを見たエヴァンが叫ぶまで間はなかった。
「なっ、なっ、なっ……分かるように説明しろ~!!」
さすがに可哀想になったのか、ルイスさんが私たちに座るように言ってエヴァンに優しく声をかけた。
「取り合えず座りましょう。ほら、エヴァン様お茶を飲んで落ち着いて下さい」
エヴァンは素直にお茶を飲み、深呼吸をして落ち着きを取り戻し、説明を求めたのでアルが対応した。
「で?説明」
「はいはい、まずフェリーチェは間違いなく4歳だよ。さっきのはスキルで成長した姿をして感じたんだ」
「スキルか……しかし、何でその姿で来たんだ?」
「フェリは食事を作る時だけ変化してるんだ。子どものままだと不便だからね。オースティンが来た時は、まだ変化したままだったんだ。変化したフェリを見て、オースティンがエヴァンたちを驚かせたいからって、そのまま来たんだよ」
「……オースティン……お前ぇ」
「だって俺だけ驚かされるのは不公平だろ」
まったく悪びれないオースティンの言葉にルイスが反応した。
「‘俺だけ’ということはアンジェラは気付いたんですね」
「えぇ、最初は驚いたけど直ぐにフェリーチェだと分かりましたよ……真っ直ぐな瞳が同じでしたから」
「そうそう、アンジェラが止めてくれなかったら僕オースティンに殴られてたよ。‘子どもがいるのに女を連れ込みやがって!’って」
「……悪かったな」
「何だ!お前も人の事、笑えないじゃないか!」
エヴァンがオースティンをからかうが、ルイスの言葉に2人で押し黙る事になった。
「それはそれは……やはり兄弟はどこか似るんですかね……先が思いやられます」
「「グッ……」」
私はついでとばかりに手をあげて、ルイスたちに尋ねた。
「はいは~い!何でルイスさんとメイソンさんとブレイクさんは分かったの?」
「私は、魔力で分かりましたよ」
「わしは、アンジェラと同じで瞳だな、真っ直ぐでいい瞳だ」
「俺は匂いで分かるからな」
「へぇ~そうなんだぁ」
私がメイソンさんの言葉に照れながら感心していると、クロードが話を進める様に言って来た。
「それでは話を進めよう、来てもらったのは君たちに確認したい事があったからだ」
「何だい?」
クロードはアルをジッと見た後、話を切り出した。
「正直に言う……私は君たちがこの国に属する事は危険だと思っている。理由は分かるだろう?」
「あぁ分かるよ」
アルが答え、私は頷いた。
「そこで、ルイスたちから提案があった。君たちがその提案を聞き入れるなら我々は君たちを歓迎するつもりだ」
「……提案?ねぇルイス、僕が言ったことを踏まえての提案なんだよね?」
アルの鋭い視線がルイスを居抜き、部屋の空気が張りつめ始めた。
「もちろんです……私たちの提案は、フェリーチェを鍛える事です」
「フェリを鍛える?」
「貴方は強い、しかしフェリーチェは魔法は才能があるようですが、まだ子どもです。帝国だけじゃない、この世界は危険がたくさんあります。自分の身を守るすべを学んだ方がいい」
「フェリは僕が守る。その必要は無いよ」
「その考えが危険だと言っているのです。貴方が四六時中側にいるんですか?国で暮らす様になれば友人もできるでしょうし、学校にも行かなくてはなりません。もちろん貴方も働かないといけない。離れてる間に大きな怪我をしたら?最悪、死ぬ事になったら貴方はどうするんですか?……貴方は国を、世界を破壊する……かつてのように」
「っ黙れ!貴様っ…………」
ルイスの言葉にアルは一瞬、目を見開きそれは直ぐに怒りに染まった。
アルが立ち上がり、怒りに全身を震わせながらルイスを睨み付けたが彼は引かなかった。
「言葉にしただけでそれでは、やはりこのままでは無理ですね」
アルの周りに黒いオーラが表れ、瞳が龍の目になって来た。
アルがルイスに手を向けようとしたので、私はアルの服を掴んで止めると、ルイスを見たまま言った。
「フェリーチェ……離せ……奴は我を愚弄した。報いを受けさせる」
「ダメっ!!」
私が更に力を込めると、今度はちゃんと私を見た。
その瞳は、怒りと憎しみが混ざり合っていて、あのメイド長を思い出して怖かったけど、泣くのを我慢してアルを説得した。
「っルイスさんたちは、心配してくれてるの!アルを愚弄したんじゃないよ!私だって、そうした方がいいと思ったし、ずっと考えてた……いつもアルに守ってもらって、このままじゃ駄目……私はアルに依存するんじゃなくて、一緒に生きていきたいの……そのためには強くならなきゃっ……ぐすっ……ずっと一緒に……ふぇっ……」
我慢できず泣き出した私を見て、アルの禍々しいオーラが霧散していつものアルに戻っていった。
アルは無言で座り直すと、私を持ち上げ抱き締めた。
「ごめんねフェリ……怖い思いをさせた。僕もずっと君と生きていきたい」
アルは更に力強く抱き締め、ルイスを見た。
「ルイスも悪かったね……僕の事、知ってるんだね」
「はい、知っていると言っても今日父上に聞いたばかりですが」
アルがアネモネを見ると、彼は頷きながら答えた。
「私の曾祖父が貴方を止めた龍の友人でね」
「そう……ルイス、さっきの提案を受けるよ」
「フィアフル」
「君の言うとおりだ。フェリに何かあれば僕は狂う……あの時以上に。だからフェリに強くなってもらって、危険を減らさなきゃね」
アルが笑いなが言うと、部屋の緊張が緩んだ。
「ありがとうございます。ではさっそく大まかな計画を話しますね。フェリーチェ、大丈夫ですか?」
「……ぐすっ……うん」
「フェリーチェ、お茶を飲んで。少し冷めてますからちょうどいいでしょう」
アンジェラが、差し出したカップに口をつけるとルイスが話し出した。
「先ずは6歳になるまでは、体力作りと教養を学んでもらいます。体力作りといっても子どもらしく遊び回っていればある程度鍛えられます。フィアフルは直ぐに抱っこしないで、歩かせてください。教養は私とアンジェラが教えます」
「はい」
「え~抱っこ駄目なの?……分かったよ」
「6歳になってからは、体術と剣術をオースティンが、弓の扱いは私で鍛冶をメイソン、斥候等の技術をブレイクが、治癒魔法をアンジェラ、商業をロバート、そして魔法を……クロードが教えます。もちろん向き不向きがありますから、それは臨機応変に対処しましょう」
「…………」
「へぇ~そんなに教えてくれるんだ……よかったねフェリ」
「……うん」
あまりの豪華な先生方に言葉を失っていると、アルは呑気に同意を求めてきたので、一応答えておいた。
「それから、今のフェリーチェの力を見せて貰えませんか?それを見て変更点があればするので」
「なるべく広い場所がいいかもね。フェリの魔法は凄いから」
「では、隣の訓練所に行きましょう。あそこなら特殊な結界で、いくら魔法を使っても大丈夫ですから。今日は空いてますよねクロード」
「あぁ大丈夫だ。念のため先に見てこよう」
そう言って、クロードが出て言ったのでしばらく待つ事にしたが、気になるものが見えていたので声をかけた。
「エヴァンさん……どうしたんですか?」
「別に……俺は存在感のないただの王さ。いっそ俺よりルイスが王と言った方がいいんじゃないか?フンッ」
どうやら自分じゃなくルイスが話を進めた事に拗ねているらしく、ルイスを始めオースティンたちもめんどくさそうに溜め息を吐いていた。
すると、オースティンが小声で話しかけてきた。
「フェリーチェ、頼む」
オースティンに言われ、頼まれた事を実行するために元気よくエヴァンに話しかけたつもりだったが、何故か棒読みなセリフが口から出ていた。
「わぁーエヴァンさんて、王様だったんだー凄いなー威厳のあるエヴァンさんにぴったりだなー」
「フェリ……」
アルは‘だから無理だって言ったのに’という目で見られ、オースティンたちは顔を引きつらせて……笑いを堪えていた。
エヴァンはと言うと、勢いよく立ち上がり胸を張って口を開いた。
「そうだろう!威厳のある俺にピッタリだよな!さすがフェリーチェだ!ハッハッハッ!」
その場にいる全員が思った‘単純で良かった’と。
エヴァンが高らかに笑っているとクロードが戻って来た。
「煩いぞエヴァン……訓練所は大丈夫だったから移動しよう。悪いがフェリーチェは、また変化して2人ともフードを被ってくれ」
「はい」
「分かった」
それから訓練所に移動した。
読んでくれてありがとうございます。
次回、「実行4」です。




