実力2
31話です。
私とアルは、オースティンとアンジェラに案内されて王宮を目指していた。
私はこれから会う人たちが、どんな人なのか気になり聞いてみる。
「あの~これから会う方たちはどんな人なんですか?」
「そうだなぁ……まず宰相のクロードは、いっけん冷たい印象で仕事の出来るヤツって感じだが、実際は仕事が出来る魔法バカだな、兄上の乳兄弟で普段から遠慮がないし、口も悪いぞ……まぁ兄上と一緒でルイスには頭があがらんが」
「何でルイスさん?」
「ルイスは兄上とクロードの教育係で世話になってたからな」
「へぇ~他の人は?」
「他は、ルイスの父親のエルフ族代表アネモス、一番の年長者で確か452歳だ。うちの爺――初代国王と一緒にこの国を造った人で、エルフにしては柔軟な思考だし、自分が納得すれば協力的だ」
「452歳!?……じゃあルイスさんて」
「ルイスはああ見えて223歳だぞ」
「!?……へっ、へぇ~」
(やっぱりエルフって長生きなんだ!……アルより若いけど)
「あとメイソンの甥のドワーフ族代表ドルキ、本来なら年齢や経験を考慮して、メイソンかメイソンの弟がなるはずだったんだが、2人して‘そんな、めんどくさいのは嫌じゃ’とか言ってドルキに押し付けたんだよ。もちろんドルキは優秀だがな。基本頑固で自分の意思を曲げないが、それを押し付ける事はしないし、面白い事や新しい事は好きだ」
「めんどくさいって……メイソンさん」
(自分よりドルキさんの方が、合ってると思って譲ったのかな……きっと……たぶん)
「最後にブレイクの兄、獣人族代表ブランドは獣人の特性でもあるが、仲間意識が高く義理を大事にするし、他種族でも一度仲間だと認めれば同族の様に大事する……が、一度敵と認識すれば容赦はしない、普段は表に出さないが結構、激情家だな」
「そういえば、前に会った獣人の人が‘獣人は絆が深く仲間は裏切らない’って言ってた」
「そうか、帝国で会ってたな」
「うん」
(話が終わったら手紙を出しに行かないとなぁ)
私がオースティンと話してる間、アルはアンジェラと話していた。
「ねぇアンジェラ、女の子の好きな物って何かな?服や靴を昨日買ったんだけど、フェリは動きやすければいいとか言ってたんだよね」
「そうですね……これ位の年の子は何かと服を汚してしまいますし、動き回る子もいますからね。フェリーチェは大人びていますから、自分が欲しい物より、必要な物が何なのか考えてしまうのかもしれません」
「成る程ね……じゃあ言わないだけで、髪飾りとか興味が無いわけじゃないのかな」
「フェリーチェの好みもありますから、ためしに雑貨店に行かれては如何ですか?」
「雑貨店かぁ……今、貰ってるお金で買っても気にするだろうし、僕が稼いだお金で買おうかな」
「それは、いい考えですね。きっとフェリーチェも喜びますよ」
「聞いてくれてありがとうアンジェラ」
「いいえ、わたしでよければな何時でも聞いてください」
それぞれ話しているうちに、大きな建物が見えてきた。
「ほら、見えてきたぞ!あれがこの国の王宮だ」
「おっきい~!見て見てアル!」
「ちゃんと見えてるよフェリ」
初めて見る城に興奮して手を引っ張る私を見ながら、アルは楽しそうに笑った。
しばらく歩くと門が見え、そこには兵士が2名いて、兵士がオースティンに気づき声をかけてきた。
「オースティン様……アンジェラ様もどうされました」
「兄上に呼び出されてな、急用らしい」
「そうですか……あの、そちらの2名は?」
「俺たちの友人だ。昨日、入国したばかりなんだが兄上が早く会いたいと煩く言ってくるから連れてきた。ルイスに確認してくれ」
「はい!少々お待ちください」
兵士の1人が走って行って10分位だろうか、確認が取れたので門を通り王宮の中に足を踏み入れた。
オースティンの後を着いて行くと、花などの植物がたくさんある広い場所に出て、そこにある椅子に座るよう言われた。
「兄上たちの様子を確認してくるから、少し待っててくれ、アンジェラ頼んだぞ」
「えぇ、分かったわ」
オースティンを待っている間、他愛ない話をしていると、派手なドレスを着た化粧の濃い女が近付いてきて、アンジェラを見下ろしながら言った。
「あら、誰かと思えば庶民の分際で恐れ多くも王弟であるオースティン様と無理矢理結婚した挙げ句、子どもを産む事も出来ない女の出来損ないなアンジェラ様ではないですか!」
「……お久しぶりですクリスティーナ様」
アンジェラは立ち上がると、スカートの裾を持ち膝を曲げ少し腰を落として貴族の礼をとった。
「貴女の顔など見たくもない!王宮で寛ぐなど図々しい……いい加減、オースティン様から離れては如何?子を産めない女などオースティン様が不憫でなりませんわ」
「…………………」
答えないアンジェラにクリスティーナが嫌な笑みを浮かべ口を開こうとした時、声が割り込んできた。
「何を騒いでいる!」
「オースティン様」
「また貴女か……クリスティーナ殿」
オースティンが現れると、柔らかな笑みを浮かべながら話し出した。
「またとは、酷いですわ婚約者に向かって」
「貴女と婚約した覚えはありませんし、私には妻がおります」
「言い直しますわ……未来の妻に向かって、あまり酷い事をを言わないで下さいな」
「何を言っているのですか」
「お分かりでしょう?この出来損ないが貴方の妻でいる事を望んでいる者はいませんわ……王族であるかぎり血を残すのは義務です。そして、妻に相応しいのは私ですわ……本日はこれで失礼します」
クリスティーナが立ち去ろうとすれ違った時、オースティンは言った。
「私の妻はアンジェラだけです」
しかし、クリスティーナは立ち止まる事なく歩いて行った。
オースティンは溜め息を吐くとアンジェラに声をかけた。
「遅くなってすまん……大丈夫か?」
「大丈夫よ……仕方ないわ。それに、何を言われてもわたしは貴方の妻でありたいから」
「ありがとうアンジェラ…………ところでお前たちは何をしているんだ?」
アンジェラがオースティンの視線を辿ると、苦笑いを浮かべるアルと、アルの腕の中で口を塞がれてもがく私がいた。
「フェリーチェ?フィアフル様どうしたのですか?」
「それがさ……あの女が君に怒鳴った時に、魔法を使おうとしてたから止めたんだけど……フェリは君の事が好きだからあの言葉が許せなかったみたいで」
アルの言葉に2人は目を見開いた。
「むん、んんんんー!」
「え?‘アル、離して!’って?暴れない?」
「むんんんん!」
「‘暴れない’ねぇ……分かったよ」
アルが手を離したので、思い切り息を吸い込んだ。
「す~はぁ……あ~苦しかった……|『時空障壁』《エターナルバリア|」
私は「時空障壁」を展開すると叫んだ。
「何なのあの女!ドレスは派手だし化粧は濃いし猫被り過ぎだし、アンタ何かよりアンジェラさんの方が何万倍も綺麗で優しくて暖かくて、オースティンさんとお似合いなんだから、アンタの出る幕じゃないんだよ!!……ゼ~ハーゼ~ハー……解除」
叫び終わり「時空障壁」を解除すると、アルがおずおず聞いてきた。
「だっ、大丈夫フェリ?」
「大丈夫……スッキリしたぁ~」
汗もかいてないのに、額を拭うとアンジェラがお礼を言ってきた。
「わたしの為に怒ってくれたのね。ありがとうフェリーチェ」
「俺からも礼を言う……ありがとう」
「いえ!私、ああいうの嫌いなんです」
「ところで、アンジェラが子を産めないのは生まれつきなのかい?」
「ちょっ、アル無神経だよ!」
「大丈夫ですよフェリーチェ……子が産めないのは生まれつきではありません。わたしは1度オースティンの子を身籠りました」
「俺が悪いんだ……油断してアンジェラを1人にしたから!」
オースティンが顔を歪め、手を強く握りしめた。
「何があったんですか?」
私が訪ねると、アンジェラは答えてくれた。
「子を身籠り、安定期に入る時期にお義兄様のはからいで王族専属の産婆に見てもらったのだけど、子に栄養が足りてないと言われて、薬草を煎じた物を飲まされたの。でもそれは…………堕胎薬でした」
「なっ!?」
私はあまりの事に何もいえず、アルは目を細めた。
「堕胎薬を飲んだわたしは子を流し、薬の副作用で二度と子が産めない体になりました」
「俺は依頼で離れてて、知らせを聞いて駆けつけた時にはもう」
「その産婆はどうなったんですか?」
「直ぐに捕らえ尋問したら、ある貴族の名が出てきてな……産婆は処刑され、貴族は一族全員死ぬまで奴隷として生きる事になった。仮にも王族の子を殺したんだからな」
「治療では治らないんですか?」
「いろいろな治癒師に見てもらいましたが、完全に破壊されているので不可能だと言われました」
その時、今まで黙っていたアルが2人に尋ねた。
「君たちは、諦めてはいないんだよね」
「もちろんです。出来る事ならオースティンの子を産み一緒に育てたい……」
「アンジェラ……俺も同じだ」
2人の答えを聞くと、アルが私を見て念話をしてきた。
{君なら治せるよね……フェリ}
{え?……そうか!『復元』だ!早く2人に――}
{待って!気持ちは分かるけどまだ駄目だ!}
私が治せるかもしれたいと言おうとしたら強い口調で止められた。
{何で!治せるかもしれないんだよ!}
{落ち着いてフェリ……気持ちは分かるって言ったでしょ……治すなとは言ってないよ}
{あっ……ごめんなさいアル}
{いいんだ……でも、よく聞いて……この世界には治癒魔法はあるけど、何の代償もなく欠損した一部を取り戻す魔法は無いんだ……君の魔法以外はね}
{そうなの?……でも}
{大丈夫…… 先ずはエヴァンたちの答えを聞こう……聞く前に治して、その魔法目当てにこの国で暮らす許可を貰っても嫌でしょう?彼等がどういう結論を出しても、治す事を止めたりしないから}
{分かった}
私たちが念話をしてる間、不思議そうにしながらも待っていてくれたオースティンが声をかけてきた。
「悪かったな2人供、そろそろ兄上が我慢出来なくなってるだろうから、移動しよう」
私は、あのクリスティーナとかいう女が言っていた事を思い出しオースティンに聞いてみた。
「そういえばオースティンさんは王族なんだね……王弟って言ってたから、もしかしてエヴァンさんが王様なの?」
「………あ~……フェリーチェ、兄上には驚いた振りをしてくれないか?拗ねるとめんどくさいんだ」
「頑張る!」
「フェリには無理だよ」
私が気合いを入れているとアルが真顔で言ってきた。
「出来るもん!」
私がムキになって言うと、頭を撫でられ慈愛に満ちた顔で見られた。
その顔を見ていると、‘はいはい、分かってるよ。出来るんだよね。凄いな~’と言われているような気がして、アルの手を頭から退かすとスタスタと歩き出した……オースティンより先に。
「お~い!フェリ~道が分かんないでしょ~」
アルの言葉にピタッと歩みを止めて引き返し、何事も無かったように元の位置に戻った。
「クッ……ハッハハハ……っゴホン……じゃあ案内するから着いて来てくれ……ククッ」
「クスクス……オースティン笑ってはダメよ」
笑いを堪えきれてないオースティンとアンジェラ、
アルはというとお腹を押さえて震えていた。
3人の反応をジト目で見ながら、私の頬はタコのように膨れ赤くなっていた。
読んでくれてありがとうございます。
次回、「実力3」です。
 




