実力
30話目です。
この世界で初めてベットで休んだ次の日、窓から射し込む朝日で目を覚ました。
(やっぱりベットで寝るといいなぁ……ちょっと固いけど……それにしても暖かい)
なかなかベットから出れずにいたが、お腹も空いてきたので起きるために目を開けると、何故かアルがいた。
「………おはようアル……何でいるの?」
「おはようフェリ……寂しくて来ちゃった」
「そうなんだ……取り合えずごはん作るね」
にっこり笑いながら答えるアルに、朝から怒る気力もなく食事を作るために1階に降りた。
朝食はシンプルにパンとサラダ、コーンスープを作った。
(たまごが欲しいな……後、お米ないのかな?ロバートさんに聞いてみよう)
私が黙々と食べていると、アルが伺うように見ていた。
「フェリ、どうしたの?さっきの事、怒ってる?」
「え?……違うよアル、今朝のはびっくりしただけだから……私、低血圧だから朝はこんな感じなの、怒ってるわけじゃないよ」
私の言葉に、不思議そうにしながら聞いてきた。
「あれ?今まではそんな事、無かったよね?」
「旅してるときは、もう少し日が登ってから起きてたから」
「そうなんだ。ところで……低血圧って何?」
アルは低血圧を知らないようで、聞いてきた。
(もしかして、この世界には無い概念なのかな……それともまだ解明されてないのかも……動脈とか言っても分かんないよね……簡単に説明しよう)
「えっと、低血圧って言うのはね………簡単に言うと普通の人より、朝起きられなかったり、手足が冷えたり、集中出来なかったりとか他にもあるけど、私はそんな感じかな。特に朝はぼ~としちゃうよ」
「へぇ~詳しいんだね」
アルが感心したように言ってきた。
「これくらいの知識は前世じゃ殆どの人が知ってたよ。それに私……医者になりたかったから」
「医者?それってどんな人なの?」
(まさかとは思ってたけど医者もいないのね。まぁ魔法があるし不思議じゃないか)
「前世の世界には私の知る限り魔法は無くて、その代わり科学が発展していたの。その科学で作った薬や道具を使って怪我をしたり病気になった人を治してたんだよ。その治してた人たちを医者って言うんだ」
「科学……聞いたことないな」
「科学の事は私も説明出来ないかなぁ……でも、魔法を使うときの事象はイメージしやすいんだよね。威力も変わるし」
「威力は込める魔力で決まるよね?」
「私も最初に魔法の練習した時はそう思ってたんだけど、実験してみたら違ったんだ。ん~例えば火はどうして燃えると思う?」
「火?……そういうものだからじゃないの」
「そうだなぁ……確かアレがあったよね」
私は、火が燃える仕組みを説明するためにあるものをアイテムボックスから取り出しテーブルに置いた。
「フェリ、ローソクなんてどうするの?」
「見ててアル、まずローソクに火をつけて……よし、このローソクの回りには目には見えないけど酸素と言うものが漂ってるの」
「酸素?」
「私たちが息をして、取り込んでるものだよ。酸素が無いと少なくても人間は生きられない……火はね酸素を消費しながら燃えてるの。酸素が無くなれば消えてしまうわ……見てて」
私はそう言うと、使っていたコップでローソクを閉じ込めた。
すると次第に火が弱くなり、最後には消えてしまった。
「これってつまりコップの回りに酸素が無くなったんだね」
「うん!私は魔法で火を出す時に、火をイメージするんじゃなくて、自分の魔力を火種にして酸素の変わりに大気中の魔素を消費して燃やすイメージをしたの。そしたら込める魔力は同じなのに威力がかなり違って驚いたわ」
「……フェリ、それが本当なら科学の事は誰にも話さない方がいい……僕は長く生きてるけどそんな事、知らなかったよ。科学が広まれば必ず悪用する者が出てくるし、フェリが狙われる……危険だ」
アルが真剣な顔で言ってきたので、私も真剣に答えた。
「うん……絶対言わないよ」
すると、アルは表情を緩め優しく言った。
「もちろん僕には何でも話してね。フェリの事は何だって知りたいから」
「………うん!」
アルの言葉が嬉しくて元気に返事をした時、玄関をノックする音か聞こえた。
――コンコン
2人で玄関を見ていると、声が聞こえた。
「お~いフィアフル、フェリーチェ起きてるか?朝早くに悪いが話がある」
私たちは顔を見合せ、玄関に向かいアルがドアを開いた。
そこには思ってたとおりオースティンが立っていて、隣にはアンジェラもいた。
「おはようオースティン、アンジェラ話ってなんだい?」
アルが聞いたが、2人はある一点を見たまま動かなかった。
「お~い2人ともどうしたの?」
アルがオースティンの顔の前で手を振っていると、その手を掴みオースティンが怒鳴った。
「フィアフル!お前、子どもがいるのに女を連れ込むなんてなに考えてんだ!!」
「「え?……女?」」
「惚けんな!そこにいる女だ!」
そう言ってオースティンは私を指差した。
私を………
「「あっ!?」」
そう、私は朝食を作るために変化していたのだが、アルと話しているうちにすっかり忘れていた。
私は慌てて誤解を解くために、オースティンに話しかけた。
「違うんですオースティンさん!」
「あんたは黙っててくれ……説明しろフィアフル!」
誤解を解こうとするが、オースティンは聞く耳を持たず2人でどうしょうか迷っていると、アンジェラが止めてくれた。
「待ってオースティン誤解してるわ」
「何が誤解なんだ!」
「もぉ~落ち着いて!……貴女、フェリーチェでしょう?」
「……はぁ!?」
アンジェラが確信してるように私を見て、オースティンは驚いきアルの手を離して私を見た。
「はいフェリーチェです。おはようございますオースティンさん、アンジェラさん」
「おはようございますフェリーチェ、フィアフル様」
「……おはよう……頼むから説明してくれ」
私たちは頷き2人を中に招いた。
席に座ると少し落ち着いたのか、オースティンが改めて聞いてきた。
「さっきはすまなかったフィアフル」
「気にしないで……フェリの事、心配してくれたんでしょう?」
「あぁ……本当にフェリーチェなのか?4歳じゃ……」
「4歳ですよ。食事を作るために変化してたんです。子どもの体じゃ届かなくて」
「変化って……まぁ今はいい。実は2人に頼みがあってな……今から王宮に来て欲しいんだ」
オースティンの頼みに驚いていると、アルが理由を聞いた。
「急だね……何かあったのかい?」
「いや、2人の事は口で説明するより直接会って貰った方が、話が進むと思ってな。もちろん、ある程度はルイスたちが話すだろうが」
「会って話さないと分からない事もあるでしょうし、お願いできませんか?」
「誰と会うの?」
「宰相と各種族代表だ」
オースティンが答えると、アルは私を見てきた。
「僕は行ってもいいけど、フェリはどう思う?」
「……私も賛成かな。直接話さないで誤解されたり、変に警戒されるのも嫌だし」
「というわけで、行かせて貰うよ。直ぐ行くのかい?」
「2人が良ければな」
「じゃあ行こうか」
王宮に行く事が決まり家を出る時、オースティンが私を振り返り、何かを企む様に笑いながら言った。
「フェリーチェ、出来ればそのままで来れるか?」
「出来るけど……何で?」
「俺たちだけ、驚かされるのは不公平だからな!」
オースティンの子どもの様な答えにアンジェラがクスクス笑い、私たちは呆れてなにも言えなかった。
しかし、確かに面白そうなのでそのまま家を出た。
一応、私たちはマントを着てフードを被り顔を隠して移動した。
読んでくれてありがとうございます。
次回、「実力2」です。




