王都
26話目です。
門番が合図して10秒位で到着を知らせる声が聞こえてきた。
「こんにちは!こちらはディアネス共和国王都ルーセントです。私は転移門門番のネロと申します。到着地に間違いはないでしょうか?」
「はい間違いありません」
「では、使用許可者の方をお願いします」
門番の言葉を聞いてオースティンが馬車から降り、身分証を出した。
身分証の確認が終わり、オースティンが戻ってくると、門番が魔力を記録する魔道具を持って人数を確認した。
「人数は7人と1匹で間違いないですね。どうぞお進みください」
馬車が動き出したので、ルイスに疑問に思ったことを聞いてみた。
「ルイスさん、何でこっちの門番の人は人数を知ってたんですか?」
「それはですね、記録の魔道具を門に嵌め込む事は言いましたよね?」
「はい」
「出発した門に嵌め込まれた魔道具の情報は、到着する門に自動転送される仕組みなんですよ」
「自動転送……凄いですね」
(メールみたいな物かな)
私が感心していると、エヴァンが自慢気に話し出した。
「実はな、この馬車と転移門の仕組みを考えたのは我が国の宮廷魔術師たちだ!この国は種族の違いを越えて、力を合わせより良い生活を国民が送れるように私が皆と力を合わせここまで育ててきたのだ。まだまだ改善する事はあるが――」
「エヴァン様!その話はそれくらいでいいでしょう」
「何だルイス、まだ話す事はあるぞ?」
「いいえ、終わりです……はぁ~」
エヴァンの話を無理やり終わらせたルイスは疲れたように溜め息を吐き、他の者もやれやれと肩をすくめていた。
{アル、もしかしてエヴァンさんて結構偉い人なの?}
{そうだよ。まぁ気にしなくていいよ。本人が名乗ってないんだから}
{……うん。さっきのは聞かなかった事にする}
{さて、そろそろ人型になろうかな}
「あの、アルはもう人型になってもいいですか?」
私が、聞くとルイスが頷いたのでアルを下に降ろすと、アルが光に包まれた。
人型になったアルが私の隣に腰かけ、私を抱えて膝の上に乗せた。
それからしばらくして、馬車が止まりロバートが顔を覗かせた。
「皆さま、フィアフル様たちの滞在先に到着しました」
馬車の外に出ると、そこには屋根がオレンジで壁は白の2階建てで、木の柵に囲まれた一軒家があった。
ロバートに案内され玄関に向かうと、エヴァンたちも着いてきた。
「何で着いてくるのさエヴァン」
「ロバートの薦めとはいえ、気になるからな」
「ふ~ん」
結局、全員で中に入る事になった。
「どうぞお入りください。先ずは1階ですが玄関を入ると直ぐにリビングと台所があります。玄関から見て左側に1部屋と、右側にトイレがあります」
ロバートに案内されながら、見て確認していく。
部屋には家具等は無く、自由に使っていいそうだ。
トイレは意外なことに水洗で驚いたので聞いてみると、まだこの国でしか使われていないと教えてもらった。
実は地下室の時に苦労したので、トイレが一番嬉しかったが、お風呂は無いそうで少しガッカリした。
「では2階に行きましょう。台所の横の階段で上がります。2階には2部屋ありまして、うち1部屋には屋根裏部屋がありますよ。どちらも日当たりがいいですので安心してください」
部屋にはそれぞれ机と椅子、ベットが置いてありクローゼットもあった。
私は昔から屋根裏部屋に憧れていたので、後でアルと部屋割りを相談する事にした。
最後に案内されたのは、裏庭で結構広めのスペースがあり、家庭菜園も出来そうだ。
一通り説明が終わり、エヴァンたちは戻るという事なので、ここで別れる事になった。
「では我々は戻る。なるべく早く結論を出すから、待っててくれ。それと、これを渡しておくから必要な物を買っておけ」
「ありがたく使わせてもらうよ。ちゃんと返すからね。僕たちの事は、迷惑をかけるけど宜しく頼むよ」
アルが、エヴァンと話してる横で私はオースティンたちにお礼を言っていた。
「皆さんいろいろ教えてくれて、ありがとうございました。アンジェラさん、ごはん美味しかったです」
「ありがとう……わたしは近くにある教会で手伝いをしていますから、何かあれば来てくださいね。わたしも会いに来ますから」
「俺は、だいたい依頼受けてるか、ギルドにいるから何かあれば遠慮なく来いよ」
「俺もオースティンと同じだな」
「わしは、依頼がなければ鍛冶屋にいるからな。武器や防具が必要ならわしが作るから言ってくれ」
「私は残念ながら暫くはエヴァン様と一緒にいますので、なかなか会えそうに無いですね」
「おいルイス!何だその‘残念ながら’って!」
「なるべく時間を作って様子を見に来ますから、無理をしてはいけませんよ」
ルイスの言葉にツッコムが無視されたエヴァンが落ち込んでいたので、声をかけた。
「あの、大丈夫ですか?エヴァンさんもありがとうございました」
「フェリーチェ!私を気遣ってくれるのはお前だけだ!」
エヴァンは私に抱き付こうとしたが、アルに防がれた。
「何をしようとしたのかな……エヴァン」
アルが笑みを浮かべながら低い声でそう言うと、エヴァンは立ち上がり早口にしゃべり出した。
「なっ、何もしておらん!お前たち早く戻るぞ!」
そう言うと馬車に乗り込んだ。
他の者も呆れながら馬車に乗り込んだところで、ロバートが挨拶に来た。
「本当に食事は2人で大丈夫ですか?なんでしたらエヴァン様たちを送った後、こちらに寄りますよ?」
「ありがとうロバート。いろいろ見て回りたいし、僕たちだけで行ってみるよ。お金もエヴァンから貰ったしね」
「そうですか……何かありましたらマライカ商会に来てくださいね。私の名前を出してもらってもかまいませんから」
そう言って、街に行く道やお薦めの店の名前を教えて、ロバートたちは去って行った。
「いい人たちだねアル」
「フェリの事がほっとけないみたいだね。さて、ロバートが教えてくれた店に行ってみようか」
「うん!」
いつもどおり私を抱えられながらアルが歩き出した。
(王都のごはん楽しみだな~……でも、何か忘れてるような……)
「う~ん?」
「どうかしたの?フェリ」
思い出そうと唸っていると、アルが聞いてきた。
「何か大事な事を忘れてる気がするんだけど……う~ん……ダメだぁ思い出せないよ」
「それって、チェ………まぁそのうち思い出せるよ」
アルが何か言いかけたが、思い出せないので保留する事にした。
何故そこで、思い出すまで考えなかったのか後悔する事を知らず、私の頭はごはんの事で一杯になっていた。
しばらく歩くと、建物が見えてきた。
「アル、建物だよ。鐘があるからアンジェラさんが言ってた教会かな?」
「みたいだね。あれ?……フェリ見てごらん。木の影から子どもがこっちを見てるよ」
アルに言われ見てみると、私と同じくらいの女の子が私たちをジッと見ていた。
目が合うと、一瞬目を見張ったが直ぐに私を睨み付け走って行った。
「えっと……どうしたんだろう?」
「さぁ?子どもの考える事は、僕には分からないからね」
「私も子どもですけど」
「フェリは子どもだけど前世の記憶もあるし、考えが顔に出てるから分かりやすいよ。」
その言葉に、私はむくれてそっぽを向くとアルが笑い出した。
「ハハッ……ごめんごめん、機嫌直してよフェリ……フフッ」
「アル、謝る気ないでしょ!お腹が鳴った時だって――――」
私たちがそんなやり取りをしながら歩いて行くのを、さっきの女の子が見ていたがアルに怒っていた私は気付かなかった。
読んでくれてありがとうございます。
次回、「散策」です。




