到着
25話目です。
あれから私たちはディアネス共和国に向かい出発した。
その間、魔物や盗賊の襲撃もなく、順調に進んでいた。
私は外が気になり馬車から顔を出すと、馬車を動かすロバートが見え、最初に馬車を見たときから感じていた違和感を思い出し首を傾げた。
前世で車等の乗り物に慣れていたから、すっかり忘れていた。
「う~ん?」
「どうかしたのフェリ?」
「あのね、前の荷馬車は馬が引いてるでしょう?でも、この馬車はどうやって動いてるの?」
「え?そういう物じゃないのかな」
アルにも分からないらしく、2人でルイスの方へ向くと、エヴァンから抗議の声があがった。
「何故、私ではなくルイスを見るのだ!」
「「……何となく?」」
2人で答えるとエヴァンは肩を落とし、ルイスたちは笑いを堪えていた。
「フフッ……この馬車は特別なんですよ。先ず、先頭の馬車の御者に1の魔道具を持たせます。次に馬車の中心に対となる2の魔道具を嵌め込むと、1の魔道具に2の魔道具が引かれて、先頭の馬車に着いて行く仕組みなんですよ……まだ数台しかありません」
「へぇ~凄いんだね」
「僕が人間の国で生活してた時は、そんなの無かったなぁ」
「おや……フィアフルは人間の国にいたことがあるのですか?」
「まぁね、暇潰しだったけど。あれは確か……300年位前かな」
「……そうですか」
そんな話をしているうちに町が見えてきてロバートから声がかかった。
「皆さん、そろそろ着きますよ」
私とアルが外を見てみると、ビル10階建てくらいの大きな壁が見えてきた。
道の先には門があり、多くの人や馬車が並んでいる。
「ふぇ~大きいねぇ……列も長いからか時間かかりそうだよアル」
「本当だ」
「心配しなくても大丈夫だ。私たちは右側の小さい門から入るからな」
エヴァンに言われ、右側を見ていると確かに小さめの門があった。
「並ばなくてもいいの?」
「そうだぞ。私みたいな立場の者は小さい門から入れるからな」
「立場……エヴァンさんは偉い人なの?」
私の質問に、エヴァンは目を剥いてアルを見た。
「話してないのか!?」
「ん?……あぁ忘れてたよ。フェリ、エヴァンはね……えっと、王城で働いているんだ」
「へぇ~エヴァンさんて凄いんだね」
「ちょっと待て、フィアフル!間違ってはいないが、なん――」
アルの答えに、突っ込もうとしたエヴァンをルイスが止めた。
「まぁまぁエヴァン様……フィアフルはフェリーチェが畏縮しないように配慮しているのですよ。話を合わせてあげてください」
「グッ……分かった」
話してる間に門に着いたようで、知らない声が聞こえてきた。
「こんにちは!身分証の提示をお願いします!」
「こんにちは。はい、身分証です」
「確認します。………確認しました。荷馬車に積んでるのは商品ですね。後ろの馬車は?」
「後ろには‘客人’が乗っています」
「分かりました!お通り下さい!」
入国の許可が出たので、ロバートは馬車を進めた。
「中は調べないんだね」
「‘マライカ商会のロバート’が‘客人’と言うのが、‘私’が乗ってると言う合図だから調べる必要は無いんだ」
エヴァンが自慢気に言っていたが、アルの一言で黙り込んだ。
「へぇ~それで通じるほど、エヴァンは頻繁に出入りしてるんだね……仕事しなくていいの?偉いのに」
「グッ………」
やり取りを見ていたオースティンが大きく笑いだした。
「ハッハッハ!一本取られたな兄上」
「クソッ……」
悔しがるエヴァンを不思議そうに見て、アルが言った言葉にエヴァンは肩を落とした。
「何が?僕、変なこと言った?」
「無自覚か……まぁいいフィアフル、フェリーチェここがディアネス共和国の最初の町フォーサスだ。ちょうど昼時だが先に王都の滞在先に案内するから、昼食はその後でいいか?それとも――」
エヴァンが聞いてきたが、2人ともその内容が上手く理解できず返事が出来なかった。
「「………?」」
それに気付いたルイスがエヴァンを止めた。
「待ってくださいエヴァン様、2人が話についてきてませんよ」
「ん?何でだ?」
「貴方の言葉が足りないんですよ……まったく。2人とも‘普通王都は国の中心にある筈なのに、この国の王都は最初の町から近いのか?’って思っているでしょう?」
ルイスがエヴァンに呆れながらも、こちらを向き私たちの考えてる事を当ててきた。
「はい」「うん」
「やはり……この国の王都もちゃんと中心にありますよ。この町から王都までは馬車でも10日はかかりますからね」
「じゃあどうして、今日の‘昼食’が王都で食べられるの?」
私が質問すると、ルイスが感心しながら答えてくれた。
「やはりフェリーチェは賢いですね。本来は馬車や徒歩で移動するのですが、今回は急な案件があるので特別に‘転移門’を使い王都に行きます」
「成る程ね……確かにそれなら速いね。特別って事は普段は使えないのかい?」
「えぇ……転移に使う魔力が膨大なので使えませんよ。1回にA級の魔石を2個使いますから」
「「へぇ~」」
A級の魔石というのはA級の魔物から取れた魔石の事だ。
ルイスの分かりやすい説明に納得していると、どんよりした空気が流れてきて、そちらを見ると何かを呟くエヴァンがいた。
「あっさり転移門の事話した……私が言いたかったのに……何でルイスばかり……」
「兄上……ククッ」
沈むエヴァンの肩を慰めるようにオースティンが軽く叩いていたが、顔はニヤニヤしていた。
他の者も笑いを堪えて、肩が震えていた。
その時、馬車が止まりロバートが声をかけてきた。
「皆さん、転移門に着きましたよ。オースティン様、宜しくお願いします」
「分かった……フィアフルとフェリーチェは念のため顔を隠しておいてくれ」
オースティンの指示に、私は困ってアルを見た。
「私はフードがあるけど、アルが……」
「そうだね……大丈夫だよフェリ、こうすれば!」
そう言ったアルの体が光に包まれ、皆が思わず目を閉じた。
光が収まり目を開けてアルのいた場所を見ると、そこには―――小さな犬がお座りをしていた。
「わぁ~可愛い……アル!」
私がそう言って子犬を抱き締めると、エヴァンたちが驚きの声をあげた。
「「「「「え!?」」」」」
我に返ったオースティンが子犬を指差しながら聞いてきた。
「フェリーチェ……それはフィアフルなのか?」
「そうですよ。ね!アル」
{何をそんなに驚いてるんだい?}
「声が……念話か!?」
{さすがにこの姿じゃ言葉は話せないよ}
「龍は人型以外にもなれるのか……」
{まぁね、でも変化する者はあまりいないよ。ところで何故顔を隠すんだい?見られない方がいいなら姿を隠す事も出来るけど}
「いや、姿は見えてた方がいいな。とにかく俺は一度降りるから詳しくはルイスに聞いてくれ」
そう言って、馬車を降りようとするとエヴァンがショックを受けたようにオースティンを見た。
「オースティンお前まで……私よりルイスなのか……」
しかし、オースティンは振り返る事なく馬車を降りてしまい、項垂れるエヴァンをアンジェラが慰めていた。
「さて、エヴァン様は無視して説明しますね」
(無視しちゃうんだ……まぁアンジェラさんがいるからいいか)
「さっき話したとおり、転移門は緊急時や、特別な時にしか使えませんが、使える者も限られているんです。私たちの中では、エヴァン様とS級のオースティンだけですね」
「だからオースティンさんが、外に出たんですか?」
「そうですよ。門では確認しませんが、転移門はそういう訳にはいきませんから、使用する者の確認が必要なんです。今回は、此処にいるはずのないエヴァン様が出る訳にはいきませんからね」
{オースティンが言ってた姿を隠さない方がいいのは何でだい?}
「転移門は国の重要地点に設置されています。犯罪等に利用されないように、魔力を記録する魔道具に全員の魔力を記録させ門番が姿と人数を確認してから、魔石と共に魔道具を門に嵌め込み起動させます。魔道具に記録された者しか通る事は出来ません」
{それじゃあ魔法で姿を消しても意味がない……隙を見て魔力だけ記録しても、門番が人数を直接確認するなら意味がない……むしろそんな事すれば……}
「えぇ、あらぬ疑いをかけられ足止めされますね」
「ルイスさん、それならアルは人型の方がいいですか?」
「いいえ、確認と言っても顔は確認しませんし、記録されるのは魔力だけです。記録の魔道具は一度使うとリセットされるので、例え次に使う時に人型でも問題にはなりませんよ。2人には事情もありますし、今はあまり顔を覚えられない方がいいでしょう」
{成る程ね……じゃあこのままでいるよ}
ルイスの説明が終わり、私がアルを撫でニマニマしていると、ブレイクが話しかけてきた。
「随分、楽しそうだなフェリーチェ。犬が好きなのか?」
「えへへ、犬だけじゃなくてモフモフしてるのが好きです!」
「それでか……」
「何がですか?」
ブレイクが納得したように頷いていたので、聞いたらメイソンが教えてくれた。
「気付いとらんかったのか!?お主はブレイクの尻尾が動く度に凝視しとったぞ」
「え!?私、なるべく見ないように気を付けてたのに……」
「いや、かなりの頻度で見とった」
私はブレイクの尻尾が気になっていたが、あまり見るのは失礼になると思い抑えてるつもりだったので、メイソンの言葉にショックを受けた。
「そんな……ごめんなさいブレイクさん」
「いや……最初は獣人が珍しいのかと思っていたが、フィアフルから帝国で獣人を助けてくれたと聞いたから理由が気になっただけだ。気にするな」
「ありがとうございます」
私がブレイクに謝っていると、オースティンが戻ってきた。
「待たせた。今から門番が中を確認するからな……兄上、いつまでも落ち込んでないで顔を隠せ。アンジェラも構わなくていい」
「まぁ……オースティンたら」
「何だオースティン、妬いてるのか?」
さっき無視した仕返しか、エヴァンがニヤつきながらからかうとオースティンの額に青筋がたったが、怒鳴る前にルイスが止めた。
「落ち着きなさいオースティン……エヴァン様も、くだらない事してないで、さっさとフードを被りなさい」
「へいへい」
「フン!」
エヴァンがおざなりに返事をしてフードを被り、オースティンは鼻を鳴らしながら、アンジェラの横に腰を降ろした。
その時、外から声がかかり馬車の入口の布が捲られた。
「失礼します……私はフォーサス転移門門番のゲイルと申します。これより人数の確認と魔力の記録を行います。人数は7人と1匹ですね。ではこれが魔道具ですので、魔力の記録をお願いします」
門番が差し出したガラスの板の様な魔道具をブレイクが受け取り、メイソン、ルイス、エヴァン、アンジェラの順で回ってきてオースティンの番の時に、私たちにやり方を教えてくれた。
「ほら、こうやって板の面に手を置いけば自動的に魔力を感知する。板が光れば記録完了だ」
「へぇ~」
{ふ~ん}
オースティンに渡された板に手を乗せると光ったので、今度はアルの前に板を差し出した。
アルが前足を乗せると同じように光ったので、魔道具を門番に返した。
「ありがとうございます。それでは転移の準備に入りますので今しばらくお待ち下さい」
門番が離れて、10分位たってから門番から準備が終わったと言われたので、馬車は転移門に向かい動き出した。
アルと一緒にこっそり外を見ると、凝った装飾のされた門が見えてきた。
「あれが転移門かな?アル」
{みたいだね}
「2人ともちゃんと座ってください。途中で落ちたら狭間に取り残されますよ」
「はい……ロバートさんは外だけど大丈夫なんですか?馬も」
「大丈夫だ。ロバートも馬も馬車に固定されてるからな」
席に座りながら訪ねると、オースティンが頭を撫でながら教えてくれた。
その撫で方は、どこか前世のお義父さんと似ていて少し切なかった。
そんな私に気づいたアルが、私にだけ聞こえるように念話で聞いてきた。
{フェリ……大丈夫?}
{うん……ちょっと前世の事、思い出しちゃって……大丈夫だよ}
{無理しないで、辛いときは話してね}
{ありがとう}
心配してくれたアルにお礼を言っていると、馬車が止まった。
「それでは、これより転移を開始します」
読んでくれてありがとうございます。
次回、「王都」です。




