盗賊
22話目です。
アルは更に驚く4人を無視して、盗賊に向き直り忠告した。
「こんにちは、ここで引いてくれれば追わないよ。君らに興味はないからね。引かなければ……容赦しない」
アルがそう言って盗賊たちに殺気を向けると、盗賊たちは固まり動かなくなったが、後ろの方から声が聞こえた。
「何やってんだてめぇら!ビビってんじゃねぇ!そいつも殺せ!!」
「頭!……行くぞてめぇら!!」
「「「「おお!!」」」」
盗賊たちは頭に鼓舞され襲ってきた。
「愚かな……眠るがいい……『猛毒』」
アルが魔法を唱えると50人位いた盗賊たちは地に伏せ、動かなくなった。
ただ1人を除いて。
「さて、残るは君だけだよ……どうする?」
残されたのは盗賊の頭だったが、青ざめ震えていたかと思うと後ろを向き逃げ出した。
アルは何もしなかったが、4人はそうはいかなかった。
――ヒュン――グサッ!
「ぐわぁ!」
男は叫びながら倒れ、その胸には矢が刺さっていた。
「おやおや……いい腕をしているね」
アルが呑気に感想を言うと、声がかかった。
「助太刀には感謝しますが、何故逃がしたのですか?」
私が声の方を見ると、その人は耳が長かった。
(もしかして、エルフ?)
初めて見るエルフに驚き、他の3人を確認すると、素手の人は獣人で小柄な人はおそらくドワーフだろう。
剣を持った人は人間だ。
(わぁ~あの人、ドワーフかな?凄いな、他種族で一緒に戦ってるんだ)
私が関心していると、アルがエルフの質問に答えた。
「何故?さっきも言ったけど僕は彼等に興味はないんだよ。君達にもね……妹が気にしていたから助けただけさ」
「そうですか……」
「ではこれで失礼するよ」
そう言うとアルは歩き始めたが、それを引き留める声が聞こえた。
「お待ちください。主が礼をしたいとおっしゃています。是非、馬車にお乗りください」
姿を見せたのは金髪で碧い瞳の清楚な雰囲気の女だった。
(綺麗な人だなぁ天使みたい)
「「「!?」」」
「おい、何考えてんだ」
人族の男が女に問いかけた。
「主の望ですよ」
「はぁ~たくっしょうがねぇな!」
4人は渋々納得したみたいだが、アルはしてなかった。
「勝手に話を進めないで貰えるかい。僕たちは君らに関わる気はないよ」
女は負けじといい募った。
「しかし、もうすぐ日が暮れます。貴方はともかく妹さんはゆっくり休ませた方がいいのでは?こんな光景を見たのですから」
「………………」
アルは女の言葉に考えた。
「確かにそうだね……お邪魔するよ」
{アル、私大丈夫だよ?}
{でもね、ここで断っても行く方向が同じだから付きまとわれると面倒だし、利用しよう}
{分かった}
馬車に入ると奥に男が座席に座っていた。
アルは一応、頭を下げた。
「此度の助太刀、感謝する。ゆっくり休むといい」
「ありがとうございます」
アルは入り口に近い所に席に腰掛け、私を膝に座らせた。
暫くして他の4人も乗り込んできて、奥に座った男が声をかけエルフが答えた。
「ご苦労だった……処理は?」
「全て終わりました」
「そうか……では出発しよう」
出発して、奥の男が話し出した。
「私は、エヴァンという。右の女性はアンジェラ、その隣がオースティンで、左のエルフがルイス、ドワーフのメイソン、獣人がブレイクだ」
エヴァンの紹介に合わせて1人ずつ会釈した。
「初めまして僕はフィアフル、こっちが妹のフェリーチェだよ」
私が会釈するとエヴァンがアルに尋ねた。
「2人で旅をしているのか?ディアネスには何をしに行くんだ?」
「特に目的は無いけどね。ただ滞在してみて良さそうなら暫く住もうかとは思っているよ」
今度はエルフのルイスが問いかけた。
「貴方は冒険者なのですか?」
「ん?冒険者ではないよ。今は無職かな」
アルが答えると、皆が驚いていた。
(アルは黒龍だから仕事はしてないもんね)
「あれだけの力があるのに無職!?確か荷物を持ち逃げされて金も無いんだろ?」
オースティンが身を乗り出して顔を近付けたので、アルはのけ反りながら答えた。
「そ、そうだよ。まぁディアネスについたら働き先を見つけるつもりだよ」
「当たり前だ!あんたはともかく妹が可哀想だろうが!」
アンジェラも話しに入ってきた。
「そうですね。もしかして、着替えもないのでは?」
「着替え?……あぁそうだね!着替えも手に入れないと……ハハッ」
アルは人型に変身する時に、服も変えられるので思いもしなかったようだ。
「いくら魔法で清潔を保てても、女の子なんですから」
「わ、分かってるよ」
オースティンとアンジェラに責められ、アルがタジタジになっていると、エヴァンが助け船を出した。
「こらこら、それくらいで許してやれ。すまんなフィアフル、この夫婦は子どもに関しては厳しくてな」
「兄上!」「お義兄様」
どうやらオースティンとアンジェラは夫婦でエヴァンはオースティンの兄らしい。
2人がエヴァンに抗議していると、アルは解放されホッとしたが、そこに今まで黙っていた獣人のブレイクが話し出した。
「2人とも安心しろ、この男は妹の事を大切にしている。そんな奴が妹に関する事を考えて無い訳ないだろう。着替えも他に必要な物もちゃんと分かってるさ……そうだろフィアフル?」
アルの心にグサッと何かが刺さった気がした。
ブレイクに相槌をうちながらドワーフのメイソンが
「さよう、大事な子どもに苦労をさせるはずがないじゃろ。金がなければ、食べる物も着る物も買えず貧しい生活をさせる事ぐらい分かっているはずじゃよ」
アルの心にグサッグサッと更に何かが刺さり、アルは項垂れた。
するとエルフのルイスが
「まぁ言いたいことは皆さんが言ってくれましたので、私からはありませんが……直ぐに仕事を見つけて下さいね」
「はい……」
(皆、いい人たちだなぁ。見ず知らずの子どもの心配してくれて……さて、取り合えず)
私はアルに振り向き手を伸ばして、落ち込むアルの頭を撫でるとアルは私を強く抱き締め
「っ……フェリ!フェリーチェごめんね!人間に必要な物を忘れてて!街に着いたらちゃんと働いて苦労はさせないから!」
「「「「「人間に必要な物?」」」」」
(ギャー!アル何言ってんの!?皆、不審に思ってるよ!)
{アル!アルも今は人間だよ!}
{はっ!そうだった!}
私たちが、内心慌てていると外から声がかかった。
「日が暮れてきました。ここで夜営をしましょう」
5人は何か聞きたそうにしていたが、暗くなるといけないので、夜営の準備に入った。
私たちは取り合えずホッとし、外に出るとあのおじさんが頭を下げてきた。
「先程はありがとうございました。私は商人のロバートと申します」
「僕はフィアフルで、妹のフェリーチェです」
「何か入り用の際は是非うちに来てください。サービスしますので」
「それはありがとうございます。必ず伺いますので」
挨拶をすませ、夜営の準備を手伝った。
と言っても私は邪魔にならないように、おとなしく座っていただけだが。
アンジェラが食事の準備をしだすと、美味しそうな匂いがしてきた。
実はこの3日間、材料はあっても調理する器材も調味料も無く果物の丸かじりか、肉を焼いただけの物しか食べてなかっので、匂いに釣られて足がアンジェラの元に進んでいた。
そんな私に気づいたアンジェラが笑みを浮かべて話しかけてきた。
「どうしたの?お腹がすいたのかしら。もう少しで出来るから待っててね」
私はコクンと頷いたが、そこから離れなかった。
それを見ていたオースティンがアルに尋ねた。
「なぁフィアフル、フェリーチェは声が出ないのか?」
「え?そんな事は…………あ!フェリ、話しても大丈夫だよ!」
「はぁい」
「「「「「「!?」」」」」」
私が声を出したことに驚いたのか皆が私を見てきた。
するとオースティンが、アルに低い声で尋ねた。
「どういう事だ……フィアフル」
「え?2人で歩いてたら馬車が近付いて来たから、どんな人が乗ってるか分からないだろう?だからフェリには話さないように言ってたんだよ。すっかり忘れてた。でも、フェリはちゃんと言い付け守って話さなかったからいい子だよね!」
アルはが笑いながら言うとオースティンの体が震えてきた。
そんな彼にルイスが近付いて来て声をかけた。
「落ち着きなさいオースティン……子どもの前ですよ」
「分かってる」
私とアルがそのやり取りを不思議そうに見ていると、食事が出来たので食べる事にした。
食事が配られたので皆、食べ始めた。
「「頂きます」」
「なぁその‘頂きます’って何だ?」
オースティンが不思議そうに聞いてきたのでアルが答えた。
「糧になる食材と作ってくれた人への感謝の言葉だよ」
「へぇ~」
一口食べると野菜等のたくさんの味が広がり、味付けも美味しかった。
「ムグムグ……ゴクン……美味しいねアル」
「そうだね。ゆっくり噛んで食べるんだよ」
「うん!」
それを聞き、隣で食事をしていたアンジェラが
「口に合って良かったわ。たくさん食べてね」
「はい……こんなに暖かくて味がついてる物、始めて食べました」
私が笑顔で答えると、周りの空気が凍ったが食事に夢中で気付いていなかった。
しかし、アルはそうはいかなかった。
何故なら、6人の冷たい視線がアルに突き刺さっていたからだ。
アルは冷や汗を流しながら、弁明する。
「ご、誤解しないでよ!事情があるんだから!」
それで、納得出来るものは誰もいなかった。
「その事情とやらを詳しく聞きたいものだな」
オースティンが低い声で言うと、他の人たちも頷いていた。
「えぇ~……君たちには関係な……分かりました話します。でも、フェリが寝てからでいいかな」
アルは何とか逃げようとしたが、彼等の目に負けて話すことにした。
私はというと、コックリコックリと頭が舟をこいでいて話の内容は聞いていなかった。
アルはそんな私から食器を取り上げ、抱きかかえると背中をポンポンと叩き寝かしつけた。
私はそれに逆らわず完全に眠りに落ちた。
「おやすみフェリ、いい夢を」
そう言って、アルは私の額に口付けた。
読んでくれてありがとうございます。
次回、「問い」です。




