一段落
16話目です。
魔術師――私はフードを脱いでチェイスとカルロスに笑いかけた。
「ふ~何とか上手く行きましたね!」
すると、チェイスは呆れた目で私を見て疲れたように溜め息を吐いた。
「お前は……はぁ~」
そんなチェイスの肩を叩きながらカルロスは笑うのを我慢していた。
「ククッ……あぁ、上手く行ったな」
私が2人の態度を不思議に思い首を傾げていると、ライルがチェイスに詰め寄って来た。
「隊長!カルロスさんも!ちゃんと説明してくださいよ!いきなり目の前に現れて、4人を救援要請に行かせたり、かと思えばまた消えて、“これから何があっても冷静を装って合わせろ”とか念話してくるし、ガイスたちが裏切ったのは分かりましたが、いったい何がどうなっているんですか!?」
「おっ、落ち着けよライル」
チェイスはライルを落ち着かせようとしたが、更ににロイが微笑みを浮かべながら近付いて来た。
「そうですよ、ライル。隊長たちはちゃんと納得のいく説明をしてくれますよ。例えば……こんな小さく愛らしい子どもに、こんな危険な事をさせた理由ですとか……ねぇ隊長」
――ゾクッ
その微笑みを向けられていないのに、私の背筋に悪寒が走った。
(ヒィッ!目が全く笑ってないよぉ……チェイスは……あっ、微妙に震えてる……ロイさんは子どもが好きなのかな?私の心配してるし……それにしても、獣人って美形が多いのかなぁ)
ライルは短髪で爽やかなスポーツ選手って感じのリアンと同じ狼で、ロイは肩までの髪を後ろでひとつに結んでる美人で、チェイスと同じく狐。イーサンは黒豹でカルロスは白虎、レオーネは獅子だった。
(それにしても、モフモフしてて気持ちよさそうだなぁ~触りたいけどダメだよねぇ)
とりとめのないことを考えていると、チェイスが声をかけてきた。
「お~い、ちょっといいか?」
「どうしたの?」
私がテクテク歩いていくとロイが膝を折って頭を下げた。
「改めて、私はロイと申します。この度はご協力ありがとうございました」
「あっ、頭を上げてください!」
私がオロオロしているとライルまで頭を下げてきた。
「俺からも礼を言わせてくれ……ありがとう」
「あのっ、本当にいいですから」
どうしていいか分からず困っていると、カルロスが助けに入った。
「おいおい、それくらいにしとけよ。嬢ちゃんが困ってるぞ」
「「はい」」
取り合えず今までの経緯を話すことになり、私とチェイスの交渉から隠し部屋の探索、皆の治療の話と内通者の疑惑の件まで話した。
「なんと言うか……」
「随分と規格外ですね、それからどうしたんですか?」
「それはこいつに聞いてくれ。俺たちは、こいつの言う通り動いただけだしな」
チェイスがそう言うと2人の視線は私に向いた。
「え~とですねぇ――」
時間は少し遡る――
「皆さん集まってください」
そう声をかけると獣人たちが集まってきた。
「もし救援要請に行った5人が内通者と繋がっていた場合……最悪、救援が来ない可能性が高いです」
――ザワァ
周りの獣人たちに動揺が走ったが、チェイスたちは同意した。
「確かに……奴等の立場なら要請に行ったフリをして時間を稼ぎ、理由を作って救援は来ないことにするな……どうだ?カルロス」
「あぁ恐らくそうなる……なぁ嬢ちゃん、何か考えがあるのか?」
「はい……でも、成功させるためには此処にいる皆さんと、外にいる6人の協力が必要です」
「言ってくれ!僕は全員で国に帰りたい……その為なら何でも協力する!」
「レオーネ様……分かりました」
私が周りを見回すと、皆が頷いたので作戦を話した。
「まず、当初の計画通り私とチェイスが合流地点に向かいます。出来れば途中で広く安全な場所を確保したいです。合流してから戦力を何名か残し、他は救援要請に行って貰います。一度この部屋に戻り全員で安全な場所に転移した後、先に要請に行った5人が戻ったのを確認してから、私とチェイスがもう一度合流地点に向かい、彼等から内通者の情報を聞き出します……どうですか?」
「確かにいい作戦だが、問題があるぞ嬢ちゃん」
「分かっています……情報を聞くために、他の事は救援要請に行った5人が戻る前にやらなくてはいけません……時間との勝負です……だから、チェイス」
「あぁ急ごう……レオーネ様、皆も不安なのは分かるがチャンスは今だけだ……俺たちに任せてくれないか?」
皆は私たちを見つめた後、力強く頷いてくれた。
そしてレオーネが言った。
「2人とも宜しく頼む」
「ハッ!」
「はい」
その時、チェイスの服を引っ張りウィルが声をかけてきた。
「おとうさん、いっちゃうの?」
チェイスは膝を折ってウィルの頭を撫でた。
「あぁ、必ず戻る……皆で国に帰ろうな」
「うん!おとうさんも、おねえちゃんもきをつけてね」
「……おう」
「ありがとう、ウィル君」
(お姉ちゃんだって!ウィル君可愛いなぁ~モフモフしたいなぁ~この件が落ち着いたら頼んで――)
「おい……そろそろ」
私が考えてる事を遮るようにチェイスが声をかけてきた。
チェイスの方に見てみると、呆れたような目で見ていた。
(まさか……考えてる事バレてる!?)
「そっ、そうだね!じゃあ行こう……『隠密』……『転移』」
私たちの姿が消え皆が驚いてる中、すぐに部屋の外へ転移した。
――シュン
部屋の外へ出たと同時に5人の位置を把握するため、ずっと発動してた「探索」の範囲を拡げた。
{チェイス、5人はまだ離れた場所にいて移動してないから今のうちに急ごう}
{分かった!ほら、しっかり掴まれ}
そう言ってチェイスがしゃがんだのでおぶさった。
無事に屋敷を出ることが出来たので、チェイスに聞いてみた。
{ねぇもしかして、森に入るの?}
{あぁ、森と言っても‘魔の森’の手前だから比較的安全だ}
{あっ!チェイス止まって!}
チェイスは直ぐに止まって周りを警戒した。
{どうした?何かいるのか?気配はないが……}
{ごめん、違うの……ちょっとあっちに行ってくれる?}
私がそう言いながら左を指差すとチェイスは移動してくれた。
少し進むと、そこには小さな池を中心に少し拓けた場所があった。
{ここ、皆の避難場所にどうかな}
{そうだな……水があるし、周りも見やすい……だがその分こちらも丸見えだな……}
{それなら、私が結界張るよ。それと「隠密」使えば見えないし}
{あれか……なら大丈夫だな。決まりだ!移動するぞ}
避難場所も決まったので、合流地点に向かい走り出した。
しばらくして、獣人たちが見えてきたので念のため「心眼」で確認したが、この中には彼等の仲間はいないようだった。
{いたな……魔法を解いてくれ}
{分かった……解除}
「皆、待たせたな!」
チェイスが声をかけると全員が驚いた。
「隊長!?」
「え?いつの間に」
――ザワザワ
騒いでいると大きな声で誰かが怒鳴った。
「静まれ!!隊長が話せんだろうが!!」
(声が大きいよ!耳が……)
その声に皆が耳を押さえていた。
「お前が静かにしろ!バルド!」
「ハッ!!申し訳ありますん!!」
(わぁ~話聞いてないや……こういう人を脳筋っていうのかな)
「はぁ~……何でお前が副隊長なんだろうな」
「お褒めにあずかり光栄です!!」
「褒めてねぇよ……」
チェイスが疲れたように呟いた。
私はというと、チェイスの言葉を反復していた。
(副隊長って誰が?まさか……この脳き――この人が?)
「……え!?」
(この人が副隊長!?普通、隊長をサポートするんだから冷静な人がなるんじゃ……どう見ても特効隊長っぽいのに)
私は思わず声を出してしまい、皆が私に気付いた。
「あの……隊長」
「あぁ、紹介しとく……こいつは話してた協力者だ」
チェイスが私を降ろしたので、フードを取り頭を下げた。
「初めまして!宜しくお願いします」
反応がないので不思議に思い顔を上げると、全員が目を見開き固まっていた。
私はチェイスを見てコテンと首を傾けた。
「「「「「「……………」」」」」」
「???」
何とも微妙な空気を無視して、チェイスが指示を出した。
「あー時間が無いから今から言うことに反論も質問も無しだ、よく聞け!救援要請に行ったガイスたちに裏切りの疑いがある……そこで、ライルとロイを残して他の者は直ぐに救援要請に向かってくれ!」
「「「「「「なっ!?」」」」」」
「たっ、隊長!」
「質問は無しだ!時間がない、急げ!奴等と鉢合わせしないよう別ルートで行くんだ!」
「「「「ハッ!」」」」
4人は慌てて用意して駆け出した。
「ライルとロイは残って、奴等が気付かないようフォローしてくれ」
「「ハッ!」」
「よし!俺たちは一度戻る」
「「はぁ?」」
チェイスが私を見てきたので、チェイスの服を掴んだ。
「『転移』」
――シュン
「ぬぉ!?いきなりだな、驚かせんなよ嬢ちゃん」
どうやら、ちょうどカルロスの前に転移したみたいだ。
「で?どうだったんだチェイス」
「指示は出した……後は全員で脱出して奴等を待つ」
「そうか……」
カルロス、イーサン、リアンの目がギラギラしている。
「それじゃあ行きましょう。皆さん手を繋いで輪になって下さい」
指示に従い輪になったが、不安そうに互いを見ていた。
「心配ないです。一瞬ですから……恐ければ目を閉じてて下さい」
私がそう言うと、チェイス以外が目を閉じた。
そうチェイス以外、全員が。
「カルロス、イーサン、リアン……お前ら護衛だろ?」
「「「うっ」」」
「……じゃあ行きますね……『転移』」
――シュン
私たちは避難場所に転移した。
「皆さん、目を開けて下さい」
恐る恐る目を開けた先に見えたのは、外の景色だった。
「本当に外に出れたのか」
「そうですよ、レオーネ様」
――ワァー
皆が興奮を押さえきれないようだった。
私は直ぐに「障壁」と「隠密」を使い周りから見えないようにした。
「おい皆、嬉しいのは分かるが声を落としてくれ」
チェイスが注意すると皆が従った。
彼等の位置を確認したが、まだ動いていなかったので、今の自分たちが周りに見えなくなってる事を説明して少し休むことにした。
子どもたちは寝息をたて、大人も座り体を休めている。
私は「探索」を確認していた。
そこに、チェイスが近付いてきた。
「動きはあるか?」
「まだ動いてないよ」
「なら少し横になれ……地図出してくれれば俺たちが見ているから」
「でも……」
休むよう言われ、渋っているとチェイスが私を持ち上げ歩きだした。
「わぁ!?チェイス?」
「いいから……地図出せって」
私はチェイスの前に地図を出した。
「これってお前が意識が無くても消えないよな?」
「うん。そう設定すればね」
「じゃあしてくれ」
「分かった」
私は直ぐに設定しなおした。
「セレーナ、こいつも一緒に休ませてくれ」
「えぇもちろんよ……さぁウィルの隣に、頭はこっちの膝に乗せてね」
「えっと……」
チェイスにセレーナの膝に寝かされ戸惑っていると、セレーナが頭を優しく撫でてくれて、次第に私の意識は遠退いて行った。
――スゥースゥー
「寝たか?」
「えぇ……まだこんなに小さいのに……少しでも休んでね」
セレーナの顔は慈愛に満ちていたが、声はどこか悲しげだった。
「……頼んだぞセレーナ」
しばらくして、
「おい……起きてくれ」
――パチッ
目を開けるとチェイスが覗き込んでいた。
私は体を起こし尋ねた。
「動いたの?」
「あぁ……行けるか?」
「大丈夫。セレーナさんありがとうございました」
「いいのよ……2人とも気をつけてね」
「おう」「はい」
私たちはレオーネ様たちの元に向かい、これからやる事の打ち合わせを行い、森の入口に2人で転移して、私だけ「隠密」をかけ、合流地点に駆け出した。
読んでくれてありがとうございます。
もう少しで1章が終わる予定です。
次回、「ユニークスキル」です。




