救出3
14話目です。
「私は……後者の可能性が高いと思っています」
私の言葉にレオーネが反論した。
「待ってくれ!内通者など、いるわけない!我々獣人は何より絆が強い種族だ!!」
「………………」
「その種族が王子である僕を……仲間を人族に売ったと言いたいのか!?」
「…………………」
「何故だ……何故だれも彼女の言葉を否定しないんだ……」
レオーネは私の言葉をチェイスたちが否定しないことにショックを受けたのか、座り込んでしまった。
そんなレオーネにカルロスが座り目線を合わせて話しかけた。
「レオーネ様……確かに獣人は絆が強く仲間を大切にする……だが、その対象が全ての獣人だとは言い切れないんです」
「どういう意味だ?」
「貴方にとって、ご家族や国民は大切な存在ですよね?」
「もちろんだ!」
「ありがとうございます……では、例えば我が国以外にいる会ったこともない獣人は?どこかで奴隷として生きている獣人はどうですか?ご家族や国民と同じように絆があると……仲間であると言えますか?逆に彼等にとって自分が大切な存在だと言えますか?」
「………分からない」
「そういうことです。誰かにとって大事なものでも自分にとってもそうだとは限りません……何より貴方は第1王子で次期国王候補です。その座を狙う者は多く、派閥もあります」
2人の会話にチェイスが加わった。
「確かに……考えてみれば、此処にいるのは第1王子派の家族ですね……まるで、その日の夜勤に第1王子派がいると分かっていたみたいだ……それに誘拐の手筈が良すぎる」
「僕の……僕のせいで……」
うつむき自分を責めるレオーネの言葉をカルロスは否定した。
「レオーネ様……けして貴方のせいではありませんよ。こんな事を考えて実行した奴等のせいです」
「しかし……」
「貴方が今、するべき事は何ですか?こうなったのは自分のせいだと嘆く事ですか?……今、考えるべきは全員で脱出し無事に国へ帰る事では?」
「………………」
カルロスの言葉にレオーネはさらにうつむいてしまった。
「周りを見てください!此処にいる誰が貴方を責めているんですか?」
レオーネが恐る恐る周りを見ると――皆が笑顔を浮かべレオーネを見ていた。
「っ!?……皆……すまない……ありがとう」
その様子を見て私はカルロスたちに質問した。
「カルロスさんたちは内通者に心当たりはありますか?……あっ、名前は私に言わなくていいので!レオーネ様には教えておいた方がいいと思いますけど」
「……まぁいるにはいるが」
「そうですか……チェイス、外で待機している人たちは何人いるの?」
「6人だ、他にも救援要請に向かった者が5人だな」
「その中に内通者の疑いがある者と繋がりがある人はいる?」
「いや、外の奴等の中にはいないな……ただ救援を頼みに行った奴等は全員だ」
「私の事は知ってる?いつ戻る?」
「お前の事は残ってる奴等しか知らないな……戻るのは……そろそろだな」
「!?チェイスっ急いで念話で戻ったか確認して!戻ってなかったら私の事は話さないよう伝えて欲しいの!」
「分かった!待ってろ……」
しばらくして、念話が終わったみたいだったので、チェイスに尋ねた。
「どうだった?」
「あぁまだ戻ってなかった……指示は出したから大丈夫だ」
私たちが話しているとレオーネが聞いてきた。
「何故、君の事を話さないんだ?」
「例え此処を脱出できても、救出部隊の中に奴等の仲間がいたら危険です……ですが、私の存在が知られていなければ油断を誘えます」
「成る程……それでどうするのだ?」
「それはですね……ちょっと皆さんも集まってください」
私は皆を集めて今後の行動を伝えた。
しばらくして、ここは屋敷近くの森の中、私はチェイスの背中にいた。
私たちは『転移』と『隠密』を使い屋敷を出ていた。
ちなみにチェイスの『隠密』は森に入ってから解いたので周りから姿が見えている。
――ザッザッザッザ
チェイスが森を走っていると、7人の人影が見えて来た。
どうやらチェイスの部下のようで、その内2人の獣人が近付いて来た。
「ライル!ロイ!待たせたな……ライル、全員いるか?」
「俺とロイ以外は見廻りに行ってます。それと……救援要請に行った5人も戻りました」
「分かった……ガイス!」
チェイスは救援要請に行った5人のリーダーである男の名を呼んだ。
ガイスは他の4人と一緒に走り寄って来た。
「皆ご苦労だった!報告してくれ」
「はっ!残念ですが救援には少なくとも5日はかかるそうです……領主が戻るまでには間に合いません」
そう言って体を震わせていた。
「「「……………………………」」」
チェイスたち3人はガイスの様子を黙って見ていた。
その態度を不思議に思いガイスは問いかけた。
「あの……隊長?」
「いや、何でもない……やはり強行突破か……どう思うライル」
「隊長……しかし、我々だけでは不安があります。念のため、もう一度救援要請を行った方が宜しいかと……5人とも疲れていますし、今度は他のメンバーで行ってきます」
「そうだな……もしかしたら速く移動を開始しているかもしれんしな……ライル、さっそく――」
チェイスが、ライルに指示を出そうとするとガイスが遮ってきた。
「まっ、待ってくれよ!何でまた行くんだ!俺たちが信用出来ねぇのかよ!!」
ガイスの言葉に他の4人も声をあげ抗議した。
それを見ていたロイが5人を叱責した。
「隊長に対してその態度は何ですか!弁えなさい!」
「クッ!……申し訳ありません……ただ我々が帰ったばかりなのに、他の者が救援要請に行くと聞き自分たちが信用できないのかと思ったらつい」
それを気にしたふうでもなく、チェイスは淡々と答えた。
「何を焦ってる?予定より速く移動していれば到着も速くなるだろう?間に合えば強行突破も難しくないと思ったんだがな」
「グッ………」
「それとも何か信用されない理由でもあるのか?」
チェイスは静かな、感情を抑えた声で尋ねた。
「まさかっ!」
「そうか?そういえば潜入中に妙な噂を聞いたんだが、何でも今回の誘拐に成功したのはトラスト王国にいる協力者のおかげだと話していた……どう思うガイス」
「!?……何故、俺に聞くんですか?」
「そうだな……お前たちはどう思う?」
チェイスはガイスの後ろにいる4人にも尋ねたが、4人とも落ち着きなく互いを見るばかりで、答える者はいなかった。
その間にライルが4人の後ろに移動する。
「もし、協力者の事が本当なら……見つけ次第、拷問にかけ陛下に報告した後、一族全て処刑になるだろう……なんせ誘拐された者の中には第1王子がいるんだからな」
チェイスが脅しをかけると、ガイス以外の4人が震えだし、競う様にいい募った。
「待ってくれ隊長!俺はガイスに唆されただけだ!」
「俺もだ!本当はやりたくなかったが、ガイスに脅されたんだ!」
「俺だって止めようとしたけど、大金が入るって言うから!」
「俺は次期国王になる人が罪に問わないと言――」
「お前ら黙れ!!」
ガイスがしゃべり出した4人を遮るように叫び、
チェイスはガイスを問い質した。
「成る程な……4人はこう言っているがどうなんだガイス?……お前たちが協力者なのか?」
「………………」
答えないガイスにロイが追及する。
「何故答えないのですか?沈黙は肯定とみなしますよ?」
「ハッ!クックックッ……ハーハッハ!」
ガイスが急に笑い出したのでチェイスたち3人は警戒した。
「何がおかしい!」
「クックックッ……いや~笑えるぜぇ隊長……拷問に処刑だと?……今から死ぬ奴等がどうやって実行するんだ?」
ガイスの言葉にチェイスが反応した。
「何だと?」
ガイスはチェイスを無視して後ろを振り返り叫んだ。
「てめぇらも何しゃべってんだ!計画はまだ終わっちゃいねぇだろうが!!」
4人はガイスに言われ落ち着きを取り戻した。
チェイスはガイスを真っ直ぐ見ながら問いかけた。
「計画とは何だ?お前たち5人で何をするつもりだ」
「確かにここにいるのは5人だが、国にはまだ仲間がいるし、強力な後ろ楯もある!最後だし教えてやるよ!今あの屋敷にいる第1王子と王子を支持する奴等の家族はな……王子は殺し、他の連中は奴隷として売られる。俺たちは大金を手に入れ、あの方を国王とするためにクーデターを起こす……救出部隊は俺たち以外全員殺す計画だった」
「…………………」
「まぁ本当は自分の家族が売られるのを見せてから殺すつもりだったが……予定変更だ。今殺してやるよ」
「殺す?俺たちをか?」
「あぁ安心しろよ……3人を殺した後、此処にいない5人も殺してやるからさ」
そう言うと、ガイスたちは剣を抜きチェイスたちに向けた。
チェイスたちも剣を抜き構えたが、ガイスの言葉に剣を下げた。
「言っておくが抵抗はするなよ?すれば念話で屋敷に連絡して見せしめに隊長、あんたの息子を殺すぜ?」
「貴様………」
チェイスたちは怒りに震えながらガイスたちの睨み付けた。
ガイスがニヤニヤしながらチェイスに近付き剣を振り上げた時、横から誰かが飛び出してガイスに切りかかった。
「オラー!」
――ギィン
「グッ……なっ、何故お前が此処にいる!カルロス!」
読んでくれてありがとうございます。
次回、「尋問」です。




