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第四話 暴走、そしてその後

 湖の底で眠りについていた『ソレ』の目に光が宿った。禍々しい赤い光が暗い湖底を照らす。『ソレ』は横たわった姿勢から起き上がろうと腕を動かした。ゴゴン、と鈍い音がし、大量の気泡が湖面に昇っていった。

 『ソレ』はゆっくりと上半身を起こし、上にある湖面を見上げた。拘束していた太いロープが次々と千切れ飛んだ。『ソレ』は、腕、腰、足を、それらの動作を思い出すようにゆっくりと動かし、ぎこちなく立ち上がった。湖底の泥が大量に巻き上げられ、湖面は時を置かず茶に染まった。

 湖面の中央がゆっくりと盛り上がり、『ソレ』の頭部が現れた。昏く怪しく輝くその目には、自身の存在意義である破壊対象しか映っていない。

 かつて神々が創りし最凶なるモノ。異形にして巨大、強大なモノ——ゴーレム。ソレは数百年の時を経て、再び大地に顕現した。

 『リアン』を倒すために。


「ぐぐぅ……」

 リアンの家の中では村長がうごめいていた。リアンに家の中に吹っ飛ばされ、床に落っこちた衝撃で左肩を脱臼した。最早どうにもならなくなっていた。

「リ、リアン……」

 恨めしそうにリアンを呼ぶが、激痛で声を出すのもやっとだ。その声も弱々しかった。

 先ほどから爆音が響き、家の中の家具やらカップやらが落ちて来る。だが村長はそれらを避ける事もままならない。

「ここは安全だとは言うが……」

 ゴン、と鈍い音がした。何かの絵だろうか。重そうな額縁の角が村長の後頭部を直撃した。

「——! ——?」

 声にならない悲鳴を上げ、村長は気を失った。


「痛たたたた……」

 ギニアスは、自分の頭と同じくらいの大きさの岩を頭からどかしながら、悪態をついた。

「あの小娘が西の大陸神(ウェイザー・ルーア)だと? 冗談だろう?」

 ギニアスはリアンの赤く染まった目を思い出した。それを見た時、確かに恐怖、畏怖を感じた。体が動かなかった。この感覚は覚えがある。かつて群島の神(エイラーズ・ルーア)に忠誠を誓った際にわずかに見えた神の片鱗。それを感じ取った時に似ている。

 ジクジク痛む頭部をさすりながら立ち上がる。ふらつきながらも振り返ると、重い爆音と共に岩やら木やらが舞い上がっていた。いかに力のある魔導師とて、ここまでの事は出来ない。魔導師の力はあくまでも借り物なのだ。こうも連続して、しかも広範囲で多様な術を行使するのは不可能に近い。

「……認めざるを得ないと言うのか」

 と言っている間にも爆音が響き、今度は巨木が降って来た。

「うおあーーっ!」

 かろうじて幹の部分は体を捻って避けたが、太い枝がギニアスの後頭部を直撃した。

 ゴン、ゴン、ゴン、ゴン。

「——! ——! ——! ——!」

 枝の連続コンボを食らい、ギニアスは再び昏倒した。


「くそっ」

 キリアは体力が尽きかけ、焦っていた。ここ数日大陸中を駆け巡ったツケが今になって体中に回って来た。

 息が荒い。手足が重い。

 とりあえず巨大な岩陰に身を潜め、気配を断つ。

 ——数分くらいは稼げるか?

 呼吸を整え、全身の力を抜き、意識を深く集中する。体力の回復と、リアンの力の気配を感じ取るためだ。リアンは明後日の方向を爆撃していた。

「……にしても、怒らすとホント見境ないなぁ」

 ただでさえ荒れていた庭がさらに荒れてしまった。後始末が大変そうだった。

 自分で怒らせたとは言え、ここまでの暴走は久しぶりだ。相当ストレスが溜まっていたに違いない。爆音が近付いて来た。徐々に力の向きがこちらに集中し始めている。

「そろそろかな」

 呼吸は落ち着き、体力も若干は回復した。キリアは短剣を構え目を閉じる。意識を集中する。リアンの力が『はっきり』とこちらを向いた。

 ——来る!

 キリアは岩に亀裂が入るのを感じ取った。ゆらりとキリアの体が歪む。同時に岩が粉々に砕け、爆散した。もちろんキリアはそこにはいない。

 倍速能力ディブルド・エイクド

 キリアがリアンより授けられたこの能力は、常人の数倍の速度で行動出来る。反射速度、運動能力も同様だ。ただ無尽蔵に使える術ではない。代償は体力の消耗だ。大地の力をもって力を使いまくるリアンとは違う。キリアが人間である以上、それは根本的な問題だった。キリアは逃れた先——太い木の幹に体を寄せ、大きく息を吐いた。

 ——そろそろ終わりにしないと、俺の体がもたないなぁ。

「っと!」

 次の瞬間その木が真っ二つに割れた。キリアは再び姿を消していた。


「キリアめぇ、ちょこまかちょこまかと」

 リアンはそろそろ面倒になっていた。ちょっとでも気を抜けば、即背後に回られる。だが、その動きを察知する事は出来る。リアンは大地の神だ。キリアの足音、重みは、大地が教えてくれる。だが、キリアの動きが速すぎるため、攻撃範囲を広めにしないと捉えきれない。そのせいで岩やら木やらが飛び散り、キリアの正確な位置を特定するのが困難になっていた。

 たし、と足音を感じた。それの体重、大きさが、大地を通じてリアンに知らされる。確かに、人間の足音と重みだ。

「そこかぁっ!」

 ぶん、と手を振り回す。衝撃波が走り、行く手を遮るもの全てを打ち砕いた。だがそこにはもうキリアはいない。残像だけが揺らめいていた。

 もう面倒だった。

「こっちは忙しいってのに」

 キリアとの決着がついたら、ゴーレムの点検メンテナンスをしないといけないのだ。

 それはそれで面倒だった。

「退屈だったのが急に忙しくなって、もう」

 リアンは思い切りよく、両手を天に掲げた。

「あーもーっ! 面倒くさいっ!」

 天から光が降りて来る。リアンを中心に幾重もの光の円が出現し、徐々に範囲を広げていく。

「もぉーあったま来たっ! 全部吹っ飛ばすっ!」

 光の円の一部が木に触れた。その木は瞬時に塵となった。

「キリアっ、出てこいっ!」


 岩陰で気配を絶っていたキリアは、光の柱が立ったの見た途端、大いに慌てた。

「おわわっ! アレ(・ ・)使う気かっ!」

 あの光は、触れる物全てを灰燼に帰す。以前、一度だけ使われて大変な事になった記憶が蘇った。効果範囲一帯が更地と化し、その始末に追われた。とにかく大変だったのだ。

「わぁーっ! リアン、それはダメだっ! それ使ったら全部壊れる!」

 キリアは慌てて岩陰から飛び出した。

「……いーたーなー?」

 リアンが光の円を纏い、首だけでキリアを向いた。目が赤く怪しく輝いていた。

「リアン! 待った! それはダメ! ズルい! 後始末が大変だ!」

「やかましいっ!」

「悪かった! 謝る! 俺が悪かったから!」

 キリアは即謝った。あれを使われた後の事を考えると、とにかく謝って矛を収めて貰った方がいい。自分のプライドと後始末の大変さを天秤にかけ、キリアは後者を選んだ。

「……ほぉ、謝ると言うんだな?」

「はい! すみませんでした! この通り!」

 キリアは四五度の角度で頭を下げた。

 だが。

「……私は地に伏して謝れと言ったが?」

「ぐ」

 キリアは頭を下げたままの姿勢で動きを止めた。

「謝るのだろう? それならきちんと見せて欲しいものだな『誠意』とやらを」

「く……」

「ほれ、どした? 早く許しを乞うがよい。私は寛大だからな」

「ぬ……」

 寛大が聞いて呆れる。キリアがそう言いかけた時だった。

「ん?」

 重い音。振動。足音には違いないが、あまりに重い。踏みしめられた大地が悲鳴を上げている。

「あ——?」

 リアンは、湖の方角を首だけで振り向いた。

 そこには。

 禍々しい赤い眼光を放つモノ。巨大で、強大な力を持つモノ。ゴーレムが生い茂る森から上半身を覗かせ、目を昏く光らせていた。


「ぐ……ぐぬぅ」

 後頭部に枝の連撃を食って昏倒していたギニアスが息を吹き返した。一応魔導師であるギニアスは、咄嗟に薄いながらも結界を張り、致命傷だけは免れていた。

 それでも食らったダメージは大きい。頭を振り、朦朧とする意識をなんとか保とうとした。そこに、重低音が響いた。何か重たいモノが大地に落ちたような、そんな振動がギニアスを襲った。

「んぐわああっ!」

 頭の傷に響く。ガンガン響く。

「な……何事だ」

 よろよろとふらついて、岩にしがみついた。

「何だ、今のは」

 と。

 しがみついていた岩が動いた。

「は?」

 ギニアスは岩に掴まったまま勢いよく持ち上げられ、吹っ飛ばされた。地面に叩き付けられ、したたかに背を打った。

「がほげほがほ……」

 激しく咳き込むギニアスだが、彼に休む間はなかった。視界が急に暗くなった。咳き込みつつ見上げると、巨大な岩が頭上にあった。

「は?」

 岩が落ちて来た。勢いよく。

「はーわわわわっ!」

 必死に横に転がりそれを避ける。仰向けになったギニアスのすぐ脇に岩がめり込んだ。

「ははっ?」

 ギニアスは見た。それが岩ではない事を。そして目が合った。禍々しい赤い目。山のような巨躯。ギニアスはゆっくりと立ち上り『ソレ』を見上げた。

 だが、そこまでだった。あまりの迫力に圧倒され一歩も動けない。膝も震えていた。

 ——これが!

 ギニアスが本国より送り込まれ、奪取しようとしていたモノ。

「ゴ、ゴーレムかっ!」

 ギニアスは、ゴーレムを見上げたままの姿勢で固まった。見上げる首が痛かった。

「……こんなの、どうやって持って帰れと……」

 ズン、とゴーレムが一歩足を踏み出した。大地が揺れ、ギニアスがバランスを崩し跪く。不幸にもその場所は、ゴーレムの進行方向だった。

「……待て待て待て、こら待て止まれ!」

 ゴーレムは足元で喚いているギニアスを無視した。と言うより気にもしなかった。目標は神の力を振るいまくっているリアンだ。足元のチンケな魔導師ではない。

 ギニアスはゴーレムに蹴飛ばされ、岩にぶち当たり、再び昏倒した。


 キリアは慌てた。まさかゴーレムが覚醒するなんて思っていなかった。覚醒するには、何かきっかけが必要なはずだからだ。

 ——きっかけ?

 はた、と気が付いた。

「あ……」

 キリアはゆっくりとリアンを見た。リアンもキリアを見た。リアンの目の色は灰色に戻っていた。

「結界、私が解いちゃった……」

「力も使ったね、思いっきり」

 二人はゆっくりと、重い振動と共に歩み寄るゴーレムに目を向けた。

「条件が揃っちゃったわ」

 リアンは呆然と呟いた。そもそもゴーレムは、神同士の闘いを肩代わりするために創られた。ゴーレム同士は当然として、その攻撃対象は神も含まれる。今回の場合は、神の力を使いまくったリアンが標的になる。そして一度標的を定めると、その対象物が消滅するまで攻撃する。とことんやる。徹底的にやる。それこそあらゆる手段を用いて。

「どーすんだよ、アレ」

 キリアは、どうにもならないだろうなと思いつつ、リアンに矛先を向けた。

「どうしようか」

 にへら、と笑うリアン。打つ手なし。顔全体でそう言っていた。

 そうこうしている間にも、バキバキ、メシメシと木々を踏み潰し、ゴーレムは一歩、また一歩とこちらに近付いて来る。唯一の救いは動きが緩慢な事だ。数百年の眠りは、ゴーレムの完全起動までの時間を幾分か遅らせていた。完全な状態になれば、そのスピードはキリアの比ではない。とても太刀打ち出来ない。

「止める手段って何かないのか?」

「あんただって知ってるでしょ? ゴーレムは完成された兵器なの。相手を打ち砕くか、自らが果てるか。それまで動きを止める事はない」

「じゃ、リアンが相手すればいいのか?」

「あんたねー」

 リアンはため息をついた。

「神々の時代ならいざしらず、今は人の時代。神は人に見限られ身を隠している。神の力の大半は封じられたも同然。私が全力を持ってしても『アレ』はそう簡単には打ち砕けない」

 リアンはゴーレムの目を見た。昏く禍々しい眼光。コレを止められるのは自分だけだと悟った。悟ったが方法がない。

「とりあえず」

「とりあえず?」

 キリアはリアンの次の言葉に期待を寄せた。

「逃げる」

「は?」

「逃げんのよ。まともに相手したって勝てっこない。それなら一度私の存在を隠す」

「時間稼ぎじゃないか」

「他に手がある?」

「……ごもっともで」

「分かれば宜しい」

 リアンは指を鳴らした。二人の姿はその場から消えた。

 ゴーレムだけが、先ほどまでリアン達がいた場所へ向かって、ゆっくりと着実に歩を進めていた。大地を抉り、木々を薙ぎ倒しながら。


「ここは多重に結界を張ってあるから『アレ』も気付かないと思うのよ」

 リアンはそう言うが、キリアは懐疑的だった。

「ホントに大丈夫なのか?」

「あんた、私を疑うの?」

 リアンの目がまた変色し出した。

「いやいや、いえいえ。そんな事はございませんよ」

 慌てて首を振りつつ、必死に機嫌を取る。ここで暴れられたら、本当に逃げ場がなくなる。もう信じるしかないのだ。

 キリアはため息交じりに、家の中を見回した。そこでまたため息をついた。家の中は滅茶苦茶になっていた。あれだけリアンが暴れ尽くしたのだから当然だ。問題は村長の安否だ。

「村長ー? 生きてるー?」

 返事がない。

 部屋の中は、重そうなタンスや重そうな書棚がひっくり返っていた。下敷きになれば圧死は免れない。

「……リアン、まさか」

「ちょっと待って」

 リアンは目を閉じた。しばしそのままで、時間だけが過ぎた。

「……いた」

「え、どこ?」

「この下」

「下……」

 リアンが指し示す先には、タンスと書庫が乱雑に積み上がっていた。その下に村長がいるのだと言う。

「えーと、生きてるのかな?」

「生きてる」

「じゃ、これどかせばいいのかな?」

「そうね」

 リアンは何処吹く風、涼しい顔で応じた。

「やっぱり、俺が?」

「そうね。それともか弱い女の子に、力仕事をさせるつもりなの?」

「か弱い……」

 キリアはがっくりと肩を落とした。もはや何も言い返すまい。キリアはそう割り切って重労働に着手した。


10

 さて。

 散々な目に遭ったギニアスだが、しっかり生きていた。咄嗟に張った結界のおかげで、またしても致命傷は免れていた。実はそれなりに有能なのかも知れない。だが今度はただでは済まなかった。

「ぐっ……くそ。アバラの二、三本はいったか……」

 そうつぶやく息は荒い。幸いにして手足は無事だ。ただ一歩進む度に激痛が走る。

「くそー、リアンめぇ、ゴーレムめぇ」

 呪詛のように呟きながら、ゴーレムの通った道を進む。ゴーレムは神殺しの巨人として、島のあちこちに伝承として残されていた。かつてゴーレムによって打ち砕かれた跡も残されていた。だが、研究しようにもまともな資料がない。ゴーレムに関する文献も王宮になかった。

 今、ギニアスが分かっているのは二つだ。ゴーレムは、魔導師である自分には何の反応もしない事。そして神の力を行使したリアンに向かって移動した事。ギニアスは体中の痛みを引きずりゴーレムを追った。もう、やけくそだった。

 ——どうやってあんなモノを持ち帰れと言うのだ?

 薄ら笑いを浮かべつつ、脂汗も浮かべつつ、ギニアスは一歩ずつ一歩ずつ、激痛に耐えながら歩を進めた。


11

「村長を発見!」

 キリアが声を上げた。

「どれどれ」

 村長は、幸いと言うか何と言うのか、折り重なる重量物のわずかな隙間に挟まっていた。傍目には外傷は増えてはいないようだ。キリアは村長を隙間から引きずり出した。引っ張っている途中で嫌な音がしたが、とにかく引っ張り出さないと怪我の具合を診ることも治療も出来ない。最後にバキっと音がした。村長のどこかの何かがどうにかなったのだろう。それまで瞑ったままだった村長の目が見開かれた。

「お、意識が」

「ぎゃああああああ!」

 村長は覚醒したが悶絶した。

「……戻ったみたいね」

「んぐうぅうううおおお!」

「村長、村長」

 キリアの呼びかけに、村長は悲鳴で答えた。

「がああぁあああっ!」

 リアンは村長の悲鳴を無視した。

「まだ、元気があるのは分かった。で、どこが痛い?」

 キリアには「痛い」が「遺体」に聞こえた。

「肩が……右の肩が……」

「どれどれ」

 リアンが村長の右肩に手を当てた。リアンの手からほんわりとした光が生じ、やがて、ごき、と音がした。

「脱臼ね。キリアが力一杯引っ張り出すから」

「それも俺のせい?」

「誰のせいにしたいの?」

 リアンはにっこりと微笑み返した。目が笑っていなかった。

「そ、それより村長、村長を早く診てよ。他に怪我が増えてないかとかさ」

「どれどれぇ?」

 リアンは面白そうに、村長の顔の傍にしゃがみ込んだ。一体何が面白いのか、キリアには理解出来なかった。

「村長ー、痛いトコありますぅ?」

「……リアン、お前さんのおかげで酷い目にあったぞ」

「どうやら無事みたいね」

「おいおいおいおい、この惨状見て何が無事だと? って痛たたたた……」

 手で頭を押さえる村長。額縁が刺さった箇所だ。

「そこね『新しく怪我』した所は」

 リアンは再び手をかざした。

「痛みを遮断した。もう痛くはないでしょう?」

「まぁ、何とかな……」

 村長はキリアに支えられ、体を起こした。

「それで、どうなっているのかね?」

 結局、状況を説明しなければならない。リアンが横着して村長を『一緒に連れて来た』おかげで怪我が増え、その上一から説明・報告しなければならない。

 面倒だった。

「とにかく大変なのよ」

 一言。

 リアンはそれだけ言うと、歪んだ出窓の窓枠に腰をかけた。もちろん、それだけでは何がどうなったのか分からない。

「説明はないのかね?」

「これを見れば、一目瞭然」

 リアンは窓から見える情景を、空間に映し出した。そこには荒れ果てた、いや元から荒れてはいたが、もっと荒れたリアンの屋敷の庭が映っていた。

「あーつまり?」

「うん。そう言う事」

 村長はおよそ考えられる最悪の事態を想像した。

「わしの想像通りなら……」

「多分、それで正解だと思うわ」

 ゴーレムが息を吹き返した。太古の殺戮兵器が蘇った。あの『神殺しの巨人』の伝承そのものが、すぐそこに『いる』。村長は何かを言いかけ、卒倒した。

「あーあ。村長も気苦労が絶えないよなぁ」

「私だって苦労してんのよ」

「あれだけ庭を荒らしておいて?」

「……ここで続きをしてもよいのだぞ?」

 リアンの目が怪しく光った。

「いやいやいやいや。今はそれどころじゃないでしょ?」

「そうなのよねぇ」

 コロコロと感情が入れ替わる。リアンが妙案を考え始めた兆候でもあった。こう言う時は、思いっきり邪魔をした方がいい。それをキリアは身を以て知っていた。

「そういえばあの魔導師、名前なんて言ったっけ?」

「……ギニアス……」

「そうそう、ギニアスね、ギニアス」

 キリアは大げさに頷いて見せた。

「今頃何してかな?」

「……さぁ……その辺ウロウロしてんじゃない……」

 リアンの返事は素っ気ない。事実、ギニアスはウロウロしていた。

「それと、問題はゴーレムだよなぁ。一応リアンの気配は断ったわけだから、どうすんだろ?」

「……目標が消えた……。群島の神(エイラーズ・ルーア)の魔導師が一人彷徨い……あ」

 リアンの言葉が止まった。

「思いついた?」

 キリアは恐る恐る、リアンに回答を促した。

「おし、この手でいこう」

「どんな手?」

 リアンは、んふふと鼻で笑った。キリアは嫌な予感がした。

「それはね……」

 それは、驚愕すべき『妙案(・ ・)』だった。

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