第三話 覚醒と暴走と
1
村長の家では、怒号が飛び交っていた。
「遅い!」
リアンは怒っていた。とにかく怒っていた。
「一体どこで油売ってたのか、きちんと私が納得するように説明しなさい!」
対するキリアも負けていなかった。
「これでも予定より半日早く着いたんだ! 村長も助けたし! 文句を言われる筋合いはない!」
一触即発。両者はギリギリと睨み合った。
それを見ていた村長はため息をついた。
自分の右足を見る。大腿部に包帯がぐるぐる巻きにされていた。キリアが投げたナイフが刺さったからだ。
左足を見る。膝から下が木枠で固定されていた。キリアがギニアスから逃げた際に、左足を掴まれた姿勢で最大速度で疾走され、散々振り回されたおかげで、股関節脱臼した上に骨折——つまりメタメタになっていた。リアンが癒しの術を施さなかったら切断の憂き目に遭っていたかも知れない。
村長はもう一度、深くため息をついた。
「大体、各国の動向を探って来たんなら状況くらい分かるでしょ?」
「その状況を作り出したのはリアンだ」
「わ、私が何をしたってのよ」
「何が『秘密裏』だよ。各国の諜報員全員が『アレ』をリアンが掘り起こした事を知ってた。バレバレだったよ。しかもそこの森の湖まで空を飛ばして移動したって? そこまでしてどこ突きゃ『秘密裏』なんて言葉が出てくんだよ? 信じた俺がバカだった!」
ルーデシアスにも同じ事を言われていたリアンはキレた。
「あんなデカイものどうやって掘り起こすのよ! スコップで掘ってたら何年かかると思ってんのよっ!」
「何も手で掘れなんて言ってない! リアンの力使えば瞬時に転送出来たでしょう?」
「空間転移の事? あんたバカ? あれは空間ごと転移すんのよ? あんなバカデカイの転送したら、周囲の山が崩壊するでしょうが!」
「んな事細かい理屈、俺が知るか!」
「んじゃ口出すんな!」
両者の睨み合い罵り合いは終わらない。どっちも折れないからだ。
捨て置かれた村長は、もう一度深ーくため息を吐き出し、片手を挙げた。
「あーいいかな?」
「うるさいっ!」
「今取り込み中です!」
村長は首を竦めた。そのまま首が体に埋まりそうだった。が、ここで引き下がるわけにはいかない。聞きたい事が山ほどある上、ここは自分の家だ。妻に数年前に先立たれ、以来ずっと静かに暮らしてきた。いや、リアンがいるから静かには無理だが。
——問題の優先順位、間違ってると思うがなぁ。
そう思いつつ口には出さなかった。替わりに静かにこう言った。
「リアン、お前さんはこの村を守る義務がある。違うかね?」
「……いきなり何を言い出すのよ?」
村長は一旦リアンを無視した。
「キリア。一応礼を言わせて貰う。あのままではわしは死んでおった」
村長はリアンに向き直った。
「リアンもだ。リアンの治癒術がなかったら、わしの足が片方なくなるところだった」
村長は、黙り込んでしまった二人を見、頭を下げた。
「二人とも、ありがとう」
一瞬の沈黙があった。
──ここだ!
村長の目が鋭く光った。
「だがな。巻き込まれたのがわしだったからよいものの、もし他の村人に危害が及ぶようならタダではおかん。それだけは肝に銘じておいて欲しい」
「……」
この言葉に二人は意気消沈。すっかりしょげてしまった。効果てきめんだった。
「ところで、リアン」
「……はい」
「『アレ』とは何だね? 一応わしはリアンの言いつけ通りに動いたのだが」
「ああ、その事。実はね」
「リアン、それ言っちゃっていいの?」
キリアが口を挟んだ。
「だって仕方ないじゃない。村長は被害者なのよ、あんたの」
「! あ、あれは不可抗力と言うか何と言うか……」
「当たりもしないナイフ投げなんかするからよ」
「だって、あの時はああでもしないと」
「まだ足だからよかったけど、頭とかに刺さってたらいくら私でも治療出来ない」
その物騒な台詞に、村長は思わず頭に手を乗せた。
村長はまた大きくため息をついた。
「……とにかく話を進めていいかね? わしもいい加減疲れてしまったよ」
「ほら」
リアンは得意満面な顔でキリアを見た。キリアは何か言いかけたが、口を閉ざした。きっとリアンの逆鱗に触れる何かに違いない。
「まず、リアン。お前さんに聞きたいのは『アレ』の事だ」
「『アレ』はね、私たちが創った最悪の遺物。聞いた事くらいはあるでしょ?」
村長の眉間に深い皺が刻まれた。思い当たったのは一件。だが、それは本当に最悪だ。
「……まさか……『ゴーレム』の事じゃあるまいな?」
「ご名答!」
リアンは拍手喝采した。
「その『ゴーレム』がねぇ、点検時期なのよ。五百年に一回なんだけどね。これやらないと大変な事になる。最悪暴走する」
村長の皺は徐々に消え、替わりに次第に顔色を失いつつあった。
『ゴーレム』
かつて神は、お互いが傷つき、癒え、そしてまた傷つく事に飽き、自らの替わりに闘う存在を創り出した。その力は強大で、拳を振るえば山は吹き飛び、蹴れば大地に穴が開いたと言う。
「リアン!」
村長は声を荒げた。
「わしは、王宮に隠された神の遺産を持ち出したとしか聞いておらんぞっ!」
リアンは嘘は言っていない。言っていないが事はあまりに重大だった。
「いやー、それは適当にボカしておかないと。村長が驚くと思って」
リアンは小さく舌を出した。
——この元・神様は……。
村長はこめかみを押さえた。酷い目眩がした。
2
村長がリアンに頼まれた事は三つ。
王宮から誰か来たら、『アレ』がリアンの屋敷にあることを告げ、王宮の修繕費の話をする事。で、自分ならリアンの結界を通れるので、案内する替わりに修繕費をなかったと交渉する事。そして、この時点でリアンは結界を解いているので、村の者を絶対に屋敷に近づけない事。
村長はその通りに実行した。ただギニアス本人が出向いて来るとは思っていなかった。
「肝を冷やしたぞ。まさか宮廷付きの魔導師自らが来るとは思ってなかったからなぁ」
「私も甘かったわ。王宮でギニアスに会って幻影だと分かった時、どうしようかと思ったわ」
「王は何と仰っておられた?」
「あ」
すっかり忘れていたが、リアンは一個師団を手配していた。今頃王宮の中庭で待機してるはずだ。
「どうかした? リアン?」
それまでずっと黙って聞き入っていたキリアは、リアンの顔色が変わった事を見逃さなかった。
「んー。いや、何でもない」
「それよりリアン。どうするんだね、あの連中を」
村長は窓を見た。リアンが状況が見えないと色々困るからと、窓にギニアス達を映し出していた。音声はきっとうるさいからと言う理由で拾っていない。ギニアス達はリアンが張り直した結界から出られず、右往左往していた。
「放って置く、ってわけにはいかないかやっぱり」
「そりゃそうだよ。ゴーレムの点検、しないとまずいんでしょ?」
「そうなんだけどね」
何故か躊躇いがあるリアンだった。
「うん! よし! 面倒だから、とっととギニアスを追い返すか消し飛ばすかする!」
「消し飛ばす?」
「ギニアスね、島々の末裔なのよ。しかも、群島の神の手の者なのよー」
「なのよーって、そりゃ、尚更放って置けないでしょうが! あの『ラーズ』の手下なんでしょう?」
「お前達……神の名をそんな軽々しく……」
「そうと決まれば、ホイ!」
リアンは指を鳴らした。三人は一瞬でその場から姿を消した。
3
「何でわしまで!」
「ついでよついで。色々後から報告する手間が省けるでしょう?」
リアンは、半死半生の村長を『ついで』に『報告が面倒』と言う理由で、連れ来たのだった。
「とりあえず村長は私の家に。あそこなら安全。キリアはその辺に隠れてて」
「わしは歩けんのだが」
「ああもう、面倒な」
リアンはもう一度指を鳴らした。村長が姿を消した。きっとリアンの家の中に吹っ飛ばされたのだろう。
「とりあえず荷物が減った」
「村長大丈夫かな?」
「家には二重に結界張ってあるし、ギニアスごときに破れないから大丈夫」
「いや……自力で動けないから、ちゃんと着地したかなぁと思って……」
リアンは、キリアの心配を無視した。
「おーい、ギニアスー! バカ魔導師ー! ラーズの下っ端ー!」
「何だとぉおおおお!」
ギニアスは、あっさりとリアンの挑発に乗って走って来た。目が血走っていた。
「言うに事欠いて、我が信奉する群島の神を蔑称で呼ぶなど言語道断! 我が力の全てをもって粉砕してくれる!」
ギニアスは走り込みつつ光の刃を数本放った。が、どれもリアンに届く寸前に掻き消えた。
「あんたの魔法は効かないって言ったでしょうに」
「やかましいっ!」
ギニアスは立ち止まり、両手を天にかざした。
「我が誓約せし神の御名においてその力貸し与え給え!」
ギニアスが神の言葉を使った。神の力を借りると言うことは、人間の能力を遙かに超越する力を得ると言うことだ。ギニアスの頭上で、凄まじい放電現象が生じ、徐々に巨大な球を成していく。
「我が最大の術、食らうがいい! |雷光を束ねし数多の刃よ《エイラニア・ダクス・ソドニアス》!」
ギニアスの声に呼応し、雷の球体はリアンに向け放たれた。そしてそれは無数に分裂し、複雑な光跡を描いてリアンに襲いかかった。
そして——。
掻き消えた。綺麗さっぱりと。
「な、なな」
ギニアスは両手をだらんと降ろした。
信じられない。そんな顔をしていた。
「ど、どこ行った? 雷の刃は……?」
「あんたねー」
リアンは両手を腰に当て呆れ顔だ。
「あんたの魔法は私に効かない。何回言わせればいいわけ?」
「たかが辺境の魔女ごときが、我が神の力を無効化出来るはずが……そうか結界か。結界が邪魔をしているのだな?」
「あんたんトコの神様の力は『辺境の魔女』ごときが張った結界に力を削がれるって事?」
「い、いやそんな筈は……」
「いいわよ? 結界解いても。結果は一緒ですけどね」
リアンは涼しい顔をして手を一振りし、結界を解いた。周囲の空気が一変した。ギニアスは幾分体が軽くなったように感じただろう。
「ささ。もう一度どうぞ」
「分かったぞ、貴様幻術を使ったな? 実体はここにいない。そう言う事だな? すっかり騙されていた」
ギニアスは往生際が悪かった。
「卑怯だぞ! 姿を現せ!」
「あのねー」
リアンはため息をついた。
「私の実体はここ。ここにいます。あんたそんな事も感知出来ないの? ホントに魔導師なの? その杖の力に頼りすぎてない?」
リアンは無防備にギニアスに歩み寄り、ギニアスから杖を奪い取った。
「いい杖ね。魔力の増幅に特化してる」
リアンはそう言うと指を鳴らした。杖は一瞬で塵となった。
「一応あんたが魔導師だって事は分かった。神の力を借りられるなんて、結構な能力を持っている事も分かった。でもその魔法は私には効かない。さぁどうする?」
リアンは薄ら笑い浮かべた。ギニアスは恐怖を感じた。神の力が通じない。そんなまさか……。
「いや! いやいやいや。そんな筈はない。そんな事は認められない」
ギニアスは首を振った。
「そんな事より『アレ』を返して貰おう。『アレ』は我々の物だ」
ギニアスは立ち直った。居直ったのかも知れない。
「アレって?」
リアンは素知らぬ顔ですっとぼけた。
「知らぬとは言わせぬぞ? 私は『アレ』を本国に持ち帰らなければならんのだ」
「本国って、ルーデシアスのトコじゃないわけね」
「話が早そうだな。そうだ。私は群島の神に誓いを立てた者だ。そして私は、かつて神々が創り出した最強の破壊兵器。『ゴーレム』を持ち帰るのだよ。そうすれば我が祖国、群島連合は、周辺国を屈服させられる。ゆくゆくは大地の末裔を根絶やしにし、我ら島々の末裔が世界を席巻するのだ。どうだ恐れ入ったか」
リアンはギニアスの演説を、うんざり顔で聞き流していた。
「……ラーズも大変だわ。こんな人材しかいないなんて……」
ぼそっと呟く。
「何か言ったか?」
「いーえ、何にも」
「とにかくだ。とっととゴーレムを差し出せ。さすれば命までは取らぬ」
「最大魔法投げつけておいてよく言うわ……」
「……何か言ったか?」
「……いーえ、何にも」
ギニアスは手を叩いた。
「我が同胞達よ! この者を捕らえよ!」
大声を張った。だが、誰も現れなかった。
「あれ?」
ギニアスは首を傾げた。
「おい、皆? ボーリア?」
ガサガサっと草むらが動いた。ズタズタに引き裂かれた黒装束を纏った男が一人、姿を現した。最後の力を振り絞って草むらを掻き分けたのか、今にも死にそうだった。
「……ギニアス様」
「おお、ボーリア……って、どうしたのだ? 他の者達は?」
「……申し訳……ございません……」
ボーリアはその言葉を最後に、ぼて、と地に伏した。その後ろからキリアがひょいと顔を出した。
「他の皆様ならこの人とご同様ですよ」
「は?」
「全員しばらく動けないと思うよ」
「あーーーっ! キリアっ! あんた!」
リアンが急に大声を出した。
「いや、隠れてたら見つかっちゃってさ」
「見つかった? あんたが? それで?」
「殺すとか殺せとか言って向かって来るからさー。仕方なく」
「やったのね?」
「あ、殺してないよ? よくて気絶。悪けりゃ全治三ヶ月」
キリアは得意満面だ。
対してリアンは苦虫を噛みつぶしたような顔をした。
「キリア」
「うん?」
「この大バカ! どーすんのよ! 王宮には一個師団が待機してんのよ? ギニアスとその下っ端が向かって来たら呼び寄せて、一網打尽にする計画がパーじゃない!」
「そんな計画聞いてない!」
「察しなさい!」
「無茶言うな!」
リアンとキリアは睨み合った。不穏な空気が辺りを支配した。ギニアスは、リアンとキリアの顔を交互に見、何となく身の危険を感じた。
「大体その計画、今思いついただろ?」
「何をお? ここに来たときに私はあんたに何て言った?」
「『隠れてろ』だろ?」
「そーそー。ちゃんと覚えてるじゃないの。なんでそのまま大人しく隠れてなかったの!」
「だから、見つかったって言ったじゃないか? ボケてんの?」
「ボケてないっ! 見つかっても隠れてなさいよ、あんたこそボケてんの?」
「んな事出来るわけないだろう?」
「いーや、あんたに授けた力使えば、出来たはず。それを余計な事して台無しじゃない!」
「余計な事? 手間を省いてやったんだよ! 一個師団呼ぶまでもないでしょ、こんな連中!」
ギニアスは一言、「こんな連中はないと思うが……」と呟いた。が、無視された。
「それが余計だって言ってんのよ! どうすんのよ、現行犯で公に出来なくなったじゃない!」
「それこそ、この連中を王宮に飛ばせばいいでしょ!」
「飛ばしてどうなるのよ? 拷問にでもかけるつもり?」
ここでギニアスが余計な口を挟んだ。
「我が同胞達は決して口を割らない。その場で自害するだろう」
「ほうら。無駄になった」
「そ、そこはリアンの力で、何とかすればいいじゃないか」
「あんた知ってて言ってんの? この連中、全員島々の末裔じゃないの。私の力が及ばない」
「何?」ギニアスが目をむいた。
「じゃ何か? 我々はお前を直接捕らえにかかっていれば、事は済んだのか?」
「あんたうるさい!」
リアンは邪険にし、キリアはギニアスの疑問に答えた。嫌味付きで。
「そうだよ。あんた達はこのお転婆娘を押さえ付けて、ふん縛っておけばよかったんだ」
「く、くぅ……」
ギニアスは悔しがった。悔しがってある事に気が付いた。
「——魔法が効かないからおかしいおかしいと思っていたが、まさかお前西の大陸神の手の者か? 魔女などではなく」
魔女とは世界から力を引き出し行使する者、魔導師は神の力を借りる者だ。両者は、その存在も意味も違う。
「手の者もなにも」
キリアは吐き捨てるように言った。
「ご本人だよコレは」
「神に向かって『コレ』とは何だっ!」
リアンの灰色だった目の色がすぅっと赤く染まった。同時にキリアがいた場所が、ボン、と音を立てて爆ぜ、地に大穴が開いた。
「……今すぐ地に伏して謝れ」
「やだね」
「二度目はない。その体に大穴を開けたくないだろう?」
口調が変わっていた。
同時に、キリアとギニアスの周りの地が数カ所、爆ぜた。
——島々の末裔に力が及ばない? これで?
ギニアスは、地面に開いた穴を見つめた。
——直接は出来ないとしても、破片が当たったら無事では済まないだろう、これは?
「キリア、いや『神の力を授かりし者』よ。これ以上私を怒らせるな」
「言ったな……その言葉を」
キリアはギリッと奥歯を噛みしめ、軽くステップを踏み始めた。
「な、何が始まるのだ?」ギニアスは不安そうだ。
「あんた、危ないからそこにいない方がいいよ」
キリアが無茶な要求をした。そこでないどこかとはどこだ? ギニアスは例えようのない『何か』を感じ取った。ここにいたら危ない。いや危ないどころではない。命に関わる。そう直観した。
「我が主、西の大陸神。さっきの言葉を取り消せ」
「断る。そちらが謝罪するのが先だ」
「ご免被る」
「ならば——神の裁き、受けるがよい」
キリアの体が歪んで消えた。刹那、キリアがいた背後の地面が一直線に裂け、途中にあった木々も割けた。そして、轟音と共にそれらが爆発した。
「——な!」
ギニアスは一歩も動けなかった。破片が降って来る。ゴンと鈍い音がして、ギニアスは昏倒した。頭には大きな岩が乗っていた。
キリアは何体もの残像を残し、それらを器用に避けた。
「無駄だ。俺には通じない。知っているだろう? 俺の力を」
「知った事か」
リアンは両手を突き出した。暴風が吹き荒れ、先ほどの爆発で燃えていた木々の火が消えた。ギニアスはその辺の石ころと一緒に吹き飛んだ。
その中でも一際大きい岩が、キリアに向かって吹っ飛んで来た。岩はキリアをすり抜け、次いでキリアの姿が歪み、掻き消えた。キリアはいつの間にかリアンの背後にいた。
「速く動けば良いと言うものではない」
リアンは振り向きざまに右手を水平に薙いだ。
──キンッ。
涼やかな金属音がした。
キリアの残像と共に空間に亀裂が入り、その延長上にあった木々が音もなく切断され倒れた。鋭利な刃物で斬られたような切断面だった。
その瞬間、リアンの背面にキリアがいた。
「こちらからも行くぞ」
キリアは短剣を構えた。
「我が内なる刃よ」
短剣から光がほとばしり、長剣を象った。
キリアは一瞬で間合いを詰め、リアンの無防備な背中を上段から斬りつけた。だが。リアンの実体は既にそこにいない。斬りつけられたリアンの幻影は、音もなく掻き消えた。消える瞬間ニタリと笑みを浮かべて。
「ちっ」
キリアは意図を察しその場から飛び退った。リアンの幻影が消えるやいなや、地面が爆発した。踏み込んだ分跳躍のタイミングが遅れた。破片のいくつかが当たり、顔に軽い裂傷を負った。
この間、わずか数秒。
ついさっきまでギニアスを中心に動いていたリアンの家の周辺は、リアンとキリアの盛大な大げんかの場と化していた。
その時。リアンが怒りで我を忘れ神の力を行使した事で、森の中央にある大きな湖にある変化が起きていた。大地が爆ぜる度にさざ波が立ち、木々や岩が降り注ぐ。
——我ヲ起コス者は誰ダ
『ソレ』はかつて神々が創り出した、神々を倒すためのモノ。
——破壊シナケレバ
強大な力をもつ『ソレ』は目覚めの時を迎えた。リアンの暴走によって。




