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終話 リアンの退屈な日々

 その日はよく晴れていた。

 流れる雲が美味しそうな果物の形になり空を漂う。

 それをリアンは眺めつつ呆けていた。

「退屈だわねー」

 村から離れた森の中にある、古い屋敷と広い庭。庭は草木が整然と切り揃えられ、広い庭を散策出来る遊歩道が整備されている。

 遊歩道の脇にはハーブ類が植えられ、きちんと手入れされているのがうかがえる。

 風が舞い、くすんだ茶色の癖毛が退屈そうにひらひらと揺れていた。

 やがて雲を見飽きたリアンは立ち上がり、大きく伸びをした。

「こんなに退屈になるなら、キリアとアリシアを一緒に行かせるんじゃなかったなー」

 と。

 キッチンから爆音が聞こえた。

「……またアイツか」

 リアンは立ち上がり、面倒そうにキッチンに移動した。

「ギニアス、あんた魔法使えないんだから、下手にルーデシアスに貸した道具使わないでよねー」

「いや、これは陛下の命でだな」

 ギニアスは、冷や汗を浮かべながら必死に言い訳を考えていた。ギニアス・エニア。一連のゴーレム騒動に深く関わり、今はルーデシアスに事務処理能力を買われ、宮仕えの身だ。

「で、その用ってのは?」

「これだ」

 差し出されたのは一枚の書状。リアンはそれを斜め読みした。が、最後に書かれていた文字で目が止まった。

「ありゃりゃ。勢揃いってわけね」

「そうなるな」

「でも困ったな。今キリア達留守なのよ。先週の大雨で堤防が決壊したの知ってるでしょ?」

「ああ。その補修物資の手配をしたのは私だからな」

「……あんた、意外に有能だったのね?」

「意外とは失敬な。私は陛下にその才能を見いだされたのだよ」

 どうだ、と言わんばかりに胸を張るギニアスだった。


「おお、来たかリアン」

 ルーデシアスは杯を左手で持ちリアンを呼んだ。王宮の庭園。そこではささやかながらも披露宴が行われていた。

 集うのは関係者のみ。周辺各国には諸事情のため文書のみでの案内となる旨と、その非礼については事前に承諾をもらっていた。神様やら何やらが出席するのだ。『事情』を知らない人間がいては、せっかくの宴が台無しだ。

「しかし落ち着かんのう」

 リアンの住まう村の村長が、滅多に着る事のない一張羅で窮屈そうにしていた。

「こんな席、滅多に呼ばれないでしょ?」

 リアンが声をかけるが、村長は上の空だ。すっかりお上りさんな村長だった。

「おーいリアン!」

 ラーズがリアンに声をかけた。

「おお。そう言えばあんたの名前もあったわね」

「ひどいな。でも神様が二人も出席するなんて、なんと贅沢な」

「それにしても、よく手加減したわね。ギニアスの件」

「ああ……まぁあれは、命を奪うにしても……ここだけの話、足りなかったんだよ」

「え?」

「だけど魔力だけは無駄にあったからね。そっちを使わせてもらった」

「そう言う事だったのね……本人には内緒にしといた方がいいわね、この話」

「そうだねー」

 給仕の役を仰せつかったギニアスは、グラスをトレイに乗せ飲み物を配っていた。なぜか様になっていた。

 リアンはグラスを受け取り、ルーデシアスの元に歩み寄った。

「しっかしあんたがねー。あのハナタレ小僧がねー」

「あははっ。いい加減ハナタレは止めて欲しいね。一国の王に失礼では?」

「誰が誰に失礼なの?」

「いやいや。それよりキリア君は?」

「災害救助活動中。なーんかやたら張り切ってたし。まったく、ちょっと力が使えるからって一緒に行かなくてもいいのに」

 リアンはぶつぶつと文句を言い出した。

「ご機嫌斜めだね?」

「誰が?」

「……自覚なしかい」

 ルーデシアスはため息をついた。

 と。

 急に空が暗くなった。場内が俄に慌ただしくなり、衛兵が駆け込んで来た。

「何事だ」

「は。空をご覧下さい」

「何?」

「空でございます」

 衛兵は笑っていた。ルーデシアスが空を見上げると、キリアとアリシアを乗せたガーゴイルが旋回していた。

「何とか間に合ったー」

 着地するなりガーゴイルはその身を縮め、キリアの肩に乗った。そこが定位置らしい。何とも便利な神の遺産だった。

「ご苦労だったね、キリア君」

「いえ。思っていたより被害が少なかったのでよかったですよ」

「そうか。ところでアリシア君。その格好は……」

 アリシアは真っ白なドレスを着ていた。災害救助活動帰りとは思えない出で立ちだ。

「一旦村に寄ったら、これを着ろと」

「ああ……なるほど」

「わしが言っておいたのですよ。どうせろくな服もってないから、イリアの時のドレスを着せろと。それにしてもサイズが合ってよかったのう」

 村長が得意そうに口を挟んだ。

「うん。似合ってるじゃないか。なぁキリア君?」

 ルーデシアスはキリアの肩に手を回しながらそう言った。

「え? ええと。まぁそうですね」

 キリアは照れた。見るとアリシアも照れていた。それを見ていたリアンは、不機嫌そうに「まぁ今日くらいは大目に見るか……」とボヤいた。

「ところで、本命がいないけど?」

「ふふふん、知りたいかい?」

 ルーデシアスは、不敵な笑みを浮かべた。

「皆様お待たせしました」

 ギニアスが声を張った。一人で何役こなす気なのか、やたらと張り切っていた。

「エキシミューラ国キシミラ・オルラ・エキシミューラ女王、いやテューア王国王妃様のお成りでございます!」

 庭園の端から突如白い煙が上がり、キシミラが恥ずかしそうな笑みを浮かべて、その姿を現した。どうにも派手な演出だった。ルーデシアスもはにかみながら、がそれを迎えるように歩み寄る。

 ふと。

 リアンはルーデシアスが冠しているのが王冠ではない事に気が付いた。それは、かつて『神殺し』のサークレットと呼ばれた、前王ラルバルドの形見だった。


 かつて神々がいた時代。

 その時代は終焉を告げ、人間の時代が訪れた。

 人々は助け合い、時には諍い、あるいは寄り添い、世界を創っていく。

 それを見守る、かつての神々。

 何も与えず、何も求めず、ただ見守る。


 この世界は、今日も退屈なのかも知れない。

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