一話「第二の悲劇」
一話「第二の悲劇」
それは唐突に起こった。日本の首都東京を中心に首都圏を巻き込んで
大きな爆発が起きた。死者数千万人と言われる大惨事の原因は十年
経った今でも特定出来ていない。大惨事の傷跡は、復旧作業で消え
去った。だが、あの悲劇が人々に与えた衝撃は消えなかった。
「・・もう十年も経つのか・・あの騒ぎから」
「そう・・ですわね」
二人の男女が高層ビルの屋上から街を見下ろしていた。東京という
大都会の街を。彼らがいう騒ぎというのは十年前、原因不明に発生した
大爆発。
「それで?彼らの動きは?」
「今の所、ありません」
男はため息をつく。彼らはある組織の動きを監視していた。『異邦人』
とだけ呼ばれる謎の組織。あの大惨事に深く関わっているともされてい
て、現在日本政府が総力を挙げて壊滅させようとしている。彼ら二人も
政府に雇われている者だ。
「・・老人達からの指示は?」
「アジトに攻め入る準備が出来た。・・部隊に合流しろとのことです」
「・・なら行くか・・」
この二人はまだ知らなかった。この作戦が、また新たな悲劇を生む事を。
異邦人のアジトは都内から少し離れた場所にあった。あの悲劇から十年。
都内の大半は復旧されたが、都内から少し離れた地域ではまだ復旧され
ていない地域もある。異邦人のアジトも瓦礫の山が散乱する中にあった。
古い建物だ。今に崩れてもおかしくないくらいの。そこに数十人の完全
武装した男達が集まっていた。すぐそばには戦車もあった。
「・・包囲完了しました」
「・・ご苦労。・・三十分後に攻撃を開始する」
建物の周囲は完全に包囲されていた。その中にあの屋上にいた二人も
混じっていた。
「攻撃は三十分後だそうです」
「・・何も起こらなければいいが・・」
異邦人のアジトは何の動きもなかった。これだけ人が集まっている
のだ。気づかぬはずがない。それとも最初から空なのだろうか。
その時、二人がいた場所と反対側で爆発が起きた。
「何だ?今のはっ」
混乱が生じる。包囲していた部隊は建物に向かい一斉に攻撃した。
銃弾が飛んでいく。後方で待機していた戦車も動く。建物の中から
何者かが出てくる。
「・・散れ」
突如爆発が起きた。戦闘は一瞬で終わった。異邦人のアジトから出て
きた何者かの攻撃で、部隊は壊滅した。圧倒的なんていうものではな
かった。やられていった者達は何が起きたかを理解していなかった。
誰かの声が聞えたかと思えば、突然爆発が起き、一瞬にして全員が死んだ。
「・・終わったか」
「ああ。・・情報を売ったのはあいつだろうな・・」
そのころ、東京の別の場所では異邦人のアジト襲撃作戦の失敗が報告され
ていた。
「失敗か・・・やはり、正規の部隊では勝てないか」
「・・あの者も動くでしょうか?」
日本政府にはある協力者が存在していた。かつて異本人に所属していた
一人の男。理由は分からないが、たった一人異邦人を抜け彼らに対し挑
発行為を繰り返してきた男が今は日本政府に協力している。異邦人の人
間を全て殺すためだけに。部下の質問に男は答えた。
「さあな・・。あの者が味方だという証拠も今はない。念のため監視は続けろ」
「はい」
部下が返事をしたその時、電話が鳴り響いた。男は電話をとる。電話を
かけてきたのは同僚であった。だが、かなり慌てている。
「何があった?」
「・・やられたよ。・・見失った」
「何?」
男は思わず立ち上がる。異邦人の情報をこちらに提供した男。名前すら分
からぬ謎の人物。ここ二、三日彼らは常にその人物を監視していた。
だが、その監視役が見失ったというのだ。その人物はまだ味方だと決まった
わけではない。もしその者が敵なら大変な事になるかもしれない。
「急いで捜せ。何かが起こる前に」
「分かってる。そちらからも数人派遣してくれ」
「分かった。本部にも要請しよう」
ただでさえ、作戦が失敗し動揺が生じているのだ。これ以上不安材料を増
やすわけにはいかない。何としてでも彼を見つけ出さねばなるまい。だが
どこにいるかも分からないし国内にいるかどうかすら不明だ。
「・・お前も捜索に加われ」
「はい」
まだ彼らは想像もしていなかった。この後、日本がいや、世界が震撼する
ような事件が立て続けに勃発する事を。世界が音を立てて崩れ始めようと
することを・・