第2話 数ヶ月ぶりの来訪者
ウィルリーはいつもの畑仕事をしながら思う。
ここ最近はお日様の強い日が続いていたが、今日はとりわけ強い日々だと。
目に入りそうになった汗を腕で拭き取り、汗で水気を含んだ金色の前髪をかきあげる。
しかし、その行いは大した意味を成さない。
汗はとめどなく流れ続け、髪は徐々に垂れ下がってくる。
「はあ....はあ....。前髪、くくらないと仕事も碌にできやないや....」
「髪留めも取りに行きたいし、少し休憩しよっと....」
ウィルリーはそう言って、自分の住む家から少し離れた畑を後にした。
「やっと着いたよ....。」
距離にすると50mくらいであっても、炎天下では1kmのようにも感じられる。
目の前の木造の建物が自分の家だと確認すると、ウィルリーは扉を開けた。
「この辺に、私の家以外の建物はないんだけどね。念の為、念の為っと....」
扉を開けると、中は家族で住むことを意識したやや広めの空間が広がっている。
皮肉にも、今となってはここに住む人間はウィルリーただ一人となってしまったのだが。
「さあ、まずはご飯にしよっと。腹が減っては戦はできぬ!」
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ご飯を食べ終え、髪留めを取りに行く頃にはウィルリーの前髪はすっかり乾いていた。
「パサパサするの、気持ち悪いね」
手に取ったのは、物心のついた時から使っている簡素な作りの髪留めだ。
数少ない、家族との繋がりを感じられる物の一つだ。
前髪を留めようとしたその時、何人かの話し声が聞こえた。
以前に自分以外の声を聞いたのは、何ヶ月も前のことだった。
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「あっれー?こんな所に人が住んでんのー?」
自分と同年代、もしくはそれより下と思われる幼さの残る声だ。
「ハッ、どうせジジイかババアしかいねーヨ」
荒々しい口調と、さっきの人とは正反対の低い声。面と向かって会話は出来そうにない。
「そんな言い方はないだろう、ご老人は苦労を重ねて生きてきた人生の先輩だぞ」
驚くほどに、その声は澄みわたっていた。その声で万物を浄化できる、冗談抜きでそんな風に思えた。
「アァ?俺らはジジイ共に興味はねーノ。分かってんだロ?」
「確かにそうだけど....。とりあえず訪ねてみようぜ?」
もっと、声が聴きたい。顔を見たい。一刻も早く---。
会いたくなった。