第1話 農家系少女、ウィルリー
農家の朝は5時から始まる。
花壇の花々に水をやることで一日の始まりを実感し、田圃の泥を洗うことで一日の終わりを体感する。
一日たりとも、その日常が変わることはない。
そんな無常を嘆きながら、ウィルリー•ハイレルトは水遣りを終えようとしていた。
「家族もいない、友達もいない。話し相手は貴方たちだけよ。」
少女がどんなに懸命に話しかけても、花が応えることは決して有り得ないのだ。
「農家ってしんどいのに収入は全然だし、やることは決まっていてつまらないのよ。私だって、貴族の方々のようにオシャレをして、おめかしをして、楽しいお茶会をしたかったよ....」
「私、このまま一生農家としてやっていくのかな。満足なんてできやしない、ギリギリの生活を送り続けるのかな。」
「そんなの....ヤダよ....」
彼女の気持ちに同調するように、花から水滴が零れ落ちる。
「でも、きっと希望はあるよね。いつか、人生は変わるよね。」
彼女は知らない。かつての偉人たちは、人生が変わったのではなく、人生を変えるために彼ら自身が変わったのだということを。
だから、彼女は日常を受け入れることしかできない。
「ふう、今日も頑張ろうね。お花さん!」
健気な少女は、花壇の方を向いて微笑みかける。
そして、朝日は昇る---。