弾丸猪
ーーアタラクシア王国を抜けた草原にてーー
「ここまできたら大丈夫か?《策敵》」
自分を中心とした半径10キロの球内部の情報が一気に頭の中に入ってきた。生命反応は複数個あったが王国騎士のではないとわかったため放置する。別に現段階で王国を崩壊させることもできるのだが、今それをするとクラスメイトに被害が及ぶ可能性があるので後回しにする。
「ひとまずは大丈夫そうだな…とりあえず魔王城に戻って戦争の準備をしないと。っとその前に……」
しばらく歩くと森に入った。足となる動物を捕獲するためというのが目標であるが、策敵のときに今にも消えそうな弱い生命反応を感じとったため様子見として足を運んだ。すると
「や、やめて……!!」
全長2mはある大きな猪のような魔物に襲われている姉弟がいた。
「なるほど、弾丸猪か。しかしなんでこんなところに……」
弾丸猪は弾丸のような速さで突進し、鋼鉄の盾をも貫通する強力な魔物だ。冒険者ギルドにおいてCランク相当という討伐に完全武装の兵士10人以上が必要とされる強さである。だが問題はなぜその魔物がこんなところにいるのか、ということだ。本来弾丸猪はこんな王国付近の森にではなくもっと奥地の草原に生息する。人里に降りてくるということはないこともないが、森に現れるというのは異例中の異例である。
「まぁ、どうでもいいけど……立てる?」
姉弟はコクリとうなずくとよろよろとしながらもやっとのことで立ち上がった。
「んじゃその辺に隠れてて。危ないから。」
そういうと二人はいそいそと離れていった。
「さて猪さん、ボタン鍋の具になりたくなかったらさっさと帰れ。」
しかし弾丸猪は雄叫びをあげ、戦闘体勢に入った。後ろ足で地面を3回蹴り上げ、恐ろしい速度で突進をしてきた。その速きことまさに弾丸の如し。
「遅い!!」
逢坂龍馬は突進してきた1tの魔物を片手で止めるとそのまま持ち上げた。弾丸猪の足はむなしく空を切るばかりだった。
「まぁこいつでいっか!汝我が僕となれ《従属》」
弾丸猪はもがくのをやめ、地面に下ろされた。
「ふぅ……これで足はできたな。今日からよろしくな弾丸猪、ボア丸!!」
「ボウ!!」
魔王たる逢坂龍馬は魔物との間にパスを繋ぐことができる。それにより魔物と意思疎通したり従属させたり強化させたりいろいろすることができるのだ。
「あ、あのぉ……」
先ほどの姉がボソボソと尋ねてきた。
「おう、もう大丈夫だぞ。んであんたらどっから来たんだ?」
「はっ!そうです旅のお方様、頼みがあります……この先の村に魔物が大量に攻めてきて村のみんなが…お父さんが……」
そこで泣き出す彼女。最期まで聞いてはいないが逢坂龍馬はすべてを察したらしく
「その村に行くか。ボア丸、急いで駆けつけてくれ!んであんたらは道案内を頼む!!」
「ボウ!!」
ーー王の間にてーー
「お父様、申し訳ありません。私の不手際で異世界人を一人逃してしまいました……」
「なんじゃと!!エリザベス、貴様は勇者の強さを知らぬわけではないな!!彼者らは一人一人が一国を滅ぼす力を持っているのじゃぞ!!」
「本当に申し訳ございません!!」
「陛下、落ち着いてくださいませ。今回の勇者召喚ではざっと40名ほどの異世界人を召喚することに成功したんですぞ。そのうちの一人なんて些細なものでございますよ。」
「うるさい!!そいつが違う国に雇われたらどうするんだ!!」
「お父様、そのことに関しては大丈夫でございます!」
「なぜそういいきれるんだエリザベス!?」
「そのものの魔水晶は真っ黒でございました。魔法の才能はまったく持ってないに等しいです。他の才能に長けていたとしても戦闘の才能がないのであれば、今頃その辺の魔物に襲われて即死しているころでしょう。さらにこの世界の地理に疎いのであれば他の国にたどり着くことは不可能でございます。」
「なるほど……うしなった戦力は才無しという訳か…ならよいわ。それで勇者のものどもに隷属の首輪は嵌めたのか?」
「はい!そちらの方は抜かりなく完了いたしました!」
「ふむ、まぁそれで先の失態はチャラにしてやろう!」
「ありがたきお言葉!!」
「さて来る戦争に備えて勇者共を鍛えておけ!!」
「ハッ!!!」
この時は誰も知るすべを持たなかった。逃がした才無しが実は一国どころか世界を丸々滅ぼす能力があることを、そしてその人物が元魔王であるということを……
とりあえずがんばりました!
感想等心からお待ちしております!!