帝国
目が覚めるとなにやら高級そうなつくりの部屋にいた。全員が魔水晶のついた首輪をはめられている。何が起こったのか疑問に思うもの、恐怖に震え上がるもの、ママーと泣き叫ぶとんがりヘアーのアイツ、緊急事態にやたらとかっこよくなるゴリラなどさまざまなものがいるが、みな共通して事態を飲み込めずにいた。
「はじめまして異世界人の皆様方。私はこのアタラクシア帝国の王女、エリザベスでございます。この度は我々の召喚に応じていただき、誠に感謝しております。皆様には魔水晶をはめた首輪をしていただいております。いろいろ疑問をお持ちとは思いますが、まずはその首輪にはめられた魔水晶の色をご確認ください。」
召喚主に勧められるがまま、クラスメイトたちは首輪の水晶を確認した。実は俺はこのマジックアイテム魔水晶の効果を知っている。魔力量を色で判断するものだ。魔力が多ければ多いほど白色に近い色に変わる。現に神崎や藤崎、立花など数名の魔水晶の色は限りなく白色に近い。これは相当な魔力量を保持しているという証拠だ。一方、俺の魔水晶は飲み込まれそうなほど黒い色をしていた。
「そこの貴方、魔水晶が黒色なのですが……魔力はないのでしょうか?」
確かに俺の魔水晶は黒い。が、魔水晶が黒色を示す時というのは二つの可能性がある。ひとつは王女の言ったとおり魔力がないということだ。そしてもう一つの可能性は魔力を測れないということである。これは魔力量が莫大すぎて秤が振り切れてしまい魔水晶の効果を失うという現象なのだが、その最低量というのがとてつもなく大きく、王女がその可能性を端から取り除いているというのも納得できる。
「俺は魔王だからこの程度のマジックアイテムで測りきれる魔力量じゃねぇんだよ」
「は、はぁ……」
なにいってんだこいつ?という顔で王女が眺めてきた。
「こら逢坂!何言ってんのよ!!王女様、こいつの言うことは適当に流してください。たぶん魔力がないんでしょうから。」
だから違うんだってと反論したいところだがこいつに何言っても流されるだけなのでやめておく。
「さて魔力量も確認できたので本題に入らせてもらいたいと思います。皆様には突然で申し訳ないのですが"勇者"になっていただきます。そしてこの国に蔓延る魔物を根こそぎ絶やしてほしいと思っております。」
勇者という二文字をきいた瞬間、脳裏にあの光景が蘇った。
「ゆ、ゆ、ゆ、勇者がいるような部屋にいられるか!!悪いが俺は魔王城に帰らせてもらう!!」
そういい残し俺は召喚の間を後にした。
ーー藤崎sideーー
「な、なんなんですのあのお方は!!」
「お、落ち着いてください。龍馬は、彼はまぁ…あぁいうやつなんです。放っておいたらそのうち寂しくなって戻ってくると思いますから。ところでさっきおっしゃったことを詳しくお話ください」
「えぇすみません。少し取り乱しました……近頃魔物とよばれる生物の活動が活発になり、この世界のものでは太刀打ちできないようになって来ました……そこで我々は異世界から異能を授かりし異世界人を召喚するという対策に講じました。ひとまずあなた方には勇者として訓練を受けてもらいます。」
「拒否権は?」
「一応ございますが、それを行使した場合は元の世界に帰る手段を失うことと同義ですので、ご使用の際はじっくり考慮願います。」
「なるほど……身の保障はしてくれますでしょうか?」
「それこそ最上級のおもてなしをお約束します。」
「独断では判断しかねるので、少し全員の考えをまとめる時間をください。」
「ごゆっくりどうぞ」
まいったな……おそらくこの王女は俺たちを勇者として戦争の駒にする気満々だ。俺たちがここでイエスというしかないという確信を持ってる。なかなかにして厄介な交渉相手だな。最低限の譲歩をさせるか。
その後、クラス内会議が開かれ、数々の条件の下、勇者として国に使えることを承諾した。その条件とは、
1.身体の自由はいついかなる場合においても最優先に確保されること。
2.戦争に赴くのはその意志があり、かつ魔物と同等以上に闘えるもののみとし、またもっとも安全な役割として用いること。
3.最上級の生活を保障すること。
4.週休は2日以上とすること。
5.一人につき最低2人、護衛兼世話係をつけること。
その他にもいくつかあるが、最低限守られるべきとして上5つを述べた。そしてこれを以って勇者条約が成立した。
しかしこの時点で勇者は全員詰んでいたことをまだ知る余地もなかった。
あまり納得できるところまでいけなかったのでとりあえず後1話投稿したいです……
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