プロローグ
「ハァ…ハァ……」
青銅色に飾られた鎧を纏う青年は息を荒げる。
「なんだもう限界か?俺を殺すと大口を叩いてた割には大したことないな。すぐ仲間のところに送ってやろう!!」
漆黒のローブに包まれた魔人はほくそ笑む。
「クソ!魔王の分際で調子に乗るな!!《覇斬》!」
青年が握り締めた聖剣を振るうと同時に不可視の剣閃が魔王を襲う。衝撃波と砂煙であたり一面真っ白に染まり、また轟音により聴覚も奪われる。勇者は魔王を確実にしとめたと確信した。
だが……
「実にくだらない。この程度で勇者を名乗るとは片腹が痛い。」
などと強がっている魔王だが、覇斬をもろに食らって実際に片腹に大ダメージを受けていたのは内緒である。
「仕方がない……魔王ごときに使うのは尺だが、奥の手を使ってやる!《勇者覚醒》!!」
勇者から膨大な金色の魔力があふれ出す。そしてそれらが流動的に聖剣を包み込み、巨大な剣を形作った。
「それでこそ勇者だ……《世界否定》!」
魔王の頭上に巨大な質量の黒玉が発生した。ほぼ無限に等しい質量により絶大な万有引力が生じる。すべてを飲み込まんとゆっくりと肥大化していく。魔王が持つ最大の魔法のひとつだ。
「「ウオォォォオォオォ!!!!」」
ぶつかり合う金と黒の魔力が混ざり合う。最初は両者互角であるかのように見えた。しかし徐々に勇者が優勢になり始め、最終的に勝利の女神は青年に微笑んだ。
左肩から右腰にかけてきれいに一文字に裂けた魔王。せめて最期に一矢報いようとする。
「ハ、ハハハハハッハハハ!!!!残念だったな勇者!!俺を殺したところで第二第三の魔王が現れて貴様を殺しにいく!!せいぜい首を洗って待ってるがいい!!」
そして皮肉にも、自分の発現した《世界否定》により発生した引力に魔王は飲み込まれていった。