4話
【集中】
様々な事を集中して行える。
「説明これだけかよ!!」
スキルの説明を見てみるとたった1文、それだけが書かれていた。
「説明が説明の意味を成してない…。」
とても残念感あふれる説明書きのインパクトが強すぎて、強そうなスキルのイメージがもてない。
「まぁ、完全ランダムだししょうがないわな。」
そう一人嘆きつつメニュー画面を消す。
さて、気を取り直して今からどうするかな。
実はまだこのALOで何がしたいのかはっきり考えてなかったのだ。
いや、考えてなかったわけではないのだが、やってみたいことがあれこれあって絞り切れていないのだ。
「戦闘メインでなくても経験は必要だし、魔法も使ってみたいし、自分で作った装備品で冒険するのもロマンだしな~。 …ランダムでどれか手に入れば悩まなくても済んだのに…チェ。」
そんなことを考えつつ、とりあえず町を歩いてみる。
ナビさんにも教えてもらったが、この最初の町には初心者用施設がたくさんある。例えば道場。いくら剣術スキルを持っていても、素人さんでは最弱の魔物と戦闘するのも勇気がいるし、スキルの補助があったとしてもいきなり達人級に剣が扱えるわけではない。そんなプレーヤーの為の練習場が道場である。各武器の使い方や戦闘のコツなどを教えてもらえる。他にも魔法を教えてもらえる魔法研究所や、各生産スキルを学べる場所等があり、それらをまとめているのが通称初心者の館だ。そこでは先に述べた各場所を教えてくれたり、まず何をしたらいいか分からないという初心者さんに色々な事を教えてくれたりする。まさに初心者の為の施設である。
ちなみに、この初心者の館には何人かの運営スタッフが常駐しており、有事の際に対応してくれるらしい。
俺は、とりあえず何かアドバイスでももらえればと思い、初心者の館を目指して歩く。
「お、ちょっとちょっと、そこの兄ちゃん!」
「ん?俺?」
途中、武器屋らしき店の店員から声を掛けられる。
「そうそう、あんただよ。兄ちゃんアースからの冒険者だろ?それもこっちに来たばっかりの。」
アースとは現実世界を指すもので、プレーヤーはアースと言う異世界から冒険に来ているという設定らしい。
「はい、そうですが…、何で俺がこっちに来たばっかりだと?」
「ん?そうか、知らないのか。こっちでは今日アースの人間がアローへやってくるって大分前から知らせがあったからな。だから今日に合わせてみんなしっかりと準備して待ってたってわけだ。」
なるほど、事前にこっちの世界の人達には説明が言ってたんだな。まぁ、そうでなければいきなり人口が増えるわけだから物流とか色々問題になるだろうしな。
「というわけで、うちの店で何か見ていってくれよ。これから何するにしても武器の一つは必要だろう?うちの武器は初心者さんにも使いやすいし、値段も手頃だぜ?」
武器屋の店員 (おっちゃん)にそう言われて考える。確かに武器の一つぐらい先に買っておいた方がいいかもしれない。
ちなみに今の自分の装備・ステータスはこんな感じ
プレイヤー名 レイン
ステータス
力 10
体力 10
素早さ 10
器用さ 10
魔力 10
賢さ 10
精神力 10
運 10
装備
布製の服
布製のズボン
古びた靴
マジックポーチ
剥ぎ取り用ナイフ
お金
1000Gold
プレーヤー名は自分の名前で、ステータスはそれぞれの能力値を指している。
力は力強さ。数値が上がればリアルと同じく重たいものをもったりできるし、物理的な攻撃力も上がる。
体力は名前の通り。又、物理的な防御力にも関わる。
素早さは動きの速さ、足の速さ等。数値が上がれば、「フッ、それは残像だ。」的な事もできるらしい。
器用さは主に生産や細かい操作に関係する。弓やナイフ等を扱うもこの数値が関わる。
魔力は魔法に関する事全般に関わる。攻撃魔法の威力や魔法に対する抵抗力等もこれ。
賢さは頭の良さ、気づきやすさ。難しい本を読めたり、仕掛けに気づきやすくなったりする。又、魔法の威力にも多少関係する。
精神力は主に状態異常への耐性。又、魔法に対する抵抗力にも多少関係する。
運は様々なことに関わる。特にドロップ品やランダムアイテムなどで良いものが出やすくなる。
装備品は、初期装備の布製の服にズボン。異世界から旅をしてきたという設定の為か古びた靴。
マジックポーチは中にいろんなアイテムを出し入れることができる所謂アイテムボックス。但し制限があり、サイズは1メートル以内の物でなければ入らない。又個数にも制限があり、最初期では種類数が10、各個数が10までしか入らない。
具体的に言うなら、アイテムAが10、Bが10、C、D、E、F、G、H、I、Jが10のごうけい100が限界量となる。
これはwikiの情報によると、クエストで限界量を少し増やすこともできるし、もっと沢山大きなものが入る【マジックバック】や、ポーチより入る量は少ないがアイテムの取り出しがより簡単な【マジックポケット】等を手に入れることができるらしい。ちなみにこの各アイテム、中は時間が止まるということはなく、熱い料理などを入れておくと徐々に冷めていくし、素材なども物によっては劣化していく。但し、ログアウト時は時間が流れない仕様になってるらしい。
ちなみにお金は上記各アイテムどれに入れることもできるが、他のアイテムとは別枠でお金用スペースがある為どれにでもいくらでも入る。
剥ぎ取り用ナイフは戦闘で倒した魔物に突き刺すことで素材 (ドロップ品)を手に入れることができる。ちなみに剥ぎ取り用ナイフはあくまで"剥ぎ取り用"なので剥ぎ取り以外 (戦闘や他の用途)に使用することはできない。
マジックポーチと剥ぎ取り用ナイフはそれぞれ個人の専用品で、本人しか使用できず他人が盗むこともできない。
お金の単位はGold (G)となっている。プレイヤーはみんな一番最初に1000Gを持っておりそれで準備を整える。
ちなみにβ版のプレイヤーは初期Goldが多かったりと特典があるらしい。
話はそれたが、せっかくなんで買う買わないは別として店の中を見せてもらうことにした。
店の中には所狭しと色々な武器が並んでいた。
剣・槍・斧・ハンマー・弓・杖・爪・鞭・鎌・銃などなど…、中には武器なのか怪しい花瓶や楽器などもあった。聞いてみると、楽器は演奏することによって支援系の効果をアップさせるなど特殊な効果があるそう。花瓶はそう見えるだけの鈍器で、中は空洞ではなく飾りで花が刺さってるだけだった。又銃は他の武器と同じく、強さは使用者の能力に依る為、誰でも簡単に高火力!というものではないらしい。
しばらく店の中を物色することにした。
男の子だもん、こんなの見たらテンションが天井知らずになっちゃうよね!
「………ちゃん、おい、兄ちゃん!」
「…ハッ!?」
「おいおい、大丈夫か?大分集中して見てくれてたみたいだが…、もうだいぶ時間たっちまってるぜ?」
おっちゃんに話しかけられて我に返る。どうやら見るのに夢中になりすぎていたらしい。
メニューの時間を見てみると、店に入ってから一時間近く経っていた。
「それだけ悩んでも決まらないなら、一旦時間をおいて考えてみた方が良いのが選べるかもしれないな。」
どうやらおっちゃんは俺がどの武器を使おうか悩んでいたと捉えてくれたみたいだ。
「そうですね、じゃあゆっくり考えてまた今度来させてもらいます。」
「おう、待ってるぜ。…お、そうだ、ちょっと待て。あれだけ熱心にうちの武器を見ていってくれたんだ。こいつを持っていけ。サービスだ。」
そういって渡されたのは多少使い込んだ感のあるナイフだった。
「何を自分の獲物にするにしても、予備でナイフ一本持っておけば色んなことに使えるし便利だぜ。それにそのナイフはどうせ処分品だったからな。持って行っていいぜ。」
おっちゃんマジいい人や~!惚れてまうやろ~!!
…いや、流石にそこまではないか。
有り難くナイフを頂戴し、必ずまた武器を買いに来ると約束し、俺は再び初心者の館へ向けて足を進めた。