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3.別れ


 下の現場が騒々しくなった。魔獣達が騒いでいる。


 ポヨンと音を立て、天井からスライムが降ってきた。


『道案内はできたのか?』

『案内は1号がしている。ワタシは2号だ』

『なるほど。便利だな』

 理屈からいけば、複数の代理人を操っても不思議はない。


『それよりも、出たようだぞ』

『ジズか?』

『ああ』


 穴を掘っていた触手の動きが繊細なものとなった。

 それでも早送りのような速度でジズの胴体が露わとなっていく。


 現れたそれは、横に長い立方体だった。いや、もっと複雑なのだが、第一印象がそれだった。

 嘴と頭部がメタリックな薄青だったが、胴体の方はメタリックな朱色をしている。


『忘れていたが、もう一匹余計なのが出てきた』

 スライムの視線を追おうと、ミノタウロスが仁王立ちしていた。両手に握るのは、巨大なバトルアックス。


 触手ノ王配下の屈強な魔獣が束になってかかったが、戦斧の一振りで肉片となって飛び散った。


『おいおい、あいつらは迷宮採掘の主戦力だった連中だぞ』

 スライムが泡でできた目を見開いていた。


 次に巨人系が挑んだが、これも一撃で倒された。


「なかなかの強敵だな。果たして俺で斬れるか?」

 ヴァシリスは、顎を撫で、10回層下の魔獣を見下ろした。


 ミノタウロスは、怒りに燃える真っ赤な目をして、こっちを睨んでいる。鼻息も荒い。もっともこれほどコケにされ、怒らない方がどうかしている。

 どういう理屈か解らないが、迷宮探索事務所の位置が解るのだろう。


「まかせろ!」

 ビィーが窓から飛び降りた。


「あ、おい待て!」

 ヴァシリスが止めるのも聞かず、一直線に斜面を下っていく。三剣士も後を追う。


「危ねえっ!」

 思わずレヴァンの口から悲鳴が飛び出した。


 ビィーが迷宮の穴に体を踊らせたのだ。


 手足を伸ばし、落下速度と位置を調整する。

 ズシンと腹に響く音がした。

 10階層を一気に落下し、地底だった所に着地したのだ。


 凹面鏡状の窪みの中央でビィーが立っている。


「平気な顔してるけど、私達だったら死んでるよね? あれ」

 縦穴の縁から覗き込んだディノスがあきれていた。


『重力を調整したか? テレパシーといい、戦闘力といい、能力だけは準魔族クラスだな』

 スライムはあきれて見ていた。


「ミノタウロスよ。戦う為だけに作られた哀れな魔物よ」

 ビィーは、腰の刀を二本とも抜いた。


 対峙するミノタウロスは身長3メートル、その背に見合う横幅の広さと厚み。体重を支えるだけではなく素早く動ける筋肉量を持った足。


「戦いを想い、永劫の時を待ち続けた哀れなロボットよ」

 ビィーは刀を握ったまま、おいでおいでをした。


「今ここで終わりにしてあげよう」 


 ミノタウロスが大きく口を開けた。

「ブモオォオオッ!」

 叫び声を上げる口から涎を垂らしながら、巨大なバトルアックスを振り上げる。


”メイン起動。出力20%まで上昇。スタンフィスト出力最大。デバイスにフィールド形成”


 ビィーの双刀から電光が迸る。

 ミノタウロスが、全身を使ってバトルアックスを振り下ろした。


 渾身の一撃!


 それをビィーは左の刀で受けた。

 接点より、野太い雷光がこぼれ落ちる。


「ミノタウロスの攻撃をまともに受けちゃ駄目だ。押し負けるぞ」

 レヴァンが下に降りる回廊を使って、ビィーの元へ走り出した。

 他の二人もその後に続く。


『押し負ける事はないだろうさ。その前に決着が付く』

 スライムは、慌てない。


 ミノタウロスの顔が引きつる。

 高圧電流により、筋肉が動かないのだ。


「スタン・ブレイカー」

 ビィーの右腕が振られた。刀がミノタウロスのわき腹に吸い込まれる。


 ボッ!


 ミノタウロスの体に含まれている水分が、零フラットで蒸発した。膨張した水分が発した衝撃波により、その体は骨すらも残らず消し飛んだ。


『なにせビィーは、ワタシの触手を砕く破壊力を持っているのだからな!』

 スライムはドヤ顔で階下を覗き込んでいた。






「ジズ2号機」

 ビィーは赤い機体を見上げていた。八本の細い脚で支えられていた。


 現代からやってきたビィーの知識に因ると、ジズは紛う事なきメカ。


 ……なのだが……。


 繋ぎ目が無い表面。異様に小さい翼面積の翼が申し訳程度に付いている。こんなので空を飛ぶとは思えない。


「これがジズか?」

 いつの間に来たのか、ヴァシリスも見上げている。


「足、早いな」

 レヴァンとディノスも追いついた


 ビィーの真横に、ふわりとスライムが着地した。

『さて、破壊するか』


『いや、破壊はもう少し後だ』

『なんだと?』

 スライムがビィーに敵意を見せた。裏切られた感が満ちあふれている。


 ビィーは少しも怯んでいない。平然とした顔のまま、ジズ2号機を背にした。 

 彼女は、聞けとばかりに、話し言葉を共通語に変えた。


「人類は、ジズが伝説上の生物なのか、空想の産物なのか、決めかねている。あやふやな状態なのだ。ここでジズを破壊したとしたら、ジズが生きたままの物語で受け継がれていく――」


 目は、スライムを見据えたままだ。

 ビィーが人間の言葉に切り替えたのは、ここにいる人間に対応してのものだ。


「――旧神は、ジズを含む三大魔獣の温存を望んでいる。魔獣のいずれかが復活すれば、旧神も何らかの形で、これに呼応、復活も予想される。復活すればどうなるか? 一時は人類の支配下に納まっているだろう。ここでの問題点は、民間伝承と違い、ジズが旧神の支配下に置かれている事である。それすなわち、旧神の意思によりジズの支配権が人類より奪われ、破壊の力は人類に向けられる。それ即ち、人類存亡の危機――」


 ビィーの目は、スライムから人間である三剣士へと向けられていく。

 

「――これらの観点から、ジズの破壊は必須事項。もう一度言う。人類が知らぬ闇の中で破壊してしまうのは愚策である。人類ではジズを使いこなせぬ事を明確に提示せねばならない――」


 スライムではなく、人間に対して説明をしている。

 しかし、その言葉は触手ノ王に向けられたものだ。

 カムイは理解していた。ビィーがこれからやろうとしてる事を。それは魔族の考えと価値観に等しい。


「――さもなくば、『監視者』の目が及ばぬ所で、人類の一派が、ベヒモスとリヴァイアサンを復活させてしまう可能性が極めて高い。事実、コア帝国の皇帝がジズの一部を掘り当てた。三大魔獣の復活は、この世界の存在に関して危険であることを意味する――」


 ビィーが腰に下げた袋の紐をほどきだした。


「――人前で破壊してこそジズの死が喧伝できる。大勢の人間がジズの存在を共通で認識し、しかる後、ジズの死を認識する。その儀式が必要なのだ」


 袋から取り出したのは、卵大の青いオニキス。

 外気に触れたオニキスは青く輝き出す。


 唸りは、ビィーの背後から聞こえてきた。

 青いオニキスは、ジズの起動キー。これはビィーが皇帝アイアコスより託された物だった。


「なあ、ビィー……」

 間抜けな声を出したのはレヴァンである。


「あんたの話を聞いてっと、……ジズってのは誰でも操れる代物に思えるんだが?」

「その通りだ。貴様、頭良いな?」

「いやー、それほどでも」

 ビィーに褒められ、レヴァンは照れている。


「俺も、そんなふうに理解した」

 ヴァシリスが会話に入って来た。


「2つめのジズが目覚めたら、コア帝国の皇帝が戦争に使うんじゃないのか? ジズは、山を砕く雷を何本も放てるのだろう?」 

 道中、三剣士はフレイ達から事情を聞いている。


「……いずれ旧神に乗っ取られるのにな」

 ぼそりと呟いたのはディノスだった。


 三剣士は互いの顔を見合っていた。


 ビィーは、ジズの表面を盛んに調べていた。

 目的の箇所を見つけたようだ。

「ジズ2号機、ゲートオープン!」

 腹の一部が四角く割れ、タラップとなって下に降りてきた。


『触手ノ王よ、世話になった、またいつか会おう』

 テレパシーで話しかける。


 ビィーは、双剣のうち1本をスライムに放り投げた。

『協力してくれた礼だ』

 それをスライムが受け止めた。


『もう一つこれを……』

 宝石が散りばめられた短剣だ。


『フレイに渡してくれ。世話になったあいつへの餞別だ』

『ビィー。チミには「白面鬼」の称号を贈ろう』

 カムイの代理人であるスライムが別れを告げた。

『断る』

『……』

『嫌だ』

『ビィー。チミには「白面の美少女」の称号を贈ろう』

 カムイの代理人であるスライムが別れを告げた。

『有り難く頂戴しよう』


 ビィーは手を振って、ジズの中へと消えていった。


 



次話「ジズ発進」


ご期待ください。

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