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1.魔族

 白紙委任の森。触手ノ王カムイの本拠地にして本体。


 その中央部に位置する鳥籠ドームの中腹に建つログハウス。

 ナイトが見守る中で対峙するビィーとカムイ……の代理人たるスライム。


「阻止されるにしろ、阻止をするその理由を教えねばなるまい?」

 スライムが胸を張った。


「聞こうか」

 ビィーが椅子に座った。その体重で椅子が悲鳴を上げる。


「物事には順序がある。まず、ビィー君、チミはこの世界の人類をどう見る?」


 ビィーはいろんな事を思い出していた。

 フレイの事。町での出来事。国家間の戦争の事。そして皇帝の事。


 導き出した結論はこうだ。

「幼いな」


 スライムは頷いた。

「そう、幼い。目を離すと……危ない事をして、すぐ怪我をする。……話を戻そう」

 目を表現しているであろう、2つの泡が上下する。


「魔族という存在がある。それは言葉を操り、知性を持ち、なおかつ、とある特性を持った魔獣の事だ。チミも出会っただろう? 言葉を使う魔族、魔王アンラ・マンユに?」


「出会った。そして、今のあなたの話から、魔王とカムイが何らかの高速通信手段を持っている事が判明した」

 ビィーが話の腰を折った。

 スライムは何か言いかけて、言葉に詰まった。


「まあ聞け!」

 情報流出にスライムの体が震えた。


「帝都ゴッドリーブを出た朝、空の要塞アーキ=オ=プリタリクに会っただろう? あれも言葉を持っている。そうそう、出発した時は3人組だったのに、ワタシと出会った時は6人になっていたな?」


「さっき言った魔族の特性って、なんらかの情報伝達方式の事か? 時間に関係なく人数が伝わるところを考察に入れると、文章による伝達方法に思えるが?」

 情報流出は続く。


「黙って聞け!」

 スライムの体が常時震えるようになった。


「魔族とは、6つの災害魔獣だけではない。もっと大勢いる。全てが、最低でも人類より、いくらかましな知性と道徳を持っている。ワタシ達は知っている。空の星は太陽と同じ燃える星である事を。星の周りを土やガスの暗い星が周回している事を。観測しているのだ。日食や月食を予想できるのだ。無知な人間はそれを知らない。天動説が彼ら人類の常識だ。自己的で礼儀知らずで自分勝手で同族同士争う事を厭わない二足歩行獣。それが人類だ」

 スライムは一気に真実を喋った。


 ビィーは、この事実を簡単には受け入れられないでいた。

「まさかと思うが、あなた達魔族がこの世界の支配種族なのか?」


「そういうことだ。でもこれは人間には秘密にしておいてほしい」

「なぜ秘密にする意味がある?」


「いつか、この座を明け渡すためにだ。スムーズに席を移動するためだ。自分たち以外に知的生命体がいたりしたら、それを気にして歪な進化を遂げてしまう。それは魔族の望む所ではない」


「なぜ明け渡す必要がある? あなた達魔族が本気で表に出れば、この星は短期間で平和な世界になるはずだ」

「理由は二つ」

 スライムは、その半透明の体より、触手を1本伸ばした。


「1本?」


 にゅっと音を立て、触手の先端が二つに割れた。

 器用にドヤ顔をするスライム。


「一つ目は、我ら魔族の、種としての起源にある」

 いま正に、魔族誕生の秘密が語られようとしている。


「ワタシ達魔族は、直接、神の手で作られたのだ。最初からこの姿でいた。一つとして同タイプはいない。進化論はワタシ達魔族に当てはまらない。創造論こそが、ワタシら魔族に当てはまるのだ。これは生物学的に普遍的ではない。アブノーマルなのだ。アブノーマルな魔族が生物の頂点に立つ。これは、生物として正当な進化を遂げてきた――、熾烈な生存競争を勝ち抜いてきた人類に、いや魔獣を含めた全生物に対する冒涜である」


 触手の先端が一つ減った。

「もう一つは――」

 スライムは言葉を一旦切った。


 ビィーは唾を飲み込んだ。


「人類がこの星の支配種族であると勘違いさせ続ける為だ!」

「……はあ?」

 ビィーが素っ頓狂な声を上げた。


「魔族の嗜みだ。趣味と言い換えても良い。魔族は気づかれないよう、定期的に人類の文明レベルを調査している。合格がでるまでこっそりとサポートしているのだ。チミは戦場近くで青い犬さん……神を狩る狼と出会ったろう? 彼は危険な現場の調査とレポート提出を最近のマイブームと称している」


 確かに、夏に行われたコア帝国とゼクリオン候国の戦いの際、神を狩る狼が戦場の近くに出没していた。


「それは時として命がけの仕事となる。面白い……もとい、危険な仕事なのだ。幾匹もの魔族がノリとツッコミで無駄死に……もとい、尊厳な行為で尊い命を落とした。その死に様は、ワタシ達の憧れ……もとい、死しても屍を拾われる事のない、過酷なる滅私奉公なのだ!」


 なるほど、と、ビィーは頷いた。その頭脳は、全てを理解した。


「興味本位で、なおかつ、面白がって人類の進化に介入している事を理解した」

 その時が来たら、支配者の座を人類に明け渡すかどうか、怪しいものである。


 なんだかんだやって、人類の進化を遅らせる可能性も否めない。


「魔族の生い立ちの話も一旦置こう」


 スライムは短い触手を二本伸ばし、横に物を置く仕草をとる。

 置かれた想定位置をビィーが蹴った。


「あっ! こら!」

 スライムは、想定上、転がっていった透明なボックスを追いかけていく。


「それは、ナイトに教えてもらったリアクションだな?」

「黙って聞け!」

 追いかけていった透明ボックスを元の位置に戻し、スライムは話の続きを始めた。


「地の影ベヒモス。海の影リヴァイアサン。そして空の影ジズ。これらは旧神が作りし影の魔獣である。旧神が、己の戦力として作りし兵器と呼んだ方が理解しやすいかな?」


「旧神が世界を作った際の副産物ではなかったのか?」


「伝承が歪んで伝わるのはよくある話だ。それも何かの意思が介入したとなればなおさらの事。ワタシ達魔族も、それを面白がって……もとい、修正するほど暇じゃない」

「理解した」

 ビィーのスライム、というか魔族を見る目が冷たい。


「おそらく、人間観の伝承とは、旧神により神が召喚されたところまでは同じであろう。そこからが微妙に食い違っている。何が気に入らないのか、旧神は、自然な生物の進化を好まなかった。ワタシ達の神は生物育成に熱心だった。主義主張と性格や音楽性の違いにより、やがて二柱は戦う事になった」


 スライムは、ビィーの様子をうかがった。


「目的が違う者同士が集まって作った烏合の与党では、まともな政治ができない件からも理解できる内容だ」

 ちゃんと話についてきているようだ。


「簡単に言えば、ベヒモス、リヴァイアサン、ジズの三魔獣は旧神の兵器。ワタシ達魔族は神の兵器。異様に高い戦闘力はそのためにある」


 神が魔族に与えた物は、高い戦闘力だけではないだろう? ビィーは、それを口には出さなかった。

 ……いや、ひょっとしたら神の性格に問題があったのかもしれない。


「性格故か、孤高を愛する旧神は少数精鋭たった三匹。対して、寂しがり……もとい、賑やか好きの神が作った魔族は数万匹。先に影の三魔獣を作ったのは旧神。それを真似て……もとい、それに対応して、神は後から魔族を作った」


 影の三魔獣の破片から今の魔獣を作った。と、いう下りはここから来ているらしい。


「言葉に表すのも憚れる恥ずかしい……もとい、筆舌に尽くしがたい戦いを経て、神が旧神に勝った。……いま思うに、あの神は戦神だったのではないかと思う」

 失言が目立つスライムの中に浮かぶ目を模した泡が、どこか遠くを見つめていた。

 かなりダメな方向だろう。


「戦いに負け、旧神は死んだ。死ぬと言っても神は不滅。神の死とは、神の肉体が滅ぶ事。旧神は霊体にとなり、物質世界に影響を与えるデバイスを無くしたにすぎない」

 神とか名乗る種は、物質と霊体の二つを一つとして成立する。そういう意味らしい。


「だいぶ前から解っていたのだが、用心深い旧神は、自分が敗れた際の復活まで視野に入れて影の三魔獣を作っていた。……うちの神さんとはエライ違いだ……。旧神の器、つまり体になる要素をもって影の三魔獣は作られている」

 影の三魔獣は、兵器であり、予備の体である。そう言いたいのだ。


「一番ストレートな神の器はベヒモスだ。場所は判明しているが、幾重にも鍵かかけられていて、ワタシ達の手が届かない。監視しておくのが精一杯だ」

 オリュンポス山脈の向こう側にあるとされている人の顔を模した山の地下にある。そうフレイが言っていた、アレだ。


「認知力に特出した魔族が、ベヒモスの遺跡を観てみたところ、順番にエネルギー源三つに、体が三つ並んでいる。地上から入ると、エネルギーを破壊しないと本体にたどり着けない。エネルギーを無くしたベヒモスなど使い物にならない。また、三つに分かれた体も順次襲いかかってくるようだから、逐次撃破しなければならない。で、たどり着いたら何も残らない。侵入者が宝物を破壊するのだ。宝は盗人の手に入らない。完璧な防御システムだ」


 ということは、内側から……つまり、際奥のベヒモス三号に旧神が憑依し、そこをスタートとしなければ、ベヒモスは復活できない。ということだ。


「使途不明なのがリヴァイアサン。これは深海のどこかにあって、大海獣ラブカさんのアルバイト……もとい、必死の捜索でも、未だに場所が判明していない。これも三つくらいに分割されているかもしれない」

 意訳すると、発見は、ラブカという災害魔獣のやる気にかかっているらしい。


「……そして、神が人類に転生した際に向けて作られたのがジズ。こいつは他に司令塔としての運用も考えているようだがな」

 俯瞰で物を見られる者は、精神論的にも物質論的にも優位に立てる。飛行物体を司令塔にすることは至極自然な考え方だ。

 

「三魔獣は旧神の入れ物だ。入れ物が活性化すれば、それに見合った霊魂が憑依する」


 ここまで説明されれば、ビィーにも理解できる。

「なるほど、影の三魔獣を一つでも復活させる事は、すなわち旧神を復活させる事になるのだな?」


「そのとおりだ。旧神の復活は、全生命絶滅の危機を引き起こす!」


 スライムが膨らんだ。体のそこかしこから突起が現れた。

「よって、ワタシ達人類の守護者たる魔族は、人類の進化過程に歪な影響を与えるジズの復活を見過ごす事はできないのであーる!」


「わたしの目的もジズ破壊なんだが……」





「え?」



次話「迷宮攻略」

いよいよ、迷宮攻略が始まります。

マッピングは必要なのか?

松明は何時間もつんだ?

あの迷宮、緊急脱出ゾーンも自販機も無いぞ、ビィー!


ご期待ください。


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