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2.準備


 ここは皇帝執務室。


 皇帝アイアコス。宮廷魔術師長アンセルム。

 そしてビィーとフレイ。

 この部屋にいるのは4人だけ。


 人払いは完璧だ。

 いや、もう一人。ゼルビット中央部制圧軍の伝令だ。


「話は理解した。次は予の質問にだけ答えよ」

 皇帝は鋭い目で伝令を睨み付けた。


「触手ノ王に向け派遣した150万の軍はどうなった?」

「総数の7割が討ち死に! ドラン、モゼル、オトリッチ各国軍は壊滅につき、敗走しました!」

 伝来は叫ぶ様にして質問に答えていった。


 パニックになったのはアンセルムだ。 

「そんなバカな! 150万だぞ! これだけあればゼクリオン候国すら軽く一蹴できる戦力なのだぞ! 触手ノ王とは、150万をものともせぬ大魔獣であったか!」


 さすがに皇帝も、苦虫を咬み千切った顔をしていた。

「連合軍最高司令を任せたウォルトはどうなった?」


 いかが致した? とは聞かない。生きているとは思っていない。

 だからどうなった? と聞いた。


「我らを逃すため、供回りの方々と触手ノ王に向かって突撃を敢行されました! おそらく生きてはおられませぬ!」

「おいたわしやウォルト卿!」

 アンセルムが目を手で覆った。


「そうか、立派な最期だったのだな」

 内容と裏腹に、皇帝から残念な想いが伝わってこない。


 皇帝は、顔をビィーとフレイに向けた。

「その方らに仕事を依頼したい」

「なんなりと!」

 即答するフレイ。ビィーは無感動なままだ。


「ゼクリオン侯国の迷宮攻略命令はキャンセルだ。触手ノ王が支配する白紙の森の迷宮を制覇せよ」

「え?」

 今度は返事に二の足を踏むフレイである。 


 だが、ビィーの判断は速かった。

「引き受けても良い。ただし、制覇の方針や方法、並びに準備と報償はこちらの要求を完全に満たす。それが条件だ」

「よかろう」

 皇帝は眉一つ動かさず即答した。


「ビィーさん! ちょっと! 俺も行くの?」

 ビィーは頷いた。

「報酬は望みのまま。フレイが夢に見るゴルバリオン商会を立ち上げる事もできる。商業大臣に就任する事も可能だ。……帝国の現領土を望めば手に入る。そうだな? アイアコス皇帝?」


 皇帝は口の端を歪めていた。世界制覇を成し遂げられれば、遷都はデフォルト。現コア帝国領は一地方となるのだ。


 ビィーはさらにたたみ掛ける。ここを勝機と判断したのだ。

「皇帝はこれから忙しくなる。いくら隠しても大幅な兵力の減少を外国に察知されるだろう。戦力を温存しているゼクリオン候国がこの機を逃すとは思えない。協力関係にあった各国もどう出るかか予想が付かない。帝国は、兵力の穴埋めのため、是が非でもジズを手に入れなければならなくなった。つまり、この国は後が無くなったのだ。そうだろう? アイアコス皇帝?」


 今度も皇帝は口を閉ざしたままだ。


 まだ。まだビィーは攻撃の手を緩めない。

「わたしは、ジズの構造を知っている。隠したつもりはないが、わたしは、『その』種族なのだ。……理解しているだろうな?」

 これはビィーのブラフ。フレイとの行動で学んだ、はったりの手法。


 転生者などという単語も概念もこの世界に無い。あったとしても、ビィーの正体に辿り着く事はない。ビィーが元いた世界では普遍的だった科学技術という概念が無い。

 ビィーは不思議な技を持っている。そのような認識をこの世界の人間達は持っている。その程度ならビィーも認識している。


 レベルを数段階突破した楽器演奏技術しかり。

 常人を超越した身体能力と剣の技。

 賢者を凌駕してしまった、知識に基づく解読能力。


 根は違えども、オーバーテクノロジーを有する別の人種。いや、別の生物と呼んだ方が良い。


 所詮は、古代語を読めるだけでチートみアクセスできる程度の世界。

 皇帝にその違いは判別できない。そこを利用した。

 ジズを開発した文明種族の血を引く者と明言したのだ。


 嘘だけど。


 信じるしかあるまい?


「致し方あるまい」

 皇帝はビィーの口車に乗ってしまった。

「全て飲もう」

 もはや、皇帝はビィー達に頼るしか、前へ進む道がなかったのだから。




「陛下! 陛下!」

 執務室のドアが激しく叩かれた。


「誰も入るなと申しつけたはずだぞ!」

 皇帝が怒鳴る。


「お咎めは覚悟の上です。新たな情報が入ってきました。事は緊急を要します!」

 親衛隊長の慌てた声だった。


「弱り目に祟り目か。……入れ!」

 皇帝は腹立たしく思いながら、親衛隊長を中に入れた。




 親衛隊長の報告は重大なものだった。


 被害を受け撤退した協力国ダッガーとドランの間で戦争が始まった。

 同じく、東の大国オトリッチとブラッカの間でも先端が開かれたという。


「締め付けを弛めればこのザマだ」

 アンセルムが苦々しい顔をする。


 ビィーには理解できなかった。

「同盟国同士じゃなかったのか?」


 皇帝が片方の眉を吊り上げた。

「相手の国力が弱くなったと思えば、すぐに噛みつく。それが国同士の繋がりだろう?」

 コイツ何を言ってるのか? といった仕草だ。


「みんな国土を広げたい。しかし隣国にダメージを与えようと思えば、全軍を動かさねばならない。東の国境へ軍を動かせば、西の国が攻めてくる。西の国と同盟を結んでから東の国を攻める。これ幸いと西の国が攻めてくる。なかには西の国が攻めてくると解ってて東の国を攻めるバカもいる。同盟だの契約だの誰が守るか! みな隙あらばと狙っている! 巨大な帝国が睨みを効かせているから」


 ビィーは頷いた。

「なるほど、コア帝国という大きな力が押さえつけているから、動かないでいた。力が弱まったから動いたと……。この世界には戦略という単語が無いのだろうか? 何とも愚かな指導者達。皇帝も苦労しているのだな」

 しみじみとした口調で語るビィーである。


「いや、同情はいらない」

 皇帝は平常心を取り戻したようだ。


「コア帝国の内情がゼクリオン候国に知られれば、かの国の軍が動くのではないか?」

 ビィーが推測を口にした。


「しばらくは動かぬだろう。手を打ってあるからな」

 どんな手か?


「ゼクリオンの商人を通じて、ゼクリオンの有力な貴族や武人に大金が渡っている。出所がコア帝国宮廷だとわかる金だ」

「受け取らないだろう?」


「いや? 普通に受け取るが? そして、わざとそれらしい文書を持った者が捕まった。金を受け取った者の中にはゼクリオンの王族もいたからな。今頃、大騒動で帝国に軍を向けるどころの騒ぎではないだろう。軍部内で粛正が起こっているとの噂も流れている」

「なるほど」


「君達は後方を心配せず、結果を出してくれればいい」

 結果といわれ、ビィーはためらった。

 皇帝が求める結果と、ビィーが想定する結果は違っているからだ。


「……理解した」

 そしてフレイの方に向き直る。

「フレイ……」

 フレイは明後日の方向向いて夢を見ていた。


「俺の商会が……ゴルバリオン商会……」


 昼間に見る夢は楽しい……。





次話「お買い物」


「これは?」

「そ、それは伝説の勇者の剣!」


ご期待ください。

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