年重ね
蒲公英様主催、「かねのね企画」参加作品です。
※除夜の鐘&鐘の鳴る音をNGにした短編。
おなじみ? 神山家の二人の年越しです。
翼がキッチンから戻ると、華やかな歳末の歌合戦が終わり、リビングには年を跨ぐ音が鳴り響いていた。それを、
「新しい年を迎える音がする」
と言った翼に対して、夫の開は、
「えっ、どっちかと言ゃぁ、今年の汚れを洗い落とす音じゃね?」
と返す。さらに、
「でもさ、さっきから108なんてとうに通り越すほど鳴ってんじゃね? 6時半ぐらいからだから300はいってんじゃないか」
と笑う。それに対して、
「108って言ってもさ、それって一人の煩悩の数でしょ。たくさん人がいるなら人数分ついてもいいんじゃない?」
翼はそういって、カップ麺のそばにお湯を入れて渡す。翼がそばを水に晒せないたため、神山家では結婚以来カップ麺だ。
「それもそうだな」
その言葉に、開は頷いてカップ麺のそばを受け取るが、そのままフタを取らずにいる。翼が、
「早くたべよ、年越したそばになっちゃうよ」
と促しても、ずっと画面の中の参道を見たままだ。やがてぽつりと、
「にしても、静かだな」
と言った。それに対して、
「だね」
と軽くため息交じりで相槌を打つ翼。とは言え、一人娘称理が学校を卒業して、人の命を預かる仕事に就いてからは、年の終わりのこの日に家にいたためしなどないというのに。それでも荷物一つあるとないとでは全然空気が違うのだと痛感する。しかし翼は、
「でも、今年ぐらいだと思うわよ、こんな静かなの」
と言って自身のカップうどんを啜る。
今年は二人を満喫したいのだろうが、あの二人のことだ、きっと来年には新しい家族を増やしてやってくる。そうして、静かな生活に慣れた自分たちをあたふたさせて賑やかに過ぎて行くだろう。
「やっかいだな、そりゃ」
「帰ったら寝込むかもね」
そう言いあう二人の顔は言葉に反して期待に満ちていた。