表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

ジークリンデと霜巨人

 あるところに巨人が一人いました。彼の体は霜のかたまりでできていて、霜巨人と呼ばれる種類の巨人でした。

 ある日、霜巨人は久しぶりに遠出をしようとして、しまってあったセブンリーグブーツを持ち出しました。

「……腹ぁ、減ったなぁ」

 昨晩は羊を一頭食べましたが、彼は巨人なので、それくらいの量ではあまりお腹いっぱいになれないのです。

「今日はもっと美味そうなもん、探してくるべ」

 霜巨人は棲家から出てセブンリーグブーツを履くと、大きく一歩踏み出しました。


 その日、ジークリンデはすっかり霜の降りた野原を歩いていました。ちょうど森から薪を採ってきた帰りでした。

 野原を歩くジークリンデの目の前に、突然大きな男が現れました。巨人です。

 肌が真っ白で冷気を放つその巨人はしばらくきょろきょろと周囲を見回していましたが、やがてジークリンデがいるのに気が付きました。

「おお、ちっこいが美味そうな人間だべ」

 巨人はジークリンデをわしづかみにすると、回れ右して大きく一歩歩きました。


 びゅうん、と風を切る音がして、そこは霜巨人の棲家の前でした。

 霜巨人はセブンリーグブーツを脱いで、ジークリンデをつかんだまま、棲家に入って行きました。

「しばらくそこで待ってろや」

 そう言って、霜巨人はジークリンデを大きな壺の中に入れてしまいました。壺はジークリンデが頭まですっぽり隠れてしまうくらいの大きさでした。

 霜巨人は壺に蓋をすると、再びセブンリーグブーツで出かけて行きました。ジークリンデの他にも食べる物が必要だったからです。


 さて、壺に入れられてしまったジークリンデはというと、霜巨人が出かけてからすぐに壺から出ていました。

「どうにかして逃げださなくちゃ」

 このままここにいれば食べられてしまうのは確実でしょう。

 ジークリンデは霜巨人の家の中を探検しはじめました。

 

 まずは入口。

 霜巨人は扉に外から閂を掛けて、ジークリンデが逃げ出さないようにしていましたが、大きな木の扉にはひび割れた隙間がいくつもあって、ジークリンデは腰を屈めれば通り抜けてしまえました。

「でも、このまま逃げても追いつかれちゃうかも」

 そうです。ここはジークリンデの住んでいる町から七リーグは離れた場所にあるのです。当然、帰り道なんてわからないジークリンデでは、逃げ切ることはできないでしょう。

「あの巨人の靴、あれがきっと特別なんだわ。たったの一歩でここまで来れたんだもの、あれさえ使えれば、きっともとの野原に戻れるはずだわ」

 今、セブンリーグブーツは巨人が履いています。ブーツを奪うには、巨人が戻ってくるのを待つしかないでしょう。

「一体どうしたらいいんだろう……」

 ジークリンデは家の中をうろうろと家探しをし、逃げ出す方法を考えはじめました。


 霜巨人はどこからか牛を二頭さらって戻ってきました。

 ジークリンデは霜巨人に見つかる前にそっと壺の中に戻りました。

 彼はセブンリーグブーツを床に投げ出すと、牛を大きな串に刺して火にかけ、自分は火から離れます。

 肉は焼かないと美味くありませんが、自分の体は霜でできているので、近くで焼けるのを待っていると、体が溶けてしまうのです。

 牛が焼けるのを待つ間、彼は久しぶりに捕まえてきた人間の食べ方について考えます。焼いてもいいですが、鍋にしてやわらかく煮込んでしまうのも良いでしょう。そうしているうちに、色々と歩き回って疲れた彼は、長椅子に横たわってうとうとしはじめました。


 ジークリンデは霜巨人がうとうとし、やがてぐうぐうと寝息を立て始めたのを見て、そっと壺から抜け出しました。そして、たんすから巨人の顔が覆えるくらいの大きな布をひっぱり出してきます。そして、その布を水瓶に突っ込み、すっかり水浸しにしました。

 ジークリンデは家の中に散らかっている小物の類を足場にし、どうにか長椅子にそっと上ることに成功しました。そして、寝ている霜巨人の顔に、えいや、とびしょ濡れの布を覆いかぶせました。

「!?」

 これには霜巨人も驚き、顔にかかった布を払い落とそうとしましたが、できませんでした。なぜなら、濡れた布は彼の体が発する冷気ですっかり凍り、彼の顔にぴったりと張り付いてしまっていたのです。

 どうにかしようともがく霜巨人を尻目に、ジークリンデは走り出しました。そして、霜巨人が床に投げ出したセブンリーグブーツを手に取ると、ブーツは人間用のサイズに縮みました。さすがは魔法の靴です。

 ジークリンデは巨人の棲家から走り出ると、セブンリーグブーツに履き替え、自分の靴を手に持って、大きく一歩踏み出しました。


 びゅうん、と風を切る音がして、そこはもといた野原でした。

 ジークリンデは注意深くセブンリーグブーツを脱ぐと、自分の靴と履き替え、一目散に自分の家へと逃げ帰って行きました。


 その時に持ち帰ったそのブーツは、今でもジークリンデの家の物置の奥にしまってあります。

※セブンリーグブーツ…たったの一歩で7リーグ(約35km程度)歩けるようになるという魔法のブーツ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ