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ドミノタオシ

作者:

少しホラー要素ありです。

ドミノタオシ


瞼の上から強い光を感じて、私は目を覚ました。

ああ、良く寝た、そう思って辺りを見回すと誰もおらず、並べられた椅子と机が夕日を受けているだけだった。


放課後、誰もいなくなった教室。

まだ明るいとはいえ、少し不気味だ。私は急に不安になって鞄を取って教室を出ていった。

あんたは一生『そういうもの』を見る事はないよ、と美月からお墨付きを貰ってはいるものの、怖いものは怖いのだ。

やけに静かな廊下を早歩きで歩く。そう言えば今日は第三水曜日だった。毎月第三水曜日は全ての部活動は休みになる。だからいつもグラウンドを走り回っている運動部の姿もなく、静かなのだ。意外な事に我が地域研も例にもれず今日は休みだった。

なのに私は放課後、学校にいる。その理由は帰ってもやる事が無いし、学校にいれば、まあ、その、なんて言うか、あれだからで、あれと言うのはつまり、その中川先生がいるからだ。こう言うとストーカーみたいに思われるかもしれないけれど、違う。断じて違う。学校にいれば、中川先生と会えるという期待より、中川先生がいる、という安心を感じられるのだ。家にいるよりも感じる安心感。理由は分からない。好きだからかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。とりあえずそう言う理由で私は出来るだけ学校にいる。しかし今日はその安心感がない。と言う事はもう先生は帰ってしまったのだろう。眠る前は確かにあったはずなのに。夕焼けは綺麗だけど、学校で見ると無性に不安になる。


―急がなきゃ。


誰に急かされている訳でもないのに、一目散に下駄箱に急ぐ。自分の靴箱に辿り着いて、靴を床に落とすように置く。ばたん、と音がした。その時だった。


「先輩」

「ぎゃっ!」


背後から声を掛けられて蛙を踏み潰したような声を出してしまった。心臓が痛い。思わず胸に手を当てて振り向くと、見慣れた顔があった。


「た、たまちゃん・・・?」

「先輩驚きすぎですよお~。久し振りに会ったのに酷いじゃないですかあ」

「あ、あはは、久し振り」


後輩の久川環だった。同じ中学校(と言っても小中高一貫校だけど)の一つ下の子で、同じ部活で随分仲良くしていた。同じ高校に入ったものの、環とは違う部活に入った為に以前より一緒にいる事は少なくなって、話しかけられたのも随分久しぶりだった。いつも元気で、すこし陰気な私とどうして仲が良いのか良く分からないが、とても気持ちの良い子だ。私の驚き様が笑えるらしく、お腹に手を当てて笑っていた。


「ねえ、先輩これから暇ですか?」

「うん、暇だよ」

「じゃあお茶飲みません?聞いて欲しい話しあるんっすよ」

「別にいいよ」

「んじゃあ、いつものトコで良いですよね」


たまちゃんの提案に私は頷いた。いつものトコは学校に近い、安くておいしい喫茶店だ。私とたまちゃんは連れだって学校を出た。


いつものトコ「喫茶やまねこ」は放課後押し寄せてくる学生たちのピークを過ぎたせいか、店内はいつもより空いていた。たまちゃんの希望で、私達は店の奥に座った。同い年か少し上ぐらいの女の子がオーダーを取りにきて、私はクッキーセット(紅茶と手ぐらい大きいクッキーが二枚も付いたセット。お気に入り)たまちゃんはココアセット(ココアとマシュマロというとっても甘い組み合わせ)を頼んだ。やっぱりお互いいつも通りだった。


「ねえ、たまちゃん。話って何?」

「ああ、話っていうか、お願いなんですけど…」


そう言って脇に置いた鞄からたまちゃんが一枚の紙を取り出した。大きさはノート一枚分で、ノートから破ったように端がギザギザになっていた。紙の上には、中央に書かれた「□」とはい、いいえ、そしてそれらを取り囲むように五十音が並んでいた。それは多分誰にでも見覚えのあるものだろう。私もそれを使った事はないけど、見た事はある。


「これってエンジェル様?」

「エンジェル様っていうか、まあそんなもんです。うちの学校ではミカド様って呼ばれてるみたいなんですけど。って、先輩しらなかったんですかあ?今うちの学校で大流行りじゃないですか」

「ええー、こんなの流行ってんの?小学生じゃないんだから」

「確かにそうですけど、でもお、このミカド様って凄いんですよ。本当に良く当たるんですってば。私も一回やったんですけどばっちり当たったんですよ」


はっきり言って私はこういう類を信じない。科学的にメカニズムが証明されているし、第一素人が何人も集まって呪術的な事をしたとしても効果は薄い。無いに等しいのだ。美月から受け売りの考えだけど、私自身もそれにはとても納得している。お金や鉛筆が動いて答えが出るのだって、誰かが動かしているのかもしれないし、答えがでるのだって人間の無意識下の願いや答えが出ているだけに過ぎない。むしろそんなのに頼る前に潜在意識の方を開発した方が役に立つ、そう美月が言っていた。人間は生まれながらにして超能力を持っているのだとも。


「とにかく、先輩が信じなくてもミカド様は結構凄いんです。うちの学年じゃあ毎日放課後やってる子とかいるし。で、私新聞部に入ったの知ってますよね?」

「うん。この間聞いた」

「今度文化祭にそのネタを使った新聞を作ろうって話しになったんです。オカルト系って結構人気あるじゃないですかあ。だからうちの学校でオカルトって言ったら坂本先輩しかいないって事になりまして・・・」

「で、私の所に来たの?」


笑顔で頷くたまちゃん。私は一瞬考えた。美月嫌がるかな。でもオカルト話大好きだし…。


「うーん。美月の所に連れていくだけならいいよ。協力するかしないかは美月次第だし。それでもいい?」

「いいんですかあ?やったー!坂本先輩って話した事無いし、いろんな噂流れてるじゃないですか。だから一人で行くの怖かったんですよお」

「でも、美月引き受けてくれるか分かんないよ?」

「まあ、それはその時考えますって。ああ取り敢えず一安心だー」


嬉しそうなたまちゃんを尻目に私は頼んだ紅茶に口を付けた。ぬるい。紅茶の知識は皆無だから何も分からないけれど、私は紅茶は熱い方が好きだ。少しづつ飲む、というのが好きだからかも知れない。その後私達はくだらない話を続けた。中学時代の思い出、先生の噂とか本当にどうでもいい事。やまねこを出る時、たまちゃんが私の分まで出してくれた。「ご協力に感謝します」費だそうで、新聞部の活動費から出されるのだそうだ。うちの部活といい、新聞部といい予算の出方に疑問を持たざるを得ない。うちの学校は大丈夫なんだろうか、そう心配になった。


次の日の放課後。私とたまちゃんは連れだって地域研の部室に向かった。両手には大量の梅ジュース。美月の好物であるそれは今日、購買で買ったものだ。もちろんお金は新聞部の予算だ。


「あー緊張するなあ」

「本当に緊張してるの?」

「酷いですよお、この口調は興奮するとこうなっちゃうんですよお。でもー凄いですよね。先輩。あの坂本先輩の親友なんすから」

「親友っていうか幼馴染っていうか・・・」

「それが、凄いんですって!でもお・・言いにくいんですけどお、先輩もその分目立ってるんですよ?坂本先輩の親友って事で」

「え?」

「まあとにかく急ぎましょう」


話しを振り切る様にたまちゃんが前を歩きだす。美月の友達だから目立つ?まあそれはそうかもしれないけれど、今まで特に嫌な思いをした訳じゃないし、クラスの子とも上手くやってる。美月以外にも数は少ないけど友達はいる。だからいまいちたまちゃんの言葉にピンとこなかった。


「美月―、お客さんだよ」


部室に入ると、美月は梅ジュース片手に窓の外をぼんやり見ていた。今日は機嫌が悪くないようだ。美月が私の言葉に顔を向けた。私の後ろからたまちゃんが顔を出してきた。

たまちゃんは私より背が小さいから、その動作が可愛らしい。美月はたまちゃんを気に入ってくれるだろうか。お祓いなどは誰でも引き受けるが、緊急を要しない頼み事は気に入った人や興味を引かないと動かない事がある。本人いわく選り好みではないそうだ。美月が出る事で簡単に物事が片付いてしまう事が嫌で、ちゃんと考えて本人が解決出来るとこまでするべきだから、だそうだ。


「こ、こんにちはー」

「こんにちは」


たまちゃんが挨拶をする。美月もそれを返す。何とも不自然な会話に思わず口をはさんだ。


「この子、中学の後輩で久川環ちゃん。彼女新聞部でね、美月に協力して貰いたいんだって。ね、そうだよねたまちゃん?」

「そ、そうっす。坂本先輩にぜひ頼みたい事があって・・・、」

「そう」


たまちゃんが私に目で助けを求めた。私はそのまま続けて、と頷き返した。


「頼みたい事ってミカド様の事なんです。今うちの学校で流行りなんですけど、あのミカド様ってエンジェル様みたいなものなんですけどお・・・」

「知ってるよ」

「そうですよねえ、そうっすよねえ」


更に目が泳ぐたまちゃん。


「ええっと、それを記事にしたくて、その、ぜひ美月さんと一緒に取材できたらと思いまして・・、その・・・、これで引き受けて頂けませんかっ!」


たまちゃんが勢いよく頭を下げつつ、脇に置いていた梅ジュースの袋を差し出した。美月が一瞬あっけにとられたような表情をして、そして笑いだした。


「面白い子、いいよ。引き受けてあげる」

「本当っすか?ありがとうございます」

「ただし、自分で出来る事はする事。いい?」

「はい!」

「良かったね、たまちゃん」

「じゃあさっそくですけど、私が今知ってるミカド様についてお話しますね」


こほん、と一つ大げさな咳払いをしてたまちゃんが話し始めた。


「ミカド様が学校で流行り始めたのはいまから三か月前ぐらいです。そもそも学校の掲示板、俗に言う学校裏サイトってやつに書かれていたらしく、それを試したら全部当たりだった事からこんなに広まったみたいです」

「広まったのはどの学年から?」

「高三です。どの組かまでは特定できなかったんですが。まあ受験を控えてそういうのに手をだしたって感じです。最初に方法が書き込まれたのも高三のカテゴリーだったそうですし」

「他の学年の所には書かれてなかったの?」

「いえ、でもすぐに転載されたみたいです。あ、そうだ。話し忘れがあるといけないからこれ渡しときますね・・・、って千早先輩どうしたんですか?人の顔まじまじ見て」


不思議そうにたまちゃんが聞く。不思議なのはこっちの方だ。こんなしっかりしたたまちゃんを見るのは初めてだった。もっと私の知るたまちゃんはこう、語尾を伸ばすような喋り方をして取り留めのない話ばかりする子で、こんなしゃきしゃきと、まとまった話しをする子じゃない。


「え、ああ、その何でもない」

「そうですか?なら良いんですけど。渡したのは私が調べて分かった事を纏めたものです。信憑性が低い物もいくつかあるんですが。でもミカド様について今の所の情報をほぼ網羅していると思います」

「今回の取材の目的は?これだけでも出し物として十分じゃない」

「確かにこれだけでもかなり書けるんですが、何て言うかまだ何かありそうな気がするんです」

「何かって?」

「うーん、確証はないんですが強いていうなら新聞部の勘です」

「分かったわ。じゃあ手始めにそのミカド様っていうのをやりましょうか」


にやり、と美月が笑う。だけどそれをたまちゃんが制した。


「駄目です。ミカド様をするには紙だけじゃないんです。学校の裏山にある井戸の水を中央の四角に垂らさなきゃいけないんです」

「裏山の井戸?あの七不思議かなんかの」


たまちゃんが頷く。裏山の井戸、というのは良くある話で、井戸には死体が埋められていて丑三つ時に行くと引きこまれてしまう、という話だ。だけど確か井戸は落ちないように板で蓋がされているはずだ。水なんて汲めるのだろうか?


「詳しく言うと井戸の近くの給水ポンプの水、ですけど」


ああ、それなら知っている。井戸の近くにレバーを押して水が出るポンプがある。井戸の水と言えば確かにそうかもしれない。でも普通エンジェル様は五十音が書かれた紙と五円玉か鉛筆とかがあれば良かったはずだ。


「呼ぶ為、ね」


美月の言葉の意味が分からずたまちゃんと私が首を傾げる。エンジェル様を呼ぶのならただちゃんと用意して呼べばいいだけだ。ミカド様は水がいるという。水がなければ来れないという事は、


「ミカド様って魚?」


考え付いた事をそのまま言う。まるで聞こえていなかったかのように美月がたまちゃんに言った。


「水を付ける事で簡易な井戸にしているのね。いきなり外に呼び出すより遥に楽だし」

「じゃあ井戸には何か神様の様なものがいるって事ですか?」

「分からない。でも素人が簡単に呼び出せるものじゃないわ。行為自体は呼び出すものだけどね」

たまちゃんが美月の言葉をメモに取る。


「にしても誰がこんなものを考え出したのかしら。妙にちゃんとしているし」


美月が独り言のように呟く。誰も答えられない。井戸の水とミカド様。どんな関連があって、井戸の中には本当に神様がいるのだろうか。だとしたら、噂も少しは本当の部分があるのかもしれない。私は今後井戸に近づかないように心に決めた。


「じゃあ、その井戸行ってみませんか?どっちみちミカド様をやるには水を汲まなきゃいけないし」

「そうね、それがいいわ」


たまちゃんの言葉に美月が頷く。私は答えない。たった今心に誓った決意を私は守りたい。怖いのはやっぱり嫌だし、それに裏山なんてこの時期はまだ蚊が多い。登って帰ってきたら腕も足もただでは済まない。何故だか人一倍刺されやすい私が行ったら、それこそ飛んで火に入る夏の虫、ってやつだ。


「わ、私パスだからね!」

「えー先輩来ないんですか?楽しいですよー、裏山なんて滅多に登れないし」

「もしかして怖いの?まったく零感が何言ってんだか」

「いいの、とにかく登りません」


美月がにやりと笑う。この表情をする時必ず先生ネタで脅しをかけてくる事は分かっている。でも今日は、今日こそは絶対に引かない。この年で手足が虫刺されだらけになるのは絶対に嫌だった。


「まあ、いいけど。久川さん行きましょう?」

「は、はいっ」


予想外に美月は何も言わなかった。それはそれで少し心に引っかかったけど、取り敢えず虫刺され地獄は回避できたようだ。いきなりたまちゃんと美月を二人きりにするのは可哀そうだけど、仕方ない。私は二人を見送って、いつものように出された課題を机に広げた。





その人が自己紹介した時、千早、という名前がとても美しく聞こえた。あれは新入生に向けての部活紹介の時だった。私はそれ以降気がつけばその人ばかりを追いかけるようになっていた。当然のように同じ部活に入り、先輩が高校に入れば速く高校生になる事ばかり考えていた。部活だって本当は同じものに入りたかったけど、新聞部の勧誘が断りきれず、入部したら案外おもしろかったから部活は諦めた。

先輩に恋をしてるようだ、と何度も自嘲したけれど、半分そうで半分は違う。普段明るい先輩がたまに見せてくれる影のある眼差しに胸はときめくけれど、恋じゃない。ただ先輩と離れたくないだけなのだ。


先輩はどうなのだろう。私が先輩を追いかけている事は知らないと思う。それでも私の事はどう思っているのだろう。今私のほんの少し前を歩いている、美月さんに比べれば私の存在なんて小さいものだろうか。


「久川さん」

「は、はい」


頭によぎった事を見透かされたのかと思って声が裏返ってしまった。そういえば先輩が美月さんは心を読むとかなんとか、と言っていたような気がする。どうしよう。


「あなた、千早と中学の時同じ部活だった?」

「ええ、音楽部でした」

「だから見覚えがあったのね、納得したわ。何度か千早と話してるの見た事ある」

「そうだったんですか」


美月さんの事はずっと、中学に入ってから知っていた。先輩の隣にいたから、という事もあったし、何より良く目立つ人だったから。とても綺麗で、その美しさはすれ違った人々が振り向くぐらい。そんな綺麗な人なのに友達は先輩ぐらいで、時々入って来る美月さんの噂はどれも大げさな物で気持ちの良い物はなかった。

美月さんが目立つのなら、その友達の先輩も必然的に目立つ訳で、本人には自覚が無くても先輩を知らない人はいない。そして目立つだけで悪意を持つ人は少なからずいるのだ。


美月さんの背中を見つめつつ、ぼんやりと考え事をしていたせいで、美月さんが立ち止まった事に遅れて気が付いた。鼻の先に美月さんの背中が迫って、急ブレーキをかけた。良かった。ぶつからずに済んだ。


「着いた」

目の前には、噂の井戸と水汲み用のポンプがあった。後は工事現場で良く見る工事中と書かれた黄色い看板と、赤い三角のものが置かれていた。一瞬何故おかれているのか分からなかったけれど、裏山に新校舎が出来るという事を少し前に聞いた事を思い出した。工事は夏休み等の長期休暇に集中的に行われるらしい。来年にはこの山もなくなる。そう考えると少し感慨深かった。ポンプ周辺の地面が湿っている。また誰かがミカド様をする為に水を汲んだのだろうか。美月さんも同じ事を考えたのか、その場にしゃがんで濡れて黒くなった土を触った。


「濡れてる」

「また誰かがやったんでしょうね」

「そうね。今日あたり片っぱしから教室覗いたら何処かでやってるわね、きっと」


そう言いながら美月さんがペットボトルを取り出してポンプに近付ける。水を汲むのだろう。私は急いでポンプに手をかけた。


「お、気がきくねー」

「新聞部は体育会系ですからね」


美月さんの手をなるべく濡らさないようゆっくりとポンプを押した。水がペットボトルの狭い飲み口に丁度良く流れていく。美月さんがいいよ、と言ったのは水がペットボトルの半分を少し過ぎたところだった。


「結構・・・入れましたね。何か使うんですか」

「沢山あった方が沢山ミカド様出来るし、何かあるか調べたいし。まあ、この辺りには何もないみたいね。・・・下校時刻も過ぎると面倒だし帰りましょう」


私は少し拍子抜けしてしまった。一応噂されている場所なのに何もないとは。でも美月さんがそう言うのなら正しいのだろう。それでも少し残念に思う。やっぱり所詮噂なのだろうか。何も分からない私には確かめようがない。無駄だと思いつつ井戸を凝視してみたけど、禍々しい何かも見えはしないし、感じもしない。なら、ミカド様は何故ここの水を使っているのだろう。美月さんはここの水を使うのは呼ぶ為だと言った。この井戸にいるという霊を呼び出す為と解釈するのなら、元々何もいない所から呼ぶ事なんて出来ない。


「ミカド様って何も呼んでないんだ…」


思考の結論が口をついて出た。私の癖だ。独り言が多いと良く言われる。美月さんに聞こえていないだろうか。少しドキドキしながら美月さんをちらりと見た。にやり、という悪戯っぽい笑顔がそこにあった。


「聡い子ね」

「えっ…今の独り言聞いてました?」

「もちろん。こんな近くに居るんですもの。千早だったら思いつかないでしょうね」


くすくす、と笑う美月さん。という事は美月さんも知っていたのだろうか?


「私は最初から分かっていたわ。だって何も感じないし。元々あそこの井戸の噂の元ネタ知っていたから…。まあ千早には意地悪して教えないでおきましょう」


美月さんが顔を輝かせて言う。その表情はとても人懐っこく可愛かった。先輩ラブな私でもその提案を受け入れてしまう程に。そして振り返ってみるとこの瞬間から私は美月さんと少し近くなったのだと思う。秘密の共有程、それが直ぐに明るみになるとしても、人を近づかせるものはないという事だろう。





 美月とたまちゃんが二人で裏山に行ってしまった後、私はいつもの通りに出された課題をしていた。放課後に課題を済ませてから帰る事は高校に入ってからの習慣だ。

誰もいない教室は少しだけ気味が悪いと、誰かに言われた事がある。確かに誰もいない、ただ机と椅子が規則正しく並んで赤い夕陽に晒されているのは居心地の良いものではない。それでも私が放課後ほぼ毎日残っているのは、「先生」ただそれだけの理由だった。

美月のお陰で先生とは他の生徒より随分親しいとは思う。でも私は足りなくて、先生ともっといたい。恋特有の病気にしては重くて随分やっかいな気もするけれど、今のところ誰にも迷惑をかけていないので良いとしている。

今日だって夕焼けの教室に残っているのは蚊に刺されたくなかっただけじゃなく、先生に会いたかったから。美月が意地悪く笑っただけで許してくれたから、もしかして部室に来てくれるのではないだろうか、そんな期待をしていた。


どれだけ時間が経ったのか、集中力が切れ、顔をあげて時計を確認する。後少しで美月達が出かけて一時間になる。課題もほぼ終わりかけていた。愛用のシャーペンをくるくる回す。そうすると頭をからっぽに出来て、また集中力が出てくる気がするのだ。


ふいに心臓の音が大きくなった。もしかしてその音を聞くより速く私は足音を聞いていたのかもしれない。先生の足音がしたからだ。決して大きくなく、むしろ聞こえない程の音なのに私は先生の足音が分かる。本当は聞こえてなくて言うのなら気配の音、と言った方がいいかもしれない。どんどん音は大きくなって、近づいてくる。そして、私がいる教室の前で止まった。


「こんにちは」


からからとスライド式のドアが味気ない音を出して開いた。昨日ぶりの先生の姿に頬が赤く染まる。でも夕焼けがそれを隠してくれている。だから先生にはばれていないはずと思いたい。


「こんにちは」

「今日は一人?坂本君はまた調査かい?」


いつものように穏やかな笑みを絶やさず先生が私に尋ねる。私は上手く声が出ず、ただ首を縦に振った。


「また課題してるんだね」

「は、はい。…やる事ないですから」

「そう」


先生はそう言って私が座っている席の前の席から椅子を取り出して座った。

向き合う形になった。

いつもより近い格好に半ば硬直気味になる。ただ先生の顔が夕焼けに照らされて良く見えなくなったのは不幸中の幸いだった。長いまつげ、高い鼻。それらが先生の顔に黒い影を落としていた。硬直気味の私は先生の顔から眼を離す事で精一杯だった。


「髪、長くなったね」


一瞬の沈黙の後、そう言って先生が手を伸ばした。男の人にしては細い指で、私の髪を掬ってくるりと巻く。当然のような行動に驚く事も出来なかった。ただ先生の指に巻かれた髪の毛の先端に神経が通っているように思える程、そこから熱を感じた。実際は顔が熱くなっただけなのに。


「いつから伸ばしてるの?」

「入学、してから」

「そうだね、確か短かったね」


ああ、息が上手く出来ない。好きな人に髪を触られているこの状況。ほんの少し期待が混じりそうになって、でも何故か胸が痛くて、泣きそうになる。この時間がずっと続けばいいのに、そう思いながら早く解放されたくて仕方ない。


「綺麗な髪だ」


先生は、ずるい人だ。髪を絡めたまま、まるで心から思っているかのようにそんな事を言う。



気が済んだのか、先生が指を髪から解く。少し名残惜しそうにゆっくりと。さらりと指から落ちていく髪は私の気持ちのようで、また少し悲しくなる。先生が好きな人は私に似てるのだろうか。そうであったら、馬鹿だとは思うけど、私は嬉しくなってしまう。

それ程私は先生が好きで、愚かで、どうしようもない。

自由になった呼吸で、息を吐く。まるで、それは溜息のようだった。







裏山から降りて来た時、グラウンドを赤い夕陽が染め始め、走っている運動部の人達の影を長く見せていた。口数は少なかったけれど、行きよりは美月さんとの雰囲気もそれなりのものになって、随分緊張が解けていた。


「…りつ」


ぽつり、と美月さんが呟いて立ち止まった。何を言ったのか理解できず、私も立ち止まる。今度は横に立っていたからぶつかる事はなかった。


「どうしたんですか」

「ああ、部室に中川先生がいるなって」


すっと細長い指が校舎をさす。そこは三階で、美月さんが言う通りに地域研の部室がある所だった。言われた場所を私も見る。強い夕焼けの光のせいで窓ガラスは赤く、教室の中は見えない。美月さんも私が見える事を期待していないようで、何事もなかったのかのように歩きだした。私も一緒に歩き出しながら、先輩が以前漏らした言葉を思い出していた。


―美月と一緒にいると自分の世界に見えないものが多いんだって思うの。


きっとそう言う事なのだろう。もっと違う意味で捉えていたけれど、今、その言葉の意味を納得した。



「じゃあ、やりますよ」


次の日の放課後。すっかり美月と馴染んだ様子のたまちゃんが再び部室を訪れた。もちろん昨日汲んだ水を使って、ミカド様をやる為に。


美月は参加すると洒落にならないらしいので、参加せず、結局私とたまちゃんの二人でミカド様をする事になった。ミカド様の類を信じていないとは言え、あまり気は進まない。何かあっても美月がいるという安心感はあるものの、やっぱり嫌だった。


たまちゃんが五十音の書かれた紙の中央に水を落とした。その上にたまちゃんが指を乗せた。ミカド様は他の同様のもののように硬貨や鉛筆を使わずに、答えを指し示すのは自分の指を使う。その事が余計に当たるような感じを醸し出しているのかもしれない。


「ちょっとまって、千早がやって」

「は?何で私が…」

「いいから、久川さんより千早の方がいいわ」


たまちゃんが人差し指を紙に乗せたのを見て美月が言った。やっぱり昨日井戸に行かなかったせいだろうか。本当に美月は意地悪だ。昨日井戸に行かなかったせいで散々な目にあってしまった。ちなみに今日はまだ先生に会っていない。

紙の上に人差し指を乗せた。さっき濡らしたせいで、少し冷たい。


「これで準備OKです」

「準備OKって何を聞くの?」

「うーん、あ、明日の社会のテストは何処が出るか」

「じゃあそれで行こう。いくよ?」


すう、と息を吸ってたまちゃんと呼吸を合わせる。ミカド様を呼ぶ為には参加者全員で呼び出す言葉を言わなければならないらしい。


「「ミカド様、ミカド様井戸からおいで下さい。明日の社会のテストは何処がでますか」」


言い終わった後、人差し指は動かなかった。美月は何も言わずに何処かを見ているだけだった。たまちゃんを見ると何故か納得した様な顔をしている。


「どうするの、これ。終わらせ方は?」

紙に指をつけたまま、私は二人に聞く。こういうもの、降霊術には何かしら終わらせる方法があるはずだ。けれど、私の言葉にたまちゃんは首を横に振った。


「ないんです。聞きたい事を聞いて、答えを見たら指を離して終わりです。まあ使った紙は水を汲んだ井戸の辺りに埋めなきゃいけないんですけど」

「え、じゃあ、離していいの?離すよ」


紙から指を離す。指先がわずかに濡れている。離した後も何も残らない。


「何か気持ちの悪い終わり方だね。すっきりしないっていうか」

「そうっすね、初めてやったんですけど微妙な感じだし、何も動かなかったし」


そこまで言って、たまちゃんと私は美月を見た。やっぱり何も言わない。何かを睨むように視線を動かしている。


「美月、終わったけど…どうしたの?」


恐る恐る声をかけてみると、ふっと視線を和らげて言った。


「そう。やっぱり唯の降霊術のまねごとだった訳か」

「何かあったの?」

「何も。だって千早がよりしろになった所で何も起こる訳がないし」

「よりしろ?何それ」

「…降ろした神様とかが入るものっすよ」

「へえ…って、何それ!憑かれるってやつじゃない、それ」

「だから、あんたなの。千早だったら何があっても憑かないし。久川さんに何かあったら大変でしょう?」

「そ、そうだけど…」


何か納得がいかない。だったら私がやった所でミカド様に何も起きる訳が無い。意味がない。


「意味無くは、ないわ」


私の考えを読みとったかのように美月が言う。


「だって…」

「行為は呼び出すものだから、呼び出せたら何かしら来るでしょう?ただよりしろになるものがないから目に見える結果にはならないだけ。確かめたかったのは本当にこれで何か出てくるかどうかって事。実際何も来なかったし。要するにこれはただの真似事にしか過ぎないわ」

「じゃあ、何でこんなに流行ってるんですか?実際何度もやってるの見た事あるし、当たらなければこれ程流行らないだろうし」

「自分の事は自分が良く知っているって事よ。無意識のうちに人は分かってるの。簡単な未来ぐらいなら誰にだって当てられるわ」

「そう、なんですか?」

「ええ。例えば嫌な予感がする、とかそういう事。そういうのは過去の経験から学んでて、同じ場面、それか似た場面に直面した時その記憶を呼び出してる訳ね。ただそれが人によって精度が異なるだけの話よ」

「そういうもんなんですか」

「そういうものよ」


不満げなたまちゃん。私は美月と付き合いが長いから、美月の言っている事は良く分かる。美月は人間だれしも特別な能力を持っている、ただそれにレベルがあるだけ、と常に言っているから、さっきの言葉もその考えの延長なのだろう。


「まあ取り敢えず終わったし、紙処分しなきゃね。…どこに埋めるんだっけ?」

「ああ、水を汲んだ井戸の近くに埋めるみたいです」

「…私が保管しておく」

「「え」」

「いいの?」

「いいんすか?」

「ええ。裏山にまた行くの面倒だし、他に調べておきたい事あるから。…久川さん、最初に流行った学年が高三って言ってたわね?」

「はい。受験関係でやった人が殆どでした」

「そう。高三で最近何か事故とか事件にあった人いるかしら?」

「え…?事件ですか?事件っていうか、高三の怪我が多いって保健室の先生が愚痴ってました。あとは沙良先輩、ああ、新聞部の部長なんですけど、最近雰囲気が凄く悪いって」

「え、それって受験のストレスとかじゃないの?」

「でもまだ六月だし…。部長が言うには重苦しいって言う感じだそうです。あんまり事件って感じじゃなくて申し訳ないんですけど、自分が知ってるのはこれぐらいです」

「それで充分よ、ありがとう」


美月が何を言いたいのか分からない。たまちゃんが少し考えて言った。


「美月さん、これはもしかして最初から高三を狙ってたって事ですか」

「どういう意味?」

「仮に、これがまがい物であっても降霊術で、こういうのってちゃんと終わらせなきゃいけないのに、これには終わりが無い。という事はずっと続いてるというか、降ろしたものがそのままになってる事ですよね?飛躍するんですけど、もし降ろしているものが良くないものだったら、今高三に起こっている事に繋がるんじゃないかなって」

「あら、同じ事考えてるのね。でもまだ謎は残ってるわよ?どうして高三に被害が集中しているか、とか」

「それは…分からないです」

「私もよ。だから明日からは高三に話を聞きに行きましょう」

「分かりました」


完全置いてけぼり状態の私。さっきのたまちゃんが言った事で美月の考えている事は分かった。でもどうして高三に狙いを定めなきゃいけないのだろう?分からない。本当に最近は分からない事ばかりだ。



次の日。私達が集まったのはいつもの部室ではなく五階にある高三一組の教室の前だった。私達の学校は小中高一貫の女子校で生徒数の割に顔見知りが多い。ただ高校になると途中からの生徒が三分の二を占め、小学校からの生徒より多くなる。だから学校内で高校の校舎だけ少し雰囲気が変わっている。美月と私は高二だから一つ下の四階で、たまちゃん達高一は三階に教室がある。つくりは同じなのに少し違和感があるのは来馴れてないからだろうか。放課後とあってまだ少しはざわついているものの、残っている人は少ない。もう部活も引退が始まっているし、何しろ予備校に通う人が多いのだろう。うちの学校は一応進学校で授業だけでも受験に対応できるようカリキュラムは組まれているらしいけれど、受験への備えはどれ程やっても足りないという事だろう。


「どうする?知り合いとかいる?」


美月には頼れない事確実なのでたまちゃんに聞いてみた。私も中学の時の部活の先輩ぐらいしか知り合いはいない。


「うーん、新聞部の先輩ぐらいしか…先輩はいないんですか?」

「野村先輩ぐらいかな」

「野村先輩かあ…」


たまちゃんが少し嫌そうにする。野村先輩は中学の時部活が一緒だった人で部内で評判はあまり良くなかった。だけど何故か私には良くしてくれたので私はそう悪い感情を持っていなかった。今でもたまにメールするぐらいの仲だから、話を聞くとしたら野村先輩ぐらいしか思い浮かばなかった。


「じゃあ、その野村先輩に話を聞けばいいじゃない」


何も知らない美月が言う。駄目だ。美月と野村先輩を会わせるのは危険だ。あんまり人を嫌わないであろうたまちゃんでさえ苦手なのだから、美月と合う訳が無い。

たまちゃんもそう思ったのかいつもの笑顔がひきつっている。ここはたまちゃんと美月が一緒に新聞部の人に話を聞きに行って貰うのが一番いい方法だけど、どうしたらそういう風になるのだろう。良い方法が考え付かない。


「えっと、野村先輩の所には私一人で行くよ。先輩、あんまり大人数と喋るの好きじゃないし。…美月はたまちゃんと新聞部の人に行ってくればいいんじゃないかな」

「そう、そうっす!私一人じゃ話聞けないし」

「そんな事無いでしょう?久川さんなら一人で出来るし。千早の方が心配だわ」

「え、で、でも、その…」

「なあに?そんなに野村先輩とかいう人と私を会わせたくないの?」


―駄目だ。美月、完全に野村先輩に会う気だ。


意地悪く笑う美月。こうなった美月はもう何が何でも野村先輩に会う気だ。軽くたまちゃんに目配せをした。しょうがない。

「じゃあ美月と私が野村先輩の所に行くから、たまちゃんは新聞部の人を頼むね」

「了解っす。…頑張って下さい」

「うん…」


野村先輩と美月。何も起こらないといい。精一杯頑張ろうと、そう思った。


野村先輩は三年四組に在籍している。3-4と書かれたプレートを確認してドアを開ける。教室の中はまばらで、多少気遅れはしたけれど、失礼しますと小声で呟いて教室内に入った。先輩の姿を探す。三つ編みで眼鏡。背は平均より高くて、いつも窓際にいる。―すぐ分かった。


先輩も私の姿を見つけたらしく、ひらりと手を上げた。


「どうしたの?珍しいじゃない。貴方から来るなんて」

「あの、話を聞きたくて」

「話?良いわよ。今日は時間もあるし。…後ろの子は坂本美月さん?」

「はい…美月、こちらが野村先輩」

「初めまして」

「そうね、初めましてね。で、話って何かしら」

「あの、ミカド様って先輩知ってます?」

「ああ、あの下らないものね。あんなのやってる暇があったら勉強すればいいのに」


先輩が馬鹿にした口調で言った。先輩が苦手だとされてしまう理由の一つに何事もはっきり言ってしまう所がある。私は美月で馴れているし、そんなに気にしないけれど、人によってはきつく感じる事があるのだろう。今の態度からして「ミカド様」に対して、それをするクラスメイト達を軽蔑しているのが分かる。先輩は自分の手の届く範囲内での努力を惜しまない人だから余計にそう感じるのかもしれない。


「先輩のクラスでもやってるんですか?」

「そうよ、昨日もやってた。でもこれでも収まった方よ。最近は当たれば当たる程お返しが大きくなるとかなんとか言って。本当に下らない」

「お返しが大きくなる…?」

「なんか当たった子が大怪我したらしくて、最近確かに保健室に行く人は多いけど」


たまちゃんが言っていた事と同じ事を先輩が言った。そこで一つ疑問が頭をよぎった。他の学年だってミカド様をしている。なのに何故、


「高三ばかり怪我するんだろう…」

「さあ。私には分からないわ。話ってこれだけ?」

「え、ああ、美月、何かある?」

「ない」

「そっか。…わざわざお時間ありがとうございました」

「別に、暇だったし。今度はゆっくり世間話でもしましょう」


先輩は機嫌がいいのか笑っていた。そうやっていつも笑っていたら苦手意識を持たれる事は無いと思うのに、でも普段見れないから価値があるのかもしれない。

私は軽く頭を下げると、教室を出て行った。

廊下に出るとたまちゃんが3-4の教室の前に待っていた。メモ帳を片手に持っている。私達を見つけると駆け寄ってきた。


「何か聞き出せましたか?」

「あんまり。たまちゃんから聞いた事と同じ事だった。怪我が多いってやつ」

「野村先輩も言ってたんですか?じゃあ本当に多いんですね。…私の方はほぼ聞いてた事ばかりで。でも、これは新しく聞いたんですけど、ミカド様をした紙を裏山の井戸の近くに埋めるって言ってたじゃないですか?この間美月さんと行った時気付くべきだったんですが、その紙が埋めて数日経つとなくなってるそうです」

「え…、それって誰かが掘り返してるって事?」

「それしか考えられないです。一人が捨てたら皆も大体同じ場所に捨てるじゃないですか。穴掘るの面倒だし。埋めるとしてもそんな奥まで埋めれないし、何処に埋めたかなんて掘り返された後見れば分かるだろうし…。にしても誰が…」


掘り返されたミカド様の紙。リサイクル、な訳はない。誰かが使ったものを使うなんて効き目が薄そうだし、わざわざ土を掘り返すのも面倒だ。なのに、何故紙がなくなるのだろう。きっと今まで使われてきた紙は、なんせ野村先輩までミカド様を知っているのだから、相当な数になる。それが一枚も無いなんて流石に気味が悪い。

やっぱりミカド様というのは存在していて、何か呪いの様なものになってしまっているのだろうか。そう考えるとさっきミカド様をしてしまった事を後悔してしまいそうになる。


「美月さん、ミカド様に使った紙って何か処分しないとまずいんですか」

「ミカド様はどうか分からないけど、普通はこういうものは燃やすなり流すなりで処分するわね。埋める方法ももちろんあるわ。処分しないと良く効かなかったり、自分に帰ってきたりするから」

「帰ってきたり…」

ぶつぶつたまちゃんが呟く。頭を整理しているのだろう。私も分からない事だらけで、一度考えを整理した方がいい。

取り敢えずここまで分かっていて重要そうな事は、


・ミカド様は何も呼ばない。

・裏山の井戸の近くに埋めてある紙がなくなっている

・ミカド様を始めてから高三に異変が起きている


の三点だろう。考えられるのは誰かが埋めてあった紙を使って何かをしているという事だろうか。でも誰が何の為に?分からない事だらけだ。美月は興味のないような顔をして私達の様子を見ているだけだった。

窓の外はすっかり赤黒い。高三の教室が並ぶ廊下はいつの間にか人気がなくなり、私達しかいなかった。


「今日は、帰ろう」


少し疲れたのと気味が悪かったのとで私は二人を促す。たまちゃんは軽くうなずいて、美月は相変わらず興味が無さそうな顔をして歩き出した。何か釈然としない気持ちが渦を巻いて気持ちが悪い。分からないという事が、こんなに気持ち悪いなんて初めて知った気がする。もっと調査を続ければこの気持ち悪さが解消されるのだろうか。それも分からない。何もかも、本当に分からない事ばかりだった。


野村先輩から話を聞いた次の日、たまちゃんは新聞部と考えを纏めたいらしいとのことで地域研の部室には来なかった。美月も家の用事か何かで部室に顔を出さずに帰った。私は一人、部室で課題をこなしていた。

こうやって課題をこなす事は嫌いじゃない。小学生の時の漢字の書き取りとか本当は大好きだった。単純作業をこなしていると頭が空っぽになってすっきりするし、達成感みたいなものも感じられる。だから周りの子が嫌いなのが分からなかった。

ここ数日は分からない事ばかりだったからこうして頭を空っぽに出来るのは有難い。数学、英語、古文、生物。出された課題を終わらすのに、二時間近くかかった。あと三十分もすれば下校時間がきてしまう。もしかして美月が帰ってくるかもしれないと思ったけれど、この調子じゃ来なさそうだ。そうすればいる意味もない。―先生にも会えなさそうだし。私は鞄に教科書等々を押し込めて部室を出た。廊下は静かだった。最近は日も伸びてこの時間に帰っても日が残っている内に家に帰れる。だから、というのは言い過ぎかもしれないけれど、このぐらいの季節が好きだった。

廊下を少し歩き出した頃だった。後ろから誰かが歩いてくる音がした。振り向かなくても誰か分かった。先生の音だ。

私は振り向いた。この間の事がよぎる。先生と会うのは二日ぶりだった。会いたいという気持ちなのは確かだったけれど、実は先生の事を避けていた。勘違いしそうだし、何かとんでもない事を言ってしまいそうで自分が怖かった。それでも見つかってしまったのはしょうがない。何とか早く切り上げてしまえばいい。

私は先生に近寄って、先に口を開いた。


「何か用事ですか?美月なら帰りましたよ」

「そうなの?坂本君に頼みがあったんだけど…まあ、いないなら仕方ない。…そうだ、」


少し困った顔のまま、先生が言葉を続ける。心臓の音が煩い。先生と向き合う事に私はまだ慣れていない。早く逃げないと自分がきつくなる。


「最近フィールドワークしてないね。…今は何やってるんだい?」

「新聞部の後輩に頼まれてミカド様について調べてます」

「ああ、流行ってるやつ。面白そう。で、どんな感じなの?」

「分からない事だらけです。また明日から調査するんですよ」


冷静を装い話す。先生の眼にはどう写っているのだろう。ちゃんと普通に写っていればいい。でも私には先生の心が見えない。何も分からない。やっぱり逃げないと。まだ先生と話すのは無理だ。もう帰ります、そう言おうと最初の音を出そうと口を開いた。先生の方がほんの少し早かった。


「里森さん、僕の事避けてるね。…どうして?」


あと少しでも早く言ってれば、とか、そもそも立ち止まらなければ、とか。ものすごい後悔と言われた言葉の意味が混ざって一瞬で頭が使い物にならなくなった。どうすればいいだろう。なんて答えればいいだろう。先生は優しい。優しいまま私を追い詰める。どうやって答えてもごまかせない。それでも私は先生をごまかしたかった。


「べ、別に避けてないです」

「この間、僕が君に触ったから?」

「そ、それは…」


絶体絶命とかまな板の上の魚とか、そういう言葉がこれ程当てはまる事状況はない。もう顔を上げてられない。視界の先は床。酷く頼りなかった。顔だけじゃない、全身が熱い。これだけでもう答えは分かってるはずなのに。先生は私に言わせたいのだろうか。何も気付いていないはずは、ないのに。

先生の質問から数えれば数秒経っただけだったのだろう。でも私にとってはとても長い時間経った時だった。


「里森さん、帰りましょう」


凛とした声が響いた。野村先輩の声だった。固まった私の体から力が抜けて行く。天の助けとはこの事を言うのかもしれない。


「ああ、野村君。里森さんと帰るのかい?」

「ええ。待ち合わせていたんですが。先生が引き止めてたんですね」

「すまないね、ちょっと用事があって。もう遅い。気を付けて帰りなさい」

「じゃあ里森さん、帰りましょう?」

「え、あ、はい」


上手く返事が返せない私に何を思ったのか、野村先輩が私の腕を掴んだ。先輩の手は冷たかった。きっと私が熱すぎるだけだろう。いつもの先輩らしくなく先生に礼をせず、その様子はまるで私を先生から遠ざけるようだった。半ば引きずられる様に私は歩いた。先輩が口を開いたのは校舎を出てからだった。


「私、余計な事したかしら?」

「え、いえ、そんな事ないです。あの助かりました」

「そう?何か雰囲気変だったし、貴方が少し怯えてるように思えたから…何かあったの?」

「えっと…あ、ちょっと部活の事で少々注意を受けちゃっただけです」

「ならいいけど」


先輩を騙すのは心苦しいし、ばれそうで怖かった。でも別に私は何もされていない。確かに教師としては問題行動かもしれないけれど、わざわざ口に出して先生の評判を下げたくはない。先輩はすっきりしないような顔をしていたけれど、それ以上追及してこなかった。いつもと違う私に気を使ってくれたのかそれ以降の会話でその話題は出る事はなかった。最初はぎこちなかった二人の会話も少し経てば直ぐにいつも通りになって、久し振りという事もあって後の時間は楽しく過ごせた。先輩の毒を持った言葉はよくよく聞いてみると為になるし、ユーモアに富んでいる。苦手意識を持たれてしまうのは勿体ないと思う。先輩と私の家は途中まで一緒で、途中から逆の方向になる。ちょうどそこが交差点みたいになっていた。その所に来た時、いつも通りに挨拶して分かれようとした時だった。


「今日はありがとうございました。じゃあ、また」

「気を付けて帰るのよ。…里森さん、」

「何ですか?」


先輩の顔がいやに真剣で身構える。別れ際に引き止めるなんて今までなかった。立ち止まった私達を同じ様に帰り途中の人々が追い越していく。先輩の声は良く通る、はっきりした声だ。だから聞き間違える事なんてない。それでも一瞬私は聞き間違えだと思った。


「中川先生に、気をつけなさい」


確かにはっきりと、先輩はそう言った。私の返事を待つことなく先輩は人ごみに紛れて行く。意味が、分からない。言葉の意味を考えようとして、私が渡る予定の横断歩道の信号が変わる音に思考が邪魔される。私は考える事を諦めた。


その言葉の意味が、分からない事だけが今分かる事だけだったから。



昨日何があろうが、朝は来る。そんな当たり前の事が恨めしい今日。幸いな事に先生の授業は私のクラスにはない。私が意識してしまってちゃんと先生と話せるようになるまで会わないように、なるべく美月といるようにする事にした。

部活に出たくなかったけど、美月にまで嘘をつくのは嫌だった。昨日美月に用事があると言っていた先生が今日部室に来る事は確実でもいい。美月がいる前で流石に話す訳ないだろうし、ずっと避けている事は出来ない。


固い(?)決意を持ってやってきた部室前。スライド式ドアを開ける。賑やかな声が聞こえた。


「あ、先輩遅いっすよ!せっかく中川先生から話があるのに。早く早く!」


いつにまして嬉しそうなたまちゃんの声が私を出迎えてくれた。中川先生、という言葉を聞いて固い決意が崩れそうになるけれど、ここは頑張らなくてはいけない。自然な笑顔だ。自然体になればいいだけだ。たまちゃんがこんなに嬉しそうなのは訳がある。中川先生はとても恰好良い。まさにイケメンという言葉が似合う人だ。全体的に薄い色素、長いまつげ、筋が通った鼻。吸い込まれそうな瞳、というのを私は先生で初めて理解したほどだ。入学式の教員紹介で中川先生の番になるといつもざわつく。更に授業は丁寧で親切、それでいて教師と生徒の距離というものをちゃんと保っている。女子高の男性教諭は中々可哀そうな扱いを受ける事が多いけれど、中川先生にはそんな事はなかった。多分、顔だけではなく中身も尊敬に値する人間だからだとは思う。だから最近の先生の振る舞いが余計理解出来なくなってしまっているのだ。

私はいつもの席に座った。その席の正面には美月が座っていた。先生は机を挟んで少し遠くに座っていた。思わず安心してしまった。私が席に着いたのを見計らって先生が話し始めた。


「まずこれを見て欲しい」


先生が書類入れ見たいな袋から紙の束を取り出した。どれもすこし土で汚れている。何か紙には書かれていたらしいが、雨かなにかで流されたのか滲んで良く見えない。紙の種類はルーズリーフだったりノートの切れ端だったり、コピー紙だったり種類は色々だった。


「何ですか、これ。ゴミじゃないんですか?」

「そうゴミらしい。でもね唯のゴミじゃないみたいなんだ。…君達来年から裏山に新しく校舎が出来るの知っているかい?その工事を始める時下見をしていたら大量に見つかったらしい。最初は唯のゴミだと処分していたんだけど、毎日毎日捨てられてるし、紙に書かれているのを見て気味が悪くなってね、僕の所、というか坂本君の所に回って来たんだ。…どうしたんだい、皆驚いた顔して」


裏山に捨てらていた大量の紙。何かを思いついたようにたまちゃんが紙の束を上から捲っていく。


「やっぱり…これミカド様の紙だ」


何枚目かの紙には見慣れた五十音が書かれていた。更に捲れば同じ様な紙が何枚も何枚も出て来た。


「先生、これって工事の人達が紙を集めてたんですか?」

「そうみたいだね。毎日似たような紙が何枚か捨てられてるって気味悪いねえ」


気味悪がってない声で先生が呑気そうに言った。私も、私だけじゃない、たまちゃんも、多分美月も予想外の展開に戸惑っていた。


「何も絡んでないと思っていたけどね…まさかこんな事だったとは」

美月がぽつりという。やっぱり美月にとっても予想外な結果だったようだ。


「君達何か知ってるのかい?なら校長先生に言って欲しいんだ。校長すっかり気にして新校舎の建築を取り消すまで言いだしてて、業者と揉めて困ってるんだ」

「…知ってるも何も。校長先生には後少ししたら紙もなくなるって伝えといて。もし無くなんなくても普通に捨てて貰って構わないって」

「そうかい?まあ坂本君がそう言うならそうなんだろうね。」


投げやりな言葉に先生が頷く。今の感じを例えるなら凄い面白い漫画が急に連載が終わって、そのラストが夢オチだった時の様なそんな感じだった。

妙な脱力感に支配された後、たまちゃんが何か気付いたかのように口を開いた。


「ミカド様は、最初から何も無かったんですね」

「どういう事?」


たまちゃんの言葉が理解できない私。美月は何故か満足そうにうなずいている。


「先輩には話してなかったんですが、元々井戸には何も無かったんです。だから何もない所から呼んだって何も来ない訳だし、それに私達が実際やった時だって何も起こらなかった。その時に気付くべきだったなあ…それに紙を埋めているのが工事現場だったし無いのだって何も理由をミカド様のせいにしなくたって良かったんだ」

「ちょっと待って、じゃあ今回のミカド様って本当に何も無かったの?」

「そういう事」

「そういう事って、え~」


色々まわって、話を聞いて、試して、考えて(私はさほど考えてないかもしれないけど)この結果には流石にがっかりしてしまった。まあ、悪い、何か得体の知れないものの影響、というのよりは良いかもしれないけれど、それなりの結末があって欲しかったという気持ちもいなめない。


「あのね。何でも霊的な物にするのがおかしいの。何かの原因が霊的な物っていうのは一番最後に考えないといけないものにしななきゃ。じゃないと、何でも理解できないものがそういうのを原因にしちゃうでしょう?」


正論だった。というか美月の「人間中心」の考えをあれ程聞いていたのに。結局は良く理解していなかったという事だ。


「じゃあ何でミカド様は良く当たるって評判になったの?何も無いならそうそう当たるもんじゃないだろうし…」

「ああいうものは当たらないのが普通って思うのが多くの人の考え。でも何回かやってるとその内の一回でもどうであれ当たる事があって、その一回だけが広まる。そしてやる人が増えていく。やる人が増えれば増える程回数も多くなって当たった事実も多くなるイコール当たるという事実にすり替わっていく、っていうのが一つの考え。百発百中じゃ無ければ、絶対、なんて言えないのにね。あとテストのヤマはどうか分からないけど、占いの結果に行動を左右されてしまった人もいるでしょうね。…案外自分の行動って無意識に左右されてるし、少し工夫すれば他人に操られてしまうものよ。ああ勿論これは私の仮説。もしかしてミカド様がいるかもしれないしね」


最後の一言はとても説得感が無かった。確かにミカド様が外れる時だってあるだろうし、人によれば良く当たる事だってあるだろう。そう考えるとそういう風にしか思えなくなってきた。まだ何か言いたげなたまちゃんを遮る様に美月は言葉を続けた。


「一般的に言えばミカド様みたいな降霊術はいいイメージはないっていうのも鍵ね。例えばいつもは気にしない事が起こった時、ミカド様をやってればミカド様のせいにしやすくなるだろうし。それにね、こういう言い方悪いかもしれないけど、ミカド様みたいな占いにはまりやすい人って感受性が高すぎて直ぐ些細な事もそういう事に結びつけてしまう人が多いの。実際保健室利用名簿見たら同じ人の名前が結構あったし…」


「それって…要するに勘違い?」

「あくまでも私の推測よ」


美月は推測と言い張る。でもほぼ美月の言う事は正しいと思う。ミカド様を行った事で何か起こってるとしたら何か方法を取ってるはずだったから。美月の眼には何も今回の事を通して写らなかったのだろう。

こうして予想外の結末を持ってミカド様の調査は終わった。たまちゃんは何とか記事にして見ますとは言っていたけれど、中々難しいだろう。事実次の学内新聞にはたまちゃんの記事は載っていなかった。そして何故か自分には新聞部の勘がないから、と言って地域研に入部する事になった。たまちゃんは色々とその後地域研で大活躍してくれた。でもこれは別のお話。

美月の言葉が効いたのか裏山の工事は取り消されずに進んで、夏には基礎工事が始まるらしい。あの裏山も来年には無くなると思うと少し寂しい。工事が始まり立ち入る事が出来なくなった事もあって、ミカド様は誰も今はする人はいない。ミカド様を書き込んだ人は分からないままだったけれど、これは流石に美月でも分からないと言っていた。美月いわく、電気とは相性が悪い、だそうだ。


確かに全て解決した。一つだけを除いて。

先生の事だ。先生とはあれから取り敢えずまともに話す事は出来るようにはなった。

ただもう部室で居残りは辞めた。だけど場所を移しただけで、結局のところ居残りは続けている。今は自分の教室で残っている事が多かった。人がいる事が多かったし、見周りの先生は週一で変わるから、先生が来る日だけ場所を変えれば良かった。ちょっと意識し過ぎだと思ったけれど、先輩の言葉が引っかかったままだった。


「千早、ばいばい」

「うん、ばいばい」


そして私は今教室に居る。そして残っていた子が帰って一人になった。生憎まだ課題は終わらず、見周りの先生が来るまであと五分もない。どうしよう、そう思った時だった。


「もう部室で課題はしないの?」

「先生…」


声をかけられた。先生の声。今日は見周りは違う先生のはずなのに。私の疑問が顔に出ていたのか先生が答えた。


「今日三木先生出張だから僕が代わり。…良かった、君に会えて」


髪に触られた日を思い出す。あの日も夕方の教室で私は一人だった。逃げられない。心臓が煩い。好きな人と二人きりという事に高鳴っているのだろうか。それとも警告音なのだろうか。先生は笑っていた。優しい顔で。その笑顔が怖くて、そして何故か胸を痛くさせる。こんな顔をする人じゃなかったのに。


「君に頼みがあるんだ」

「なん、ですか…?」

声がかすれて辛うじて言葉になる。

一歩先生が近づく。そして先生が私の耳元に唇を寄せる。動けない。


「僕に君の事を好きにさせてくれないか」


いつもの口調とは違う、いつもより低い声でそう囁かれた。脳の中で断片的なキーワードにされてもう一度構築される。今度は意味も一緒に。言葉を理解する事は簡単だった。意味を理解できるかは別の話だ。


「何を言ってるんですか」

「そのままの意味だよ。本気で言ってる」


夕方は逢魔が時だ。先生は夕方になるといつも変わって私を困らせる。私を動けなくする。

暫く私は先生と見つめあったままだった。視線を外す事が出来なかった。

ふっと、先生が笑う。それはいつもの先生に戻る瞬間だった。


「また引き止めてしまったね。気を付けて帰りなさい」


先生が遠ざかっていく。私は床に座り込む。しばらくは立てそうにない。


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