第八話 不協和音
窓の外では蝉が鳴いていた。午後二時の陽射しが教室の床へ長く伸びていた。埃が一粒漂うのまで見えるほど、平和で、退屈な風景だった。
ハン・ソリン(十九歳)は制服を着て一番後ろの席に座っていた。机の上には「数学Ⅱ」の教科書が開かれていた。黒板の前では数学の教師がチョークを持ち、熱心に微分の公式を説明していた。
「さあ、ここで接線の傾きを求めるには……」
平凡だった。あまりにも平凡すぎて、吐き気がしそうなほど。ほんの三日前、ハン・ソリンはモンスターの内臓を浴びていた。仲間の脚が折れる音を聞いた。助けてくれという悲鳴を聞いた。それなのに今は?
『これは……何をやってるんだろう』
彼女は自分の手を見下ろした。爪の下にはまだ血が滲んでいるような気がするのに、ペンを握っている。隣の席の子は昨夜見たドラマの話をしてくすくす笑い、前の席の子はこっそり手紙を回している。
その中でハン・ソリンは、完全な異邦人だった。透明な壁が彼女と世界を隔てているようだった。
「ソリン、あんた早退したって? どこか具合悪かったの?」
休み時間、隣の子が心配そうな顔で聞いてきた。ニュースは子どもたちの個人情報を非公開で報道していた。学校の友人たちは、彼女が「大韓民国を救った英雄」だということを知らない。ただ、数日欠席した体の弱い子だと思っているだけだ。
「……うん。ちょっとね」
ハン・ソリンは短く答えて顔を逸らした。言えなかった。具合が悪くて休んだのではなく、怪物に食い荒らされて再生治療を受けていたとは。みんなが笑って騒いでいる間に、私は八千万ウォンの借金を背負ったとは。
授業が再び始まった。教師が黒板に新しい問題を書き始めた。
コツ。コツ。コツ。
チョークが黒板を叩く規則的な音。ハン・ソリンの眉間に皺が寄った。神経に障った。
キィィ――。
その時だった。チョークの角度が狂い、鋭い摩擦音が教室を切り裂いた。
「……!」
瞬間、ハン・ソリンの瞳孔が収縮した。教室の風景が一瞬にして灰色の廃墟に変わった。
〔キィィィイイッ!〕
幻聴が聞こえた。第二話で出会ったあいつ。残響体。音に反応して飛びかかってきた、靄のような怪物の悲鳴。
『来る』
『死ぬ』
心臓が狂ったように跳ね上がった。冷や汗が背中を濡らした。教師が再び腕を持ち上げる動作が、モンスターが触手を振り回す動きに見えた。
「避けて!」
ハン・ソリンが叫んだ。いや、彼女の口が開く前に体が先に反応した。
ガタン!
彼女は席を蹴って立ち上がり、机を投げ飛ばした。机が宙を飛んで黒板のすぐ横の壁に突き刺さった。
「きゃあああっ!」
「な、なんだよ!」
教室はたちまち修羅場になった。子どもたちが悲鳴を上げながら後ずさった。数学の教師は顔を真っ青にして座り込んでいた。
「はあ、はあ、はあ……」
ハン・ソリンは荒い息をしながら教室の真ん中に立っていた。手にはシャープペンの代わりに椅子が握られていた。殺気立った目つき。今にも何かを殺しそうな構え。
しかし彼女の目に映ったのは怪物ではなかった。砕けたチョーク。歪んだ机。そして自分を化け物でも見るように見つめる友人たちの、怯えきった瞳。
「ハン・ソリン! お、お前今何してるんだ!」
教師が震える声で叫んだ。
「ソリン、どうしたの? 頭おかしくなった?」
友人たちの囁きが鼓膜を刺した。ようやく幻覚が晴れた。ここは亀裂じゃない。学校だ。安全な場所だ。
『ああ』
ハン・ソリンの手から椅子がずるずると滑り落ちた。ドスン、という音とともに彼女の足も崩れた。
恥ずかしさではなかった。絶望感だった。
私はもう「こっち側」には戻れないんだ。何でもない物音に笑って騒いでいた十九歳のハン・ソリンは、あの日ヘリから飛び降りた時にもう死んでいたんだ。
「……すみません」
ハン・ソリンは乾いた声で呟いた。
「私が……まだ退勤できていなくて」
彼女は鞄も持たずに教室の後ろのドアを開けた。教師が後ろから呼んだが、彼女は止まらなかった。
廊下を歩く彼女の耳には、やはり蝉の声は聞こえなかった。代わりに、次の出勤を告げる機械的な呼び出し音だけが聞こえてくるだけだった。
日常は終わった。もはや彼女がいる場所は机の前ではなく、血が飛び散る地獄のど真ん中だけだった。




