第五話 死の有効距離
「くぅ……っ!」
チョン・ノア(防御型)が歯の間から呻き声を漏らした。チャ・ルナとカン・ガヨンが彼の両腕を一本ずつ掴んで引きずっていた。ぶらぶらと揺れる脚が床の瓦礫にぶつかるたびに、チョン・ノアの体が感電したように痙攣した。
速く進めるはずがなかった。血の匂いは充満し、騒音は激しかった。モンスターたちに「ここに獲物がいる」と広告しながら歩いているようなものだった。
キリッ。キリリッ。
背後から金属音がした。残響体が追ってきていた。一匹ではなかった。先に死んだやつが撒いたフェロモンに誘われ、周辺の個体が集まってきていた。
「もっと速く動けないの? 追いつかれるよ!」
ユン・セリンが後ろをちらちら見ながら叫んだ。恐怖に支配された彼女の計算能力は、すでに麻痺状態だった。
「こっちは重くて死にそうなのに、どうしろってんだ! 嫌なら自分で持てよ!」
カン・ガヨンが怒鳴った。限界だった。この速度では一分以内に追いつかれる。そして後方が崩れた瞬間、全滅だ。
ハン・ソリンは足を止めた。彼女は最後尾を歩いていた。
「……先に行って」
静かな声に、ペク・イソル(暗殺)だけが足を止めて振り返った。
「少し時間を稼いで行くから、できるだけ遠くに逃げて」
英雄心理ではなかった。このまま全員で固まっていれば百パーセント死ぬ。誰かが囮になって注意を引いている間に残りが逃げ、後で合流する方が生存確率は五十一パーセントだ。彼女はただ一パーセントでも高い方を選んだだけだった。
ドガアン!
建物の瓦礫を砕きながら、モンスターが二匹飛び出してきた。さっきのやつより大きかった。刃のような前脚が虚空を切り裂いた。
「き、狂ってる……ソリン! 避けて!」
チャ・ルナが叫んだが、ハン・ソリンは避けなかった。いや、避け方が違った。
彼女の世界が遅くなった。正確には、「雑音」が消えた。仲間たちの悲鳴も、崩れる建物の音も、今にも破裂しそうな自分の心臓の音さえも、消去された。
残ったのはただ一つ。殺意の軌跡だけ。
『右、四十五度。速度〇・三秒』
ハン・ソリンは考えなかった。脳が命令を下す前に、体が先に傾いていた。
シュッ――
ハン・ソリンの髪が数本、虚空に舞った。モンスターの前脚が彼女の左耳のすぐ横を掠めて通り過ぎた。紙一重の差。見ている者が膝をすくませるほど、ぎりぎりの距離。
しかしハン・ソリンの表情に変化はなかった。まるでそこが安全地帯だということを、あらかじめ知っていた人間のように。
『空いた』
攻撃が外れた直後、モンスターの脇の内側が露わになった。剣の使い方など習ったことはない。しかし「殺し方」は本能が知っていた。
ハン・ソリンの鉄芯が迷いなく食い込んだ。
ズブッ!
ただ刺しただけではなかった。鉄芯を突き刺した後、全体重を乗せてねじり込んだ。
キィィィイイッ!
神経束を断ち切られたモンスターが暴れながら倒れた。その巨体が崩れ落ちて土煙を立てたが、ハン・ソリンはすでにその場にいなかった。
二匹目が背後から覆い被さってきていたからだ。
「な、なんだあいつ……」
逃げていたチャ・ルナが呆然と口を開けた。ハン・ソリンの動きは異様だった。受け止めることも、大きく回避することもしなかった。
最小限の動き。肩をわずかに捻って爪を流し、首をちょっと傾けて牙を避ける。まるでモンスターと打ち合わせでもしたように、約束された踊りを踊っているようだった。
『怖くて避けられないんじゃない』『わかってるんだ。どこまでが安全で、どこからが死なのかを』
それは才能ではなかった。数千回のシミュレーションを回したかのような、ぞっとするほどの生存本能だった。
「……何してんの、早く行って!」
ハン・ソリンが二匹目の足首を断ち切りながら叫んだ。彼女の顔に黒ずんだ血飛沫が散った。
「連れてとっとと逃げなさいよ! 早く!」
その鋭い一喝に、子どもたちはようやく我に返った。もはや彼女は「感じの悪い仲間その一」ではなかった。この地獄で唯一、道を知っている存在だった。
「い、行こう! 走れ!」
チャ・ルナがチョン・ノアを担ぎ上げるようにして走り始めた。遠ざかる子どもたちの背後に、ハン・ソリンが一人モンスターの群れの中に残された。
〔データ更新〕 〔一番要員ハン・ソリン。反応速度Sランク測定〕 〔「適応室」の評価を上方修正します〕
インイヤーから聞こえてくる機械音など耳に入らなかった。ハン・ソリンは鉄芯を握り直した。手のひらが汗で滑った。
『死なない』
彼女の目が冷たく光った。大人たちが作ったシステムだろうと、目の前の怪物だろうと。私を殺せるものなど、何一つない。




