第三話 混ざらない色
モンスターが倒れた場所には、何も残らなかった。派手な戦利品も、経験値上昇を告げるファンファーレもない。ただ黒い血溜まりと、むせ返るような臭い、そして息が喉元まで迫り上がった六人の子どもたちがいるだけだった。
「はっ、はっ、はっ……」
静寂は三秒と持たなかった。
「おい」
チャ・ルナ(狂戦士)が荒い息を整えながら立ち上がった。その目には血走った怒りがあった。彼は迷いなくチョン・ノア(防御型)へ向かって大股で歩いていった。
「お前、さっき俺を殺そうとしたか?」
「え、ええ? な、何の話だよ。俺だって見えなくて……」
「見えない? その体格でか? お前が道を塞いだせいで、俺が死にかけたんだぞ!」
ドン!
チャ・ルナがチョン・ノアの肩を荒々しく突き飛ばした。チョン・ノアは悔しそうな顔で後ずさりしたが、体格の割に気圧されて言い返せなかった。
「いや、俺は守ろうとして……」
「うるさい! 守るどころか、겁먹えて盾の後ろに隠れてただけだろうが、この野郎!」
チャ・ルナがチョン・ノアの胸倉を掴みかかると、状況はたちまち修羅場になった。
「いい加減にしてよ! うるさくて死にそう!」
頭を抱えてへたり込んでいたユン・セリン(計算型)が怒鳴り声を上げた。
「あんたたちのせいで計算が全部狂ったんだけど! あいつが叫んでヘイトが飛んだせいで、私のマナ回路がおかしくなったのわかる? 今にも吐きそうなんだけど!」
「どこに向かって文句言ってんだよ」
カン・ガヨン(カウンター)がユン・セリンを睨みながら割り込んだ。脚の傷を手早く縛りながら、鼻で笑った。
「部屋の隅で計算機でも叩いてればいい女が。ねえ、お前って剣一度でも振ったの? 後ろで見物してただけのくせに口だけは達者だね」
「は? 女?」
怒鳴り声と罵倒が飛び交った。さっきまで命を脅かしていた恐怖が、今度は互いへの憎悪に変わって噴き出していた。
滅茶苦茶だった。これが国家の選んだSランク有望株だというのか。通りすがりの犬でも笑うような有様だった。
ハン・ソリンはその醜態を無表情で眺めていた。手のひらに付いたモンスターの体液をズボンに擦りつけながら考えた。
『どうしようもないな』
止める気はなかった。互いに殺し合おうが知ったことじゃない。ただ、あの馬鹿どもが見落としていることが一つあった。
〔ザザッ〕
〔状況終了を確認〕
耳に嵌めたインイヤーから、管制室の乾いた声が聞こえてきた。
〔私語禁止。休憩時間はない。直ちにB区域へ移動せよ〕
その瞬間、子どもたちの動きが止まった。チャ・ルナはふんふんと鼻息荒く空に向かって拳を振り、ユン・セリンは唇を噛んで涙を飲み込んだ。
「……聞こえた?」
ハン・ソリンが初めて口を開いた。その声は落ち着いているというより、冷え切っていた。
「喧嘩したいならすればいい。ただし歩きながらにして。ここで突っ張って射殺されたくなければね」
彼女は倒れたモンスターの死骸には目もくれず、先頭に立って歩き出した。リーダーシップではなかった。ただ、最も早く状況を把握した者の、諦念だった。
「それと、でかいの」
「……え?」
チョン・ノアがびくりと顔を上げた。
「次はちゃんと目を開けて歩くこと。私の前を塞いだら、モンスターよりお前を先に刺すから」
ハン・ソリンの目は冗談を言っていなかった。チョン・ノアは生唾を飲み込み、チャ・ルナは床に向かって大きく唾を吐いた。
「感じ悪い女」
誰かが呟いたが、ハン・ソリンは取り合わなかった。感じが悪くても構わない。生き残ることが正義なのだから。
六人は再び歩き始めた。互いの背中を信じる仲間としてではなく、互いを潜在的な邪魔者と見なす競争相手として。
崩れたビル群の向こうから、二体目のモンスターの咆哮が聞こえてきた。




