第二話 捨てられたものたちの時間(2)
ドン! ガアン!
受け身なんて取れなかった。ハン・ソリンはコンクリートの床に肩を叩きつけられ、転がった。国家が注射してくれた強化剤がなければ、鎖骨が砕けていたほどの衝撃だった。
「ぐっ……」
口の中に鉄錆の味が広がった。彼女は呻きながら顔を上げた。白い粉塵の向こうに、残りの五人の姿が見えた。ゴミ袋みたいにあちこちに投げ捨てられたような有様だった。
「くそっ……!」
最初に立ち上がったのは、〝狂戦士〟ポジションのチャ・ルナだった。状況確認もせずに悪態をつきながら、腰のあたりから何かを引き抜く。鈍い鉄の塊だ。まだ形も整っていない未完成の〝剣〟だった。
「おい! 黙って——」
ハン・ソリンが叫ぼうとしたが、遅かった。チャ・ルナが目の前の影に向かって無我夢中で突っ込んでいった。
「死ねえええ!」
そいつの怒号が合図だった。瓦礫の中に潜んでいた影が反応した。
キイイイイッ!
ガラスを引っ掻くような音とともに、影が裂けた。一部モンスター、残響体。形が固定されず、靄のように揺らめくやつだ。音と大きな動きに反応する。つまり、チャ・ルナのあの狂った叫びが、놈を最も素早く、最も獰猛に目覚めさせたのだ。
残響体が鞭のように伸び、チャ・ルナの鳩尾を薙ぎ払った。
「かっ?!」
チャ・ルナが無様に吹っ飛んだ。彼が飛ばされながら、後ろに立っていたチョン・ノアにぶつかる。
「もう、先輩! どいてくださいよ!」
「お前がぶつかってきたんだろ!」
体の大きいチョン・ノア(防御型)がよろめく間に、彼の巨大な盾(というより鉄板に近い代物)がハン・ソリンの視界を塞いだ。
「前が見えないでしょ! どかしてよ!」
ハン・ソリンは苛立ち混じりにチョン・ノアの腰を蹴り飛ばした。これは戦闘じゃない。修羅場だった。
六人はチームではなかった。狭い空間に閉じ込められた、怯えた獣が六匹いるだけだ。ユン・セリン(計算型)が隅で頭を抱えて叫んでいた。
「動線が被ってる! 確率計算が出ない! 四番、五番は下がって!」
「お前に命令される筋合いはない!」
カン・ガヨンがユン・セリンの言葉を無視して飛び出した。だが彼女の斬撃は空を切った。残響体は子どもたちのばらばらな動きに合わせ、狂ったように振動していた。
左から攻撃すれば右に躱し、同時に後ろから覆い被さる。놈はまるで、この混乱そのものを楽しんでいるようだった。
ザシュッ!
「きゃっ!」
カン・ガヨンの太ももから血が噴き出した。同時に、動きが絡まったペク・イソル(暗殺)がチャ・ルナの足に引っかかって転んだ。
「……馬鹿ばかり」
ハン・ソリンは唇を噛んだ。目の前が真っ暗になる気がした。モンスターが強いからじゃない。味方と呼ばれるやつらが四方から道を塞ぎ、視界を奪い、ヘイトを分散させているからだ。
このままでは全滅だ。プロローグのベテランたちみたいに格好よく死ぬわけでもなく、互いに足を踏み合って転びながら、犬死にする羽目になる。
『生きなければ』
ハン・ソリンの瞳孔が収縮した。彼女の手に握られた鉄芯から、かすかな光が滲んだ。
彼女が動いたのは、仲間を救うためではなかった。あの間抜けどもが全員死んだら、次の標的が〝自分〟になるから動いた。それだけだった。
「頭をどかせ!」
ハン・ソリンは転がったチャ・ルナの背中を踏み台にして跳躍した。
「ぐえっ? おい!」
チャ・ルナの悲鳴は無視した。空中に跳び上がったソリンの目に、残響体の〝核〟が見えた。霞んだ靄の中で唯一固定されている一点。
しかし距離が足りなかった。そのとき、誰かの影が彼女の足元をかすめて過ぎていった。ペク・イソルだった。存在感のないあの子が床を転がりながら、モンスターの足首を掠って通り抜けたのだ。
놈の姿勢がほんの一瞬、崩れた。偶然か? それとも狙ったのか? 考える間はなかった。
ハン・ソリンは全体重を乗せて鉄芯を叩き込んだ。技も、型もなかった。ただ、生き延びたいという凄まじい悪意だけが込められた一撃。
ズブッ!
不快な感触が手のひらを伝って走った。




