第二十話 深淵の鏡
第二十話 深淵の鏡
ソウル上空。紫色の空が引き裂けるように悲鳴を上げていた。江南、瑞草、松坡、江東。四つの区で同時に開いたSランクの亀裂が、まるで磁石に引き寄せられるように中央へと集まってきていた。
〔警告。魔力濃度測定不能〕 〔空間崩壊が加速しています〕
都市はすでに廃墟だった。崩れたビル群の合間で、六人の子どもたちは悪鬼のように戦っていた。
「うわああっ!」
チャ・ルナ(狂戦士)が大剣を振り回した。やつの体からはスパークが散っていた。脳洗浄装置の副作用、そして無理やり投与された覚醒剤の衝突。体が燃えるような痛みの中でも、彼は笑っていた。
「かかってこい! 全員ぶっ殺してやるから!」
正気ではなかった。狂気だけが彼を動かしていた。チョン・ノア(防御型)は血まみれになりながらも黙々と盾を構え、ユン・セリン(計算型)は鼻血を流しながらも魔法陣を維持していた。
彼らはシステムの命令のために戦っているのではなかった。自分たちが「偽物」だという事実を忘れるために、体を酷使して生きていることを確認しているだけだった。
「……ソリン!」
ペク・イソル(暗殺)が悲鳴を上げた。
「来る……!」
「何が?」
「あそこ! 空から!」
ハン・ソリン(リーダー)が顔を上げた。四つの亀裂が一つに合わさった地点。その黒い穴から、何かがゆっくりと降りてきていた。
それはモンスターというより、一つの「現象」に近かった。光も音も飲み込む絶対的な闇。人間の形をしていたが、大きさは超高層ビルほどもあった。
深淵の本体(The Abyss)。すべての亀裂の根源であり、世界を蝕む病の原因。
ウウウン――。
その巨大な存在が地に足をつけると、ソウル全域の時間が止まったように静まり返った。暴れ回っていた下位モンスターたちが一斉に地面に平伏した。恐怖ではなく、畏敬だった。
「……あれを、俺たちに倒せって?」
カン・ガヨン(カウンター)が乾いた笑いを漏らした。不可能だった。あれは剣で刺したり魔法で焼いたりできるものではなかった。存在の格が違った。
チェ・ジニョク局長でさえ、モニターの向こうで茫然としていた。人類が太刀打ちできない災厄。終わりだった。
しかし。
〔……〕
その巨大な存在は都市を破壊しなかった。ゆっくりと、ゆっくりと頭を垂れて、足元の六人の子どもたちを見下ろした。
その空洞の眼窩が子どもたちに向いた。
ハン・ソリンは動けなかった。恐怖のせいではなかった。説明のつかない「懐かしさ」が胸を締め付けてきたからだ。
『何だ? この感覚は?』
長い間離れていた故郷に帰ってきたような安堵感。母の胎内に包まれているような温もり。地下室で感じた「自我喪失の恐怖」とは正反対の、「完全になっていく感覚」。
その時、子どもたちの頭の中に声が響いた。耳で聞く音ではなかった。脳の深層、いや遺伝子に刻まれたコードが共鳴する音だった。
〔……見つけた〕
深淵が手を伸ばした。ビルほどの大きさの指が、ハン・ソリンの目の前で止まった。
〔我が欠片たちよ〕
「……欠片?」
ハン・ソリンが呆然と聞き返した。
〔お前たちは人間ではない〕 〔我々が世界を理解するために撒いておいた……感覚器官だ〕
深淵の声は子どもたちの記憶を強制的に引き出した。国家が彼らに注入したという「Sランク因子」。チェ・ジニョクはそれを「かつての英雄たちのデータ」と言ったが、それは嘘だった。
国家は英雄たちのデータを入れたのではなかった。亀裂から採取した「深淵の欠片」を人間の子どもたちに植え込んだのだ。
だから彼らは強かった。だからモンスターのパターンを本能的に知っていた。そもそも彼らと同じ種族だったから。
〔戻ってこい〕
深淵が手招きした。
〔苦しい肉体を捨てて、再び一つになろう〕 〔そこには借金も、抑圧も、死もない〕
甘い誘惑。チャ・ルナの目が緩んだ。チョン・ノアがよろめきながら前へ進み出た。地獄のような現実。自分たちを利用するだけの国家。いっそあの絶対的な闇の中に溶け込んでしまった方が幸せではないか?
しかし。
チャン――!
ハン・ソリンが鉄芯でチョン・ノアの前を遮った。
「……行くな」
彼女の目から血の涙が流れ落ちた。
「ソ、ソリン?」
「あいつの言うことが正しくても……私たちは今、人間だ」
ハン・ソリンは震える手で鉄芯を握り直した。彼女は深淵を睨みつけた。私の根源。私の本当の親。
しかし彼女は否定した。
「誰の許可を取って戻ってこいって言ってる」
彼女は歯を食いしばった。
「私はハン・ソリンだ。借金まみれで、消耗品で、偽物かもしれないけど……今ここで息をしているのは私だ」
彼女は鉄芯を深淵の巨大な指へと向けた。
「私たちを飲み込みたければ、金払って買っていけ」
それは最もハン・ソリンらしい拒絶だった。世界中のすべてが彼らを部品扱いしても、「私」という自我の所有権だけは絶対に渡さないという意地。
〔……惜しいな〕 〔まだ熟していない〕
深淵が手を引いた。その巨大な形体が煙のように散り始めた。
〔待っていよう。お前たちが自ら崩れ落ちるまで〕
深淵は消えた。しかしそれは後退ではなかった。子どもたちの内側に、消えることのない「種」を植え付けていったのだ。
紫色の空が晴れ、夜明けが訪れようとしていた。廃墟と化したソウル。その真ん中に、六人の子どもたちが立っていた。
モンスターは退いた。国家は生き残った。しかし子どもたちは、もはや以前には戻れなかった。
自分たちが戦うべき相手が、モンスターでも国家でもなく……自分自身(内なる怪物)だと知ってしまったから。
ハン・ソリンは自分の手を見下ろした。陽光の下に映る手はまだ人間のものだったが、影は揺らめく黒い煙のように見えた。
「……終わりじゃない」
彼女が呟いた。
「今から始まりだ」




