第十九話 緊急再起動
第十九話 緊急再起動
ドガアアン――!
国家ハンター管理庁本部ビルが、段ボール箱のようにひしゃげた。地下四階整備室の天井からコンクリートの破片が雨のように降り注いだ。
「局長! 第一、第二防衛線が突破されました!」
「アークチーム、連絡途絶! 生死確認不能!」
「江南上空に……眼が現れました! 深淵本体です!」
管制室は阿鼻叫喚だった。モニターはすべて赤い警告ウィンドウで覆い尽くされた。ソウルの空が引き裂かれた。その隙間から溢れ出した黒い霧が、都市を消しゴムのように消し去っていった。
「くそ……」
チェ・ジニョクは埃をかぶったまま歯を食いしばった。終わりだ。アークチームは連絡が途絶え、軍は麻痺した。残ったカードはたった一枚だけ。
彼は停電した整備室を振り返った。非常灯だけが瞬く闇の中、六つの椅子に縛られた子どもたちが見えた。
「……起こせ」
チェ・ジニョクが命令した。
「し、しかし記憶消去が九十パーセントで止まっています。今起こしたら自我分裂や暴走の危険が……」
「構わない! 今すぐ送り出さなければ全員死ぬぞ!」
チェ・ジニョクが研究員の胸倉を掴んで叫んだ。
「狂犬でも放り出さないといけないだろ! 今すぐ再起動しろ!」
研究員は震える手でレバーを引いた。手動操作。安全装置解除。強制覚醒コード入力。
ドウン――。
巨大な電流が子どもたちの脳を直撃した。
〔System Reboot.〕 〔Memory Wipe: Failed.〕 〔Restoring Data…… Error. Error.〕 〔Emergency Mode Activated.〕
機械的な音声が途切れ途切れに聞こえた。
パッ!
ヘッドギアのランプが緑色に変わった。同時に、ぐったりと垂れていた六人の頭がぱっと上がった。
「はっ!」
ハン・ソリン(リーダー)は荒い息を吐き出しながら目を開けた。視界が赤かった。頭が割れるように痛かった。脳の中で数千枚のガラスが砕ける音がした。
『私は……誰だ?』
『お前は偽物だ』 『お前はハン・ソリンだ』 『お前は部品だ』
混ざり合わない声たちが頭の中を渦巻いた。記憶がぐちゃぐちゃだった。ヘリから飛び降りた記憶、モンスターの内臓をかき回した記憶、そして……水槽の中で眠っていた「本物の私」を見た記憶。
「……ああ」
ハン・ソリンの瞳孔が揺れ、やがて冷たく固まった。消されかけた。だからこそ、より鮮明になった。
自分が人間ではないという事実と、あいつらが自分を殺そうとしたという事実が。
カチャッ。
拘束具が外れた。子どもたちが床に崩れ落ちた。チャ・ルナ(狂戦士)は頭を抱えて悲鳴を上げ、チョン・ノア(防御型)は嘔吐した。脳が燃えてしまいそうな痛みのせいだった。
「立て! 今すぐ!」
チェ・ジニョクが拳銃を持って近づいてきた。
「今ソウルが吹き飛んでいる。行って止めろ。止められなければお前たちも廃棄だ」
相変わらず命令。相変わらず脅迫。その厚顔無恥さに、ハン・ソリンは乾いた笑いが込み上げた。
彼女はよろめかずに立ち上がった。そして静かにチェ・ジニョクに向かって歩いていった。
「……止まれ! 近づくな!」
チェ・ジニョクがハン・ソリンの額に銃口を向けた。しかしハン・ソリンは止まらなかった。銃口が彼女の額に触れた。
「撃てばいい」
ハン・ソリンが静かに言った。
「撃てるなら撃ってみれば」
その目は空洞だった。恐怖も生気もない、ただ深淵だけが宿った瞳。
「私が死んだら、誰があれを止めるの?」
チェ・ジニョクの手が震えた。撃てなかった。この「不良品」が唯一の希望だったから。
ハン・ソリンはチェ・ジニョクの手から拳銃を静かに奪い取った。そして弾倉を外して床に投げ捨てた。
「勘違いしないで」
彼女は振り返って床に散らばった仲間たちを見た。記憶が途切れて虚ろな目をした仲間たち。いや、同じ工場から出てきた不良品たち。
「国を救いに行くんじゃない」
ハン・ソリンが床に落ちた鉄芯を拾い上げた。冷たい金属の感触。これだけが唯一の現実だった。
「ただ……死にたくないから戦うだけ」
彼女はチェ・ジニョクの耳元に冷たく囁いた。
「行ってきます。局長」
その言葉は「生きて戻ったらお前を殺す」という宣戦布告だった。
「……行くよ」
ハン・ソリンが先頭に立った。チャ・ルナとチョン・ノアがよろめきながら彼女の後に続いた。なぜ戦わなければならないのか、自分たちが誰なのかさえ忘れてしまっていたが、彼らの体はハン・ソリンの背中についていくことに慣れていた。
それは信頼ではなかった。インプットされたコードよりも深く刻み込まれた「生存本能」だった。
地上に出た瞬間。彼らは地獄を見た。
空がなかった。巨大な黒い渦がソウルの空を覆っており、ビルたちは重力を失って虚空へと浮かび上がっていた。人々の悲鳴はもう聞こえなかった。すでに都市そのものが一つの巨大な墓になろうとしていた。
「……うわあ」
チャ・ルナが呆然と口を開けた。
「これ……俺たちが止めるの?」
不可能だった。あれはモンスターじゃない。神だ。世界の終わりを告げる黙示録の一場面。
しかしハン・ソリンは笑った。血まみれの唇が奇妙に歪んだ。
「面白いじゃない」
彼女が鉄芯を握り直した。
「偽物が本物を救うコメディ、ここで終わらせよう」
彼女は走り始めた。恐怖は削除されていた。残ったのはただ、自分をこうした世界と、あの空の上の怪物に対する「破壊本能」だけだった。
六つの小さな点が、巨大な闇へと身を投げた。




