第一話 捨てられたものたちの時間(1)
第一話 捨てられたものたちの時間(1)
ドドドドドド――。
ヘリのローター音が鼓膜を引き裂くように響いた。絶え間ない振動が硬い鉄製の椅子を伝わり、脊椎まで届いてくる。尻がしびれ、頭がずきずきと痛んだ。
ハン・ソリン(19)は、膝の上に置いた自分の手を見つめた。手首には銀色の手錠がはめられていた。囚人護送用ではない。青いLEDが点滅する、〝高リスク覚醒者管理用〟魔力抑制拘束具だった。
『……うるさい』
彼女は眉をひそめ、顔を上げた。揺れる機体の内部、薄暗い非常灯の下に五人が座っていた。
向かいに座った男の子は制服のズボン姿のまま頭を垂れていた。眠っているのか、気絶しているのかわからない。(チャ・ルナ)その隣の女の子は血が出るほど爪を噛んでいた。(ユン・セリン)がっしりとした体格の男は、自分がなぜここにいるのかすらわかっていない間抜けな顔で虚空を見つめていた。(チョン・ノア)
どいつもこいつも、どこかぶっ壊れたおもちゃみたいな有様だった。
これが、大韓民国政府がかき集めた〝代替案〟だった。先ほど全滅したという大人たちの代わりに、肉の盾として使われる未成年者たち。名前も、年齢も、住んでいる場所も知らない。知る必要もなかった。どうせこの中の半分は、今日家に帰れないのだから。
「現場到着、三分前!」
ヘッドセットをつけた引率要員が叫んだ。彼は子どもたちと目を合わせなかった。まるで屠殺場に牛を連れていく人間のように、その視線はタブレットPCと腕時計の間だけを行き来していた。
「ブリーフィングする。耳を開けて聞け」
要員が壁面のボタンを押した。ジジッという雑音とともにモニターが点いた。画面に映し出されたのは、ソウル都心のど真ん中だった。いや、都心だった場所だった。
半径2kmが踏み砕かれていた。無事だったはずのビル群は飴細工のように歪み、八車線の道路は巨大な爪で引っ掻いたように抉られていた。その中心に黒い穴――亀裂が口を開けていた。
「先発隊〝黄金世代〟チーム全滅確認」
要員の声は事務的だった。人が死んだという報告ではなく、機械が故障したという報告に近かった。
「現在、亀裂圧力値88%。十五分以内に95%を超えれば、ソウル江北地域全体が崩壊する。お前たちの任務は一つだ」
画面が消えた。要員が冷たい目で六人を見渡した。
「我々が遮断幕を再設置するまで、あの中で三十分間耐えること」
耐える。その言葉の本当の意味を、ソリンは知っていた。
勝てということじゃない。倒さなくていい。ただあの中で飛び出してこようとする化け物の注意を引いて、体で塞いで、腕の一本や足の一本を差し出しながら時間を稼げということだ。
「ふざけんな……」
隣の誰かが小さく毒づいた。制服の名札に〝カン・ガヨン〟と刻まれた女の子だった。
「ねえ、おっさん。外すって言ってなかったじゃん。手錠したままどうやって戦えっての?」
「降下直前に外れる」
要員が短く返した。
「それと肝に銘じておけ。お前たちはヒーローごっこをしに行くんじゃない。逃げたら射殺、命令不服従は拘束期間延長だ」
ガタン――!
機体が大きく傾いた。現場上空に進入したのだ。窓の外から刺激臭を持つ煙が漂い込んでくる。血の匂いとコンクリートの粉塵。そして正体のわからない生臭いオゾンの香り。亀裂の匂いだった。
「降下準備!」
ドゴン。ヘリ後部ドア(ランプ)が開いた。突然吹き込んできた突風が、子どもたちの髪をめちゃくちゃに乱した。機体内部の空気が瞬く間に冷たくなった。
ハン・ソリンは下を見下ろした。はるか下の方。崩れたビル群の間に、先ほど大人たちを食い尽くしてまだ腹を空かせた化け物たちがうごめいていた。
闇の中でぎらつく数十対の眼。あいつらは悪党じゃない。ただの災害だ。津波や地震に感情がないように、あいつらにも殺意はない。ただ存在するだけだ。
カチャ。
手首を締めつけていた手錠から電子信号音が鳴り、ぱちんと外れた。ハン・ソリンは疼く手首を擦りながら立ち上がった。
鞘はなかった。華やかな鎧もなかった。国家が支給したのは薄い防護服一着と、腰に下げた無骨な鉄芯一本だけだった。しかしそれで十分だった。
どうせ剣は鉄じゃない。生きたいという、おぞましいほど鮮明な〝反応〟なのだから。
「一番、ハン・ソリン、降下」
要員が背中を押した。迷う間も、遺書を残す時間もなかった。
ハン・ソリンは虚空へ身を投げた。重力が彼女を掴んだ。胃と心臓が分離するような浮遊感。
自由落下するその短い瞬間、彼女は思った。
『大人はいいよな』
頭上に遠ざかるヘリを見上げながら、彼女は口の端を歪めた。
『死んで退勤できるんだから』
地面が恐ろしい速度で迫ってきていた。最初の出勤だった。




