第十八話 初期化
第十八話 初期化
ジジジッ――!
「うわああっ!」
ハン・ソリン(リーダー)の体が強烈な電流に包まれて弾き飛ばされた。彼女が振り回そうとした鉄芯が床に転がった。警備ロボットたちが放ったテイザーガン。普通の電圧ではなかった。Sランク覚醒者の神経系を麻痺させることのできる特殊電力だった。
「離せ! 離しなさいよ!」
チャ・ルナ(狂戦士)が暴れたが、ロボットの油圧アームが彼の首を押さえつけた。チョン・ノア(防御型)とユン・セリン(計算型)はすでに泡を吹いて気絶しており、ペク・イソル(暗殺)は隅に追い詰められながら震えていた。
「……はあ、はあ」
ハン・ソリンは床を這って原本の水槽の方へ手を伸ばした。触れたかった。起こして聞きたかった。私が本物なのか、あなたが本物なのかを。しかし軍靴がその手の甲を無残に踏みにじった。
メキッ。
「痛い?」
頭上から聞こえた声。管理局長チェ・ジニョクだった。汚い虫でも見るように、ハン・ソリンの手をこすりながら踏みしめ、舌打ちをした。
「偽物の神経のくせに、痛覚だけは敏感に作っておいたんだな。そうしないと逃げ回れないからな」
「……こ、このクズが」
「罵倒はよせ。お前の声帯も、お前が吐き出すその怒りも、全部税金で作ったものだから」
チェ・ジニョクが合図すると、要員たちが子どもたちを荷物のように持ち上げた。彼らは子どもたちを水槽の前ではなく、壁面の奥の「整備室」へと連れて行った。
整備室の光景は手術室よりもコンピュータ室に近かった。六つの金属製の椅子。頭を固定するヘッドギア。そして無数のケーブル。
子どもたちはその椅子に強制的に拘束された。
「局長、全員廃棄しますか?」
研究員が無表情に尋ねた。
「いや。廃棄するには投じた予算が大きすぎる。まだ減価償却も終わっていない」
チェ・ジニョクは椅子に縛られたハン・ソリンの顎を掴んで持ち上げた。
「記憶消去(Memory Wipe)。そして再設定(Reset)で行く」
「しかし脳細胞の損傷率が……」
「馬鹿になっても構わない。命令さえ聞けばいい。自我なんてものは戦闘の邪魔になるだけだから」
その言葉が死刑宣告のように聞こえた。死ぬのではなかった。「私」という存在が消されるのだ。
「う、嘘ですよね?」
ユン・セリンが泣きながら叫んだ。
「私たちが偽物だって? じゃあ私の記憶は? お母さんと遊園地に行ったこと、小学校の時に賞をもらったこと……それが全部嘘だって言うんですか?」
チェ・ジニョクはふっと笑いながらモニターの画面を向けた。
〔シナリオコード:Happy_Childhood_Ver.4〕 〔注入された記憶リスト〕
七歳:遊園地エピソード(愛着形成用)
十三歳:数学コンクール受賞(知的能力自覚用)
十七歳:交通事故で両親死亡(トラウマおよび依存性強化用)
「お前が覚えている『お母さん』はいない、三番」
チェ・ジニョクの説明は残酷なほど丁寧だった。
「我々が雇った俳優か、あるいはグラフィックデータだ。お前たちに『守るべき世界』があるという錯覚を植え付けるための設定値に過ぎない」
「あ……ああ……」
ユン・セリンの瞳孔が緩んだ。自分の人生すべてが誰かが書いた安っぽい台本だったという事実。彼女のメンタルが音もなく砕け散った。
「さあ、始めろ。汚染されたデータを全部消し飛ばせ」
ウィン――ウィン――。
機械が動き始めた。ヘッドギアから青い光が放たれた。
「ぐっ! ぐああああっ!」
最初に悲鳴を上げたのはチャ・ルナだった。脳をミキサーにかけるような痛み。頭の中が白く点滅した。彼の頭の中から「友人と喧嘩した記憶」、「初めてモンスターを倒した記憶」、果ては「自分が誰であるか」という情報が、糸巻きのようにほどけ始めた。
「嫌だ……嫌だ! 私のものだ! 私の記憶だって!」
チャ・ルナがもがいたが、拘束具はびくともしなかった。彼の目つきが次第に濁っていった。狂気に満ちた怒りが消え、ただ空虚な茫然さだけが残っていった。
「ソ、ソリン……」
チョン・ノアが頭を垂れながら呟いた。彼の目から涙が流れたが、その涙さえも何故流れているのか忘れ始めていた。
ハン・ソリンは歯を食いしばった。口の中が裂けて血が流れた。
『消されるって?』 『私が経験してきたあの地獄が? あの痛みが? 全部嘘だって?』
彼女は目を見開いてチェ・ジニョクを睨みつけた。視界が霞んでいた。頭の中の図書館が燃えるように、記憶たちが灰になって消えていった。
昨日食べたご飯。学校の友人たちの顔。アークチームに感じた怒り。そして……自分が人間だと信じていたあの切実な思いまでも。
〔フォーマット進行率:四十五パーセント……六十パーセント……〕
『駄目だ』
ハン・ソリンは必死に一つの記憶にしがみついた。幸福な記憶ではなかった。初めてヘリから飛び降りたあの瞬間。あの凄まじかった恐怖。それだけは本物だった。私が感じたものだから。私の肉が震えて私の心臓が跳ねたものだから。
「……私は」
ハン・ソリンが血の泡混じりの声で呟いた。
「私は……ハン・ソリンだ」
「違う」
チェ・ジニョクが彼女の耳元で囁いた。
「お前は『問題の六人』一番だ。部品だよ」
〔進行率:九十パーセント〕 〔自我深層領域崩壊寸前〕
ハン・ソリンの頭がぐらりと垂れた。抵抗していた指の力が抜けた。すべてがブラックアウトした。
彼女の意識が深淵へと沈んでいく瞬間。
ドドドドドン――!
巨大な振動が建物を直撃した。単純な地震ではなかった。空間そのものが歪む、Sランク以上の魔力の嵐。
「な、何だ!」
チェ・ジニョクがよろめいた。モニターたちが次々と爆発した。赤い非常灯が狂ったように回り始めた。
〔緊急警報! 緊急警報!〕 〔ソウル全域、Sランク亀裂四箇所同時発生!〕 〔魔力濃度測定不能! 大災厄(Cataclysm)警報!〕
機械が止まった。電力が遮断され、整備室が闇に沈んだ。
「くそ! 予備電力を回せ! 記憶消去を終わらせろ!」
チェ・ジニョクが怒鳴ったが、研究員たちは慌てふためいていた。
その闇の中で。頭を垂れていたハン・ソリンの指が、微かにびくりと動いた。
消されかけた自我。砕け散った記憶の欠片たち。その不完全な隙間から、消えなかった本能が蠢いていた。




