第十六話 周波数
第十六話 周波数
国家ハンター管理庁別館、D棟寮。寮とは名ばかりの、倉庫を改造して作った六人部屋だった。じめじめした壁紙、きしむ二段ベッド。そこが大韓民国を救った英雄たちの安息の場所だった。
「……まずい」
チャ・ルナ(狂戦士)がコンビニの弁当をつつきながら愚痴をこぼした。ハン・ソリンが受け取ってきた分厚い封筒は、まだ机の上にそのまま置かれていた。誰もその金で豪勢な打ち上げに行こうとは言わなかった。その金は「プライドを売った値段」だったから、気軽に使う気にはなれなかった。
「黙って食べなよ。明日の食事表見たら、また軍の飯だったよ」
カン・ガヨン(カウンター)がカップラーメンのスープを飲みながら答えた。静寂が流れた。テレビもない部屋。聞こえるのは割り箸がぶつかる音と、窓の外からかすかに聞こえるサイレンの音だけ。
その時だった。隅のベッド、カーテンを引いていたペク・イソル(暗殺)がひょいと顔を出した。
「……あの」
蟻が這うような声。しかしその希少性のせいで、全員の視線が集まった。ペク・イソルが自分から口を開くのは、チーム結成以来初めてだった。
「どうした? ラーメン食べる?」
「違って……」
ペク・イソルは不安そうに爪をかりかりと噛んだ。その瞳が激しく揺れていた。
「さっき……二区域のトンネルで」
「うん、アークチーム助けたとこ? それが?」
「あの壁打虫が死ぬ時……聞こえた?」
子どもたちが顔を見合わせた。何の話? やつは悲鳴も上げずに死んだ。ハン・ソリンが内核を爆破して、チョン・ノアが口を塞いでいたから。
「悲鳴のこと言ってる?」
「違う。悲鳴じゃなくて」
ペク・イソルが生唾を飲み込んだ。
「数字」
「……何?」
「やつが死ぬ直前に……数字を言ったの」
瞬間、部屋の空気がひんやりと沈んだ。モンスターが数字を言う? ありえない話だった。学界の定説によれば、モンスターには声帯がない。ただ魔力の波長を音のように発するだけで、知性も言語も持たない災害の塊だ。
「聞き間違いじゃないの? うるさすぎて耳鳴りがしただけじゃない?」
チャ・ルナが大したことないように流そうとした。しかしペク・イソルは強く首を振った。
「違う。確かに聞こえた。私の耳……敏感なの、知ってるでしょ」
暗殺型覚醒者の聴覚は一般人の二十倍だ。集中すれば、他の人には聞こえない心臓の鼓動まで聞き取れる彼女だった。
「……何て言ったの?」
ハン・ソリン(リーダー)が箸を置いて聞いた。ペク・イソルは記憶を辿るようにゆっくりと口を開いた。
「三十七点五六……一二七点九〇」
「……」
「それと……『見つけた』って言ったの」
鳥肌が立った。単純な数字ではなかった。あまりにも具体的で、作為的な配列。その時、ノートパソコンを叩いていたユン・セリン(計算型)の手が止まった。
「ちょっと待って」
ユン・セリンの顔色が青ざめた。彼女は憑かれたようにキーボードを叩いた。
「イソル、もう一回言って。三十七点五六?」
「うん。それと一二七点九〇」
ユン・セリンが地図プログラムを立ち上げた。座標入力欄にその数字を入れた。緯度三七・五六、経度一二七・九〇。
〔検索結果:ソウル特別市城東区XX洞、聖水大橋北端付近〕
「……座標だ」
ユン・セリンが震える声で言った。
「ソウルの真ん中だよ。しかも明日私たちが巡回することになってる区域のすぐ隣」
子どもたちの口がぽかんと開いた。モンスターが座標を言った? しかも「見つけた」という言葉とともに? それはやつらに知性がないという前提をひっくり返す話だった。いや、誰かがやつらを「送り込んだ」という意味になるかもしれなかった。
「……ねえ、これ報告しないといけないんじゃない?」
チョン・ノアが怯えた様子で聞いた。しかしハン・ソリンは首を振った。
「誰に? 局長に?」
「そ、それじゃあ……」
「言ったところで頭おかしい扱いされるか、あるいは……」
ハン・ソリンの目が細くなった。
「知ってて隠してるなら、私たちを口封じしようとするかもしれない」
今日経験したことが頭をよぎった。アークチームの失敗を隠すために封筒を差し出してきた大人たち。彼らが果たして「モンスターが喋った」という報告を素直に受け入れるだろうか。むしろ「危険な妄想」を抱える欠陥品として分類し、廃棄しようとするかもしれない。
「秘密にする」
ハン・ソリンが断固として言った。
「誰にも言わないで。特にソ・ジウとか国ハン庁の職員には」
「じゃあどうするの? あの座標、無視するの?」
ハン・ソリンはユン・セリンのノートパソコンの画面を見つめた。地図の上に打たれた赤い点。そこは普通の住宅街だった。まだ何も起きていない、平和な場所。
しかしモンスターはそこを「見つけた」と言った。
「……明日」
ハン・ソリンが決心したように口を開いた。
「巡回ルートを操作して、そこに行ってみる」
「は? ちょっと、謹慎食らってまだ一日も経ってないよ! また離脱したら本当に切られるよ!」
「気になるじゃない」
ハン・ソリンがペク・イソルを見た。いつも影の中に隠れていたペク・イソルが、初めてハン・ソリンの目を逃げずにまっすぐ見つめ返していた。彼女も知りたいのだ。自分が殺してきたものたちが、一体何なのかを。
「私たちが倒してるのがただの怪物なのか、それとも……別の何かなのか」
ハン・ソリンは机の上の封筒を掴んで引き出しの奥深くに押し込んだ。
「準備して。明日はモンスター退治じゃない」
「じゃあ何?」
「宝探しだよ。すごく最悪な」
窓の外で雨が降り始めた。ガラス窓に打ちつける雨音が、まるで誰かが窓を叩く信号音のように聞こえた。彼らの夜は、今まさに本当の闇の中へと踏み込もうとしていた。




