第十四話 マニュアルの死角
「今回の作戦の核心は『制御』と『安定性』です」
現場指揮テントの中。アークチームのリーダー、ソ・ジウがレーザーポインターでホログラム地図を指しながらブリーフィングをしていた。
「A区域進入後、魔力ドーム(Dome)を設置し、モンスターの移動経路を遮断します。予想クリアタイムは二十分。誤差範囲は三十秒以内です」
完璧だった。無駄のない戦術、最新型の装備、自信に満ちた態度。ブリーフィングを聞いていた国ハン庁の幹部たちは、満足そうに頷いた。
その隅に、「問題の六人」が蹲っていた。彼らはブリーフィングに招かれたわけではなかった。ただ万が一の事態に備えた「予備戦力(と書いて荷物持ちと読む)」として待機しているだけだった。
「……馬鹿馬鹿しい」
チャ・ルナ(狂戦士)が欠伸をしながら呟いた。
「モンスターがそんなに綺麗に動いてくれるわけないだろ。経路制御とか、寝言言ってんの」
「黙れ。飯の種が消えるよ」
ハン・ソリン(リーダー)がチャ・ルナの脇腹を突いた。しかし彼女も心の中では鼻で笑っていた。あの地図は「過去のデータ」に過ぎない。亀裂は生きている。昨日の正解が今日の間違いになる場所だ。あのエリートたちはそれを知らない。いや、失敗したことがないから知らないふりをしているのだ。
「では、『問題の六人』チームは」
ソ・ジウが柔らかい笑みを浮かべながら振り返った。
「私たちが全部仕留めた後、残存物の処理をお願いします。あ、危険すぎると思ったら逃げてもいいですよ。私たちが何とかしますので」
明確な嘲り。しかしハン・ソリンは無表情に答えた。
「わかった。頑張れよ」
怒る価値もなかった。今日のモンスターは「壁打虫(二部モンスター)」だった。ただの怪物ではない。空間の圧力を操作して物理的に押しつぶすやつだ。魔法防御? そんなもので通じるはずがなかった。
〔進入開始〕
亀裂の内部は、巨大な閉回路のように絡み合った地下トンネルだった。
「展開! シールド!」
アークチームのタンクが青い魔力の盾を広げた。華やかなエフェクトとともにモンスターたちの攻撃が弾き返された。
「綺麗ですね。さすがアークです」
後方からついてきた要員が感嘆した。ソ・ジウは余裕の表情で指揮棒を振った。アタッカーたちが踊るようにモンスターを斬り捨てていった。血の一滴も飛ばない、教科書通りの戦闘。
「見ましたか? これがSランクの品格です」
ソ・ジウが後ろをついてくるハン・ソリンチームをちらりと見て言った。
「無駄に体で乗り越えようとせず、少しは見て学ん……」
グウウウウウ――。
その時だった。地面が揺れた。いや、空間全体が悲鳴を上げ始めた。
「……え?」
ソ・ジウの笑みが固まった。前方の闇の中から何かが迫ってきていた。形がなかった。代わりに、トンネルの天井と床、両側の壁が巨大なプレス機のように内側へ狭まってきていた。
二部モンスター、壁打虫。やつは自ら動かない。周囲の環境を収縮させて侵入者を圧死させる。
「ま、魔力数値急上昇! 防御して!」
ソ・ジウが叫んだ。アークチームのタンクが出力を最大まで上げてシールドを強化した。
ミシッ!
しかし無駄だった。魔法攻撃ではなかった。数千トンのコンクリートと岩石が物理的に押し寄せてくる「質量兵器」だった。
「うわああっ! シールドが……シールドが持ちません!」
パリーン!
ガラスの割れる音とともに魔力シールドが砕け散った。自慢の最新型装備が紙切れのように潰れた。
「な、何これ? マニュアルにこんなの載ってなかったじゃないか!」
「後退! 後退しろ!」
パニックだった。経路制御? 誤差範囲三十秒? 圧倒的な物理力の前に、彼らの精巧な計算はゴミ屑と化した。
迫り来る壁。退路は塞がれた。ソ・ジウは呆然と近づいてくる死を見つめた。頭の中が真っ白になった。一度も経験したことのない状況。習ったことのない問題。
『死ぬ』
天井が頭上まで下りてきた瞬間。
ドン!
誰かがソ・ジウの肩を足で蹴り飛ばした。
「痛っ!」
ソ・ジウが床に叩きつけられた。彼が立っていた場所に、巨大な鉄筋の塊が落下した。
「どけ、お坊ちゃんたち」
聞き覚えのある声。血の匂いがぶわっと漂った。
ハン・ソリンだった。彼女は皺くちゃになった防護服を着て、無骨な鉄芯一本を持ったまま立っていた。
「これは魔法で防ぐもんじゃない」
彼女は天井を見上げた。
「ぶち壊すんだよ」
「は? 正気? あの質量をどうやって……!」
ハン・ソリンは答える代わりに後ろを振り返った。
「チャ・ルナ! チョン・ノア!」
「おう!」
「天井の隙間見える? 十一時方向の亀裂!」
「見える!」
「ノアが支えて、ルナがぶち込め! カン・ガヨンは飛んでくる破片を弾け!」
「わかった!」
迷いは〇・一秒もなかった。チョン・ノアが折れそうな足で飛び込み、崩れてくる天井を肩で受け止めた。
「ぐあああっ!」
無骨な力。魔力ではなく、根性で耐える骨と筋肉の悲鳴。その隙をついてチャ・ルナが大剣を突き刺した。
ドガアン!
精巧さなんてなかった。ただ無骨に、壁が狭まってくる力の逆方向へ爆発を起こして隙間を作る方法。建物崩壊の危険? 知ったことではなかった。今すぐ潰されて死ぬよりはましだから。
「おい! 開いた! 逃げろ!」
ハン・ソリンが叫んだ。土煙の中に小さな穴が開いた。
「……何してんの?」
ハン・ソリンが呆然と座り込んでいるソ・ジウの胸倉を掴んだ。
「走らないの? そこで死にたいの?」
ソ・ジウはなし崩しに引っ張られていった。彼の目に映ったのは「品格あるSランク」の姿ではなかった。血と埃をかぶり、悪態をつきながら、犬のように地面を這ってでも活路を開く、生存機械たちの姿だった。
「これが……Sランクなのか?」
ソ・ジウの呟きは爆発音にかき消された。その日、エリートたちの教科書は引き裂かれた。代わりに、野生の生存法則がその場所を埋め始めた。




