第十話 残業
第十話 残業
「訓練終了。全員、シャワー室へ移動しろ」
スピーカーから聞こえたその言葉が、救いのように感じられた。床に転がっていた子どもたちは、返事をする力もなく手だけをひらひらと動かした。
「はあ……はあ……死にそう、マジで」
チャ・ルナ(狂戦士)が大の字に寝転んだまま呟いた。全身が汗まみれだった。チョン・ノア(防御型)は脚を抱えて安堵の息を吐き、ユン・セリン(計算型)は隅で蹲って乾いた嗚咽を漏らした。
地獄のような三時間だった。互いを信頼したわけではなく、自分が生き延びるために無理やり背中を合わせた。その結果が「生存」だった。
「飯……飯は出るの?」
カン・ガヨン(カウンター)がふらふらと立ち上がった。
「知らない。出るでしょ。出なかったらストライキする」
他愛もない言葉を交わしながら、子どもたちはよろよろと装備を片付けた。もう洗って、飯を食って、ベッドに倒れ込んで寝たかった。それだけが唯一の報酬だったから。
しかしこの世界は、そのささやかな報酬すら許してくれなかった。
ウーッ! ウーッ! ウーッ!
シャワー室のドアを開ける前に、赤いサイレンが訓練場を覆い尽くした。訓練用の警報ではなかった。耳を切り裂くような高周波音。 実際の状況(Real Situation) を告げるコードレッドだった。
「……何? 誤作動?」
チャ・ルナが顔をしかめながら天井を見上げた。
〔緊急召集。緊急召集〕 〔「問題の六人」チーム全員、直ちに武装状態でヘリポートに集合せよ〕
放送が流れた。子どもたちの表情が呆然とした。
「ちょっと……私たち今訓練終わったばかりだよ」
ユン・セリンが震える声で言った。
「魔力も底をついてる。脚だってガクガクなのに……今から出ろって? 正気じゃないよ」
「逃げよう。これは本当におかしい」
カン・ガヨンが後ずさりした。しかし出入口はすでに施錠されていた。代わりに、反対側の壁が開いて新しい装備がレールに乗って運ばれてきた。
ジィン。壁面のモニターが点灯し、チェ・ジニョク局長の顔が現れた。
〔申し訳ない。休ませてやりたかったが、亀裂というのはこちらの事情を汲んでくれないものでね〕
「あなた正気?」
ハン・ソリン(リーダー)がモニターを睨みつけながら言い放った。
「みんなの様子が見えないの? 今出たら全員死ぬよ」
〔いや、死なない。データ上では今の君たちが最も「熱が入った」状態だ〕
チェ・ジニョクは事務的に答えた。
〔ソウル江東区にCランク亀裂の予兆を確認。しかし波長はSランクに近い。分析チームはこれを「深淵前兆体(Abyss Precursor)」と呼んでいる〕
「深淵……?」
〔本体が来る前に弾ける予告編のようなものだ。これを今封じなければ、三日後にソウルの三分の一が消し飛ぶ。現場に投入できるSランクパーティは君たちだけだ〕
嘘だった。他にもSランクパーティはいるはずだ。ただ彼らは「高価で貴重な」人材なので、こんな危険で不確かな初期鎮圧に使うのが惜しいだけだ。だから最も安く、どんなに使い潰してもいい「問題の六人」を送り込むのだ。
〔拒否すれば契約違反だ。違約金は知っているだろう? 治療費、訓練費、装備代……君たちの三代が返しても返しきれない額だ〕
脅迫。最も幼稚だが、最も効果的な支配手段。
ハン・ソリンは唇を噛んだ。血の味がした。横を見た。チョン・ノアは今にも泣きそうな顔をしていた。ペク・イソルは諦めたように武器を選んでいた。チャ・ルナは悪態をついていたが、手はすでに大剣を握っていた。
逃げ場はなかった。
「……行くよ」
ハン・ソリンが汗で濡れた髪をかき上げた。
「ちょっと、ハン・ソリン! 正気なの?」
「じゃあここで餓死する? それとも出て借金まみれで生きる?」
ハン・ソリンはレールの上に置かれた新しい鉄芯を掴んだ。
「どうせ選択肢なんてない。やれって言われたらやるだけ」
彼女は手慣れた様子で装備を着込んだ。訓練で着ていた防護服は汗と埃でぼろぼろだったが、着替える時間すらなかった。
「考えるな。悔しがるな」
ハン・ソリンが子どもたちを振り返って言った。その目はすでに死んでいた。いや、感情を殺して機能だけを残した状態だった。
「ただの仕事だ。最悪な残業だと思えばいい」
輸送ヘリがソウルの夜空を切り裂いていた。窓の外に見える都市は輝いていた。人々は退勤して、美味しい夕食を食べて、テレビを見ながら笑っているだろう。彼らの頭上を、六人の消耗品が飛んでいるとは、夢にも思わないまま。
遠く、江東区の空が紫色に裂けていた。深淵前兆体。今まで見たことのない巨大な影が、都市を飲み込もうとしていた。
「現場到着一分前!」
パイロットの叫び。一話の時のように手錠はなかった。しかし子どもたちは、より重い鎖に縛られていた。
ハン・ソリンはヘリのドアを開けた。強い風が頬を叩いた。
下を見下ろした。黒い深淵が口を開けて待っていた。
「出勤しよう」
ハン・ソリンが身を躍らせた。その後に、五人の子どもたちが悲鳴の代わりに悪態をつきながら飛び降りた。
世界は彼らを「英雄」と呼んだが、彼らはただ今日一日を乗り越えるために地獄へ出勤する労働者たちに過ぎなかった。
終わりの見えない夜が始まろうとしていた。




