第九話 歯車の噛み合い
国家ハンター管理庁地下四階、第三適応訓練室。灰色のコンクリートに囲まれた巨大な空間に、荒い息遣いと打撃音だけが響き渡っていた。
ガン! カアン!
「おい! でかいの! ちゃんと受け止めろよ!」
チャ・ルナ(狂戦士)が怒鳴り声を上げた。彼の大剣が訓練用アンドロイドの攻撃を弾き返していた。鉄粉が火花のように散った。
「ご、ごめん! タイミングが合わなくて……!」
チョン・ノア(防御型)が慌てて盾を持ち上げた。しかし彼の右脚は微かに震えていた。骨は再生液でくっついたが、恐怖はくっつかなかった。アンドロイドが腕を振るうたびに、彼は無意識に右脚を後ろへ引いた。折れた記憶が本能を蝕んでいた。
ピピッ。 〔防御効率四十二パーセント。失敗〕 〔シミュレーション終了。全員死亡判定〕
天井のスピーカーから無機質な機械音が鳴った。
「あ、くそ、マジで! お前のせいでまた突破されたじゃないか!」
チャ・ルナが床に大剣を叩きつけた。訓練は単純だった。六人が一組になって「仮想Sランクモンスター」の攻撃を十分間耐え凌ぐこと。しかし彼らはすでに五度目の失敗をしていた。
「少し黙ってよ。あいつの脚まだ完治してないの知らないの?」
カン・ガヨン(カウンター)が苛立たしげに汗で濡れた髪をかき上げた。
「完治してないのが自慢なの? あいつが突破されたら隣の私が食らうんだよ!」
「誰が好き好んで食らうの? あいつだって頑張ってるじゃない!」
「頑張る? ここで頑張って何になるの? 結果がゼロなら全員死ぬんだよ!」
怒号が飛び交った。隅にいたユン・セリン(計算型)は頭を抱えながら呟いた。
「確率ゼロパーセント。このパーティは見込みなし。チョン・ノアの心拍数が百六十を超えると判断力が四十パーセント落ちる。そうしたら前衛が崩れて、後衛の私とペク・イソルが死ぬ。私たちは死ぬ……」
滅茶苦茶だった。トラウマに囚われたタンク。怒りが制御できないアタッカー。メンタルが崩壊したサポーター。これが「問題の六人」の現状だった。
ハン・ソリン(リーダー)はその有様を黙って見ていた。彼女は息を整えた。顎を伝う汗の雫が床にぽたりと落ちた。
『うんざりだ』
戦うことに飽きたのではなかった。同じパターンで、同じ理由で失敗して死ぬシミュレーションを見るのに飽き飽きしていた。
彼女はずかずかとチョン・ノアの元へ歩いていった。チョン・ノアはびくりとして肩をすくめた。また怒鳴られると思ったのだ。
しかしハン・ソリンは怒鳴る代わりに、自分の鉄芯でチョン・ノアの盾をコツと叩いた。
「おい」
「……え、えっ?」
「お前、さっきから右脚を引いてるんだけど」
ハン・ソリンの声は乾いていた。
「それを引くたびに、私の脇腹が空くんだよね」
「……」
「お前が怖くて一歩下がると、その角度の分だけモンスターの攻撃が私に入ってくるんだ。さっき四回全部私が受けた。わかってたか?」
チョン・ノアの目が大きくなった。知らなかった。自分が避けた攻撃がどこへ流れたか、見る余裕すらなかった。
ハン・ソリンが低く言った。
「私は死にたくない」
「……」
「だからお前は痛くても堪えろ。脚がまた折れても、その場に突っ立ってろ。そうしないと私が死ぬから」
彼女は顔を向けてチャ・ルナを見た。
「お前も同じだ。少し黙れ。うるさくてモンスターのパターン音が聞こえない。もう一回でも喚いたら、アンドロイドより先にお前の喉仏を潰すから」
チャ・ルナが何か言い返そうとしたが、ハン・ソリンの目つきに気圧されて口を閉じた。その目は狂犬よりも凄まじい、生存に狂った目だった。
〔再開まで十秒〕
カウントダウンが始まった。アンドロイドの目に赤い光が灯った。
「……引かなきゃいいだけだろ」
チョン・ノアが小さく呟いた。彼は震える右脚を無理やり床に固定した。冷や汗が雨のように滴り落ちた。またへし折れるかもしれない。痛いだろう。怖い。しかし。
『私が避けたら……ソリンが死ぬ』
友情? 違った。ただ、さっきのハン・ソリンの言葉——「そうしないと私が死ぬから」——が脳裏に刻み込まれただけだ。自分を助けてくれた、唯一自分を見捨てなかった人間。その人を死なせるわけにはいかないという、最低限の負い目。
〔スタート〕
アンドロイドが突進した。巨大な鋼鉄の拳がチョン・ノアの顔面へ向かって飛んできた。
『避けたい。逃げたい』
本能が悲鳴を上げた。脚がびくりと動きかけた。その瞬間、背後から冷たい気配がした。ハン・ソリンだった。彼女がチョン・ノアの背中にぴたりと張り付いていた。
「堪えろ」
その短い一言。
ドガアン!
チョン・ノアは目をぎゅっと閉じて盾を突き出した。すさまじい衝撃が全身を叩いた。骨が軋んだ。しかし後退しなかった。いや、後退できなかった。後ろに彼女がいるから。
「……え?」
衝撃を受け止めた直後。チョン・ノアの盾の隙間からハン・ソリンの鉄芯が蛇のように飛び出した。アンドロイドが攻撃するために空いた関節部位。
カカッ!
正確な一撃。アンドロイドの体勢が崩れた。
「今だ! 打て!」
ハン・ソリンの叫びに、呆然としていたチャ・ルナが反応した。
「これ……行けるじゃないか?」
チャ・ルナが大剣を振り抜いた。カン・ガヨンが反対側から切り込んだ。ユン・セリンが魔法でアンドロイドの足を縛った。ペク・イソルが影のように現れて首の後ろのセンサーを断ち切った。
水が流れるように繋がった連携。約束された戦術ではなかった。チョン・ノアが堪えたからハン・ソリンが突き、ハン・ソリンが隙を作ったからチャ・ルナが斬っただけだ。錆びて歪んだ歯車たちが、無理やり、ギィィと音を立てながら噛み合って回り始めた。
〔訓練終了〕 〔生存時間:十分。目標達成〕
アンドロイドが止まった。チョン・ノアはその場に座り込んだ。
「はあっ、はあ……」
彼は自分の脚をおずおずと触ってみた。折れていなかった。逃げなかったのに、生きていた。
「……おい」
ハン・ソリンが汗を拭いながらチョン・ノアの肩をコツと叩いた。
「次もそうしろ。そしたら私もお前の背後は守ってやるから」
褒め言葉ではなかった。取引だった。しかしチョン・ノアにとっては、どんな慰めの言葉よりも確かな約束だった。
ガラス壁の向こうの管制室。チェ・ジニョク局長は腕を組んだままその光景を見下ろしていた。
「面白い」
彼はモニターに表示されたグラフを見た。六人の波長(Wavelength)が初めて一致する区間が生まれていた。恐怖、怒り、殺意。それぞれ異なる感情でも、「生き残りたい」という目的一つで統一された瞬間。
「友情や信頼なんてものは脆すぎる。すぐに壊れる」
チェ・ジニョクがコーヒーを一口飲んだ。
「だが恐怖と必要性による結束はしぶとい。実にしぶとい」
彼はマイクのボタンを押した。
「休憩なし。難易度を上げろ。ステージ二に行く」
訓練室の照明が赤く変わった。子どもたちは悪態をつきながら再び武器を手に取った。しかし今回は互いを責め合わなかった。その力で、むしろ前を向いた方がいいと学んだから。
彼らはそうして、互いを嫌いながらも互いなしでは生きられない「チーム」になっていった。




