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第1話:魔法使い(予定)から、よりによって「これ」かよ

「30歳まで童貞を守れば魔法使いになれる」

ネットの海で囁かれるそんな都市伝説を、安田慎二は心の底から信じていた。いや、それだけが工場の派遣作業で擦り切れる彼の、唯一の心の拠り所だったと言っていい。

運動神経ゼロ、コミュ力皆無、趣味は現実逃避のラノベ。

そんな彼に訪れた、文字通りの「衝撃的な転機」。

目覚めた先で彼を待っていたのは、白く細い指先から放たれる華麗な魔術……ではなく、酒臭い息と、脂ぎった筋肉、そして「前世の自分なら絶対に近づかないタイプ」のガサツな自分自身だった。

これは、理想の魔法使いになりたかった男が、なぜか「ギルドで一番関わりたくないタイプ」の蛮族に転生してしまった、誤算だらけの異世界サバイバルである。

「(……ああ、ついに。ついに来たんだな)」

安田慎二(30歳・独身・元派遣社員)は、意識の混濁の中で確信していた。

誕生日の翌日、工場の積み荷が崩落した。あの重さ、あの衝撃。間違いない、これは**「異世界転生」の様式美**だ。

30歳まで童貞を守り抜いた自分には、今ごろ最強の魔法才能が宿っているはずだ。

絶世の美少年に生まれ変わり、美少女たちに囲まれ、指先一つで爆炎を放つ。そんな輝かしい第二の人生。

「おい、聞いてんのかよ、マグナス! 景気よくいこうぜぇ!」

……。

耳元で響くのは、心地よい鈴の音ではなく、酒焼けした男のドスの効いた声。

慎二がゆっくりと目を開けると、そこには夢に見た「中世ファンタジー風の酒場」が広がっていた。

だが、何かがおかしい。

 

視界が妙に高い

見下ろすと、そこには丸太のような腕があった。産毛が濃く、傷跡だらけの拳。

慎二が恐る恐る自分の顔に触れると、そこにあったのは繊細な美少年の輪郭ではなく、ジョリジョリとした無精髭と、一度や二度は折れて曲がっていそうな鼻だった。


左手の感触がヤバい

なぜか慎二の左手は、通りかかったウェイトレスの少女の、弾力のあるお尻をしっかりと鷲掴みにしていた。

「ひゃっ! も、もう、マグナスさん! 仕事中ですよぉ!」

少女は頬を赤らめつつも、慣れた手つきでその手をパシッと叩く。

慎二……いや、マグナスの口から、勝手に言葉が漏れ出た。

「ガハハ! 固てぇこと言うなよ、ねーちゃん。今夜、俺の宿に寄ってかねえか? 良い『獲物(獲物)』を見せてやるぜぇ!」

「(……俺、なんて下卑たことを!?)」

慎二は絶望した。

脳内に流れ込む、この肉体の記憶。

名前はマグナス。読み書きはできない。剣一本で魔物をなぎ倒す、その日暮らしの脳筋冒険者。

仲間はといえば、隣で骨付き肉を素手で引きちぎっている、前歯が数本足りない大男たちだ。


魔法の才能(絶望的)

慎二は、せめてもの希望を胸に、心の中で念じてみた。

(いでよ……! 爆裂魔法……! メテオ……!!)

しかし、何も起きない。

ただ、気張った拍子に**「ブッ」**という豪快な放屁が店内に響き渡っただけだった。

「ギャハハハ! マグナス、気合入りすぎだろ!」

「おい、今の音は魔法か? 『毒ガス』の魔法かよ!」

仲間の荒くれ者たちが机を叩いて爆笑する。

慎二は泣きたかった。

魔法使いの才能が開花するはずだった30年の節制は、どうやら「ただの不潔な中年冒険者」への転生という、神様の悪質なジョークに消費されてしまったらしい。

「(嘘だろ……。魔法、どこ……?)」

マグナスの手元には、魔法の杖ではなく、血と脂で薄汚れた巨大な両手剣が立てかけられていた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

「30歳まで童貞を守れば魔法使いになれる」……そんなネットの迷信を信じ抜いた慎二を待っていたのは、無情にも「酒とヤニの臭いがする筋骨隆々の蛮族」への転生でした。

理想のクールな魔術師とは真逆の、ガサツで暑苦しい第2の人生。中身はコミュ障な派遣社員のまま、このパワー系ボディをどう乗りこなしていくのか。

「魔法使いになりたい」という執念が、いつか物理現象として結実するのか(あるいはただの怪力で終わるのか)、マグナスの受難を温かく見守っていただければ幸いです。

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