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04 顔を上げて!


レミージョが講堂に向かっているところを、少し離れた場所から怪しげに盗み見るヘリアン。


婚約者なのだから、臆せず堂々と声をかけるべきだろう。


だが、騎士団長の息子で、背も高く肩幅も大きいレミージョは、当然ながら女子の人気も凄い。気の弱いヘリアンの腰が引けるには、十分な理由だ。


同じ学校なのに、ヘリアンとレミージョが顔を合わせる機会はとても少ない。

なぜなら、かっこいいレミージョと歩いていると、陰口が酷く堪えられなくなり、つい、隠れてしまうようになったからだ。


ヘリアンは容姿からして、レミージョと格差があると思っている。

ストレートの青い髪の毛を、後ろで一つに結び、グレー瞳は冷たく見えるがそれも人気の一つ。

その婚約者であるヘリアンは、髪の毛も瞳の色も茶色で、見た目は一般的。

どれをとっても、レミージョの隣を堂々と歩けない理由ばかりだ・・と尻込みしている。


ヘリアンが見つめる先には、大きな歩幅で颯爽と歩くレミージョ。その後を多くの女子生徒たちが、きゃきゃっと言いながらついていく。


そのレミージョの腕を捕らえた人物がいた。

ミア・ハーゲンだ。

彼女は、婚約者のヘリアンすら触ることがないレミージョの腕を、両手で抱き締めるように胸を押し付けている。


それ以上見るのが辛くなり、ヘリアンはその場所から離れた。

だから、レミージョがやんわりとミアの腕を離し、険しい顔で去っていったのを知らないでいたのだ。


ミアと仲良くしている場面を見ると、いつものように項垂れてしまって、人の目を避けるように行動してしまう。

いつものヘリアンに逆戻りである。


教室に戻ろうと遠回りをしていたら、なんと運悪く、ミアとその取り巻きがこちらに向かって歩いて来るではないか。


慌てて女子トイレに入って、個室の鍵をかける。


ここで、やり過ごそうと思っていたが、今日は運命の女神様に見放されているようだ。

ミアたちがトイレに入って来てしまった。


「あーもう、レミージョ様ったら、全然素直じゃないんだから」

ミアが甲高い声で怒っている。

「まあまあ、あの暗いヘリアンとミア様じゃ、絶対にレミージョ様もミア様を選ぶに決まっているわよ」

「うふふ、そうよね。今日も胸を押し付けたら、彼ったら照れちゃって慌てて去っていったもの」

ヘリアンは個室で一人ショックを受けている。

そのうち、ミアたちの話題は化粧について話が逸れていった。

「ああ、口紅がはみ出ちゃったわ」

「その口紅の色、素敵ね」


彼女たちはメイクを直しに来たようで、すぐに出ていった。

だが、その僅かな数分の彼女たちが残していった言葉にヘリアンは意気消沈。

鏡を見て、長いため息をついてしまった。


その時、凛とした声がトイレに響く。

「あーもう! なっさけない」

その声で顔を上げると、悠里がトイレの鏡に映っていた。


「ユ、ユーリ様? ど、どうしてここに?」


「どうしてここにいるかなんて、どうでもいいの。ヘリアンさん、あなたね、立ち姿がダメよ。もうそれじゃあ、年老いた老婆よ。いえ、今時は老婆ももっと元気で颯爽としているわ」


「はあ・・すみません」

自分のダメなところはよく知っている。思い当たることが多すぎて謝った。

いや、常日頃から謝ることがヘリアンは多いのだ。

戦うより謝る。これがヘリアンのやり過ごそうとして、いつのまにか身に付いてしまった悲しい習慣だった。


「謝ることじゃないわよ」

「すみま」

「謝らない!」

ピシャリと言われ、口を閉じる。


「背中に棒が入っていると思って、ビシッと立ってごらんなさい」

言われた通り、背筋を伸ばす。

「顎を上げて、胸をはる!」

グッと胸をはった。

「肩甲骨をほんの少し中央に寄せる感じにしてみて。あなた、猫背だからそのくらい意識しないとだめなのよ」

猫背だと、よく言われていたので、肩甲骨を中央に寄せてみた。


肩に力が入って少し辛い体勢だが、頑張ると、悠里が凄く褒めてくれる。


「いい! それよ! いいじゃない! 今日一日、あなたは女王様の役よ。女王様に猫背は似合わないでしょ?」


「そ、そうですね」


「今日のレッスンは、一日その姿勢で過ごすこと。絶対に俯いて歩いちゃダメよ。私、あなたのこと見てるからね! じゃあ、ハイ」

そう言うと、悠里はパンッと手を叩く。

その瞬間、悠里は消えて背筋を伸ばした自分が鏡に映っていた。


確かに堂々と顔を上げるだけで、気持ちが前向きになった。

その分、顔は少々ひきつっているが、仕方ない。

慣れない姿勢で肩が既に凝り始めているが、なんとか維持する。

「気を抜くとすぐに猫背に戻りそう。でも、ユーリ様が見ているのだから、頑張ろう」


トイレから出て、その姿勢のまま教室に向かう。


いつもはこそこそと扉を開けて席に着くヘリアンだったが、この姿勢ではこそこそと移動はできない。

扉を開けると靴をこつこつ鳴らし、ゆっくりと席に着いた。

「女王様・・私は女王様」

呟きながら、勇気を振り絞る。


他の人から見れば、いつも存在感のないヘリアンが堂々としていて、驚いているのだろう。

しかし、ヘリアンは内心『皆さん違うのです。これは、ユーリ様に言われたからであって、私はこんなに胸をはりたい訳ではないのです・・』と言い訳でいっぱいである。


席に着く様子をじっと見られていたが、椅子に座っても前を向いていた。

本当はすぐにでも俯きたかったが、悠里が窓から見ているかも知れないと思うと、他の生徒のヒソヒソ話など気にしていられない。


だが、当の悠里は、保険のCMの打ち合わせで、全く見ていないのだが・・。


授業が終わり、お迎えの馬車とのところへ歩いていると、前にミアがいるのが目に入った。

彼女は徒歩通学なのに、なぜか嫌味を言うためだけに、この場所によくいるのだ。

今日は何を言うつもりなのかしら?

構えながら歩いていく。


「まあ、ヘリアン様、ちょっとお話よろしいかしら?」


いつもの、クダクダと長い嫌味をいうのだろう。

つい下を向きかけたヘリアンに、悠里の言葉が脳裏に再現された。

『絶対に俯いちゃダメよ! あなたは女王様なんだから!』


今日一日頑張った背筋が悲鳴を上げているが、ヘリアンは下も向かず、背筋を伸ばしてまっすぐにミアを見た。


声を出そうとしたが、張り付いてでない。

再び悠里の声が聞こえる。

『あなたのレミージョさんの想いはそんなものなの? レミージョ様が好きって言えないの?』

ひりついた喉を潤すために、ごくりの唾を飲む。

声は意識して出すように心掛け、自分の喉を叱咤激励した。


「ミア様、なんのご用でしょうか? 今日は急ぎの用事がありますが、ご用件だけならお聞きします」


ミアが目を見開き驚いている。

でも、もっとびっくりしたのはヘリアン自身だ。


いつもなら、小さな声で『あ、はい・・えっと、用事って・・な、なんですか?』というのが精一杯だったのに、よく通る声で言えたのだ。


「レ、レミージョ様のことで話があったのだけど、今日はもういいわ」

そう言うとミアが・・あのミアが去っていったのだ。


「あ・・? れ・・?」

なぜミアが何も言わずに去っていったのか、ヘリアンには分からない。


ただ、今日は無事に乗り越えられたことに感謝した。誰に? もちろん悠里と女王様に!である。



今日も読んでいただき、ありがとうございます。

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