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親しい子となんやかんや

親しくなった子と休み中の学校に遊びに行く話。

作者: ほな

 土日。休みの日。

 学校は一時的に止まって、学生はもちろん先生一人いない。警備の人も、今日はいないみたいだ。

「ふぁ……」

 やけに明るく燃える太陽のせいか、まだ着いてない友達のせいか。口から欠伸が漏れ出て、瞳からは涙が数滴、零れ落ちた。滲んだ涙もある。

 昼ご飯の後だからもっと眠く感じるのかも知れない。今日の昼はパスタだったから、炭水化物の食べ過ぎなのかも。

「んん」

 気怠さを振り払うように頭をぶんぶん振って、髪の毛にちょくちょく顔を叩かれて、正気を取り戻す。

 眠い時は頭を回せばなんとかなると言われたんだった。頭を使おう。

 今日にいたるまでの経緯をなぞってみるのはどうだろう。

 初めはあの子が「休みの学校っていいよねぇ。」って言いながら始めた。詳しくは覚えてないけど、人が多い時とない時はどう違うかって話をしてた。それがどうして休みの学校に繋がったのかは覚えてない。

 とにかく覚えているのは「明日学校来てみる?」という、どこか楽し気に微笑みながら話すあの子の顔だけだ。

 なんで顔だけ覚えているのだろう。顔が好きなのか。

 ま、いい顔ではある。

 でも――

「ぅわわわあ」

 ころんころんと音がするくらい頭を回している最中に、突然肩を掴まれた。掴まれたままぶんぶん振り回される。

「ぅい、遅れてごめーん。」

「…ちょっと」

「なに考えてた?ぼーっとしてたように見えるけど。」

 恨みの意を込めて私の後ろにいる子に視線を向けてみるが、向こうは全然気にしないような態度で私の腕に腕を絡んで歩き始める。

 ギャルってこういうのなのかなやっぱり。ギャルか否かは知らんけど。

「私は来る途中に今日に至るまでの過程を考えていたよ。どうして休みの日に学校に来るようになったのかとか、行ってみればなにが楽しめるのかとか。」

「同じだ」

「ほんと?私達って思考回路も似てるのかなぁー。」

『も』って言ったけど、正直私からすればこの子と自分の似てるところは全然見当たらない。私が知らないだけなのか。本当にいないのか。

 まぁ気に入られたのは嬉しい。

「もっと早めに声掛けたらよかったよぉ。小泉さんがこんな人だって知ってたらもっと一緒に楽しい事が出来たはずなのに。」

 気に入られて嬉しい。

 家族以外の人から無条件の愛を貰うととても、幸せ。

「今からでもいいでしょう」

「うんうん。今からでも一緒に楽しい事やって、いっぱい思い出作ろうね。」

 幸せなまま校舎の中に入って、靴のまま下駄箱の間を通り、階段を上る。

 気分が高揚してるから階段もあんまきつくない。いつもはそろそろ息が絶え絶えになる頃なのに、今は全然平気で、一気に屋上まで行ってもなんとかなりそうだ。

「ねねね、アイス食べる?私買って来たんだー。」

 って思ったけど、やっぱりつらい。息が足りない。でもいつもよりちょっとだけ高くまで来た。二階と三階の間まで一気に来た。

 やっぱり気持ちは体に大きな影響を及ぼすんだね。

「ふぅ……な、なに?」

「小泉さんの好みは知らないから、いっぱい買ってきたよ。選んでみて?」

 壁にもたれた私に向けて、鞄の中身を見せてくれる。私が見やすいように思いっきり、大きく鞄を開いている。

 中には言った通り、いっぱいあった。だいたい五個ぐらい。

 このまま置いたら溶けるんじゃないのかな。

「私、これで…」

 まだ息が大変で、話すのがちょっとつらい。

「牛乳味が好きなんだ。」

「なんか、元気そうだから」

「あはは、わかるよその気持ち。私も牛乳とか、健康にいい食べ物で作ったのならいくらでも食べていいって思っちゃうもん。前は私、ビタミンのグミを一気に数千円分食べちゃった時があったもん。」

「すごいな」

「食べ過ぎると健康に悪いじゃん?それでちょっと焦った記憶があるのー。」

 誰もいない階段に二人並んで座って、口の中に牛乳味のアイスを入れる。

 あぁ、生き返るな。

「ん…まだ三つ残ってるけどどうしよう………あ、職員室には冷蔵庫とかあるんじゃないかな?先生達にプレゼントで入れてみる?」

「ん…いいね」

「短い手紙とかも残したら、気持ちよく仕事が出来るようになるのかな。」

 親しくなって数日だけど、この子はかなり健気な子だなって思う。見た目こそ人付き合いが軽そうに見えるけど、実は周りをよく見てて、されて嬉しい言葉とか、行動をよくする。

 簡単に言うとありがたい時はありがとうって言う。

 笑顔には笑顔で答える。

 あと素直だ。

 無邪気な赤ちゃんみたいで可愛い。

「でもこれって…余った物を先生達に投げ捨てるように見えるかな……」

「別にいいんじゃないの」

「ん……じゃあいいかな。」

 もうこの子に惚れ惚れ、めろめろじゃないか私。ちょっと人が軽いかも。

「小泉さん、そろそろ歩けそう?」

「うん。そろそろいける」

「じゃあ行こう。」

 にこにこと笑う私に、にっこりと笑い返してから階段から起きて、少し離れて私を眺める。今日は濡れてないおかげで左目がちょくちょく見える。ヘアピンで右目が見えるようにしたのは最初の頃と同じ。

 服は相変わらず、ボタンを開けっ放しにしたシャツと、膝くらいまで届く長いスカート。今気づいたけど、休みに制服のままで来たんだ。

 よく見たらちょっとシャツが違う。制服みたいなシャツなだけで、実は制服じゃないのかな。

「どうしたん。私の顔に惚れた?」

 じーっと、微動だにせず顔を眺める私に軽く冗談を言って、私の手を握って無理矢理立たせる。かなり力が強くてびっくりした。

「そういう感じ」

「あら本当?ありがとう。」

 冗談に冗談を返したら、感謝された。なんか負けた気分。

「まずは職員室行こ?行ってこれ入れて、手紙書いて…ちょっと時間かかりそうだね。先生みんなに手紙書くと結構大変そうだなぁ。」

「ぅ、ん……そうだね…」

 階段をすくすく上っていくのを一生懸命について行こうしたけどやっぱりつらい。ここの階段って私以外の人もよく息を切らしていたら、私が変なのじゃない。

「入ろうね。」

 職員室のところまで来て、二人並んで当たり前のように扉を開けて中に入って行った。普段、入って来る事がないからちょっとどきどきする。

「…ん……」

 すぐ前に担任の先生の名前が掲げられていたところがあって、こっそり、その椅子に座ってみる。座り心地は悪い。硬い椅子だ。

「うわああ、冷蔵庫ぱんっぱんじゃん。飲み物でいっぱいだぁ。」

 私とは違って職員室の冷蔵庫に真っ直ぐ進んでったあの子が驚いた声を出す。

「ほんとだ…」

 右から左まで、上から下まで全部、知らない飲み物でいっぱいだ。

 飲んだ事ないのだらけ。

「これなんだろう。こういうの飲む先生ってあったっけ?」

「多分なかった」

「じゃあ何だろうね。もしかしてお酒とか?」

「流石に違うんじゃない?」

「まぁそうだね。学校でお酒は無理か。」

 一個取り出して、まじまじと栄養成分表を眺めるのを横に、私はアイスが溶けないように冷蔵庫の中に入れた。飲み物を凍らして飲むのはしないみたいだ。

 上は空っぽだな。

「これ体にいいみたいだよ。知らんけど。」

「でも誰も飲まないじゃん」

「昨日いっぱい買って中に詰め込んだとかじゃないかな。」

 うきうきした顔で私に飲み物を差し出して来る。

「飲んでみる?」

 流石によくないんじゃないかそれは。

「飲んでみるか」

 でも今じゃなきゃ出来ないよねこういうの。

 先生達にはごめんだけど、手紙で許して――

「ぅっ、にがい………」

「え、苦いの?」

「やばいこれ」

 口ん中が苦味でいっぱいになって、息をするたびに苦しい。風邪薬をそのまま舌で舐めると感じがするに違いない。

「う……」

「はい、水。」

「んん………」

 水を受け取って一気に口にいっぱい溜めて、ぶんぶん頭を回す。

「ふ…」

 少しはましになった。でもまだ苦い……

「ぅえええ。」

 私の反応を見て気になったのかちょっとだけ飲んで、すぐに顔を顰めて吐いてしまった。これは流石に子供の飲むのじゃない。

 アルコールがいないお酒とかじゃないのだろうか。

「やべぇなこれ……飲めないよこんなの。」

 ちょっと涙も出てしまった。苦くて涙が出るのはいつぶりだ。

「不味いから残ってたのかな…?でもいっぱいあるのに……うぅ、まだ苦味が…甘いの欲しい……」

 涙が滲んだのは私だけじゃなかった。

「アイス食べる……?」

「たべよ…」

 二人で一緒に、涙が滲んだ顔で入れたばっかのアイスを出して、一気に噛みつく。冷たいけど、甘い。

「……甘いのに、苦い。」

「最悪だね」

 甘いけど、その甘みの間からちょくちょくと苦味が飛び出て来る。

 もう拷問だよこれ。

「はぅ……なんか、やる気なくなった。手紙はいつかその気になったら書こう……」

「うん…」

 一口だけ飲んだ飲み物をそのまま流して、一緒にため息をつく。

 今考える事ではないと思うけど、今日は妙に一緒の行動が多いな。

「ささ、切り替えよう。苦いって思ったら苦いもんだから。取り敢えず出るか。クラス行って、昨日言った勉強するふりしてみよ?」

「うん」

「ね小泉さん、なんでそういう話出たのか覚えてる?」

「うぅん、忘れたけど」

「私も忘れちゃったんだよねぇ。」

 一緒に職員室から出て、並んで廊下を歩く。

 一回一緒だって考えたせいで、もっと一緒のところが見え始めた。

「なんとなくやってみたい気持ちで言い出したのかな私。」

「そうかも」

 踏み出す足も一緒。

「あ、小泉さんが言ってたよこれ。思い出した。」

「そうなの?」

「人が多いところから人が消える場面はいい演出になるとか。多分言ってた気がするよ。台本の話してたっけ?」

 お互いの方に向けて頭をちょっとだけ回したのも一緒。

「あぁ、映画の話だった気がする。」

 目を合わせないのも一緒。

 なんか嫌だな、一緒のところを探すの。

 ちょっと気持ち悪いというか、なんていうか。

「まぁいっか。やってみれば何が欲しかったのかわかるでしょう。」

 ぶんぶんと頭を回して、考えをくつがえす。言われた通り、やってみるのに集中しよう。そのために来たんだから。

「開けない」

 教室の引き戸が固く、微動もしない。

 職員室は開いてたのにここは違うのか。

「ふふふ。そうだと思ってたよ。」

 そんな私に意味深な笑みを浮かべながら、とん、と。引き戸を叩いた。

「これで開けるはずだよ。」

「ほんとだ」

「実は私、昨日緩く戸締りをしてたんだよね。今日の為に。」

 緩く戸締りをするのはどうするのだろう。ちょっと叩くと開けるようにしたって事なのか。そんなのも出来るんだな。

「有能だね」

「えへん。よく言われますね。」

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