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一節 再会





 佳姫の暴走を何とかする為、椿は王都を訪れていた。アルヴィとヘイスター教授、そしてエレンが協力してくれることになったが、前者二人は仕事がある。異界へ行けるのは仕事が終わった夕方以降だ。昼間は特にやることがないので、王都の散策をすることにした。

 適当に通りをぶらつくが、時折目眩に襲われた。


「毛玉が魔力を喰ってるなあ……異界で暴れてるらしい」


 佳姫は嫁の救出に必死になっており、ずっと異界で何かをしている。その何かの為に、契約者である椿の魔力を遠慮なく食べていた。普通の者ならとうに魔力切れで倒れている。


 アルヴィの家で休んでいようかと思っていると、何者かの気配を感じた。どうやら護衛士のようだ。しかし尾行される心当たりがない。怪訝に思い、しばらく適当に歩いてから捕まえることにした。こういう時は本人に直接聞くのが一番だ。

 通りの角を曲がって身を隠し、護衛士が現れたところを捕獲した。当然抵抗されたが、腕を捻り上げて背後に回り、うなじを掴んだ。急所を押さえられて護衛士は舌打ちしている。


 見た目は普通の町人だ。髪は灰色で年齢は椿と同じくらい。実力的に三級護衛士だろうか。護衛士は鋭い目つきで椿を睨んでいた。


「俺に何の用? 護衛士に狙われる心当たりはないんだが」


 護衛士は低い声で言う。


「貴様……俺を覚えてないのか」

「え? 知り合い?」


 椿はまじまじと護衛士を見るが、記憶にない。一体彼は何者だろうか。

 とりあえず人目もあるので護衛士を解放した。護衛士は乱れた衣服を整え、椿に向き直った。改めて見ると結構な男前で体格が良い。レオンのようにがっしりとしており、上背もそれなりにある。アディアと同じくらいだろうか。


「誰?」

「俺はノーマン、学院でおまえと同じ戦技科だった」

「全然覚えてない。第二寮関係者じゃないよな?」


 第二寮で同じだった者なら覚えているが、戦技科の者なんて完全に忘れている。印象に残るほど親しい者などいなかった。

 ノーマンとやらは静かに怒りながら椿を見下ろしている。


「あんなに試合をしたのに覚えてないのか」

「さあ。分からない」

「俺を何度も医務室送りにしたくせに!」

「それを根に持ってるの? だったら私怨か」


 任務ではなく私怨で尾行するなんて、雇主にばれたら大変なことになる。そうまでして復讐したいのかと呆れると、ノーマンが突然椿の両肩を掴んだ。反射的に払いのけようとしたが、ノーマンに殺気がない。何だろうかと首を傾げた。


「おまえは死んだと聞いていた」

「……ああ、一度死んだよ」

「つらかった」

「え?」

「生きていてよかった」


 さっきまで怒っていたのに今度はほっとしている。彼の情緒がよく分からない。戸惑っていると、ノーマンは真剣な表情で椿を見つめてくる。


「詳しいことは聞かん。生きているのならそれでいい」

「えーと……うん……」

「俺はおまえが死んだと聞いた時、ひどく後悔した」

「何の話?」

「生きているうちに想いを伝えておくべきだと思った。だから今、言う」


 困惑しすぎて引いていると、ノーマンが叫ぶように言った。


「ずっと前から好きだった! おまえが初恋だった!」


 椿はぽかんとしたが、ノーマンは熱く語っている。


「最初は大嫌いだった! 何度試合しても勝てないし、危険な奴だし、ろくでなしだし……だが見た目がすごくタイプだ! 八年経った今も変わってない! 素晴らしい!」

「見た目かよ」

「凶暴さを差し引いても綺麗で可愛い! 押し倒したい!」


 椿は無言でノーマンを殴った。何を言い出すかと思えば、見た目がどうのとうるさい。挙げ句の果てに押し倒したいときた。真面目そうな雰囲気なのにとんだ変態だ。


「帰る」

「待て! この機会を逃さんぞ!」

「来るな筋肉バカ。見た目が良い奴なんて他にもいるだろ」

「おまえの性格も慣れたら好きになった。医務室送りにされる度にどきどきした」

「本当に変態じゃねえか!」


 もう付き合っていられない。椿はノーマンに背を向けて逃げ出したが、しつこく追ってくる。死んだと思った初恋の相手が生きていて、だいぶ理性が飛んでいるようだ。


「好きだ、付き合ってくれ!」

「護衛士が何を言ってるんだ。仕事しろ」

「たまに会うだけでいい、頼む!」

「見た目が良い奴なら他にもいるだろ。ジーンとか」

「俺は金髪が好みだ。それに知的でクールな人より明るくて面白くて少し暴力的な人がいい」

「最後の一つ何だよ! つうかてめえの好みなんてどうでもいい!」

「不良というのが好きなんだ……!」


 喧嘩しながら通りを進む。椿はこれまでも口説かれることがあったが、ノーマンは珍しいタイプだ。なんというか、ひたすら押してくる。駆け引きなどなく熱量で押し切ろうとしている。殴り飛ばせば解決するが、それでノーマンの雇主に目を付けられたら困る。

 椿はイライラしながら立ち止まり、ノーマンに指を突きつけた。


「そもそも俺は押し倒される側じゃねえ。おまえみたいな筋肉バカはお断りだ」


 しかしノーマンは強かった。


「ということは椿はしょ……」

「それ以上言ったら殺す」

「ありがとう! 嬉しい!」

「死ね!」


 我慢できなくて顔面を殴ったが、ノーマンは無駄に頑丈だった。地面に倒れながらも熱を込めて叫ぶ。


「医務室送りにされる度に想いが募っていった! この想いをぶつける時がきたんだ! 俺は諦めない!」

「こいつ、どこかに埋めようかな」

「乱暴で怖い美形がたまらなく好きだ!」


 椿はノーマンを殴りまくって気絶させ、路地裏に捨てて逃げ出した。

 こんなにストレートなバカの相手などしていられない。話しているだけでげっそりする。



 アルヴィの家に戻ったが、ノーマンが追いかけてきたらどうしようと不安になる。ソファに座って溜め息を吐き、文字通り頭を抱えた。


「何なんだ、あのバカ……」


 悔しいのは、ノーマンが大柄で背も高いところだ。顔もそこそこ良い。何故椿の周りには良い男が多いのだろう。中身は問題だらけだが。

 もう一発殴っておけばよかった、と心底後悔した。




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