いつかの明日への邂逅
とある早朝。天気は快晴。
右には畑、左も畑な畑道を2つの影が突き進む。
「いや〜、日差しが痛いね」
「そうか?別に普通だと思うぞ」
一つはレン、もう一つはトカゲ……基い、ブラッドである。
「今日から吸血鬼狩り《ヴァンパイアハンター》だろ?本当にあんなのになって良かったのか?」
レンの目を見ながらまじまじと問いかける。
「まあね。お賃金良いし、色々な所でサービスしてもらえるしね。まああんま乗り気じゃないんだけどね。それでも、危ない時は君が力を貸してくれるんだろ?」
実は旅に出る前……
「吸血鬼狩り《ヴァンパイアハンター》になってください」
「え?」
急な申し出にレンの体が一瞬固まる。
ウェイトレスさんが笑顔で言ってきた。
「聞こえませんでしたか?ヴァンパイアハンターに"なりなさい"」
さらに声を張り上げる。
「何故この世界に来てから3日目のぺえぺえを?」
そんな質問に淡々とウェイトレスは答える。目元の陰った笑顔を浮かべながら
「それは勿論、昨晩の功績が評価されたんですよ。当たり前です。こっちだって驚きましたよ、なにせ武器も持たずに倒しちゃったんだから。………お給料だって私の2倍くらいもらえますよ」
「安月給なんですか?」
どれくらいかは分からないが、複数の国々が運営しているギルドに勤める公務員のウェイトレスさんが安月給では無いかが心配だ。
「心配はいりません。あと勝手に決めつけるとぶん殴りますよ」
冷や汗をかきながら必死に話題をずらそうとする。
「いや〜、武器はあったにはあったんですけどねぇ……、使ってないわけじゃないんですよ」
まあ、自分の血で作った摩訶不思議な鎧であるんだげね……、と内心で補足を加える。
レンがあまり乗り気ではないのは、昨日の熊男の件だ。吸血鬼がどのようなものか知ったからこそ、それを狩るには、身の安全的にも、"道徳的"にも抵抗が生まれたのだ。
だが、そんなレンなりの抗議を、ウェイトレスは意に返さない。
「とにかく、なってください。ギルドマスターからのご命令ですよ」
半ギレ気味であり、言葉の合間合間に向けてくる冷たい視線が怖い。
「えぇ……」
それにこんな危なそうな仕事に「やれ」なんていうギルドマスターって人、絶対に碌な奴じゃない
「それに……もう登録しちゃいましたよ」
「へ………?」
そうゆうことがあってこんな職業になったのだ。
まあ、大体、この世界には吸血鬼以外人間しかいないので、冒険者と呼ばれる者たちはヴァンパイアハンターか、入会試験のような誰でもできるような雑務をやる者しかいないのだ。
「それにしてもお前、どこに向かっているのだ?」
旅の目的は特には無い。というよりも……
「魔王がいないからね……帰れないからせめてでも良い暮らしをしたいんだよ。昨日言ったでしょ?」
言っている事は悲惨なのだが、いまいち絶望感を感じさせない言い方である。
「ちなみに今向かってるのはもう少ししたとこの森ね。そこにお尋ね者の吸血鬼の群れが居るわけよ」
そうしてテクテクと足を運んで森を目指していく。
「ようやく着いたぞ」
「やっとだよ、やっと」
時刻はもう夕暮れ。事前情報ではもう少しの距離のはずだったのだが、道を迷ってとても遅くなってしまったのだ。ブラッドを頼ろうとして道を聞いてみても、「何も知らん俺に聞くな」と、正論を言われた。その結果、こんな時刻になってしまったのだ。
さっそく森の中へ入ろうと足を進めると中から誰がが飛び出して来た。
「たっ、助けて、森の中に吸血鬼がッ……」
でてきたのは少しだけ小綺麗な格好をした同じ歳ぐらいの女の子であった。
「えぇ、そりゃあもちろん。で、その吸血鬼というのは何処に……?」
林の中から出てきた女の子に、祖父から習った紳士的な対応を心掛けようとする。
森の少し奥を覗いて、中を確認してみる。が、目に映るのは雑木林だけであり、吸血鬼はおろか、畜生一匹を見えやしない
その時、中からムチのような何かが女の子にへと飛び出して来た。
「、ッ……」
女の子を庇おうと前へ乗り出した。
飛んできたものが腕に巻き付く。ヌメヌメしている。この感触は……
「舌か……バッチいな」
それにしても長く、犬や猫などの比ではない。
「こんな長い舌を持ってるやつなんか……ねぇ……」
この舌の持ち主は大体見当はつく。
途端に舌が巻き取られ、長い舌の持ち主の姿が見えてくる。その姿は緑色の体に、鱗、多少トゲトゲして見た目。
「やっぱ、カメレオンしか居ないだろうね」
薄暗い林の中から出てきたのは予想通りの、長い舌を持ったカメレオンである。
あの世界のカメレオンとのせめてもの違いと言えば渋い緑色っていうところだろうか。
「せっかくのチャンスだったのに……邪魔しないでもらえますかね。人間さん。いや、ハンターか……」
見た目からは分からないが昨日の熊男みたいなヒャッハー系ではなく、敬語を使える大人しい人であった。
「まあ、いいでしょう。どうせ殺すのが一匹から二匹に増えただけです」
などと、ほざいているのを、少女が遮る。
「あんたねぇ、私を一匹って数えるだなんて失礼よ。もっと敬意を払いなさい」
先程とは少しキャラがブレている……。
彼女の様子を見てトカゲも、
「フッ……こいつ、もしや……」
と様子がおかしくなっている。
「まあ、とにかくこの緑トカゲをやっつければいいわけね。おい、赤黒トカゲ、力を貸せ」
その言葉に反応して地面を這って、レンの首元に噛みついた。
「お前……昨日も言ったがトカゲと呼ぶな」
あまり表には出ていないが沸々とした怒りが込み上げているのが犇々と伝わってくる。それに対し、しょうがないでしょ?、という顔をして、
「え〜、だって君たちで二人いるんだもん。区別のために色で判断したいんだよ。ね?緑トカゲくん」
「失礼なこと言ってくれますね。我々には避役印という名前があるのです」
「あなた、そいつって、まさか……」
と、この珍妙な光景に各々感想を述べている。
「まあいい、さっさと片付けろ」
「へいへい」
瞬間、首から血飛沫が上がる。だが、血飛沫は宙で止まった。その血は物理法則に反して、何故かこちらに流れ込んでしまった。 血が身を包み込む。言ってしまえばそんな光景であった。
包み込んだ血が体表のあちらこちらを巡り渡り、段々と形作られていく。
昨晩、自分の武器となったあの、ゴテゴテとした鎧が、である。
気付いた時にはもう自身の身体にはあの鎧を身に纏っていた、………のだが、何かがおかしい。
「なんか……薄い……」
薄っぺらいのだ。まあ、薄っぺらいというよりも軽いという言い方の方が正しいのかもしれない。例えるなら、ファンタジー系の初期装備である。
「これってどうゆうことだい?」
純粋な疑問である。何故昨日のゴテゴテしたものでは無いのか……その答えは……
「知らん」
「えぇ……」
本人にも分からないようだ。
「まあ、血が足らないのだろう。肉を食え肉を」
確かに最近貧血気味だったかもしれない……、と心の中で謎に納得をしてしまった。
「………」
「………」
この軽装男に助けを求められた者も助けを求めた者と助けを求められた原因である者も、随分と唖然としてた。