旅路の前夜
クエストから帰って来た者が報酬を受け取り、その金で酒を酌み交わす夜のギルド。
その中には薬草採集の試験を終 クエストから帰って来た者が報酬を受け取り、その金で酒を酌み交わす夜のギルド。その中には薬草採集の試験を終わらせたあの3人もいた。
「あの2人遅いな、同じ時間に出たんだがな」
「きっと何処かでご飯でも食べてるんですよ、フルコースを」
「まさか昨日の狼もどきに襲われていたりして……」
彼らは、レンとスグルとは違い、まるで運命から見限られたかのように、一悶着も二悶着
もなく、無事に帰ってきた
一応事実ではあるが、縁起でも無いことを話しているとギルドの大きなドアが突然バァンと開いた。
所々擦り傷、切り傷をした方と全然無傷な方の2人と大きな肉塊が入ってきた。
もちろんスグルとレンである。
熊男はギルドまで来る途中引きずられてすっかり原型がなくなっていた。
2人が受け付けに来るまでに朝に自分達の対応をしてくれたウェイトレスとやたら無精ひげを生やしたやる気のなさそうな三十路ぐらいの男が来た。
「お、お二人さん、それは?」
多少困惑しながらもウェイトレスは聞く。
「俺達を襲ってきたこの吸血鬼を倒してきました。主にそこの後ろ奴が殺りました」
「えぇ……」
その場にいる殆どが「何を言っているんだ?」という顔をした。言った本人もだ。
「と、とりあえず今日は遅いので一行様にはここの宿をサービスさせてもらいます。その他諸々は明日やってください」
「「あ……はいッ」」
突然の事であり無理もないのだろうが多少強引にギルド内の宿に泊めさせられてしまった。
このギルド内の宿はギルドに登録した者はは全員宿泊料タダのありがたい施設である。
そんな宿の一室。あまり新品とは言えないベットに一人横たわっていた。
「うハァ〜〜」
身体の疲労が一気に出された気がする。
何しろ1晩中走ったり、歩いたりしたんだ。無理もないと思いたい。
「全く、大変な一日だったよ。なあ?」
独り言にしては違和感のある台詞だった。
リラックスタイムのはずだが妙な緊迫感のある雰囲気を出しながら問う。
「いるんだろ?トカゲく〜ん」
そうすると窓の縁からあのトカゲがひょっこり出てきた。
「お前感が鋭いんだな、感心だ」
と、飄々と返す
「ま〜ね、特にここに来てからかな」
「で、何の用があって呼び出した?」
理解が早いのは感心だよ、と前置きを置いてからトカゲへ語りかける。
「いちいち段取りを取らなくて助かるよ」
フゥー、と一々息を整え直す。
「君、普通のトカゲじゃないでしょ?」
ギルドへ帰る途中、心底疑問であったことだ。
いくら異世界と言えどネズミは多少見た目だったりが変わっているだけであったのだが、このトカゲは違った。
喉元へ噛み付いたら謎の鎧を身に纏っていた。
そんなレンの疑問についてトカゲは案外簡単に答える。
「当たり前だ、普通はこの知性は無いぞ」
「え、そうなの?」
「そうだぞ」
レンの反応とは裏腹に、トカゲの方はさも一般常識を説くように終始冷静だった。
そこから追い討ちをかけるように言い放つ。
「なんなら言っただろ。俺は普通の奴の一緒にするなって」
「あれそうゆう意味だったのね。だったら君はなんなのさ」
「俺は龍だ。決してトカゲではない」
凛として言っていた。
龍?ということは……と、考える。
「だったら君翼は無いの?それとも、東洋の龍とかなの?」
次々と出てくる質問にトカゲは一問一答に答えている。
「いや、それはない。俺は元々翼竜だ」
「あぁ……ふぅ〜ん」
と、何かを察したレンはこれ以上の詮索は辞めにしようという結論に至る。だが、それと同時に、会話の中で垣間見えた違和感に気づかなかった。
「あ、そういや……」
と、何かを思い出したかのように尋ねる。
「君ってなんか『力』?とやらを僕に使わせる時思いっきし僕の首噛んだけど一体なんだったの?シンプルに首が痛いよ」
そう言いながら噛み跡を見せつける。
それに対して、トカゲ側は、怪訝な雰囲気を醸し出していた。
「あんな野蛮な奴らと一緒にするな。あくまでも生き物の血を糧にするだけだ。」
ふとした疑問が浮かぶ。
「ちなみにあの赤い鎧は?」
謀略何もなく、トカゲは包み隠さず喋る。
「あれはお前の血で造った鎧だぞ。俺は血を吸い出したんだ。それを大昔の設計図に流し込んだんだ。だから別に特別な材料で造られてるとかじゃないぞ」
つまり、レンは自身の血を着て殺し合ってた訳だ。
「にしても嗚呼も血が固くなるもんなんだねぇ〜。ん?じゃあ……」
「どうした?」
「さっきと同じ感じの聞き方で悪いんだけどさ。あの熊、殺すときに……」
単純に気になるのか、普通のトカゲがどうので学んだのか、割と丁寧に聞いている。
「なんか、悍ましいドロドロ出たけどあれ何?あいつ動けなくなってたけど」
出した側からするとかなりシュールさと、唐突さが襲ったのだろう。
何故突然、変なドロドロが相手を押し潰したのか。聞きたくなるのも無理はない。
「知らん……と言いたいところだが、恐らくあれは鎧の力だな。今のお前じゃ無意識下で使うのが限界だな。別に発言に責任は負わんが」
「えぇ……」
曖昧な言葉に、若干の軽蔑が現れる。
「君が知らないならなんなのさ、僕選ばれしものなの?」
冗談半分、真面目さ半分で聞いてみる。
そんなレンの質問をばっさりと切り捨てる。
「それはないと思うがな。まあ気にすることじゃないと思うだがな」
「そうゆうもんなんかね」
少し落胆的に床を見つめた。しかし、それと同時に
「用がもうないんだったらさっさと帰えるぞ」
「あ、待って」
正直にトカゲは動きを止める。
「何だ、まだ何かあるのか?」
咄嗟に呼び止めるのだがそのトカゲの返事には少しの期待が込められている。
「名前、なんだっけ?」
はぁ……、と少しだめ息をついたあと、こちらへ殺す勢いで突進してきた。
額に思い切り直撃したが、コツッ、と軽い音がしただけで済んでしまった。
「何故今聞くのかが甚だ疑問だが、まあいい」
窓からの月明かりに2人が照らされる。が、その月光は紅かった。だがそれの紅色はドロドロのような淀んだ赤であった。
「俺はブラッド。この世界では、龍の最後の生き残りだ」
「そうか、ご丁寧にありがt……ってえぇェェ!!」
今日一番の驚きである。
「何を驚いているんだ?人間と吸血鬼以外は碌な種族は居ないだろうが」
「えぇ……」
(人間と吸血鬼以外、碌な種族がいない……?)
「人間では常識の事だろ?」
「そうなのか……、まさかゴブリンも?」
「あぁ」
「オークとかも?」
「あぁ」
「ガーゴイルとかも?」
「だからそう言ってるだろ」
かなりのショックだった。
「まさか、お馴染みの奴らがいないとはね……」
若干声が震えてる。レンとしてはそうゆうのに興味があったのだ。
「因みに、なんでそうなってるの?」
「お前……この世界の一般常識も知らんようだな。"前"の魔王がやったんだ。400年前、あれは殲滅思想だったからな」
「随分と知ったような口を叩くんだね」
そんなレンの水差しにトカゲが淡々と真顔で答える。本人にとっては至極当然のことなのだろう
「そりゃあ、俺は400年前から生きているんだ。当たり前だろう?」
「そうか、ご丁寧にありがt……ってえぇェェ!!」
今日2番目の驚きである。
「な、なにをそんな驚くんだ。色々と『他とは違う』って言っているだろう」
言葉の裏に随分と意味を隠しているが、レンにとっては割と迷惑なことである。
「いや〜、とても400年生きてるとは思えなかったんだよ。主に人格面で」
「というと?」
と、恐竜映画の小型恐竜のように、キョロキョロと首を傾げる。
そして、トカゲには思っても見なかった言葉が飛んでくる。
「言葉の節々からさ……野蛮さがね。まるで貫禄がない」
「お前もあの畜生のところに行くか?」
と、半分ブチギレて脅す。どうやら、そう言われる所以を本人は気付いていないようだった。
「すいやせんした」
と、謝罪の気持ちの一滴たりとも籠もっていない、謝罪の言葉を述べる。
「まあいいだろう、俺は寛大だ。所で俺からも質問いいか?」
「ご自由に」
その台詞にレンは飄々と返す。どうせそこまで話せることなどないのだから。
「じゃあ聞くが、お前、まさか外の奴か?」
怪訝そうに問いかける。
「外って何さ」
それに対して、レンも不思議そうに答える。
だが、帰ってきたのは思いもしなかった言葉である。
「別世界だ」
戦慄が走る。
何故知ってるのか聞きたいとこだが。
「あのさ、僕」
「ん?なんだ?」
「君が言う通り、別の世界から来たよ」
「なるほどな、道理で」
思ったよりも、驚かないのだろうか。これではブラッドの発言に一々驚いていたレンが馬鹿みたいである。
いや、少し心を揺さぶられていた。それは喜怒哀楽で言うところの『楽』であった。
「道理でってどういうこと?」
「お前、この世界の人間では知ってて当たり前のことを知らなかった。そう考えると容易だな」
そう言われてみれば、自分の失言が数々思い上がってくる。
レンがそうやって考え込んでいるとブラッドは話の方向を意図せず変える。
「まあいい、……だが、出生よりも、先に名前を言え。俺だけじゃ不公正だ」
妙にさっきよりも少しテンションが上がっている気がする。
が、言ってることはまあ正論なのである。
「僕はレン。魑凰蓮。日本の学生さ」
まあ、名前を互いに知ったところで多分、『君』と『お前』で呼び合うのだろう。
「ほう、極東の国か。随分と平和な世と国に生まれたな」
「平和……ねぇ」
二人の今の言葉には、それぞれ何か思うことがあった。それを互いに分かっていないからか、もしくは分かっているからこそ、余計な詮索はしなかった。
トカゲの方を覗き込むとテンションが上がっている気はしなかった。 だが確実に上がっている。そして、それ同時に、トカゲには一つの希望の蕾が咲いていた。
「お前の世界についてを聞かせてくれないか?お前の語れるところでいい」
「まあいいけどさぁ……」
ついでにと軽い気持ちで承諾する。それに、案外自分語りは楽しいものである。
「ここの世界について聞かせてね」
この2人……思ったよりもお似合いである。
「そういや、帰るんじゃないの?」
ふとした疑問である。
「どうでもいい、それに元々帰る家はない」
「あっ………ふ〜ん」
何かを察して何か悲しい気持ちになった。
こうして2人は夜通し質問しあった。
ある日の早朝のギルド。
昼や夜とは違った静かなギルドに2つの人影があった。
一人がもう一人に質問する。
「君はこれからどうするの?魔王いないし、やること無いよ」
一人はレンである。旅のための大荷物を転がしながら話している。
話相手というのはは恐らく……
「う〜ん、日銭でも稼いでレベルを上げでもしてようかな。お前と違って高い志は無いからな」
スグルである。
この世界には、RPGのようにレベルなんてものはないが不思議と使ってしまうのは現代人ならではだろうか。
「じゃあ……今日から俺とお前はここで別れる。じゃっ、そうゆうことでな」
少し名残惜しそうに旅立つ者へ告げる。
「ああ、元気にやっとくよ」
対してこちらは、正面玄関の大きなドアを何のためらいもなく蹴り飛ばす。
それに対し、スグルの方は軽口を叩く。
「大丈夫だろ。何とかは風邪を引かないしね」
「テメェ、一体どうゆう意味かな?」
いつもとは違った、荒々しい口調だ。基本的に他人の事を敬称をつけない場合、『君』と呼ぶレンが、『テメェ』なんで言うのは、 昔馴染みの友達ならではだろうか。
「フッ……それじゃあさ」
大荷物を担ぎドアの外への一歩を踏み出そうとする。
「逝ってきます」
早朝の朝日は不思議と晴れやかなものであった。この先の道の景色を悟らせないように。
わらせたあの3人もいた。
「あの2人遅いな、同じ時間に出たのに」
「きっと何処かでご飯でも食べてるんですよ、かなり大盛りの」
「まさか昨日の狼もどきに襲われていたりして……」
一応まあ事実ではあるが、縁起でも無いことを話しているとギルドの大きなドアが突然バァンと開いた。
所々擦り傷、切り傷をした方と全然無傷な方の2人と大き クエストから帰って来た者が報酬を受け取り、その金で酒を酌み交わす夜のギルド。その中には薬草採集の試験を終わらせたあの3人もいた。
「あの2人遅いな、同じ時間に出たんだがな」
「きっと何処かでご飯でも食べてるんですよ、フルコースを」
「まさか昨日の狼もどきに襲われていたりして……」
彼らは、レンとスグルとは違い、まるで運命から見限られたかのように、一悶着も二悶着
もなく、無事に帰ってきた
一応事実ではあるが、縁起でも無いことを話しているとギルドの大きなドアが突然バァンと開いた。
所々擦り傷、切り傷をした方と全然無傷な方の2人と大きな肉塊が入ってきた。
もちろんスグルとレンである。
熊男はギルドまで来る途中引きずられてすっかり原型がなくなっていた。
2人が受け付けに来るまでに朝に自分達の対応をしてくれたウェイトレスとやたら無精ひげを生やしたやる気のなさそうな三十路ぐらいの男が来た。
「お、お二人さん、それは?」
多少困惑しながらもウェイトレスは聞く。
「俺達を襲ってきたこの吸血鬼を倒してきました。主にそこの後ろ奴が殺りました」
「えぇ……」
その場にいる殆どが「何を言っているんだ?」という顔をした。言った本人もだ。
「と、とりあえず今日は遅いので一行様にはここの宿をサービスさせてもらいます。その他諸々は明日やってください」
「「あ……はいッ」」
突然の事であり無理もないのだろうが多少強引にギルド内の宿に泊めさせられてしまった。
このギルド内の宿はギルドに登録した者はは全員宿泊料タダのありがたい施設である。
そんな宿の一室。あまり新品とは言えないベットに一人横たわっていた。
「うハァ〜〜」
身体の疲労が一気に出された気がする。
何しろ1晩中走ったり、歩いたりしたんだ。無理もないと思いたい。
「全く、大変な一日だったよ。なあ?」
独り言にしては違和感のある台詞だった。
リラックスタイムのはずだが妙な緊迫感のある雰囲気を出しながら問う。
「いるんだろ?トカゲく〜ん」
そうすると窓の縁からあのトカゲがひょっこり出てきた。
「お前感が鋭いんだな、感心だ」
と、飄々と返す
「ま〜ね、特にここに来てからかな」
「で、何の用があって呼び出した?」
理解が早いのは感心だよ、と前置きを置いてからトカゲへ語りかける。
「いちいち段取りを取らなくて助かるよ」
フゥー、と一々息を整え直す。
「君、普通のトカゲじゃないでしょ?」
ギルドへ帰る途中、心底疑問であったことだ。
いくら異世界と言えどネズミは多少見た目だったりが変わっているだけであったのだが、このトカゲは違った。
喉元へ噛み付いたら謎の鎧を身に纏っていた。
そんなレンの疑問についてトカゲは案外簡単に答える。
「当たり前だ、普通はこの知性は無いぞ」
「え、そうなの?」
「そうだぞ」
レンの反応とは裏腹に、トカゲの方はさも一般常識を説くように終始冷静だった。
そこから追い討ちをかけるように言い放つ。
「なんなら言っただろ。俺は普通の奴の一緒にするなって」
「あれそうゆう意味だったのね。だったら君はなんなのさ」
「俺は龍だ。決してトカゲではない」
凛として言っていた。
龍?ということは……と、考える。
「だったら君翼は無いの?それとも、東洋の龍とかなの?」
次々と出てくる質問にトカゲは一問一答に答えている。
「いや、それはない。俺は元々翼竜だ」
「あぁ……ふぅ〜ん」
と、何かを察したレンはこれ以上の詮索は辞めにしようという結論に至る。だが、それと同時に、会話の中で垣間見えた違和感に気づかなかった。
「あ、そういや……」
と、何かを思い出したかのように尋ねる。
「君ってなんか『力』?とやらを僕に使わせる時思いっきし僕の首噛んだけど一体なんだったの?シンプルに首が痛いよ」
そう言いながら噛み跡を見せつける。
それに対して、トカゲ側は、怪訝な雰囲気を醸し出していた。
「あんな野蛮な奴らと一緒にするな。あくまでも生き物の血を糧にするだけだ。」
ふとした疑問が浮かぶ。
「ちなみにあの赤い鎧は?」
謀略何もなく、トカゲは包み隠さず喋る。
「あれはお前の血で造った鎧だぞ。俺は血を吸い出したんだ。それを大昔の設計図に流し込んだんだ。だから別に特別な材料で造られてるとかじゃないぞ」
つまり、レンは自身の血を着て殺し合ってた訳だ。
「にしても嗚呼も血が固くなるもんなんだねぇ〜。ん?じゃあ……」
「どうした?」
「さっきと同じ感じの聞き方で悪いんだけどさ。あの熊、殺すときに……」
単純に気になるのか、普通のトカゲがどうので学んだのか、割と丁寧に聞いている。
「なんか、悍ましいドロドロ出たけどあれ何?あいつ動けなくなってたけど」
出した側からするとかなりシュールさと、唐突さが襲ったのだろう。
何故突然、変なドロドロが相手を押し潰したのか。聞きたくなるのも無理はない。
「知らん……と言いたいところだが、恐らくあれは鎧の力だな。今のお前じゃ無意識下で使うのが限界だな。別に発言に責任は負わんが」
「えぇ……」
曖昧な言葉に、若干の軽蔑が現れる。
「君が知らないならなんなのさ、僕選ばれしものなの?」
冗談半分、真面目さ半分で聞いてみる。
そんなレンの質問をばっさりと切り捨てる。
「それはないと思うがな。まあ気にすることじゃないと思うだがな」
「そうゆうもんなんかね」
少し落胆的に床を見つめた。しかし、それと同時に
「用がもうないんだったらさっさと帰えるぞ」
「あ、待って」
正直にトカゲは動きを止める。
「何だ、まだ何かあるのか?」
咄嗟に呼び止めるのだがそのトカゲの返事には少しの期待が込められている。
「名前、なんだっけ?」
はぁ……、と少しだめ息をついたあと、こちらへ殺す勢いで突進してきた。
額に思い切り直撃したが、コツッ、と軽い音がしただけで済んでしまった。
「何故今聞くのかが甚だ疑問だが、まあいい」
窓からの月明かりに2人が照らされる。が、その月光は紅かった。だがそれの紅色はドロドロのような淀んだ赤であった。
「俺はブラッド。この世界では、龍の最後の生き残りだ」
「そうか、ご丁寧にありがt……ってえぇェェ!!」
今日一番の驚きである。
「何を驚いているんだ?人間と吸血鬼以外は碌な種族は居ないだろうが」
「えぇ……」
(人間と吸血鬼以外、碌な種族がいない……?)
「人間では常識の事だろ?」
「そうなのか……、まさかゴブリンも?」
「あぁ」
「オークとかも?」
「あぁ」
「ガーゴイルとかも?」
「だからそう言ってるだろ」
かなりのショックだった。
「まさか、お馴染みの奴らがいないとはね……」
若干声が震えてる。レンとしてはそうゆうのに興味があったのだ。
「因みに、なんでそうなってるの?」
「お前……この世界の一般常識も知らんようだな。"前"の魔王がやったんだ。400年前、あれは殲滅思想だったからな」
「随分と知ったような口を叩くんだね」
そんなレンの水差しにトカゲが淡々と真顔で答える。本人にとっては至極当然のことなのだろう
「そりゃあ、俺は400年前から生きているんだ。当たり前だろう?」
「そうか、ご丁寧にありがt……ってえぇェェ!!」
今日2番目の驚きである。
「な、なにをそんな驚くんだ。色々と『他とは違う』って言っているだろう」
言葉の裏に随分と意味を隠しているが、レンにとっては割と迷惑なことである。
「いや〜、とても400年生きてるとは思えなかったんだよ。主に人格面で」
「というと?」
と、恐竜映画の小型恐竜のように、キョロキョロと首を傾げる。
そして、トカゲには思っても見なかった言葉が飛んでくる。
「言葉の節々からさ……野蛮さがね。まるで貫禄がない」
「お前もあの畜生のところに行くか?」
と、半分ブチギレて脅す。どうやら、そう言われる所以を本人は気付いていないようだった。
「すいやせんした」
と、謝罪の気持ちの一滴たりとも籠もっていない、謝罪の言葉を述べる。
「まあいいだろう、俺は寛大だ。所で俺からも質問いいか?」
「ご自由に」
その台詞にレンは飄々と返す。どうせそこまで話せることなどないのだから。
「じゃあ聞くが、お前、まさか外の奴か?」
怪訝そうに問いかける。
「外って何さ」
それに対して、レンも不思議そうに答える。
だが、帰ってきたのは思いもしなかった言葉である。
「別世界だ」
戦慄が走る。
何故知ってるのか聞きたいとこだが。
「あのさ、僕」
「ん?なんだ?」
「君が言う通り、別の世界から来たよ」
「なるほどな、道理で」
思ったよりも、驚かないのだろうか。これではブラッドの発言に一々驚いていたレンが馬鹿みたいである。
いや、少し心を揺さぶられていた。それは喜怒哀楽で言うところの『楽』であった。
「道理でってどういうこと?」
「お前、この世界の人間では知ってて当たり前のことを知らなかった。そう考えると容易だな」
そう言われてみれば、自分の失言が数々思い上がってくる。
レンがそうやって考え込んでいるとブラッドは話の方向を意図せず変える。
「まあいい、……だが、出生よりも、先に名前を言え。俺だけじゃ不公正だ」
妙にさっきよりも少しテンションが上がっている気がする。
が、言ってることはまあ正論なのである。
「僕はレン。魑凰蓮。日本の学生さ」
まあ、名前を互いに知ったところで多分、『君』と『お前』で呼び合うのだろう。
「ほう、極東の国か。随分と平和な世と国に生まれたな」
「平和……ねぇ」
二人の今の言葉には、それぞれ何か思うことがあった。それを互いに分かっていないからか、もしくは分かっているからこそ、余計な詮索はしなかった。
トカゲの方を覗き込むとテンションが上がっている気はしなかった。 だが確実に上がっている。そして、それ同時に、トカゲには一つの希望の蕾が咲いていた。
「お前の世界についてを聞かせてくれないか?お前の語れるところでいい」
「まあいいけどさぁ……」
ついでにと軽い気持ちで承諾する。それに、案外自分語りは楽しいものである。
「ここの世界について聞かせてね」
この2人……思ったよりもお似合いである。
「そういや、帰るんじゃないの?」
ふとした疑問である。
「どうでもいい、それに元々帰る家はない」
「あっ………ふ〜ん」
何かを察して何か悲しい気持ちになった。
こうして2人は夜通し質問しあった。
ある日の早朝のギルド。
昼や夜とは違った静かなギルドに2つの人影があった。
一人がもう一人に質問する。
「君はこれからどうするの?魔王いないし、やること無いよ」
一人はレンである。旅のための大荷物を転がしながら話している。
話相手というのはは恐らく……
「う〜ん、日銭でも稼いでレベルを上げでもしてようかな。お前と違って高い志は無いからな」
スグルである。
この世界には、RPGのようにレベルなんてものはないが不思議と使ってしまうのは現代人ならではだろうか。
「じゃあ……今日から俺とお前はここで別れる。じゃっ、そうゆうことでな」
少し名残惜しそうに旅立つ者へ告げる。
「ああ、元気にやっとくよ」
対してこちらは、正面玄関の大きなドアを何のためらいもなく蹴り飛ばす。
それに対し、スグルの方は軽口を叩く。
「大丈夫だろ。何とかは風邪を引かないしね」
「テメェ、一体どうゆう意味かな?」
いつもとは違った、荒々しい口調だ。基本的に他人の事を敬称をつけない場合、『君』と呼ぶレンが、『テメェ』なんで言うのは、 昔馴染みの友達ならではだろうか。
「フッ……それじゃあさ」
大荷物を担ぎドアの外への一歩を踏み出そうとする。
「逝ってきます」
早朝の朝日は不思議と晴れやかなものであった。この先の道の景色を悟らせないように。